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AI人事とは?人事のAI利用39%、5領域と法規制

AI人事とは?人事のAI利用39%、5領域と法規制
Offers HR Magazine編集部監修者

株式会社overflow / 編集担当

Offers HR Magazine編集部

株式会社overflowの運営するOffers HR Magazine編集部です。

AI人事とは、採用・人事評価・人材配置・育成・離職防止といった人事業務にAIを組み込み、判断の質と処理の速さを上げる取り組みの総称です。

2026年の人事にとって、AI人事の論点は2つ動きました。1つは、欧州のAI規制が人事に課す義務の期限が書き換わったこと。もう1つは、人事部門で進む生成AIの活用と、選考の現場で起きているAI活用が、まったく違う水準にあることです。

本記事で扱うのは、AI人事の定義、5つの活用領域、人事評価AIのメリットとデメリット、導入企業の事例、2026年7月に変わった法規制、そしてAIを使った採用代行「AI RPO」です。

AI人事の定義と5つの活用領域

AI人事とは、人工知能を活用して採用・評価・配置・育成・離職防止などの人事業務を効率化・高度化する取り組みを指します。単なるツール導入にとどまらず、人事データを横断的に分析して意思決定の質を引き上げる点に、AI人事の本質があります。

AI人事の定義と「従来型AI」「生成AI」の違い

AI人事で使われる技術は、大きく2種類です。

  • 従来型AI(予測AI)。蓄積された人事データをもとに予測・分類・スコアリングを行う技術です。応募書類のスクリーニング、離職リスクの予測、勤怠データの異常検知などに使われています
  • 生成AI。テキスト生成・対話・要約を得意とする技術です。求人票の自動作成、スカウト文面の生成、評価コメントの集約・要約などに活用されています

この2つは競合するものではなく、組み合わせることで効果が最大化します。従来型AIで「誰を」判断し、生成AIで「どう伝えるか」を担うという役割分担が、現在のAI人事の基本設計です。

AI人事の5つの活用領域

AI人事の活用範囲は広く、人事業務の主要な5領域に及びます。

領域

主なAI活用内容

代表的なツール

採用

求人票生成、ES選考、AI面接、スカウト自動生成

Offers AIスカウト、sonar AI、SHaiN

人事評価

評価素案の自動作成、360度評価の集約、バイアス検出

タレントパレット(AI評価アドバイス)

人材配置・異動

AIマッチング、適性分析、配転シミュレーション

日立ソリューションズの社内マッチングサービス(正式な異動ではない社内の案件マッチング・後述)

育成・研修

パーソナライズ研修、スキルギャップ分析、AIメンター

アトレのGoogle Gemini全社導入(AIメンターの例・後述)

離職防止

離職予測、エンゲージメントサーベイ分析、早期アラート

タレントパレット(人材データの分析による離職防止を掲げる)

この5領域のうち、現時点で最もAI活用が進んでいるのは「採用」です。米国人事管理協会(SHRM)が1,908名のHRプロフェッショナルを対象に138のHRタスクを調べた『State of AI in HR 2026』(2026年3月31日公表)では、組織全体の27%が採用でAIを使っており、HRテクノロジーが21%、学習・育成が17%でした。

AI人事の土台になる生成AIの普及状況

AI人事が広がる前提として、生成AIそのものが業務の基盤になりつつあります。

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の『企業IT動向調査2026』速報(2026年3月12日公表・経済産業省商務情報政策局の監修)によると、言語系生成AIを「導入済み」と答えた企業は33.9%でした。「試験導入中・導入準備中」を含めると53.4%に達します。売上高1兆円以上の企業に限れば、「導入済み」だけで85.1%です。

用途も広がっています。画像および動画系生成AIの導入・試験導入が34.2%、コード系生成AIが32.6%で、いずれも前年度から10ポイント以上伸びました。自律的にタスクを実行する「AIエージェント」は、導入を「検討中」と答えた企業が31.2%で、選択肢の中で最も多い結果でした。

出所:一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会『企業IT動向調査2026』速報(2026年3月12日公表)。

AI人事の導入状況と日本・海外のデータ比較

米国人事管理協会(SHRM)の調査では、人事領域でAIを使っている組織は39%です。ただし日本の採用プロセスに限ると、AIを活用していない企業が87.7%を占めます。規模による開きも大きく、AI人事は1つの平均値では語れません。

SHRM調査に見るAI人事の導入状況

SHRMが1,908名のHRプロフェッショナルを対象に138のHRタスクを調べた『State of AI in HR 2026』(2026年3月31日公表)が、現在の全体像を示しています。

人事領域でAIを使っている組織は39%。さらに23%は、人事以外の部署でAIを動かしています。従業員5,000人以上の組織では60%に達します。規模が小さい組織ほど導入率は下がりました。

使われている場所は偏っています。採用が27%で最も多く、HRテクノロジーが21%、学習・育成が17%。組織設計やインクルージョンの領域は5%前後かそれ以下にとどまります。

使う人の職位でも差が出ました。SHRMの調査では、AIの利用はHRの上級リーダー層が先行しており、マネージャーと担当者はそれを追う形です。

日本の人事部門における生成AIの活用

日本でも人事部門のAI活用は進んでいます。『日本の人事部』の「人事白書2025」によると、人事部門の約7割が生成AIを何らかの形で活用していました。

世界の現場でも、使う人と使わない人の差は残ります。ボストン コンサルティング グループ(BCG)が11カ国・地域の10,600人以上を対象に実施した「AI at Work 2025」では、現場従業員の定常的な生成AI利用は51%で頭打ちになりました。リーダーとマネージャーは4分の3超が週に数回使っています。

同じ調査で、AIの訓練を適切に受けたと答えた従業員は3分の1にとどまりました。ツールを配るだけでは、使う人が増えないという結果です。

部門の生成AI活用は約7割、採用プロセスでのAI活用は1割強

日本の最新調査が、この差を数字で示しています。『日本の人事部 人事白書2026』(株式会社HRビジョン・2026年7月2日発刊・のべ5,103社/5,274名・調査期間 2026年3月3〜31日)は、採用プロセスにおけるAIの活用状況を単独で聞きました。

結果は、全体で「AIを活用していない」が87.7%。人事部門の業務全般で生成AIに触れている企業が約7割に達する一方、採用プロセスで何らかのAIを使っている企業は1割強(「AIを活用していない」87.7%の残り)にとどまります。

規模で見ると景色が変わりました。

採用プロセスでのAI活用

割合

AIを活用していない(全体)

87.7%

選考にAIを導入(従業員5,001人以上)

34.3%

うち書類選考でのAI活用(従業員5,001人以上)

22.9%

うちAIによる面接選考(従業員5,001人以上)

5.7%

うち選考を伴わない面談をAIで実施(従業員5,001人以上)

5.7%

出所:株式会社HRビジョン『日本の人事部 人事白書2026』(2026年7月2日発刊)。

従業員5,001人以上の企業では、3社に1社が選考にAIを入れています。全体の1割強と、大企業の3社に1社。この開きが、日本のAI人事の現在地です。

2つの数字は別の質問への回答です。約7割は「人事部門が業務のどこかで生成AIを使っているか」、87.7%は「採用プロセスでAIをどう活用しているか」を聞いた設問で「活用していない」を選んだ割合にあたります。母集団も設問も違うため、単純な引き算はできません。

AI人事における「導入」と「成果」のギャップ

導入が進んでも、成果はまだ付いてきていません。

Gartnerが2025年10月に発表した調査では、HRリーダーの88%が「AIツールから有意なビジネス価値を実現できていない」と回答しました。SHRMの調査でも、正式なAIポリシーを持つ組織は半数弱にとどまります。

運用の土台が追いついていない兆候もあります。SHRMによれば、AIに関する法律を持つ州のHR担当者のうち57%が、その規制の存在を知りませんでした。

SHRM「State of AI in HR 2026」 株式会社HRビジョン『日本の人事部 人事白書2026』プレスリリース Gartner「88% of HR Leaders」プレスリリース BCG「AI at Work 2025」

AI人事の5つの活用領域と各領域の実態

AI人事の活用は「人事評価をAIに任せる」だけではありません。採用から離職防止まで5つの領域に広がっており、最も導入が進んでいるのは「採用」領域(組織全体の27%がAIを活用)です。

採用、AI人事で最も活用が進む領域

SHRMの調査で、AI活用が最も多いHR領域は「採用」(27%)でした。求人票の自動生成から書類選考、AI面接、スカウト文面の最適化まで、採用プロセスの各フェーズでAIが実装されています。

Offersの「AIスカウト生成機能」はその代表例です。求人情報と候補者の経歴データを照合し、一人ひとりに最適化されたスカウトメッセージを自動生成します。スカウト文作成工数は80%削減されました(overflow調べ)。導入企業の1社(A社)では、スカウト承諾率が2.4倍(13.1%→31.7%)に上がっています。

AI採用の詳細な活用フェーズやツール比較は「AI採用とは?」の記事で解説しています。

Offers「AIスカウト生成機能」プレスリリース(PR TIMES・2024年10月31日公表)

人事評価、AI評価の仕組みと現在地

人事評価は、AI人事の中でも注目度が高い領域です。生成AIを使えば、評価シートの記入支援、360度フィードバックの要約、評価素案の自動生成が可能になります。

Ubie株式会社は2025年12月25日、生成AIを活用した評価システムを2026年1月から運用すると発表しました。全職種・全社員の日々の業務ログからAIが「客観的な事実」を網羅的に集約し、活動サマリと評価素案を自動作成する仕組みです。

ケーブルテレビ大手のJCOM(JCOM株式会社)も2025年4月、カスタマーセンター領域で生成AI(Google Gemini)を人事評価に活用する取り組みを公表しました。1日あたり5,000件の通話データを分析し、通話の開始時と終了時で顧客の感情がどう動いたかを測る「最終ポジティブ率」を、2025年度からオペレーターの応対品質の評価指標に据えています。

ただし、厚生労働省がPwCコンサルティングに委託した『AI・メタバースのHR領域最前線調査』(2025年3月)では、ヒアリング企業において人事評価の最終判断をAIが行っている事例はゼロでした。紛争リスクを理由にAI評価サービスの提供を控える企業もあり、ヒアリングの範囲で確認できたのは「AIは評価を支援し、最終判断は人間が行う」運用です。

AI人事による人材配置・異動、社内マッチングとキャリア相談の実例

ここで紹介する2社の事例は、AIが正式な人事異動・配置転換を判断する仕組みではなく、社内向けのスポットマッチングとキャリア相談にとどまります。

日立ソリューションズは、社員が本務を維持したまま他部門のスポット的な相談や案件に応募できる、社内の部門と社員をAIでつなぐマッチングサービスを提供しています。AIが社員のスキルや経験と案件情報を照合してレコメンドする点が特徴ですが、正式な人事異動・配置転換ではなく、社内の知見を部門横断で活用するための仕組みです。

出所:株式会社日立ソリューションズ「AIが社員のスキルや経験に合う案件を推薦するサービスで、企業内の人財と知見を柔軟に活用」(2026年4月3日)。

日本電気(NEC)も人材公募制度「NEC Growth Careers」の拡大でグループ全体の人材流動化を進めていますが、こちらは社員自身の応募が起点の公募制度で、AIが職務経歴書と募集ポジションを自動照合してレコメンドする仕組みではありません。NECがAIを使うのは、生成AIキャリア相談ツール「NEC AIキャリアトーク」の方です(詳細は後述の企業事例で解説します)。

AI人事による育成・研修のパーソナライズ学習とAIメンター

AIを活用すれば、社員一人ひとりのスキルレベルや学習履歴に応じて研修内容を自動で最適化できます。

アトレは2025年4月1日にGoogle Geminiを全社員の「AIメンター」として導入しました。同社の発表によると、導入から約2ヶ月半でパート・契約社員を含む全社員の利用率が82%を超えています。日常業務の中で「AIに聞く」習慣を根付かせることで、On-the-Job Training(OJT)の質を底上げする狙いがあります。

ドイツのソフトウェア企業SAP(SAP SE)が提供するSuccessFactorsのJoule AIエージェントも注目の存在です。SAPの学習サイトでの名称は「Performance Preparation Agent」で、マネージャーの評価面談に向けて、目標の進捗や面談で話すポイントを示します。

出所:SAP News「New SAP SuccessFactors Innovations」(2025年10月7日)、SAP Learning「Advancing HCM with Joule Assistants and AI Agents」。

AI人事による離職防止、AI離職予測とエンゲージメント分析

勤怠パターンの変化、サーベイの回答傾向、業務負荷の推移。これらのデータを横断的に分析し、離職の予兆を捉えるのがAI離職予測です。

予兆を早くつかめれば、人事担当者やマネージャーは退職の申し出を受ける前にフォロー面談を設定できます。

AI人事を広げるAI活用の採用代行(AI RPO)

AI人事の5領域のうち「採用」をさらに深化させたのが「AI RPO」という形態です。AIが候補者リストの抽出とスカウト文の生成を担い、RPO専門チームが継続的なアプローチから面談の設定、選考・内定のフォローまでを支援する採用代行として提供されています。

個別ツールの導入から進めて、プロセス横断でAIを活用できれば、採用の打ち手として選択肢が広がるでしょう。

AI人事のメリットと人事評価AIの導入効果

AIを使っているHRプロフェッショナルの87%が効率の向上を、75%が仕事の質の向上を報告しています。効果の出方は「人事部門が丸ごと置き換わる」形ではありません。個々の業務の手触りとして現れています。

AI人事による業務効率の改善

SHRMの『State of AI in HR 2026』は、AIを使っているHRプロフェッショナル本人の実感を集めています。

効率が上がったと答えたのが87%、仕事の質が上がったと答えたのが75%、創造性が増したと答えたのが3分の2超でした。

仕事の中身も動いています。SHRMの『5 Critical Insights for CHROs』によれば、AI導入によって職務の担当範囲が変わったと答えた組織が39%、新しい職種が生まれたと答えたのが24%、リスキリングやアップスキリングの機会が増えたと答えたのが57%です。

AI人事評価のメリット、公平性と一貫性

人事評価にAIを導入する最大のメリットは、評価の属人化を防げる点です。特定の上司の主観や無意識のバイアスに左右されず、複数のデータソースを横断的に分析した評価が可能になります。

IBMの事例は、AI活用の運用規模を示す参考値です。同社はAI人事アシスタント「AskHR」(現在はwatsonx Orchestrate上で稼働)を運用し、2024年だけで1,150万件を超える従業員とのやり取りを生みました。よくある質問の94%をAskHR内で完結させており、人事チームの運用コストは4年間で40%減っています。AskHRは従業員からの問い合わせ対応が中心で、人事評価そのものを行う仕組みではありませんが、AIが横断的にデータを処理する規模感の一例になります。

もちろん、これはIBMという巨大テック企業だからこそ実現できた規模の話です。一方で「評価コメントの要約」「360度フィードバックの傾向分析」といった個別業務なら、大規模なシステム投資をしなくても小さく試せます。

AI人事による採用工数の削減

採用領域は、AI人事の中で最も成果が数字に出やすい場所です。SHRMの調査でも、組織全体の27%が採用でAIを使っており、他のどの領域より多くなっています。

Offersの「AIスカウト生成機能」では、スカウト文の作成工数が80%削減されました(overflow調べ)。導入企業の1社(A社)では、スカウト承諾率が2.4倍(13.1%→31.7%)に上がっています。

出所:株式会社overflow「Offers、AIスカウト生成機能を提供開始」(PR TIMES・2024年10月31日公表・2024年10月時点の当社調べ)。

工数が下がっただけでなく、候補者からの反応も上がっている点が要点です。AIが削るのは作業時間であって、候補者と向き合う時間ではありません。

SHRM「State of AI in HR 2026」 Offers「AIスカウト生成機能」プレスリリース(PR TIMES・2024年10月31日公表)

AI人事によるデータに基づく意思決定

勘と経験に頼っていた人事判断をデータで裏付けることも、AI人事に期待される効果の1つです。ただし、効率や仕事の質ほど実感は揃っていません。SHRMの『State of AI in HR 2026』の解説記事によれば、意思決定の改善は結果がまちまちで、改善を感じていない回答者が約半数でした。

離職リスクの早期検知では、勤怠パターンの変化やサーベイ結果をAIが横断分析し、退職の予兆を捉えます。人事担当者は「なぜかわからないが辞めてしまった」という事態を減らし、先手のフォロー施策を打てるようになります。

人材配置も同様の発想です。ただし前述のとおり、現時点で確認できる事例は社内向けのスポットマッチングやキャリア相談にとどまり、AIが正式な人事異動・配置転換を判断する仕組みではありません。AIが社員のスキル・経験・適性を横断的に分析し、案件やポジションとの適合度を提示することで、属人的な勘だけに頼らない判断材料を増やせます。

AI人事のデメリットと人事評価AIのリスク

AI人事への過度な期待は禁物です。HRリーダーの88%が「AIから有意なビジネス価値を得られていない」と回答しており、導入すれば成果が出るわけではありません。

AI人事評価のデメリット、ブラックボックスと納得性

人事評価にAIを導入する際、最も大きなリスクは「判断根拠の不透明さ」です。AIがどのデータをどう重み付けして評価したのか、従業員に説明できなければ納得感は得られません。

厚生労働省がPwCコンサルティングに委託した『AI・メタバースのHR領域最前線調査』(2025年3月)は、この現実を裏付けています。ヒアリングを実施した企業において、人事評価の最終判断をAIが行っている事例はゼロでした。一部のサービス提供企業からは、他社の紛争事例を踏まえてAI評価サービスの提供自体を控えているという声も報告されています。

AIは評価を支援するが、最終判断と説明責任は人間が担う。これが2026年時点での現実的な運用方針です。

AI人事のAIバイアス・データ偏りリスク

AIは過去のデータを学習して判断します。そのデータに偏りがあれば、AIはその偏りをそのまま再生産するでしょう。

Amazonの事例は広く知られています。Reutersの報道(2018年10月10日)によると、同社が開発していたAI採用ツールは、10年間に届いた履歴書(大半が男性)を学習した結果、女性候補者を不利に評価する傾向を示し、同社は開発を打ち切りました。

人事評価でも同じリスクがあります。過去の評価データが特定の属性(性別・年齢・学歴など)に対して低評価傾向を含んでいた場合、AIはその傾向を引き継ぐ可能性があります。定期的なバイアス監査が欠かせません。

AI人事の「導入=成果」ではない現実

数字が物語っています。Gartnerが2025年10月に発表した調査では、HRリーダーの88%が「AIツールから有意なビジネス価値を実現できていない」と回答しました。

足りていないのはツールではなく、運用の枠組みです。SHRMの調査では、正式なAIポリシーを持つ組織は半数弱にとどまりました。誰がどの業務にAIを使ってよいか、出力をどう検証するか。この設計が無いまま入れると、使われないか、確かめられないまま使われるかのどちらかになります。

AI人事のセキュリティ・プライバシーリスク

人事データは企業が扱う個人情報の中でも最も機密性が高い部類に入ります。評価結果、給与データ、健康情報、キャリア志向。これらをAIに学習させるということは、データの取り扱いに細心の注意が求められるということです。

個人情報保護法の安全管理措置(第23条)への対応はもちろん、データの保管場所、アクセス権限、第三者提供の範囲について事前に整理しておく必要があります。

AI人事に対する従業員の抵抗感

抵抗感の背景には、AIへの不信だけでなく、使い方を教わっていないという教育の不足もあります。BCGの「AI at Work 2025」でも、AIの訓練を適切に受けたと答えた従業員は3分の1です。

Gartnerの調査では、従業員の65%が「AIを仕事で使うことにワクワクしている」と答えました。一方でSHRMの調査では、AIに関する法律を持つ州のHR担当者の57%が、その規制の存在を知りませんでした。

現場の意欲と、運用側の知識。この2つのずれを埋めないまま導入すると、使う人が先に走り、止める仕組みが後から追いかける形になります。

Gartner「88% of HR Leaders」プレスリリース Gartner「65% of employees are excited」プレスリリース SHRM「State of AI in HR 2026」 厚労省「AI・メタバースのHR領域最前線調査」報告書

AI人事の導入企業事例

AI人事の導入効果は「理論」ではなく「実績」で判断すべきです。IBMやJCOMのように領域別に成果を出している企業の事例と、Ubieのように運用の開始を公表した段階の取り組みを、以下にまとめました。

採用領域のOffers導入事例を課題別に見る

AI人事のうち最も活用が進む「採用」領域から、Offersの導入事例3ケースを課題タイプ別に整理します。3社の成果はスカウトの運用や運用代行・伴走支援によるもので、事例ページにAI機能の利用は書かれていません。

ナイルはOffersの運用代行(RPO)でスカウトを委託し、リードエンジニア1名を正社員で採用

定額カーリース「カーリースカルモくん」を運営するナイル株式会社は、主要媒体やエージェントでは採用に至らないエンジニア採用市場のレッドオーシャン化に直面。Offersの運用代行(RPO)でスカウト送信と初期対応を委託し、母集団形成にかかる工数を抑えました。結果、リードエンジニア1名を正社員で採用し、その後はスカウト運用を内製化しています。

SmartHRは正社員比率9割・年間30名以上の採用計画を掲げていた

クラウド人事労務SaaSのSmartHRは、2021年11月時点のインタビューで、開発組織75名中70名が正社員(正社員比率9割)、年間30名以上のエンジニア採用を計画していると述べていました。導入理由について担当者は、大規模なリード獲得ではなく採用ターゲットとなる候補者との適切なコミュニケーションが目的だったと説明しており、Offers経由でサーバサイドエンジニアの正社員採用に成功しました。採用領域では、一過性のキャンペーン採用ではなく「継続的にパイプラインを維持する運用設計」が成果の前提になります。

ビットキーのIoT複合スキル採用、Software Edge Deviceチームに1名が入社

スマートアクセス領域のビットキーは、Software Edge DeviceチームでIoT・クラウド・ネットワークの複合スキルを持つソフトウェアエンジニア1名を採用。年間確約のリテーナープランで伴走支援を受け、母集団が限定されるニッチ領域でも狙ったスキルセットの候補者を絞り込んで進めました。

IBMのAskHRは人事の運用コスト40%削減に寄与

IBMはAI人事の先駆者と言える存在です。AI人事アシスタント「AskHR」はwatsonx Orchestrate上で稼働し、80を超える人事業務を自動化しています。

2024年だけで1,150万件を超える従業員とのやり取りを生み、100万件以上の人事関連の手続きを処理しました。よくある質問の94%は人手に回さず完結し、2016年以降で問い合わせチケットは75%減少。人事チームの運用コストは4年間で40%下がっています。規模の大小はあれど、「AI人事で何ができるか」の1つのベンチマークになります。

出所:IBM『IBM AskHR』ケーススタディ(2026年9月17日確認)。

JCOM株式会社が感情分析を人事評価の指標に採用

JCOMは2025年4月、カスタマーセンター領域で生成AIを人事評価・運用改善・育成に活用する取り組みを公表しました。Googleの生成AIモデルであるGeminiを活用したシステムで、1日あたり5,000件の通話データを分析しています。

通話の冒頭と終了で顧客の感情がどう動いたかを測る「最終ポジティブ率」は、NPS(顧客推奨度)と相関することが分かりました。2025年度から、オペレーターの応対品質を測る重要な評価指標として採用されています。

通話要約による省力化は月1,500時間以上で、オペレーターおよそ10名分に相当しました。

出所:JCOM株式会社「カスタマーセンター領域で生成AIを人事評価・運用改善・育成に活用」(2025年4月1日)。

Ubieが全社員の評価素案を生成AIで作る評価システムを開発

ヘルステック企業のUbie株式会社は、2025年12月25日に、生成AIを活用した独自の評価システムを2026年1月から運用すると発表しました。

特徴的なのは、全職種・全社員の日々の業務ログからAIが「客観的な事実」を網羅的に集約し、評価の基礎資料となる活動サマリと評価素案を自動作成する点です。「何をやったか」の事実集約をAIに任せ、「どう評価するか」の判断は人間が行うという明確な役割分担です。

出所:Ubie株式会社「生成AIに評価の基盤を任せ、人が事業成長に専念できる人事評価システムを開発」(PR TIMES、2025年12月25日配信)。

NECはAIキャリア相談ツールと人材公募制度で人材流動化を進める

NECはジョブ型人材マネジメントを全社員に展開し、人材公募制度「NEC Growth Careers」の拡大を通じてグループ全体の人材流動化を進めています。生成AIを使ったキャリア相談ツール「NEC AIキャリアトーク」は2025年10月にNECグループで本格利用を開始し、キャリア理論と社員・キャリアアドバイザーによる過去5年分の相談傾向を学習しています。グループ6社向けにはNECグループの人事制度も学習させて先行提供しており、育児・介護との両立や人材公募制度の相談にも対応する仕組みです。

出所:日本電気株式会社「NEC、社員の自律的なキャリア形成を促進する新たな施策を開始」(2025年10月20日)。

パナソニックのピープルアナリティクスによる三段階データ活用

パナソニックグループは、2023年7月に公開した求人で、ピープルアナリティクスを三段階で展開する方針を示しています。レベル1は「既存人事データの集約・可視化」、レベル2は「複数の人事関連データを有機的に結合した分析」、レベル3は「将来の予測・シミュレーション」。段階的にデータ活用の深度を上げていくアプローチは、多くの企業にとって参考になるモデルです。

出所:パナソニックグループ採用サイト「HRテクノロジー領域の改革を担い、人事DXを推進」(2023年7月20日公開の求人の転載)。

アトレがGemini全社AIメンター導入で利用率82%

商業施設を運営するアトレは2025年4月1日にGoogle Geminiを全社員へ導入し、「AIメンター」戦略を始めました。同社の発表では、導入から約2ヶ月半でパート・契約社員を含む全社員の利用率が82%を超え、社内のエキスパート人材も4人に1人を上回っています。

短期目標は、2025年度末までに「AIを積極的に活用したい」と答える社員を6割以上にすること。そこから2027年までのAI活用人材の育成、2030年までの組織文化としての定着へ段階を進める計画です。

出所:株式会社アトレ「全社員に寄り添う『AIメンター』戦略を始動」(2025年6月)。

Amazonがバイアスで採用AIの開発を打ち切った教訓

成功事例だけでなく、失敗事例からも学ぶ必要があります。

Amazonが開発していたAI採用ツールは、10年間に届いた履歴書を学習した結果、男性比率の高い技術職の傾向を反映し、女性候補者を不利に評価するバイアスを示しました。同社はこのツールの開発を打ち切り、チームを解散しています。

出所:Reuters(Jeffrey Dastin)「Amazon scraps secret AI recruiting tool that showed bias against women」(2018年10月10日・CNBC転載)。

この事例は「AIに任せれば公平になる」という思い込みの危険性を示しています。過去データの偏りをAIが再生産するリスクは、人事評価・配置の領域でも同じです。定期的なバイアス監査と人間によるチェック体制が欠かせません。

AI人事ツール比較と人事評価AIシステム

AI人事を始めるときの最初の判断が、ツール選定です。タレントマネジメント系、統合Human Capital Management(HCM)系、採用特化系の3カテゴリから主要ツールを整理します。

AI人事のタレントマネジメント系ツール(AI評価・人材検索)

国内でも、タレントマネジメントシステムにAI機能を組み込んだ製品があり、次はその一例です。

ツール名

提供元

主なAI機能

タレントパレット

プラスアルファ・コンサルティング

公式サイトの「注目のAI機能」にAI検索・AI評価アドバイス・AIコーチング・AIスキル自動生成などを掲載

出所:タレントパレット公式サイト(2026年10月5日確認)。

AI機能の名前と範囲は製品ごとに違います。選定では、自社の課題に当たる機能があるかに加え、既存システムとの連携のしやすさも判断材料になるでしょう。

AI人事の統合HCM系ツール(グローバル大手向け)

グローバルに展開する大企業向けには、統合型HCMプラットフォームが選択肢になります。

  • SAP SuccessFactors(Joule AIエージェント搭載)。「Performance Preparation Agent」がマネージャーの評価面談に向けて目標の進捗や話すポイントを示す。SAPは2025年10月に、People Intelligence Agentを2026年上期に提供すると発表
  • Workday HCM(Workday Illuminate搭載)。生成AIによる求人票やタレントハイライトなどの作成と要約、人事・財務の定型業務を支援するWorkday Assistant、業務プロセスを担うエージェント

いずれも人事を含む業務を1つの基盤で扱う統合型の製品で、人事制度をグローバルで揃えたい大企業が検討の中心になるでしょう。

出所:SAP News「New SAP SuccessFactors Innovations」(2025年10月7日)、SAP Learning「Advancing HCM with Joule Assistants and AI Agents」。

AI人事の採用特化系ツール

採用領域にフォーカスしたAIツールも充実しています。

ツール名

提供元

主なAI機能

sonar ATS(sonar AI)

Thinkings

自社の過去の選考データから合格の可能性が高い候補者を予測し、エントリーシート選考などの判断を支援

SHaiN

タレントアンドアセスメント

対話型のAI面接

Offers AIスカウト

株式会社overflow

AIスカウト文の自動生成(作成工数80%削減)

出所:Thinkings「採用管理システムsonar ATS、採用DXソリューション『sonar AI』を公開」(2023年4月5日)、タレントアンドアセスメント公式サイト(2026年10月5日確認)。

AI採用ツールの詳しい比較は「AI採用サービス比較」の記事で解説しています。

AI人事ツール選びの3つのポイント

AI人事ツールは種類が多く、選定に迷いがちです。以下の3点を軸に判断すると、自社に合ったツールを見つけやすくなります。

  1. 課題の特定。自社の課題が「採用」「評価」「配置」「離職防止」のどれかを明確にする。SHRMの調査では、採用でAIを使っている組織が27%で、他のどの領域より多くなっています
  2. データ連携。既存のHRIS(人事情報システム)やApplicant Tracking System(ATS)との連携がスムーズにできるか。データがサイロ化すると、AIの分析精度が下がります
  3. 説明可能性。AIがどんな根拠で判断したかを説明できるか。人事評価や配置の意思決定にAIを活用する場合、ブラックボックスは従業員の不信を招きます

AI人事の始め方と3ステップ導入手順

AI人事は全社一括で導入する必要はありません。1領域・1ツールから始めて段階的に広げれば、効果を確かめてから次の投資を判断できます。

Step 1. AI人事で解決すべき課題が大きい領域を1つ特定する

まず、AI人事の5領域(採用・評価・配置・育成・離職防止)のうち、自社で最も工数・コスト・質の課題が大きい領域を1つ選びます。

迷ったら「採用」から始めるのが有効です。SHRMの調査でもHR AI活用の最多領域は採用(27%)であり、ツールの選択肢も最も充実しています。求人票のAI作成やスカウト文面の自動生成は、導入ハードルが低く効果が見えやすい施策です。

Step 2. AI人事は小さく始める(1ツール、1プロセスから)

全社展開を急ぐ必要はありません。1つのプロセスに1つのツールを入れて、効果を検証するところから始めます。

SHRMの調査でも、使われている場所は採用に偏っていました。効果が見えやすい業務から入る企業が多いためとみられます。まずは担当者レベルで触ってみて、「これは使える」という実感を得ることが第一歩になります。

具体的な始め方の例は次のとおりです。

  • 採用。スカウト文面のAI自動生成(Offers AIスカウト)、求人票の生成AI作成
  • 評価。評価コメントの要約・集約に生成AIを活用
  • 離職防止。勤怠やサーベイの回答など人材データを使った離職の予兆の分析

Step 3. AI人事の効果測定と運用ルール整備

導入したら、効果を定量的に測定します。KPIは領域によって異なりますが、代表的な指標は以下のとおりです。

  • 採用。スカウト承諾率、time-to-hire、cost-per-hire
  • 評価。評価作成時間、評価のばらつき(標準偏差)
  • 離職防止。離職率、フォロー面談の実施率

効果測定と同時に重要なのが、運用ルールの整備です。誰がどの業務にAIを使ってよいか、AIで空いた時間を何に充てるか、出力をどう検証するか。SHRMの調査では正式なAIポリシーを持つ組織が半数弱にとどまっており、ここを設計できるかどうかが、AI人事で成果を出す組織とそうでない組織の分かれ目になります。

AI人事の法規制とEU AI Act・日本AI法

採用・人事評価へのAI利用を「高リスク」とするEU AI Actの義務は、2026年7月に成立した改正で2027年12月2日へ延期されました。一方、AIとやり取りしていることを相手に知らせる透明性の義務は、2026年8月2日から適用が始まっています。

EU AI ActにおけるAI人事・採用の高リスク分類

2024年にEUが採択したAI Act(Regulation (EU) 2024/1689)は、AIの使い方をリスクの大きさで分け、禁止・高リスク・透明性の義務といった規制をかけ分ける法律です。附属書3の4は、採用・選考に使うAI(求人広告の配信先の絞り込み、応募書類の分析と選別、候補者の評価)と、労働条件・昇進・契約終了に関わる判断、個人の行動や性格・特性に基づく業務の割り当て、働きぶりや行動の監視・評価に使うAIを「高リスク」に挙げています。重大な危害のおそれが無い限定的な用途は高リスクから外れる例外がありますが(第6条3項)、人のプロファイリングを行うAIは常に高リスクです。

高リスクAIに求められる要件(第8〜15条)を満たす責任を負うのは、主に提供者、つまりツールを開発して自社の名称で市場に出す側です(第16条)。主な要件は次の4つです。

  • リスク管理の仕組みを作り、維持する(第9条)
  • 技術文書を作成する(第11条)
  • 利用者が出力を理解して適切に使えるよう、透明性を確保し使用説明書を付ける(第13条)
  • 人が実効的に監視できる設計にする(第14条)

人事部門のようにツールを使う側(利用者)の義務は、これとは別に第26条が定めており、後述の「企業がAI人事で今やるべきリスク対策」で整理しています。

日本企業であっても、EU域内の拠点でAIを使う場合や、域外で動かしたAIの出力がEU域内で使われる場合も対象です(第2条1項)。グローバルに事業を展開する企業にとっては、他人事ではありません。

高リスク義務の適用日は2027年12月2日へ延期された

2026年に入り、この適用日が動きました。Regulation (EU) 2026/1744(通称デジタルオムニバス)が2026年7月8日に採択され、2026年7月24日にEU官報へ掲載、2026年7月27日に施行されています。AI Act本体の適用スケジュールを書き換える改正です。

当初2026年8月2日だった附属書3の高リスクAIの義務は、2027年12月2日へ移りました。製品に組み込まれる附属書1の高リスクAIは2028年8月2日です。

対象

当初の適用日

改正後の適用日

採用・人事評価などの高リスクAI(附属書3)

2026年8月2日

2027年12月2日

製品に組み込まれた高リスクAI(附属書1)

2027年8月2日

2028年8月2日

AIとの対話・生成物の明示(第50条)

2026年8月2日

2026年8月2日のまま。ただし2026年8月2日より前に市場に出ていた生成AIシステムの提供者は、生成物への機械可読なマーキング(第50条2項)だけ2026年12月2日まで猶予(第111条4項)

出所:Regulation (EU) 2026/1744(2026年7月8日採択・EU官報2026年7月24日掲載)。

利用者の義務を定めた第26条は、この改正で書き換えられていません。人事にとって変わったのは主に高リスクの適用の開始時期です。ほかに、中小企業向けの技術文書の簡素化など提供者側の一部の要件と、提供者と利用者の両方にかかる第4条(AIリテラシー)が見直されました(第4条は後述)。人事評価や選考にAIを組み込む設計は、猶予期間のうちに整えておく前提で変わっていません。

なお、2027年12月2日より前に市場に出た、または使い始めた附属書3の高リスクAIは、その日以降に設計が大きく変わった場合に限ってこの規則の対象になります(第111条2項。公的機関が使うものは2030年8月2日までに対応が必要)。

AIとの対話を候補者に知らせる義務はすでに始まっている

第50条の透明性義務は、この延期の対象から外れました。2026年8月2日から適用されています。

第50条の義務を負う者は、提供者と利用者に分かれます。提供者(第3条(3))はAIシステムを開発する、または開発させて、自社の名称・商標で市場に出すか稼働させる者です。外部のツール提供元だけでなく、採用チャットボットを自社で作って候補者に使わせる企業も含みます。利用者(第3条(4))は、自社の権限のもとでAIシステムを使う者です。AIと対話していることを相手に知らせる設計(1項)と、AIが生成した文章などへの機械可読なマーキング(2項)は、提供者が負います。利用者の義務は、感情認識・生体分類のシステムを使う場合の対象者への通知(3項)、実在の人物などに似せて本物と誤認させうるAI生成の画像・音声・動画(ディープフェイク)の開示(4項第1段)、公共の関心事を一般に知らせる目的で公表する文章のAI生成の開示(4項第2段)です。人事が候補者へ個別に送るスカウト文や連絡文に、利用者としての開示義務は第50条から生じません。一方、採用動画に実在の社員に似せたAI生成の映像や音声を使う場合は、4項第1段の開示がかかります。人事の実務で確かめるのは、候補者がAIチャットボットと対話する採用フローで、使っているツールが相手にAIだと分かる形になっているかです。チャットボットを自社で作って使っている場合、この設計を担う提供者は自社です。4か月の経過措置(2026年12月2日まで)があるのは、生成コンテンツへのマーキング義務(第50条2項)を負う提供者のうち、2026年8月2日より前にそのシステムをすでに市場に置いていた場合に限られます(第111条4項)。AIと対話していることを知らせる義務そのものに猶予はありません。

延期とは別に、すでに適用中の禁止があることにも注意してください。AI Act 第5条1項(f)は、職場でAIを使って人の感情を推定することを禁じており(医療・安全上の理由を除く)、第5条を含む第2章の適用は2025年2月2日に始まりました。欧州委員会の禁止AIに関するガイドラインは、この禁止の対象を生体データ(表情・キーストローク・姿勢や動きなど)から感情を推定するAIに限る一方、採用選考中の候補者にも及ぶとしています。表情などの生体データから候補者の感情を推定するAI面接ツールをEU域内の候補者に使うことは、この禁止の対象です。

AIを使う企業全般に、いまかかっている義務もあります。AI Act 第4条は、AIの提供者と利用者に、自社の従業員やAIを代わりに操作・利用する人のAIリテラシーの向上を支える措置を求めており、第1章の規定として2025年2月2日から適用されています。デジタルオムニバスはこの条文を差し替えました。改正の理由を述べた前文8によれば、当初の条文はAIリテラシーの確保を求めていましたが、改正後は向上を支える措置を求める形になりました。改正後の第4条1項は、個人に特定の水準を保証することまでは求めないと明記しています(AI Act Explorer「Digital Omnibus」の第4条と前文8)。高リスクかどうかに関係なく、人事部門が業務でAIツールを使うなら、この義務の対象です。

出所:Regulation (EU) 2024/1689 第4条・第5条・第50条・第111条・第113条(AI Act Explorer 掲載の条文)、Regulation (EU) 2026/1744(AI Act Explorer 掲載の本文)、Freshfields「EU AI Act unpacked #25」(2025年6月17日)。

つまりAI人事の法対応は、2027年12月を見据えて準備する部分と、いま整える部分に分かれます。この2つを1つの期限として扱うと、手前の対応が抜けます。

日本AI法(AI推進法、2025年施行)とAI人事

日本では2025年6月に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(通称:AI推進法)が公布され、9月に全面施行されました。

ただし、この法律はEU AI Actとは性格が異なります。基本理念の提示とAI戦略本部の設置が中心であり、事業者の責務を定めた規定は第7条「活用事業者の責務」(AIの積極的な活用に努めることと、国や地方公共団体の施策への協力)だけで、第16条は、国が調査・研究の結果に基づいて活用事業者などへ指導・助言・情報提供を行うと定めています。人事領域に特化した規制は含まれていません。AI推進法に基づく人工知能基本計画は2025年12月23日に閣議決定され、2026年7月14日に改定されました。改定版にも人事評価や採用選考を対象にした規制は見当たらず、雇用への影響の調査・分析や、従業員のAIリ・スキリングの支援が施策として挙がっています。

厚労省の委託調査に見るAI人事評価の現在地

法律とは別に、厚生労働省がPwCコンサルティングに委託した『AI・メタバースのHR領域最前線調査』(2025年3月)は、企業へのヒアリングを通じて、人事評価AIの導入が実際にどこまで進んでいるかを示しています。

ヒアリング企業において人事評価の最終判断をAIが行っている事例はゼロ。一部のサービス提供企業からは、紛争事例を踏まえて人事評価AIサービスの提供自体を控えているという報告もありました。

AI人事関連法、NY市AI雇用法(Local Law 144)

米国では自治体レベルで先行した規制が動いています。ニューヨーク市で2023年7月5日に施行されたLocal Law 144は、ニューヨーク市内の採用・昇進で、候補者の評価・分類・推薦について人の裁量判断を実質的に支援または置き換える自動雇用決定ツール(AEDT)を使う場合に、年次の独立バイアス監査を義務付けるものです。候補者を採点・分類・推薦しない使い方(スカウト文の作成や日程調整など)は、この定義に当たりません。監査結果は公開が求められ、ニューヨーク市消費者・労働者保護局(DCWP)は初回375ドル、2回目以降は500〜1,500ドルの民事罰を科します。

出所:Greenberg Traurig LLP「NYC's Law Governing Automated Employment Decision Tools Takes Effect July 5」(2023年6月)。

企業がAI人事で今やるべきリスク対策

適用日が分かれたことを踏まえると、整備すべき事項は4つに整理できます。

  1. AIの棚卸し。どの人事プロセスでAIが判断に関わっているかを一覧にする。高リスクかどうかの判定は、この一覧が無いと始まりません
  2. AIを使う担当者のAIリテラシー。人事でAIツールを使う担当者や代わりに操作する人が、仕組みと限界、リスクを理解して使えるよう、研修や手引きを用意する。第4条は2025年2月2日から適用されており、高リスクかどうかに関係なく、業務でAIを使う利用者全般が対象です
  3. 候補者と接するAIツールの確認。候補者がAIと対話する場面で、相手がAIだと分かる表示をツールが備えているかを確かめる。外部のツールなら提供元に確認し、採用チャットボットを自社で作って使っているなら自社が提供者として表示を組み込む。第50条は2026年8月2日から適用されており、この表示の義務を負うのは提供者です。利用者が文章のAI生成を開示する義務は、公共の関心事を一般に知らせる目的で公表する文章に限られます。採用動画などで実在の人物に似せたAI生成の映像や音声を使うなら、利用者として開示が要ります(4項第1段)
  4. 高リスクAIの利用者(第26条)としての体制。使用説明書に沿って使う、人的監視を担う担当者を決める、自社が管理する入力データの適切さを確かめる、稼働を監視し自社の管理下にあるログを6か月以上保存する、使い始める前に労働者代表と対象の労働者へ知らせる、AIが判断に関わる対象者本人へ知らせる。2027年12月2日までに整える中身のうち、人事の運用に直接関わる主なものはこの6点です。ほかに、健康・安全や基本的権利へのリスクがあると考えたときは提供者と当局に知らせて利用を止め、重大なインシデントを把握したときは提供者と当局に知らせること(5項)、EU一般データ保護規則(GDPR)のデータ保護影響評価に第13条の情報を使うこと(9項)、当局への協力(12項)も、第26条が定める利用者の義務です。定期的なバイアス監査は第26条の利用者義務には含まれませんが、ニューヨーク市のLocal Law 144のように法律で求める地域があります(同法の対象は自動雇用決定ツールに限られます)

出所:Regulation (EU) 2024/1689 第4条・第26条(AI Act Explorer 掲載の条文)。

Regulation (EU) 2026/1744(EU官報) 内閣府「AI法」 厚労省「AI・メタバースのHR領域最前線調査」報告書

AI人事の未来と2030年に向けた展望

AI人事は「導入するかどうか」ではなく「どう活用するか」のフェーズに移りつつあります。ただし人事プロセスそのものの生成AI化は、まだ始まったばかりです。

自動化されうる労働時間と、人事プロセスの現在地

McKinseyの「HR Monitor 2025」は、2030年までに生成AIが欧州の労働時間の最大27%を自動化しうると見積もっています。

一方、人事プロセスそのもののAI化は緒に就いたばかりです。同じ調査では、欧州でコアHRプロセスの19%が生成AIで強化されているにとどまり、32%はまだパイロット段階でした。

労働時間全体の話と、人事部門の中身の話は分けて読む必要があります。自動化されうる時間の大きさは、人事の業務がそのまま同じ比率で消えることを意味しません。

AI人事を加速するAIエージェントの標準化

2026年以降、人事業務におけるAIエージェントの存在感が増しています。日程調整、労務の問い合わせ対応、候補者とのコミュニケーション。これまで人間が担ってきた間接業務を、AIエージェントが自律的に実行する世界が近づいています。

SAPは2025年10月、人事向けで最初のJouleエージェント「Performance and Goals Agent」を翌11月にSAP SuccessFactorsで一般提供し、2026年上期にさらに4つのエージェントを提供すると発表しました。最初のエージェントはマネージャーの評価面談を支えるもので、SAPの学習サイト(SAP Learning)では同じ目的のエージェントが「Performance Preparation Agent」の名称で説明されています。Workdayも2024年9月に発表したWorkday Illuminateで、ユーザーと一緒に、またはユーザーに代わって業務プロセスを進めるエージェントを提供するとしています。

出所:SAP News「New SAP SuccessFactors Innovations」(2025年10月7日)、SAP Learning「Advancing HCM with Joule Assistants and AI Agents」。

AI人事から発展する「AI RPO」の広がり

個別ツールの導入は、AI人事の第一段階に過ぎません。次のステージは、候補者の発見とスカウトをAIが担い、選考・内定までを外部の専門チームが支援する「AI RPO」です。

候補者の抽出とスカウト文の生成はAIが、継続的なアプローチから選考・内定のフォローまではRPO専門チームが担う。個別ツールの導入から一歩進めることで、採用プロセス全体の設計を見直す余地があります。

AI人事活用の鍵を握るマネージャー

Gartnerが2026年3月に発表した調査では、マネージャーの45%が「AIがチーム業務を期待通りに改善した」と回答しました。

SHRMの調査でも、AIの利用はHRの上級リーダー層が先行し、マネージャーと担当者が後を追う形になっています。上の層から使い始める構図です。

経営層がAI活用を号令するだけでなく、マネージャーが自チームで成功体験をつくり、それを横展開していく仕組みが、AI人事の成果を左右する鍵になると考えられます。

McKinsey「HR Monitor 2025」 Gartner「45% of managers」プレスリリース SHRM「State of AI in HR 2026」

本記事のポイント

AI人事は、採用・人事評価・人材配置・育成・離職防止の5つの領域に広がっています。

SHRMの調査では、人事領域でAIを使っている組織が39%、従業員5,000人以上では60%に達しました。使われている場所は採用27%・HRテクノロジー21%・学習育成17%に偏っています。

一方で、HRリーダーの88%が有意なビジネス価値を実現できていないと答えました。正式なAIポリシーを持つ組織は半数弱です。導入と成果の間には、まだ運用設計の空白があります。

日本では人事部門の約7割が生成AIに触れている一方、採用プロセスでAIを活用していない企業は87.7%です。従業員5,001人以上では34.3%が選考にAIを導入しており、規模による開きが出ています。

法規制は2026年7月に動きました。採用・人事評価の高リスクAIに課される義務は2027年12月2日へ延期される一方、AIとの対話を明示する義務は2026年8月2日から、職場での生体データによる感情推定の禁止と、AIを使う従業員のAIリテラシーに関する義務(第4条)は2025年2月2日から適用されています(生成物への機械可読なマーキングだけは、2026年8月2日より前に市場に出ていた生成AIの提供者に2026年12月2日までの猶予があります)。待つ部分と、いま整える部分を分けて設計してください。

まずは最も活用が進んでいる「採用」領域から、1つのツールで小さく始めてみてください。

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