エンジニア採用が難化する中で、成長企業は新卒・中途・副業をどう組み合わせればよいのでしょうか。どのチャネルにも一長一短があり、自社にとっての最適解を見つけあぐねている採用担当の方は少なくないはずです。
採用の手法はダイレクトリクルーティング、リファラル、SNS、そしてAIへと増え続け、売り手市場でリソースは逼迫しています。問われているのは、新卒・中途・副業をどう配置し、現場とどう連携し、候補者とどう向き合うかという設計力です。
2025年5月27日、株式会社サポーターズの荒川貴史様、マルゴト株式会社の五反地悠様、株式会社overflow 代表取締役CEOの鈴木裕斗が登壇し、新卒・中途・副業の3視点で「エンジニア採用の最適解」を徹底討論する共催ウェビナーを開催しました。
本記事では、採用ポートフォリオの考え方、新卒か中途・副業かの判断軸、新卒が機能する組織の条件、現場連携と候補者視点のアプローチ設計、そしてAI時代の見極めと準備までをお届けします。
採用ポートフォリオにおける新卒・中途・副業の立ち位置
――五反地:ディスカッションテーマ1です。採用ポートフォリオの中で、新卒・副業の立ち位置を簡単にお願いします。まず荒川さん、新卒について。

荒川様:新卒採用の立ち位置は大きく2つあります。1つは優秀層の確保です。中途だと他社に年収で負けて採用できない優秀な方を、若手のうちから採用しておくことで、将来活躍してくれる優秀層を採用しやすくなります。
荒川様:もう1つは、若手のフレッシュな人材の大量採用です。中途で一気に100人単位は厳しいですが、新卒なら採用体制が整えばそれができる、という立ち位置です。
――五反地:続いて鈴木さん、副業・中途の立ち位置や課題をお願いします。
鈴木:背景からお話しします。コロナでリモートワークが広がった際、エンジニアは最も副業がしやすい職種と言われ、今副業している人の3割はエンジニアと言われます。
鈴木:コロナ中は多くの企業が業務委託採用に積極的でしたが、コロナ明けで出社が前提になると、業務委託より正社員にリソースを割いた方がいいということで、業務委託の求人が大きく減り、正社員が増えたのが直近のトレンドです。
鈴木:ただ、エンジニア側は今でも業務委託・副業をやりたい人が増え続けているので、ここに歪みができています。求人は減っているが、業務委託を希望する人は増えている、という構造です。
鈴木:採用ポートフォリオの観点では、副業はハイクラスの人を中長期でプールしていく役割です。めちゃくちゃハイレベルなエンジニアは転職サービスに登録しないんですよね。登録しなくても、SNSや紹介で常にアプローチされ続けています。
鈴木:他方で、業務委託・副業には興味を持つ方が多い。今の職場で使えない技術を使ってみたい、スタートアップで0→1の立ち上げをやってみたいというニーズがあります。なので、ハイクラスの人とのタッチポイントを作り、中長期の選考プロセスとして捉え、業務委託からの転職を構築する企業さんが多いです。
新卒で採るか、中途・副業で採るか──判断軸は「ペルソナ」と「時間軸」
――五反地:育成期間が長めに取れる状況のとき、新卒採用か、未経験値の中途のポテンシャル採用か。判断の軸はいかがでしょうか。荒川さんから。
荒川様:私個人としては新卒をぜひ推したいです。新卒の方も非常に優秀で、何かしら情報系の勉強を始めている、OB訪問などでエンジニアとして働くイメージが湧いている、という方が多い。
荒川様:完全な未経験の方と比べても働くイメージができているので、入社後のミスマッチが少ない。ただ、SIerやSESで客先常駐がある職種だと、中途でビジネスマナーがしっかりしている方の方が育成期間を短縮できたりもするので、企業の事業によっても違います。
――五反地:鈴木さん、自社の採用やクライアントの状況も含めて、いかがですか。
鈴木:荒川さんのおっしゃる通りで、自社のビジネスモデルや事業に合う必要な人はそれぞれ変わります。どういうペルソナが必要かに応じて、採用チャネルも雇用形態も変わる。まずは自社がどういう人物像を取りたいかが1点です。
鈴木:もう1点は時間軸です。SESだと来月からこの案件が始まるとなると、時間軸的に業務委託を取らざるを得ない。一方、事業会社だと2〜3年のプロダクトロードマップや事業戦略があるので、2年後・3年後の組織から逆算して、今このポジションにこういう人が必要だと見えてきます。
鈴木:長い時間軸で最速で必要な人という感覚なら、中途や正社員、業務委託からの転職も選択肢に入れながら作っていく形になります。足元の事業の進捗と、中長期の状況を両方睨みながら判断する、難しい部分です。
新卒採用が機能する組織の条件──育成へのコミットと技術スタック
――五反地:取った後に育てきれる体制があるか。新卒でこういう環境なら育成できる、というのはありますか。
荒川様:新卒で言うと、コミットする人がいるかどうかに尽きます。エンジニアの人数がある程度いるかも大事ですが、たくさんいても「新卒を育てるんだ」という着意のある方がいないと難しい。
荒川様:反対に人数が少なくても「絶対に新卒を取って育てたい」と思っている会社なら、比較的ワークしているケースが多いです。
あるスタートアップ企業さんは、自社のミッション・バリューとして「新卒をきちんと育てていく会社でありたい」と掲げ、CEO・CTOの方が中心におっしゃっていました。
それだけコミットがあると周りも巻き込まれ、うまくいくケースが多いです。
鈴木:荒川さんの話の通り、新卒を取るぞという着意・カルチャーがあるかが第一の前提です。スタートアップや立ち上げ期はどうしても経験値が必要で、新卒を育てる時間軸がないので、中途や業務委託の一択かなと思います。
鈴木:事業がスケールし始めると、受注は入る・売上は伸びるけれど、それをデリバリーして価値を届ける人が少ない。数年前から新卒を育てるカルチャーが作れていると、その辺のリスクはだいぶ抑えられます。バランスを取りながら判断する、難しい部分です。
マネジメントレイヤーが固まってからが新卒
荒川様:着意をもう少し定義すると、CTOやテックリード、エース級のマネジメントレイヤーが固まってからが新卒かなと思います。組織を作る方の方針で、若手に求めることが変わるからです。
荒川様:マネジメントレイヤーが流動的な段階で新卒を入れると、別の方に変わったら方針も変わり、結局「もっとこういう若手が欲しい」と変わってしまう。組織作りの形が見えてきた後なら新卒はあり。その前なら、中途・副業でまず事業を伸ばす方が大事です。
モダンな技術スタックは若手を採用しやすい
――五反地:技術やプログラミング言語で「この環境なら新卒が育てやすい」という軸はありますか。
荒川様:比較的モダンな技術スタックの方が、若手・新卒を採用しやすい傾向があります。モダンな技術を取り入れ、コードレビュー文化が備わっている会社さんは、優秀層の学生から見て魅力度が高く映るので、結果的にいい人を採用できます。
鈴木:中途やハイレイヤーなエンジニアになると、技術スタックというより、30代後半でビジネス経験もつき、エンジニアの領域を飛び越えた理解が深まっている方が多い。
鈴木:「この事業でどういう社会課題を解決するのか」という経営寄りのディスカッションが、二次面接や最終選考で多い印象です。技術選定や開発の進め方は2〜3番目で、事業の根幹への共感を作れるかの方が重要な気がします。
増え続ける採用リソースと、現場連携の工夫
――五反地:数年前と比較して、1人当たりの採用リソースは増えていますか。
荒川様:狙うターゲットによります。新卒で特にハイレイヤーな学生を採用したい場合は、必要なリソースが増えています。夏のインターンシップで早期に囲い込む流れが多く、人事だけでなくエンジニアのフォローも必要なので、リソースは増えています。
鈴木:1人採用するために必要なリソースは増えています。理由はシンプルで、まず採用の手法が増えている。媒体とエージェントに加え、ダイレクトリクルーティング、リファラル、SNS、次はAIのツールと、やることが増えています。
鈴木:2つ目は売り手市場です。採用活動は営業活動と一緒で、1人のリクルーターのキャパシティは限定的。採用したい企業は増え、候補者は減っているので、リソースを増やして候補者と会う機会を増やさないと採用に結びつきません。
「万能な人はいない」前提で得意を任せる
――五反地:マルゴトの支援でも、エンジニアが忙しく採用に協力してもらえない、という相談が多い。荒川さんから、新卒での現場連携の工夫を。
荒川様:うまくいっている企業は、「万能な人はいない」という前提で、それぞれの得意なポイントを任せています。学生とワイワイ物づくりするのが好きな方にはインターンシップを任せる。
荒川様:仕事の時間を長く取りたいけれど、面接で普段の業務の話を抜群に面白くして学生の意向を高める方には、1日1時間でいいので面接をお願いする。得意なことを得意な人に任せると、プロセスが長くやることが多い新卒でもうまくいきます。
現場と人事のギャップを言語化する
――五反地:マルゴトの事例では、CTO候補の採用で、スカウト返信はあって面談につながるが内定が出ないお客さんがいました。現場が「良かった・悪かった」くらいしか言語化してくれず、評価面談をまるごとで分析しました。
――五反地:現場と人事が気づいていなかった志向性・スキルのギャップを言語化した結果、スカウト対象のターゲットを変更し、CTO候補の内定承諾につながりました。誰が候補者と向き合うかも重要です。
――五反地:面白い事例として、1回目のカジュアル面談から代表取締役兼CTOが全部やる、10名ほどのスタートアップがあります。一度お見送りにしても、関係性を作る運用をしていました。
その結果、副業から入った方が半年後に、経営していた会社ごとジョインした、ということもありました。初回から社長が出てくるのが、一番インパクトがあります。
候補者視点のアプローチ設計──接触時間と「4象限」
――五反地:鈴木さんから、面談・面接での工夫を踏まえて、候補者との向き合い方をお願いします。
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鈴木:一番大きいポイントは、候補者と何回接触し、トータル何時間コミュニケーションを取るかです。中途だと面接3〜5回で1回1時間、会食も合わせて多くて7時間ほどで、見極めも魅力付けもしなければいけません。
鈴木:他方、副業転職と呼ばれる業務委託からの転職は、月20〜30時間の副業を3ヶ月ほどやってもらうので60時間ほど確保でき、大体10倍ほどの選考期間が取れる。魅力付けも見極めも物理的に間違いない。ただ、そこに時間をかけていられないので、転職で6〜7時間でしっかり見極める工夫を皆さんされています。
4象限でネクストステップを設計する
鈴木:候補者視点でストーリーを作るのが上手な企業さんはうまくいっています。ある企業さんは、最初のカジュアル面談で候補者の志向性を4象限に分けています。技術的思考が強いか、マネジメント・ヒューマン寄りが強いか、転職意欲が高そうか、業務委託からのアプローチが良さそうか、という軸です。
鈴木:面談後にプロットして、技術的思考が強い方ならテックリードと話してもらう、と次のステップを決めます。当ててみて満足度が低ければ、今度はEMクラスの方で「どんな開発組織・チームを作りたいか」というアプローチに変える。すると意欲が戻って選考を通過した、ということもあります。
荒川様:新卒でも同じように4象限に分けている企業様が多いです。弊社の場合は、アカデミック思考・ユーザー思考という志向性と、技術力の高い・低いで学生をプロットします。
荒川様:アカデミック思考で技術そのものが好きな方には、処理をどれだけ早くするか突き詰めている、という技術の話題で盛り上がると意向が高まる。ユーザー思考の方には、EMやプロダクトマネージャーが「こういうサービスで世の中の課題を解決したい」と話した方が刺さります。
エンジニア採用のこれから──フリーランスのゆり戻しとAIの影響
――五反地:注目しているトレンドをお伺いします。荒川さん、新卒で今こういう動きがある、というのは。
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荒川様:新卒では、学生のリテラシーが年々高まり、使うサービスが細分化されてきています。エンジニア職望の学生は、総合職と違ってやりたいことがエンジニアと決まっているので、あらゆる求人があるナビサイトより、情報系に特化したサービスで自分に合った求人を探す、というのが増えています。
――五反地:鈴木さん、中途・副業採用で特にこういう動きがある、というのは。
鈴木:1点目はフリーランスのゆり戻しです。コロナの時に独立したエンジニアが増えましたが、最近は案件を継続的に探すのが難しい。業務委託の求人や長期案件が減り、営業しながら案件を探し開発もする二足のわらじが大変で、2〜3年やるとしんどい、という人が増えています。
鈴木:そういう方が今一度正社員に戻って腕を研鑽し、次のキャリアを作る、という相談が増えています。インボイス制度で税制メリットも減っているのも背景です。
鈴木:もう1点はAIです。AIが入ってきたことで、企業が採用したいエンジニアに求める人物像が変わってきている印象があります。これまでこの会社は採用していた人がなかなか採用されなくなる、ということも起きています。
AI時代に難しくなる「見極め」
――五反地:AIが得意なエンジニアが欲しいという声をよくいただきますが、新卒・中途でも活発化していますか。
荒川様:新卒でもあります。ハッカソンでAIを使って開発するのは当たり前で、企業側もAIを使ってOK、むしろ歓迎するという企業が多い。一方で悩ましいのは、技術を測りにくくなったこと。
荒川様:AIで素晴らしいものができたのか、学生のリテラシーで作ったのかが分からない。見極め方として、1周回ってライブコーディングに戻る企業もあります。あるいはAIを使ってもいいが、どんなプロンプトを使ったかを見せてもらい、理解の奥深さを見る企業もあります。
「AI人材」の見極めと、今から準備すべきこと
――五反地:そもそも「AIが得意なエンジニア」とは何か、という言語化も難しいと思います。鈴木さん、いかがですか。
鈴木:企業側から「AI人材を採用したい」というオーダーを受けますが、「AI人材」という言葉は抽象度が高すぎます。噛み砕くと、新規事業立ち上げにAIを活用したPdMだったり、データ基盤を整理してデータアナリティクスをやりたいならデータアナリストだったりします。
鈴木:それは既存の職種で言うとどれに近しいのか、というマッチングが必要です。候補者が自己認識している職種と合わせないと、「AI人材だと思って面接していたけどPdMじゃないか」とちぐはぐになる。企業が本当に解決したい課題を噛み砕いて、解決できる候補者を見つけることが、採用サービスの付加価値になります。
短期で効果の出にくい施策に投資する
――五反地:これからの人材確保を見据えて、今から準備すべきことを。荒川さん、新卒で数年後に向けて。
荒川様:短期的に効果が出にくい施策にも投資していくのが大事です。これまで新卒は採用しやすいマーケットでしたが、今後はベンチャーでも大手グループ会社のIT部門と戦うことになり、強いライバルが入ってきます。
荒川様:短期で効果が出る施策はすぐ真似され、持続可能な競争優位につながりにくい。採用チームをしっかり作る、採用広報のような足の長い施策を、目の前の採用を成功させつつ中長期で投資していくのが大事です。
鈴木:AIの登場で、採用サービスも面接のあり方もガラッと変わると思います。新しいトレンドにはアーリーな人が入り、できたての領域に強い人が集まる。そのプールにアクセスするには自社がトライし、慣れていく必要があります。
鈴木:変化への適応能力を今から上げておき、変化にトライすることが社内で奨励される状況にしないと、保守的なポジションを取るとこの先の採用は苦しくなります。手法ではなく、マインドセットの準備が正しいかなと思います。
――五反地:マルゴトの支援で感じるのは、エンジニアは特に「知ってもらわないと候補に入らない」のが顕著だということです。技術ノートのブログ、テックイベントの登壇や勉強会で会社を知ってもらい、技術発信をスカウトにパーソナライズする。地道ですが、組織設計も含めてやっていくべきだと感じます。
おわりに
エンジニア採用に唯一の正解はありません。新卒・中途・副業それぞれの立ち位置を理解し、自社のペルソナと時間軸から逆算して組み合わせること。そして育成へのコミット、現場連携、候補者視点のアプローチ設計が、ポートフォリオを機能させる条件でした。
AIの登場は、求める人物像も見極めの手法も塗り替えつつあります。一方で3者が共通して語ったのは、採用チームづくりや採用広報といった「短期では効果が見えにくい投資」と、変化に飛び込む適応力の重要性でした。
まずは自社の採用ポートフォリオを、新卒・中途・副業のどの比重で描くか。その一歩を持ち帰っていただければ幸いです。









