採用管理システム(ATS)は、応募者の情報と選考の進み具合を1か所に集めて管理する仕組みです。求人媒体ごとに散らばっていた応募を1つの画面で追えるようになり、誰がどの段階で止まっているかが見えるようになります。
ただし、そこに入るのは求職者の個人情報です。採用する企業は職業安定法第5条の5の名宛人にあたり、何を集めてよいか、いつまで持ってよいか、誰が見てよいかについて法令上の義務を負います。システムの設定は、その義務を満たす形で決めるものです。
本記事では、定義と主要機能を整理したうえで、法令が求めるものを条文単位で示し、選定の基準に落とし込みます。
採用管理システム(ATS)の定義
採用管理システムは、英語の Applicant Tracking System の頭文字から ATS とも呼ばれます。求人の作成と媒体への掲載、応募者情報の受け取り、選考段階の記録、面接日程の調整、候補者への連絡、採用データの集計までを1つのシステムでつなぐものです。
紙の履歴書と表計算ソフトとメールに分かれていた作業を、応募者を軸に束ね直したもの、と捉えると分かりやすいでしょう。
採用管理システムが扱うデータ
採用管理システムに入るのは、氏名・連絡先・職務経歴・応募経路・面接の評価コメント・合否の記録です。応募書類のファイルもここに保存されます。
つまり中身のほぼ全部が、特定の個人を識別できる情報です。この点が、社内向けの他の業務システムと性格を分けています。
採用管理システムが必要になる理由
応募の入口は1つではありません。求人媒体、自社の採用ページ、エージェント経由、社員紹介と分かれていて、それぞれ通知の形式も管理画面も違います。
Offers の導入事例でも、SmartHR はエージェント・転職媒体・自社サイトからの直接応募・社員紹介を並行して使い、エンジニアで年間30名以上の採用を計画していると述べています(2021年の取材)。入口が増えるほど、どこに誰がいるかを人手で突き合わせる負担は重くなるでしょう。
採用の需要そのものも下がっていません。厚生労働省『令和7(2025)年上半期雇用動向調査結果の概況』によれば、2025年6月末日現在の未充足求人数は1,359.5千人、欠員率は2.6%でした。
クラウド利用企業の半数超が人事系の業務にも使っている
採用管理システムの多くはクラウドサービスとして提供されます。総務省『令和7年通信利用動向調査報告書(企業編)』では、クラウドサービスを一部でも利用している企業が83.5%、全社的に利用している企業が60.0%でした。全社的に利用している側は前年の53.1%から6.9ポイント増えています。
クラウドサービスを利用している企業に用途を聞いた内訳(複数回答・n=2,133)を見ると、ファイル保管・データ共有が73.3%、社内情報共有・ポータルが61.4%、電子メールが57.4%、給与、財務会計、人事が56.3%です。この56.3%の分母はクラウド利用企業であって全企業ではなく、項目も給与・財務会計・人事の3業務をまとめた選択肢になっています。それでも人事系の業務をクラウドで動かすこと自体は、もう珍しい選択ではありません。
用途 | 令和7年 | 令和6年 |
|---|
ファイル保管・データ共有 | 73.3% | 71.0% |
社内情報共有・ポータル | 61.4% | 57.6% |
電子メール | 57.4% | 56.8% |
給与、財務会計、人事 | 56.3% | 52.1% |
スケジュール共有 | 53.6% | 51.1% |
出所: 総務省『令和7年通信利用動向調査報告書(企業編)』図表4-3(複数回答・令和7年 n=2,133・令和6年 n=1,937)
採用する企業が負う法令上の義務
採用管理システムの検討では、機能とセキュリティ対策の話に寄りがちです。しかし先に確認すべきなのは、自社がどの法律の名宛人になっているかという点になります。
求人者は職業安定法第5条の5の名宛人である
職業安定法第5条の5第1項は、求職者等の個人情報の取扱いを定めています。名宛人には公共職業安定所や職業紹介事業者だけでなく、求人者が並んでいる点が重要です。求人者とは、人を採用しようとしている企業そのものです。
条文は、求職者等の個人情報を収集・保管・使用するにあたり、業務の目的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして収集し、収集の目的の範囲内で保管し使用しなければならない、と定めます。ただし本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合はこの限りでない、という但書が付きます。同条第2項が求めるのは、適正に管理するために必要な措置を講じることです。
目的の明らかにし方は職業安定法施行規則第4条の4が定めており、インターネットの利用その他適切な方法によるものとされています。自社の採用ページに利用目的を掲示する形が、この規定に沿った実務です。
指針が具体的な線を引いている
職業安定法第48条は、第5条の5に関する指針を厚生労働大臣が公表すると定めます。これを受けたのが指針(平成11年労働省告示第141号)で、該当するのは「法第5条の5に関する事項(求職者等の個人情報の取扱い)」の節です。指針の注記は「職業紹介事業者等」に労働者の募集を行う者や求人者も含むと明示しています。
この節は個人情報の収集・保管・使用に6項、適正な管理に2項を置いています。そのうち採用管理システムの設定に直結するのは次の4項目です。
指針の項目 | 何を求めているか | 採用管理システム側の設定 |
|---|
1(2) | 人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想及び信条、労働組合への加入状況を収集しない | 応募フォームの入力項目・面接評価シートの選択肢 |
1(5) | 保管と使用は収集目的の範囲に限る | 他部署・他ポジションへの候補者データの流用可否 |
2(1)ニ | 収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄または削除する | 応募者データの保存期間と自動削除の設定 |
2(1)ハ | 正当な権限を有しない者によるアクセスを防止する | 権限設定・閲覧できる範囲の割り当て |
1(2)には例外があります。特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合です。それに当たらない項目を「念のため」で応募フォームに残すことはできません。
指針2(1)は、これらの措置の内容を求職者等からの求めに応じて説明しなければならないとも定めます。設定の理由を後から言葉にできる状態が必要になるわけです。
同意の取り方にも条件がある
指針1(6)は、本人の同意を得る際の条件を3つ挙げます。同意を求める事項を可能な限り具体的かつ詳細に明示すること、業務の目的の達成に必要な範囲を超えた収集・保管・使用の同意を労働者の募集の条件としないこと、求職者等の自由な意思に基づき明確に表示された同意であることです。
応募フォームの同意チェックを外すと先に進めない設計にしている場合、その同意の中身が必要な範囲を超えていないかを確認しておきましょう。
個人情報保護法が重ねてかかる
職業安定法とは別に、個人情報保護法が同じデータにかかります。実務で問題になりやすいのは次の6条です。
条文 | 内容 |
|---|
第17条第1項 | 利用目的をできる限り特定する |
第21条第1項 | 取得したら、あらかじめ公表している場合を除き速やかに利用目的を本人に通知または公表する |
第23条 | 個人データの漏えい・滅失・毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる |
第25条 | 個人データの取扱いを委託する場合、委託先に必要かつ適切な監督を行う |
第32条第1項 | 保有個人データの利用目的や開示請求の手続を本人の知り得る状態に置く |
第33条第1項・第2項 | 本人の開示請求に対し、請求された方法で遅滞なく開示する(その方法が困難な場合は書面の交付。本人や第三者の権利利益を害するおそれがある等の場合は全部または一部を開示しないことができる) |
このうち第33条は、採用管理システムの選定に直結します。応募者本人から「自分についてどんな記録があるか開示してほしい」と求められたとき、システムから当該候補者の保有個人データを取り出せる必要があるからです。面接の評価コメントがどこまで開示対象になるかは事案によりますが、取り出せない設計だと対応そのものができません。
違反には罰金がある
職業安定法第51条第1項は、求人者を含む関係者とその代理人・使用人・従業者に対し、正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らすことを禁じます。これらの者でなくなった後も同様です。同条第2項は、業務に関して知り得た個人情報をみだりに他人に知らせることも禁じています。
第51条第1項に違反したときは、第66条第11号により30万円以下の罰金に処せられます。採用担当者が退職後に候補者情報を持ち出す事態は、社内規程の問題である前に、この条文の問題です。
採用管理システムの主要機能
法令上の義務を押さえたうえで、機能を見ていきます。製品による差はありますが、中核となるのは次の6つです。
求人の作成と媒体への掲載管理
求人票を1か所で作り、連携している媒体へ同時に配信します。募集の停止や条件変更も、媒体ごとに管理画面を開き直す手間がなくなる部分です。
掲載中の求人と応募の対応関係が記録されるため、どの媒体からどれだけ応募が来たかが後から集計できます。
応募者情報の一元管理
媒体・自社サイト・エージェント経由の応募を、同じ形式の候補者レコードに揃えます。重複応募の検知も、この一元化があって初めて成り立つ機能です。
ここは指針1(2)が直接かかる場所になります。取り込む項目を媒体任せにせず、自社が収集してよい範囲に揃える設定が必要です。
選考パイプラインの管理
書類選考中、一次面接済み、最終面接待ち、内定といった段階を候補者ごとに記録します。段階ごとの滞留人数が見えるため、どこで止まっているかが分かる形です。
段階別の通過率の測り方は採用の歩留まり|計算式と段階別の基準値の置き方で扱いました。工程そのものの設計は採用フローとは?6工程の設計手順と法令要件を参照してください。
面接日程の調整
面接官のカレンダーと連携し、空いている枠を自動で抽出します。候補日を提示するメールの送信までを含む製品も一般的です。
候補者とのコミュニケーション
選考段階が変わったときの自動通知、テンプレートを使った一斉連絡、やり取りの履歴保存を担います。誰がいつ何を送ったかが残るため、担当者が替わっても経緯を追える状態です。
採用データの集計
媒体別の応募数、段階別の通過率、採用までの日数を集計します。次の期の予算配分を決める材料です。採用単価の定義と公的統計での実額は採用単価の定義と、公的統計でわかる1件あたりの実額で扱いました。
クラウド型とオンプレミス型の違い
提供形態は大きく2つに分かれます。どちらを選ぶかで、負う義務の形も変わる点に注意が必要です。
クラウド型
ベンダーのサーバー上で動くサービスを、月額または年額で利用します。初期費用を抑えられ、機能追加が自動で反映される点が利点です。導入までの期間も短く済みます。
一方で、保存場所も更新のタイミングもベンダー側にあるのが前提です。細かいカスタマイズには限りがあります。
オンプレミス型
自社の環境にシステムを構築する形態です。既存の人事システムとの深い連携や、独自の選考フローへの適合が必要な場合に選ばれます。初期の構築費用と運用の人手がかかる点が引き換えです。
クラウド型を選ぶと委託先の監督義務が生じる
クラウド型の採用管理システムを使うことは、個人データの取扱いを外部に委ねることにあたります。ここで働くのが個人情報保護法第25条です。委託を受けた者に対し、必要かつ適切な監督を行う義務が委託元、つまり自社に残ります。
比較記事でよく見る「クラウド型はベンダーのセキュリティ対策に依存する点に注意」という書き方は、実態を半分しか写していません。法令上は、監督する義務が自社にある、というのが正確な位置づけです。
契約前に確認しておく項目は次の4つです。
- データの保存場所と、再委託の有無および再委託先
- アクセス権限の設定粒度と、操作ログが残るか
- 保存期間の設定と、期間経過後に削除できるか
- 契約終了時のデータ返却と消去の手順
3つ目は指針2(1)ニ、4つ目は同じ規定と第25条の両方に対応します。
費用の考え方
料金体系は、月額固定、従業員規模による段階制、候補者数による従量制に分かれます。初期費用が別途かかる製品もあるので、見積の前提を揃えて比べてください。
金額だけで判断せず、削減される作業時間と、法令上の要件を設定で満たせるかを合わせて見るのが現実的です。保存期間の自動削除を設定できない製品は、安くても運用の手間が別途かかります。
採用管理システムを導入して変わること
導入で起きる変化は、大きく4つです。
応募経路が分かれていても1か所で追える
媒体ごとの管理画面を行き来する必要がなくなります。候補者一覧が1つになるため、対応の抜けが起きにくい状態です。
選考の停滞が見えるようになる
段階ごとの滞留人数と滞留日数が数字で出ます。「なんとなく進んでいない」が「一次面接の設定で12人止まっている」に変わると、打ち手が具体になるでしょう。
評価の基準が組織で揃う
評価コメントが同じ様式で残るため、面接官が替わっても前段の判断を踏まえて進められます。属人化の解消は、採用管理システムの実務的な価値の中心です。
法令が求める管理を仕組みで担保できる
収集項目の制限、権限の割り当て、保存期間の管理、開示請求への対応は、人の注意力で守るには量が多すぎます。設定として持てることが、そのまま義務の履行になる部分です。
ただし、採用管理システムが引き受けるのは「管理」の側だけになります。候補者にどう出会い、どう関心を持ってもらうかは、別の手段が要ります。Offers の AI RPOは、母集団の形成から候補者への接触までをAIと担当者で分担して進めるサービスです。管理の基盤を採用管理システムで固めたうえで、獲得の側をここで補う組み合わせになります。
実際の進め方は、Offers が公開している導入事例で確認できるでしょう。ナイルは限られた社内リソースの中で正社員1名の採用に至った経緯を、ビットキーはあらゆる採用手法を試した末にリテーナープランを選んだ判断を、それぞれ担当者の言葉で語っています。
導入前に見ておく注意点
利点だけではありません。導入で新しく発生する負担もあります。
コストと契約期間
月額費用に加え、初期設定の費用が発生します。年単位の契約が前提の製品もあるため、途中で合わないと分かったときの選択肢が限られる点は先に見ておくべきです。
運用の定着
システムを入れても、現場が使わなければ記録は溜まりません。面接官が評価を入力しない状態が続くと、集計も分析も成り立たなくなります。
導入前に、実際に使う担当者と面接官の意見を聞いておきましょう。人事領域のデジタル化全般の進め方は人事DXとは?定義の所在とIT化との線引きで扱いました。
データ移行時の目的外利用
過去の応募者データを新しいシステムへ移すとき、指針1(5)が問題になります。当時と違う目的で使える状態にしてしまうと、収集目的の範囲を超えるからです。
移行の前に、収集目的に照らして保管する必要がなくなったデータを切り分け、指針2(1)ニに従って破棄または削除する判断が要ります。
設定を誤ると義務を果たせなくなる
権限設定を緩くすると指針2(1)ハに反し、保存期間を無期限にすると指針2(1)ニに反します。どちらも「うっかり」で起きうる設定です。導入時のチェック項目に入れておきましょう。
採用管理システムの選定基準
選定の軸は5つです。上の4つは一般的に挙げられるもので、5つ目が法令上の要件にあたります。
採用形態との適合
中途採用を中心に回すのか、アルバイト・パート採用を大量に扱うのかで、必要な機能は変わります。応募数の規模と選考の段階数が、判断の起点です。
連携する媒体
自社が使っている求人媒体と連携しているかを確認します。連携していない媒体の応募は手作業での取り込みになり、一元管理の利点が薄れるからです。
分析機能の深さ
集計できる単位を見ます。媒体別・職種別・段階別のどこまで分解できるかで、改善の当たりの付け方が変わるでしょう。
規模の変化への追随
採用人数が増えたとき、料金体系と機能がどう変わるかを確認します。段階制の場合、次の段階に移った時点の金額を先に把握しておくべきです。
権限設定と保存期間の設定ができるか
ここが法令上の要件です。閲覧できる範囲を役割ごとに割り当てられるか、応募者データの保存期間を設定して期間経過後に削除できるか、特定の候補者の保有個人データを取り出せるかの3点を確認します。
それぞれ指針2(1)ハ、同ニ、個人情報保護法第33条に対応する項目です。機能一覧には載りにくいので、デモや無料期間のうちに実際の画面で確かめてください。
採用管理システムとAIの組み合わせ
書類の要約、候補者のスコアリング、評価コメントの整理にAIを使う製品が増えています。作業時間の面では有効ですが、前提が1つあります。
AIが処理しているのも求職者等の個人情報です。職業安定法第5条の5の「収集の目的の範囲内で保管し、使用する」はAI処理にもかかります。学習用データとして外部へ渡す挙動がある場合、それが収集目的の範囲に収まるかどうかが確認すべき点です。
クラウド型でAI処理が行われる場合は、個人情報保護法第25条の委託先の監督も重ねてかかります。再委託先まで含めた確認が必要です。
採用管理システムの導入で押さえる点
採用管理システムは、応募者の情報と選考の進捗を1か所に集める仕組みです。機能の中心は、求人の掲載管理、応募者情報の一元管理、選考パイプラインの管理、日程調整、コミュニケーション、データ集計の6つになります。
選定でそれらと同じ重みを持つのが、法令上の要件を設定で満たせるかどうかです。採用する企業は職業安定法第5条の5の名宛人であり、収集してよい項目、保管と使用の範囲、不要になった情報の破棄、アクセス権限の制限は指針(平成11年労働省告示第141号)が線を引いています。個人情報保護法は利用目的の特定と通知、安全管理措置、委託先の監督、開示請求への対応を重ねて求めます。第51条第1項に違反したときは第66条第11号により30万円以下の罰金です。
総務省の調査では、クラウドサービスを利用している企業の56.3%が「給与、財務会計、人事」の用途でも使っています。システムを入れること自体は、もう特別な判断ではありません。分かれ目は、入れたシステムを義務を満たす形に設定できているかどうかにあります。
管理の基盤を整えたうえで候補者の獲得を強めたい場合は、Offers の AI RPOで母集団形成から接触までを分担する方法があります。