AIが営業・総務・法務・エンジニアリングを一人でこなせる時代に、企業はどんな人材を採用し、どう育てればよいのか。経営者からHR担当者まで、多くの方がこの問いと向き合っています。
生成AIの普及に伴い、「どんなスキルが価値を持つか」という問いへの答えは半年ごとに更新されています。一方で、AIをうまく取り入れられている組織とそうでない組織の差は、技術的な習熟度だけでは説明できないところに生まれています。
2026年5月21日、株式会社ポテンシャライト代表取締役の山根一城様と、株式会社overflow代表取締役CEOの鈴木裕斗が登壇し、「【AI組織変革】AIネイティブ時代の組織デザイン──次世代人材ポートフォリオの正解とは?」をテーマに共催ウェビナーを開催しました。
本記事では、AI時代に価値が高まる能力構造(ドメイン知識・構造設計力・視座)、AI人材の定義と採用・育成の具体的な方法論(キャリアドリフトモデル・AIQテスト)、そしてAI導入を阻む「適応課題」とその突破口となるAI BPRの考え方まで、ウェビナーの全体をまとめてお届けします。
AI時代に「職種の壁」が崩れる──ドメイン知識こそ次世代ポートフォリオの核心
――鈴木:まず山根様から、AI時代における職種と人材ポートフォリオの変化についてお話しいただきます。
山根様:営業・総務・法務・経理・人事・エンジニア・デザイナー・プロダクト企画を一人でこなせる時代に、ついに来てしまったというのが率直な感覚です。約9ヶ月前にブログで「職種の超越・崩壊」と書いたのですが、今まさにそれが起きているという実感があります。HRという概念自体も今後変わっていくのではないかと思うほど、AIの勢いは非常に強い状態です。

――鈴木:一方で、全自動化が理想かというと、山根様の見方は少し異なると伺っています。
山根様:Claude Codeで「この業務はこのAI・あの業務はあのAI」という形でエージェントを動かすことは技術的に可能になっています。ただ個人的には、ビジネスをやる上で何かを試したりぶつかり合う瞬間そのものに面白さがあると感じているタイプで、全自動には内面的にあまり賛成できていません。
真ん中には必ず人がいて、営業・総務・法務担当のAIエージェントと協働しながら、完全な自動ではなく進めていくというスタンスが実際のポートフォリオとしてはあると考えています。
――鈴木:AI時代に人間が担うべき役割の中で、最も重要な能力は何でしょうか。
山根様:ドメイン知識です。Claude Code・Cursor・Devinなどを使えば、ビジネスサイドがエンジニアリングの領域に浸食できる時代になっています。かつて2ヶ月100万円程度だったシステム開発プロジェクトが1時間数千円の水準になってきているという感覚があります。

ただ、AIで何かを作る前に「業務に何が必要か」を定義できなければ話が始まりません。AIはその定義の中身を実行することには長けていますが、何を定義すべきかという起点は、その職域に深く精通した人間にしか出せない。だからこそ、ドメイン知識が次世代ポートフォリオの核心になると捉えています。
構造設計力から「視座」へ──AIが代替しにくい能力の正体
――鈴木:ドメイン知識の次に重要な能力として、山根様は「構造設計力」と「視座」を挙げていらっしゃいます。
山根様:構造設計力とは、問題を構成する要素の数をどれだけ網羅的に見渡せるかという能力です。

例えばスカウトの返信率が低いという課題があった時、「スカウトの文章が悪い」だけで終わらず、タイトル・差し出し・企業の魅力・候補者のキャリア段階に応じたカスタマイズ・送信時間・送信曜日・求人の内容・媒体内の競合状況まで、10以上の要因を頭の中で一覧できるかどうかです。この構造的な整理ができるかどうかが、AIの活用精度に直結します。

ただし最近は、この構造設計力ですらAIが実行できるようになってきた、というのが正直なところです。
――鈴木:構造設計力だけでは足りないということですね。視座についても詳しく教えてください。
山根様:アプリケーション層はAIで代替されても、OS層はそれほど簡単ではないという感覚を持っています。そのOS層に相当するのが「視座」です。
視座を外的視座と内的視座に分けて整理しています。外的視座の例として重要なのが、「全体最適と部分最適の違いを見極める力」です。社長にとっての全体最適がメンバーにとっての部分最適になっていないか、ある部署に有利な人事制度の変更が他の部署には不利に働かないか。こうした多面的な利害関係の全体を捉える視点は、今のAIが賄えるものではないと感じています。

もう一つ重要な外的視座が、文脈思考と3〜5年先を読む時間軸です。例えばエンジニアのキャリアは、受託会社から事業会社への転職という流れが一般的ですが、これが逆転する可能性を私は見ています。1プロダクトに特化した会社は、そのプロダクトがAIで代替された際のリスクが大きい。受託・コンサル側にいた方が複数の商品や案件に関われ、スキルを活かし続けやすいと考えているからです。
ChatGPTからClaude Code・Kiroまで──過去6ヶ月で上流業務まで到達したAIの変遷
――鈴木:山根様が当日の朝に作成されたというスライドについて、お話しいただけますか。
山根様:一般業務とエンジニアリング業務の両方を縦軸に置き、AIの変遷を4フェーズで整理したスライドです。

ChatGPT 3.5の時代は壁打ち・要約・下書きといった補助的な使い方でした。GPT-4では自力メール・調査分析・企画の叩き台まで広がり、さらにGeminiやCursor・Devinの登場で画面試作・構造設計・課題設定の領域まで入ってきました。そして今のClaude CodeとAWSのKiroの時代では、課題設計・要件定義も含めてほぼ全業務が「AIでカバー済み」になっています。
エンジニアリング側も同様で、コードの補助から始まり、テスト・運用・実装・基本設計・要件定義へと上流に上がり続けています。
改めてこのスライドを整理してみて、2年後どうなっているかという怖さを感じると同時に、だからこそ「視座」という土台が一層重要だと確信しました。職種の超越はもう決まった未来であり、HRの人間が事業を作れるくらいにならないと厳しい場面が増えていくとも感じています。
3.5万人の行動データが示すAI人材の定義──ドメイン知識×AIスキル×開発コミュニケーション
――鈴木:私の方からは、Offersの3.5万人のハイクラス人材データをもとに、AI実装組織の作り方についてお話しします。まずAIを取り入れないリスクを3点整理させてください。

1点目はシステム設計リスクです。AIは人間が1時間かけるソースコード量を1分以内で生成できます。既存の継ぎはぎだらけのシステムにコードが爆発的に積み重なると、品質管理と安全管理のリスクが膨張します。技術的な責任者がいなければ手に負えなくなる状況が近づいています。
2点目はビジネス競争力のリスクです。AIを活用した人材が1人で5人分のパフォーマンスを出せるようになると、活用できていない企業は中長期で競争力を失っていきます。
加えて、こうした背景からAI人材の採用・育成ニーズが急増しているという現実があります。特にAIを使いこなせる優秀なエンジニアの採用相談は、明確に増えています。
――鈴木:AI人材の定義は各社でまちまちだと思いますが、Offersの整理を共有します。
山根様がおっしゃっていたことと重なりますが、私たちの定義は「ドメイン知識×AIスキル×開発コミュニケーション」の掛け算です。最も重要なのはドメイン知識で、業務に何が必要かを定義できれば、あとの実装は現実的に容易な時代です。その定義を生み出すためには、その職域のスペシャリストであることが前提になります。
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スキルをさらに7つに分解すると、ハードスキルはAIスキル本体と実装経験、ソフトスキルは問題定義力・対話継続力・批判的評価力・学習力の4つです。
ソフトスキルの重要性は相対的に上がっています。AIは促し方によって出てくる答えが変わります。いい答えを引き出すための対話継続力と、AIが出した答えを批判的に評価する力は、AIが何でもできるようになるからこそ価値が上がる能力です。
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なお私自身、先月Claude Codeで50万円を超えるコストをかけて社内で指摘を受けるという経験をしました。ただ、一度使い込んでみることでAIの限界とコスト構造が分かります。こうした体験型の学習も、重要な学習力のひとつだと実感しています。
キャリアドリフトモデルとAIQテスト──採用から育成まで一気通貫する仕組み
――鈴木:スカウトを送っても返信がもらえないという悩みは多くの採用担当者が抱えています。
スカウトへの未返信には大きく5つの理由があり、1人の候補者の中でその重みが毎日変化しているというのが現状です。技術への焦りを感じる日もあれば、報酬条件に不安を感じる日もある。この流動的な状態を捉えるために開発したのが「キャリアドリフトモデル」です。
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8年間の運用で蓄積した行動データをもとに、例えば1ヶ月スカウトを開いていなかった方がスカウトを開いた動作を「転職意欲の上昇と同等のシグナル」として評価するなど、表面に出てこない行動スコアで心理状態を推測しています。12ヶ月の契約期間中、そのスコアの動きに合わせてスカウト内容を変え続けるという設計です。
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AIはデータが命ですが、重要なのはオープンデータだけではありません。企業固有の「クローズドデータ」が差別化の鍵です。私たちは契約開始時に社長と開発責任者それぞれと1時間ずつのディープインタビューを実施し、選考基準・ペルソナのニュアンス・組織の価値観を言語化しています。その情報をAIと組み合わせることで、他のプラットフォームでは出せないクオリティのスカウトを作ることができます。
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AIQテストと育成カリキュラム
採用だけでなく育成への相談も増えています。Offersでは「AIQテスト」をサービスとして展開しています。IQ・EQに次ぐAI時代の知能指数という位置づけで、Googleなどのアカデミックな知見と8年間のエンジニア選考データを組み合わせて指標化しています。
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テスト結果をもとに企業全体・事業部別・個人別のレポートを出し、それぞれの課題に応じたカリキュラムを提案します。カリキュラムはフェーズ1(AI基礎座学)からフェーズ4(MCPやCLIを使った自律駆動業務)まで段階化されており、必要なフェーズから入ることが可能です。
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採用・育成・場合によっては実装支援まで含めた「人事AIコンサルティング」として、Offersの3.5万人の専門家プールとのマッチングも組み合わせながら提供しています。
AI導入を阻む「適応課題」──技術よりも先に人の心理が変わる理由
――鈴木:トークセッションに移ります。AI組織変革の「第一歩」として、山根様から組織の実態に即したテーマをご準備いただいています。
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山根様:250社程度のAI導入コンサルティングを経験する中で、「なかなか進まない」という感覚が共通して出てきていました。社長はノリノリなのに事業部長が動かない、メンバーはやる気なのにマネージャーがボトルネックになっている、という構造です。
この背景を整理するうえで参考にしたのがAWSの研究です。AI導入が進まない根本要因として「技術的課題と適応課題の両方を解かなければ前に進まない」という結論が出ています。技術的課題とは専門知識で解ける問題で、答えは専門家が提供でき、当事者の価値観変容は不要なものです。一方で適応課題は価値観や行動様式の変容が求められ、当事者自身が認識を変えない限り解決しません。
IT革命で生まれた課題はIT革命で解決できない、というアナロジーがあります。ホットペッパービューティが出てきて美容院の集客が楽になった一方で、掲載費が利益を圧迫するという問題が新たに生まれた。その問題はIT技術では解けない。AI導入においても同じ構造が起きているということです。
具体的には、防衛的ルーティーン(変化に対する無意識の防衛反応)、変化への免疫(変化しようとすると阻止する力が働く状態)、そして過去の成功体験や専門性が固定観念になることの3つが壁として挙げられています。
山根様:ある企業の取締役クラスが私たちのAI研修プログラムにとても乗り気でしたが、現場のリーダークラスの方が強く拒否されたケースがありました。話を聞くと、自分のスキルがAIで代替されることへの心理的な折り合いがつかなかったようで、結果的にプロジェクト自体がなくなってしまいました。こうしたパターンはいくつか経験しています。
――鈴木:私も現場で同じことを感じています。外部として入ると、課題の指摘より先に「気に入られること」が必要で、全員がハッピーになるために来たという前提を共有しないと、防衛反応がより強く出てしまいます。
組織変革の第一歩──「課題から入らない」対話とClaude Code全面活用の投資論
――鈴木:実際にどこから手をつければよいか、山根様のアプローチを教えてください。
山根様:AI導入の前に、まず3〜4時間の対話セッションを組むべきだというアプローチに、非常に共感しています。
「AIで何ができるか」から始めるのではなく、「担当者や組織が最終的に実現したい理想の状態は何か」という問いから入る。このプロセスを経ることで防衛的なルーティーンが解除されて、「AIって自分の敵じゃなくて味方だよね」という言葉を当事者自身の口から引き出してからプロジェクトをスタートする。そうしないとなかなか前に進まないということです。
AI浸透は推進する側が疲弊しているケースも多いと感じています。方向性としてはトップダウンが有効だと思いつつも、全社員に浸透させる必要があるわけでもない。AI BPR(ビジネスプロセス再設計)なしには前に進まない、という感覚を最近強く持っています。
Claude Code活用と投資期間の考え方
――鈴木:Claude Codeの使い方と実務のバランスについてQ&Aをいただいています。私の経験からお伝えすると、「全ての業務をClaude Codeを通してしかやらない」と決めたことが一番大きな転機でした。
メール返信もわざわざClaude Codeで下書きを作らせます。最初は自分で打った方が明らかに早く、事業のスループットが下がる感覚があります。ただそれを続けると、スキルとして蓄積されていき、2回目以降は自動で下書きが作られる。3〜6ヶ月後には他の人の2〜3倍の速度で動ける状態になります。
この投資期間を意識的に設けることが重要です。経営者であれば自分の判断でできますが、組織の中では「今後3ヶ月間はここに投資する」という宣言と協力体制を作ることが、気持ちよく進める上で必要になってくると思います。
山根様:全国民が同じ粒度でAIをキャッチアップするのは無駄だと感じています。例えばHR業界であれば、幹部が代表して1ヶ月50時間分のAIキャッチアップをして、それを1.5時間でチームに伝えるという仕組みを業界横断で作れた方が有効ではないかと考えています。役割分担することで、組織全体の学習効率が上がります。
ディープインタビューで差別化できる情報
――鈴木:ディープインタビューでどんな情報をAIに入れると差別化につながるか、というQ&Aもいただきました。
スカウトの精度が最も上がったのは、社長が普段使っている「言葉」です。バリューの中でどの言葉を特に繰り返しているか、組織について話す時の独自の言い回しは何か、という情報です。
スカウトにはどうしても求人票の情報と「なぜあなたに送ったか」が中心になりがちで、求人を見ればわかる内容からあまり増えていない印象があります。そこに、「弊社代表はAIという文脈においてこのような言葉を使っています」という情報を加えることで、候補者の頭の中に映像が生まれる。
山根様:まさにその通りで、あるクライアントと初めて会ったのが恵比寿のカフェで、雨の中走ってきた社長が迎えてくれた、というようなエピソードを伝えるだけで、「時間に几帳面な方なんだな」という印象が伝わります。コンテキストの積み重ねが差別化につながるという話は、ディープインタビューで引き出すべき情報の本質だと思います。
おわりに
AIが業務の上流にまで到達した今、人材ポートフォリオの設計思想は根本から変わりつつあります。ドメイン知識・構造設計力・視座という3層の能力構造と、ドメイン知識×AIスキル×開発コミュニケーションというAI人材の定義は、採用と育成の指針として機能するものです。
一方でAI導入が進まない根本要因は技術ではなく「適応課題」にあるという視点は、多くの組織が見落としがちなポイントです。課題から入るのではなく対話から始めるというアプローチは、明日からでも試せる第一歩として持ち帰っていただければ幸いです。








