DXとは、データとデジタル技術を活用して製品・サービス・ビジネスモデルを変革し、あわせて業務・組織・プロセス・企業文化までを変革して、競争上の優位性を確立することを指します。IT化との違いは、デジタルの導入そのものを目的とするか、事業と組織の変わり方までを目的とするかにあります。
独立行政法人情報処理推進機構が2026年7月に公表した『DX動向2026』によると、日本企業で何らかの形でDXに取り組んでいる企業は75.7%でした。ただしこの比率は4年間ほぼ横ばいで、成果指標を設定できている企業は4社に1社にも達していません。
本記事では、DXの定義と関連用語の違いを整理したうえで、最新の調査で見えている実態と、多くの企業が止まっている地点を示します。
DXとは何か?
DXは Digital Transformation の略で、日本語ではデジタルトランスフォーメーションと表記します。経済産業省が2018年に「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」を公表して以降、日本ではこの定義が実務上の基準になりました。
定義の要点は3つです。
- データとデジタル技術を使うこと
- 製品・サービス・ビジネスモデルを変革すること
- 業務・組織・プロセス・企業文化まで変革すること
見落とされやすいのが3つ目でしょう。ツールを導入して業務が速くなっただけでは、定義上のDXには届きません。組織の意思決定の仕方や、人の評価の仕方までが変わって初めてDXと呼べます。
デジタイゼーション・デジタライゼーションとの違いは?
DXは、しばしば手前の2段階と混同されます。3つは目的の高さが違うものです。
段階 | 何をするか | 例 |
|---|
デジタイゼーション | アナログの情報をデジタルに置き換える | 紙の履歴書をPDF形式で受け取る |
デジタライゼーション | 個別の業務プロセスをデジタルで再設計する | 応募から面接調整までを採用管理システムに載せる |
DX | 事業と組織のあり方を変える | 採用の意思決定基準そのものをデータで再定義し、組織の編成を変える |
多くの企業が「DXに取り組んでいる」と回答しながら成果を実感できずにいる理由は、この整理で説明がつきます。実態が手前の2段階にとどまっているのでしょう。
DXとIT化・デジタル化は何が違うのか?
違いは、変える対象にあります。
IT化は、いまある業務のやり方を保ったまま、手段をデジタルに置き換える取り組みです。目的は効率化とコスト削減にあります。DXが問い直すのは、業務のやり方そのもの。目的は、その企業が市場で勝てる形に変わることに置かれます。
もっとも分かりやすいのは、達成できたかどうかの判定基準の違いでしょう。IT化は「導入できたか」で判定できます。一方でDXは「事業が変わったか」でしか判定できません。この判定の難しさが、後述する成果指標の設定率の低さを生んでいます。
なぜDXが必要とされるのか?
日本でDXが急速に語られるようになった直接の契機は、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」でした。同レポートは、老朽化・複雑化した既存システムを放置した場合に2025年以降の経済損失が生じうると指摘しています。いわゆる「2025年の崖」です。
ただし2026年時点で企業が直面している理由は、システムの老朽化だけではありません。
- 労働力人口が減り、同じ人数で同じ量の仕事を続けられなくなっている
- 生成AIの普及によって、業務の進め方の前提が短期間で変わっている
- 競合が先にデータを蓄積すると、後から追いつくコストが上がり続ける
見落とされがちなのが3つ目でしょう。データは運用した期間の分しか貯まりません。だからDXの遅れは、時間が経つほど取り返しにくくなります。
日本企業のDXはどこまで進んでいるのか?
ここからは、独立行政法人情報処理推進機構が2026年7月に公表した『DX動向2026』で現在地を確認します。同調査は2026年4月中旬から6月中旬に実施され、有効回答は1,799社。DX白書を引き継ぐ形で2020年度から続く定点調査です。
取組率は75.7%で、4年間ほぼ横ばい
何らかの形でDXに取り組んでいる企業の割合は75.7%でした。内訳は、全社戦略に基づき全社的に取り組んでいる企業が35.6%、全社戦略に基づき一部の部門で取り組んでいる企業が21.0%、部署ごとに個別に取り組んでいる企業が19.1%。
経年で見ると、この比率はほとんど動いていません。同調査も「DXの取組は大きく変わらず横ばいの状態にある」と結論づけました。DXという言葉が広く使われるようになった一方で、取り組む企業の裾野は、数年前から広がっていません。
企業規模による二極化が続いている
規模別に見ると、状況はまったく違います。
従業員規模 | DXに取り組んでいる企業の割合 |
|---|
1,001人以上(n=378) | 98.7% |
301人以上1,000人以下(n=384) | 93.2% |
101人以上300人以下(n=448) | 85.9% |
100人以下(n=588) | 41.6% |
1,001人以上の企業にとってDXは当たり前の取組になりました。対して100人以下では4割程度にとどまります。同調査はこれを「企業規模により二極化している状況が続いている」と表現しました。
業種別では、情報通信業の55.4%が「全社戦略に基づき全社的に取り組んでいる」と回答し、他業種を大きくリードしています。金融業・保険業が50.0%で続き、サービス業は28.0%と相対的に低い水準にとどまりました。
DXの成果はどこまで出ているのか?
取組率と成果は別の話です。ここに、DXが掛け声だけと言われ続ける理由があります。
『DX動向2026』は、成果が出ている領域とそうでない領域をはっきり分けました。コスト削減や業務効率化といった「内向き」の領域では成果の実感が得られている一方、既存製品・サービスの高付加価値化や新規ビジネスの創出といった「外向き」の領域では限定的にとどまっています。
さらに踏み込むと、問題の核心は次の2点にあります。
- DXの取組成果が「わからない」とする回答が3割近くある
- 成果指標を設定している企業は4社に1社にも満たない
指標がなければ、成果は「わからない」としか答えようがありません。そして設定できない要因として最も多かったのは「設定方法がわからない」でした。DXが進まない理由は、技術でも予算でもありません。何をもって成功とするかを決められていない点にあります。
成果が出ている企業は何が違うのか?
同調査は、成果が出ている企業の特徴として3点を挙げました。
- 経営者のデジタル見識が高い
- 経営者・IT部門・業務部門の協調が取れている
- 全社レベルでの業務プロセス最適化に取り組んでいる
3つに共通するのは、経営を中心とした全社レベルの取組である点です。裏返せば、IT部門にDXを任せきりにした時点で成果は出にくくなります。同調査も「DXに対しては部門単位の個別の取組ではなく、経営を中心とした全社レベルの取組として進めていくことがより有効」と述べました。
DXが進まない最大のボトルネックは何か?
人材です。しかも、量ではなく質の不足が深刻化しています。
『DX動向2026』によれば、DXを推進する人材の「量」について「やや不足している」「大幅に不足している」と回答した企業の合計は85.5%(n=1,364)。「大幅に不足している」は50.1%で、2023年度の62.1%、2024年度の58.5%と比べれば、やや解消の傾向が見えます。
問題は「質」のほうでした。
年度 | 質の不足感(やや不足+大幅に不足) |
|---|
2022年度(n=375) | 86.1% |
2023年度(n=744) | 85.5% |
2024年度(n=1,190) | 86.1% |
2025年度(n=1,357) | 88.8% |
量の不足感が緩んだのに、質の不足感は増えました。人数は揃い始めたものの、必要な水準の人材を確保できていません。
同調査は、この背景にある構造もはっきり書いています。
- 人材像を設定し社内に周知している企業は2割に満たない
- 評価基準を整備している企業も2割に満たない
- 必要なスキルを把握できていない企業が過半数を占める
一方、評価基準を設定している企業やスキルを把握している企業ほど不足感は低い傾向にありました。つまり足りていないのは人材そのものというより、どんな人材が必要かを言語化する作業のほうです。
DXを担う人材はどう確保するのか?
前節の結論から、やるべきことの順番が決まります。採用手段を選ぶ前に、要件を決める作業が先に来ます。
まず何を決めるのか
「DX人材が足りない」という言い方のままでは、採用も育成も始められません。自社のどの業務を、どの水準まで変えたいのかが決まって初めて、必要なスキルが決まります。DX人材は複数の類型に分かれます。どの類型が必要かを切り分けてください。類型ごとの職種と必要スキルはDX人材とは?6類型の職種・必要スキルと採用・育成の進め方で整理しました。AI領域に絞って考えるならAI人材とは?不足の現状と採用・育成で確保する方法も参照してください。
評価基準は何のために要るのか
要件が決まっても、評価基準がなければ採用の合否も育成の到達点も判断できません。『DX動向2026』が「評価基準を設定している企業ほど不足感が低い」と示している通り、基準の有無は体感的な不足感に直結します。採用市場に人がいないのではなく、自社の基準がないために誰を採ればよいか決まらない、という状態は珍しくありません。
なお、DX人材の不足は日本のIT人材全体の構造とも接続しています。背景はIT人材不足はなぜ起きる?背景と企業がとれる対策にまとめました。
採用・育成・外部活用をどう組み合わせるのか
3つの手段は併用できます。採用には時間がかかり、育成にはさらに時間がかかります。事業側に締切があるなら、外部の力を併用する判断になるでしょう。
手段ごとの費用と適性はエンジニア採用手法の比較に、職種ごとの難易度と要件の違いは職種別エンジニア採用|難易度・年収・要件・手法の違いにまとめています。採用の実務そのものを外部に委ねる選択肢は採用代行(RPO)とは?で解説しました。
DXやAIの推進を担う職種として、近年2つの新しい職種名が求人に現れています。1つはフォワードデプロイドエンジニア(FDE)。開発だけで終わらず、顧客や現場に入って実装から定着までを見届ける職種です。もう1つがGo-to-Market(GTM)エンジニアで、営業・マーケティング・カスタマーサクセスをまたぐ収益プロセスを技術で自動化する職種。従来のIT部門の職種名では、こうした役割を求人票で表現しきれません。書き方そのものの見直しが要ります。
人事・採用の領域からDXを始めるとどうなるか
全社で一斉に始められる企業は、ごく限られるでしょう。着手する領域を選ぶ必要があります。
その点で、人事・採用は着手しやすい領域です。理由は3つあります。
- 業務が定型と非定型に明確に分かれており、どこを変えるか決めやすい
- 応募・選考・入社という形でデータが自然に貯まる
- 成果指標(応募数・通過率・入社数・定着率)が既にあり、最大の難所を越えている
とりわけ大きいのが3つ目です。前述のとおり、DXが止まる最大の理由は成果指標を設定できないことにありました。人事・採用の領域には、DXという言葉が生まれる前から使われてきた指標が揃っています。ここから着手すれば、「何をもって成功とするか」を新たに発明する必要がありません。
実際にHR業務でAIがどこまで使われているかはAI人事とは?HR業務のAI活用率43%、5つの領域と導入企業の成果・リスクに、組織の設計そのものをAIネイティブに変える議論はAIネイティブ時代の組織デザインに、人事責任者が押さえるべき生成AIの扱い方は人事責任者が押さえるべき生成AIマネジメントにまとめています。
採用市場の側からは、この課題がどう見えるか
ここまでは調査データで実態を見てきました。最後に、採用市場に接している事業者から同じ課題がどう見えるかを補足します。
株式会社overflowは、ハイクラスエンジニアの転職プラットフォーム「Offers」を運営しています。累計1,000社以上の導入と40,000人以上の登録があり、公開求人は1,217件です(2026年8月時点)。
求人票の言葉は「DX」から「AI」へ移っている
Offersに掲載された正社員求人の本文(職務内容・必須条件・歓迎条件)を対象に、特定の語を含む求人の割合を年ごとに集計しました。結果は次のとおりです。
求人の公開年 | 生成AIに言及 | AI全般に言及 | DXに言及 |
|---|
2023年 | 1.6% | 22.4% | 25.3% |
2024年 | 6.9% | 18.8% | 29.3% |
2025年 | 20.1% | 44.1% | 26.5% |
2026年 | 41.2% | 61.8% | 30.3% |
生成AIに言及する求人は3年で1.6%から41.2%へ増えました。AI全般では6割を超えています。一方、DXに言及する求人は25.3%から30.3%で、ほぼ横ばいのままです(Offers調べ。掲載中および掲載終了を含む正社員求人の本文に当該語を含む割合。母集団は各年に公開された求人)。
企業が採用したい人材の説明に使う言葉は、この3年でDXからAIへ移りました。ところが取組率の側は、情報処理推進機構の調査でも本データでも動いていません。『DX動向2026』が副題に「広がるAI導入、DXは変われるか」と掲げた状況は、求人市場の言葉づかいにもそのまま現れています。
人がいないのではなく、要件が書けていない
この立場から見ると、DXの人材課題は「採用市場に人がいない」という形では現れません。企業側が求人票で要件を書けていない、という形で現れます。同じ「DX推進担当」という求人名でも、実際に求めている働き方は企業ごとに大きく異なるもの。その差が求人票に書かれていないために候補者が判断できず、応募に至らない、という事象が起きます。前掲の調査が示した人材像の周知率の低さは、採用市場の側から見ても実感と一致します。
当社自身も2026年6月からフォワードデプロイドエンジニア型の人事AIコンサルティングを開始し、7月に「Offers AX」として体系化しました。自社の業務をAI前提に組み替えながら、同じ設計を顧客企業に持ち込む形をとっています。DXを外から支援するだけでなく自社で実行している当事者として、成果指標の設定がいかに難しいかは実務として理解しているつもりです。
自社の採用力が現在どの水準にあるかを客観的に把握したい場合は、企業URLを入力すると公開情報をもとに5指標24項目で採点し、12ページのレポートを返すエンジニア採用力チェックを無料で提供しています。DXの前提となる現在地の把握から始めたいときの入口として使えます。
結局、DXとは何をすることか?
DXとは、データとデジタル技術で製品・サービス・ビジネスモデルを変革し、あわせて業務・組織・企業文化までを変革して競争優位を確立することです。IT化との違いは、手段を置き換えるだけか、事業と組織の変わり方までを目的にするかにあります。
『DX動向2026』が示した実態を整理すると、次のようになります。
- 取り組んでいる企業は75.7%だが、4年間ほぼ横ばい
- 1,001人以上では98.7%、100人以下では41.6%と二極化
- 成果は業務効率化などの「内向き」に偏り、新規ビジネス創出などの「外向き」は限定的
- 成果指標を設定している企業は4社に1社に満たず、成果が「わからない」が3割近く
- 人材の「量」の不足感は緩んだが、「質」の不足感は88.8%へ増加
- 人材像を設定し社内に周知している企業は2割に満たない
止まっている地点は、技術でも予算でもありません。何をもって成功とするかを決め、そのために必要な人材像を言語化する作業です。着手する領域を選ぶなら、成果指標が既に存在する人事・採用から始めるのが現実的です。
執筆・監修
鈴木 裕斗(株式会社overflow 代表取締役CEO) エンジニア・デザイナー向け転職プラットフォーム「Offers」および、人事起点で全社のAI活用を支援する「Offers AX」を運営。自社の業務をAI前提に組み替える実務を進めながら、顧客企業のAI導入・組織設計を支援している。
参考文献
- 独立行政法人情報処理推進機構『DX動向2026 広がるAI導入、DXは変われるか』2026年7月30日公表。2025年度調査、有効回答1,799社
- 経済産業省『デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン』2018年
- 経済産業省『DXレポート』2018年