スカウトを送り、面談につながり、選考も進んでいた。それなのに優秀なエンジニアほど、途中で静かに離れていく。そんな場面に心当たりのある採用担当の方は多いのではないでしょうか。

エンジニアの採用難易度は年々上がり続けています。とりわけ即戦力となるハイレイヤー層では、1人の候補者に対して多くの企業が殺到する状況が常態化しています。

2025年7月31日、株式会社overflow Offers事業部でカスタマーサクセスマネージャーを務める光山豪太が登壇し、「【元エージェントがこっそり教える】なぜ優秀なエンジニアは、あなたの会社の選考を辞退するのか? その"敗因"と対策」と題したセミナーを開催しました。

光山は約15年にわたり人材業界に身を置き、転職エージェントとして候補者と向き合ってきました。

本記事では、選考辞退を生む「5つの罠」と、選ばれる会社になるための「3つの打ち手」を解説した当日の内容を、まとめてお届けします。

採用難易度が上がる今、辞退を防ぐ鍵は「候補者体験」にある

求人倍率は13倍といった水準にあり、多くの企業様でエンジニアの採用計画を達成できていないのが現状です。人材不足を背景に、採用難易度は年々上がり続けています。

最近、候補者の方や人事の方とお話をしていると、この13倍がさらに上がる領域があると感じています。ジュニア層よりも、シニア層・ミドルシニア以上、いわゆるハイレイヤーの採用です。

1人のできる人に対して、桁違いの数の求人が出ています。どの企業も即戦力を求めている。だからこそ、幅広い母集団より「この人だ」という即戦力にどうアプローチするかが、今後の最大のポイントになると捉えています。

本日の内容は、私がキャリア支援の中で、EMやVPoEといったシニアな経験を持つエンジニアの方々から直接いただいたフィードバックをもとに構成しています。

そして全体を貫くテーマは「候補者体験」です。選考辞退を防ぐうえで最も重要なのはここだという認識で、お話を進めさせてください。

優秀なエンジニアが辞退する「5つの罠」

面接・面談を受けた方から「こういう理由で辞退したい」と実際に伺った中で、特に多かったものを5つに整理しました。順に解説します。

罠1:面談の温度感が違った

「基本的に全員にこの質問をしています」「まずはご経歴から深掘りさせてください」。カジュアル面談で多いNG例です。候補者は「寄り添ってもらえていない」と感じてしまいます。

話を聞きに来ただけなのに、いきなり面接のようにジャッジメントベースで進むと、安心感が生まれません。「この雰囲気だと入社後も同じなのでは」という不安にもつながります。

その場をどういう温度感で設けているのかが伝わらないまま進めると、最初の段階で印象が食い違ってしまうのです。

罠2:Willを分かってもらえない、聞かれない

一方的な会社説明や制度説明に終始してしまうケースです。カジュアル面談に限らず、二次・最終・オファー面談まで、Willを聞くことはどのフェーズでも重要だと考えています。

候補者は、自分の強みや将来像をどう評価・理解してもらえているかを知りたいものです。そこが伝わって初めて「この会社で活躍できる」「選ばれた」という感覚が芽生えます。

「フォーマット通りの説明が多かった」という声は、裏を返せば個人を見ていない印象につながります。とくにハイレイヤーは自ら面接する側でもあり、違和感に敏感です。

罠3:求人と面接中の質問が繋がっていない

経歴に合わせて別ポジションを提案すること自体は問題ありません。ただ、事前に渡した求人と面接での質問がずれていると、候補者は戸惑います。

「なぜ自分にこのポジションを紹介したのか」「なぜこの質問なのか」が見えないと、求人と現実のギャップを感じてしまいます。社内体制への不審感にもつながりかねません。

想定外のポジションを紹介するなら、「あなたの経歴のここが合うと思うので」と背景まで添えて広げる。それが不安を軽減するポイントになります。

罠4:判断できる材料が少ない

「詳細は次の面接で」「進めば分かります」と情報の開示を先送りすると、候補者は解像度が上がらないことにストレスを感じます。

とくにシニア・ハイクラス層は、開発のレベル感、プロダクトの成長性、エンジニア文化、スプリントの進め方まで、深い情報を求めています。そこをかわされると実態が見えません。

面接を重ねるほど解像度が上がらないと、辞退につながります。前の面接で話したこと・聞かれたことを引き継ぎ、材料は企業側から積極的に出していくべきだと考えています。

罠5:人事と現場で言っていることがずれている

情報の引き継ぎがされず、前回と同じ質問をしてしまう。これは非常によく聞きます。「これ前にも聞かれたな」「形式的に聞いているだけかな」と感じさせてしまいます。

すると「この上司や経営陣とはスタンスが合わないのでは」「内部連携は大丈夫だろうか」という不安が生まれます。連携不足への不安が辞退理由になるのは、私自身も意外な発見でした。

質問が重複するなら、その理由を伝える。「前回はこう伺いましたが、この点ではどうですか」と接続する。連携は非常に重要なポイントだと捉えています。

対策1|面談の目的と温度感を事前にすり合わせる

「当たり前」と思われるかもしれません。ですが、目的と期待値を事前に言語化できている企業様は、最初のカジュアル面談から選考まで、入り口の作り方が明らかに違います。

ダイレクトリクルーティングでもエージェント経由でも、外部・内部を問わず温度感のずれをなくしておく。誰がどの目的で会うのかを、候補者に明確に伝えておくことが起点になります。

とくに日程調整の前が効果的です。「相互理解のための情報交換です」「この課題について、こういう役割を期待しています」と伝える。細かいほど、当日の充実感が増します。

そこまで整っていると、「しっかりした組織だ」という印象にもつながります。事前の設計が、候補者の受け取り方を大きく左右するのです。

実際、これをやり切った企業様について、入社を決めたEMの方から声をいただきました。「他社では選考の役割分担が曖昧だったが、この会社は一貫性があり違和感がなかった」と。組織として強く見えたことが、決め手になったそうです。

対策2|Will(やりたいこと)を起点に会話を設計する

その人が何に向かいたいのか。事前にレジュメや経歴を読み込み、「こうではないか」という仮説を持って会話に臨みます。その仮説を、自社とどうフィットするかキャッチボール形式で共に探る姿勢が重要です。

これができると、やりたいことや方向性をヒアリングしながら、「うちならこういうことができます」と違和感なくつなげられます。「ここに共感したので、この部分で活躍できそうです」と強く打ち出せるのです。

「なぜあなたなのか」「なぜそう思ったのか」まで踏み込むのは簡単ではありません。それでも、Willを起点にすると候補者の納得感が生まれやすくなります。

候補者からは「直感的にフィットするかを重視している」という声をよく聞きます。Will起点で話すと、期待役割への理解が深まり、「なぜ自分に任せたいのか」が腹落ちします。

入社を決めた方からは、「心理的安全性があり、意見を言いやすい雰囲気だった」「面接官の人柄も含めて安心できた」という声もいただきました。会話設計が、それだけの効果を生むと実感しています。

対策3|社内連携と情報共有を強化する

ポイントは3つあります。人事・現場・役員間で前提情報をすり合わせること、過去の面談ログを次の担当に事前共有すること、想定QAシートなど一貫性のある面談体系を設計することです。

「前回こういう話が出たので、この点を深掘りしたい」と面接官が言える。すると候補者は「組織として情報が回っている」「採用に本気で向き合っている」と感じます。そこで働きたいという気持ちの醸成にもつながります。

連携が入社の決め手になった例もありました。業務内容に加えて「1年後の自分の姿や期待役割が明確で、入社後をイメージしやすかった」という声です。裁量や組織横断の幅まで具体的に描けたそうです。

最後に「人事と現場の認識にずれがなく、組織として一貫していた」と。これも明確に決め手として挙げられていました。

面接を重ねるほど一貫性が伝わると、「この組織なら働きやすそうだ」と安心してもらえます。すでに取り組んでいる企業様も、より徹底することで決め手に変えられるはずです。

体験のずれは「仕組み」で解決できる──まとめと実例

選考辞退は、体験のずれから始まります。事前にすり合わせ、Will起点で会話を設計して寄り添い、聞いた情報を社内連携で強化する。この3つに尽きます。

優秀なエンジニアは、選考過程の体験で会社を見極めています。「見極め」から「引きつけ」へ意識を転換することが、すべての始まりです。最高の候補者体験を、会社の仕組みとして作り上げることが重要だと考えています。

一度ずれると、候補者は自己開示をやめてしまいます。「何か違う」と感じた瞬間に言葉を閉ざす。だからこそ心理的安全性を構築できるかどうかが、引きつけの分かれ目になります。

実際に、丁寧な設計で採用に至った例もあります。人事とのカジュアル面談を3回設計し、CTOと執行役員5名との連続面接を組んだケースです。プロセスの設計と引き継ぎ、連携強化を徹底した結果でした。

事業部CTOやセキュリティエンジニアのシニアクラスに対し、社内連携の上で「ここまでやろう」と設計する。こうした積み重ねで、2〜4ヶ月で採用成功に至るケースも生まれています。

なおOffersは、ハイクラス人材の採用プラットフォームとして、エンジニア比率が約7割という母集団を運営しています。AIスカウト機能により、スカウト工数を約80%削減できたという声もいただいています。

Q&A|面接官差・カジュアル面談・複数社選考への向き合い方

ウェビナーの後半では、視聴者から寄せられた質問に光山が回答しました。面接官の足並みやカジュアル面談の進め方など、現場で実践しやすい問いが並びました。

質問: 面接官ごとのレベルや温度感の差を減らすには、どうすればいいでしょうか?

光山:面接官向けの事前ブリーフィングが効果的です。候補者の経歴・志向、前回面接の内容、この面接で伝えるべきことを共有します。最終面接に近づくほど質問の質が落ちないよう、注意が必要です。

質問: カジュアル面談では、何を聞くのが良いのか、いまいち分かっていません。質問のポイントはありますか?

光山:やはりWillの深掘りです。これまでで一番楽しかった仕事、今後挑戦したい技術領域、働く上で譲れない条件。過去の経験で納得できた点・できなかった点まで聞くことがポイントになります。

質問: 優秀な候補者ほど複数社の選考を受けています。辞退を防ぐために良い手はありますか?

光山:次の選考に進む動機付けを、毎回の選考の最後に伝えきることです。「あなたのこの点が現場に刺さっている」「次回はCTOと深い技術議論の場を設けたい」と。評価されている実感が、辞退率を下げます。

質問: 候補者体験の改善に取り組みたいのですが、何から着手すべきでしょうか?

光山:最優先は、面談の目的と温度感のすり合わせです。「今日は情報交換なのか、評価の場なのか」を曖昧にしない。簡単なアジェンダを共有するだけでも、心理的安全性は大きく上がります。

質問: 人事と現場の意見が噛み合わない場合は、どう調整すべきでしょうか?

光山:面接官全員が共通の目線を持てる状態を作ることです。ある企業様は、募集ポジションの役割・評価基準・期待値をNotionに集約し、面接官へ共有していました。可視化が一貫した選考を支えていたのが印象的でした。

おわりに

採用難易度が上がり続ける今、優秀なエンジニアは選考の体験を通して会社を見極めています。辞退の多くは「人がいない」のではなく、体験のずれによって「選ばれていない」ことから生まれます。

面談の目的と温度感のすり合わせ、Will起点の会話設計、社内連携の強化。この3つは、いずれも個人の頑張りではなく会社の仕組みで解決できる領域です。

「見極め」から「引きつけ」へ。明日からの一歩として、まずは面談の目的を候補者に伝えるところから始めていただければ幸いです。