採用で魅力を伝えているはずなのに候補者に刺さらない、採用したい人物像とずれた応募が多い、そもそも打ち出すべき魅力がどこにあるか分からない。そんな悩みを抱える採用担当の方は少なくないのではないでしょうか。

採用広報がうまくいかないとき、その原因は「企業が言いたいこと」を優先し、「候補者が知りたいこと」が抜け落ちていることにあります。伝える側の視点から、受け取る側の視点へ。この転換こそが「伝える」を「伝わる」に変える鍵になります。

2025年5月21日、ナイル株式会社 人事本部 カルチャーデザイン室で広報を担当する峰尾優里様をゲストに迎え、株式会社overflow Offers事業部 Sales EvangelistのRIKUがモデレーターを務め、「ナイルが語る『伝える』を『伝わる』に変える採用クリエイティブのつくり方と届け方」をテーマにウェビナーを開催しました。

本記事では、採用広報を「誰に・何を・どんな言葉で・どう届けるか」の4ステップに分解する考え方と、ナイルが実践するオウンドメディア・採用資料・オファー資料の具体例、そして効果測定や「採用広報は誰がやるべきか」までをお届けします。

伝えているのに「伝わらない」のはなぜか──採用広報の4つのエラー

――RIKU:本日は「伝えるを伝わるに変える採用クリエイティブ」がテーマです。まず峰尾様から、なぜ伝えているのに伝わらないのか、というところからお願いします。

峰尾様:採用でこういう壁にぶつかったことはありませんか。「魅力を伝えているのに候補者に刺さっていない」「採用像とずれた応募が多い」「そもそも打ち出すべき魅力はどこか」、そして「リソースがない」。採用担当の方の悩みは多いと思います。

採用広報のステップを4つに区切ると、いずれかでエラーが起きている可能性が高いです。「誰に・何を・どんな言葉で・どう届けるか」です。

「誰に」はターゲットの解像度が荒い、そもそもそのターゲットで合っているのか。「何を」は、誰にがぶれると何をもぶれがちで、企業として伝えたいことが優先され、候補者が知りたいことが抜け落ちます。

「どんな言葉で」は、企業が主語になっていて候補者が主語じゃない、「成長できる」「裁量がある」といったふわっとしたテンプレ言葉になりがち。「どう届けるか」は、媒体・順番・見せ方、そもそも用意がなくて伝え不足、ということが起きがちです。

根底となる考え方は、「企業の魅力を伝える」ではなく「候補者が得たいと思う未来を逆算して届ける」です。自分たちはこうですという訴求は一旦置いて、候補者は何を考えているかを常に頭に置いて考えるといいです。

誰に──ターゲットの解像度を上げる

――RIKU:では、ステップ1の「誰に」から伺います。

峰尾様:採用をスタートするにあたり、現場から「こういうポジション、こういう人を採用したい」と話が上がってきますが、現場も忙しいとかなりざっくりしたオーダーで上がってくることも多いです。

それをそのまま受け取ると、この後の「何を・どんな言葉で」も芋づる式にふわっとしていくので、採用要件や実際に活躍している方を考慮しつつ膨らませていくことが大事です。

今日共通して使う事例として、自動車産業DX事業の車のサブスク「カルモ(おトクにマイカー 定額カルモくん)」のインサイドセールスの募集を挙げます。Webでお客様がお申し込みし、インサイドセールスがお電話でどんな車を提供するか、お申し込みまで伴走するポジションで、業界未経験・車の知識がなくても大丈夫として募集しています。

要件は、対面の販売ポジションで活躍され、Web業界に憧れがあり、若いうちにキャリアチェンジ・スキルアップしたい意欲が高い方です。インサイドセールスでSaaS系の経験がある方は業界的に多くないので、オフライン対面での販売経験がある方までスコープを広げています。

ただ、対面が非対面になるだけで難易度やお客様への気遣いが変わるので、こうした要素がある方の方が活躍できそうだ、というところまですり合わせて言語化し、ターゲットの解像度を上げて求人票を作成しています。

何を──現場から魅力を抽出する(魅力は「作る」選択肢も)

――RIKU:ステップ2の「何を」、魅力の抽出についてはいかがでしょうか。

峰尾様:企業がスタートアップ・ベンチャーからスタートする時、最初に軸になるのは創業ストーリー・マーケットの優位性・事業展望・資金調達額の大きさです。ただ、成長フェーズを重ねるごとに魅力がそこじゃなくなったり、候補者のことを考えるとメインで伝えるところではなくなったりするので、改めて考えてみましょう。

魅力を考える時は、現場を観察して普段どんな業務で工夫しているか、どんな瞬間に生き生きしているかを観察し、インタビューもして、転職の時にどういうところが気になったかなどを30分〜1時間取って聞いてもいいです。

思考停止で「今まで打ち出してきたからこれで」ではなく、このポジション・この候補者は何が心を動かす材料になるかを考えた方がいいです。

――RIKU:そもそも打ち出す魅力が弱い、というケースもありそうです。

峰尾様:「魅力がない問題」「魅力が弱い問題」はよくあります。前職で中途採用支援をやっていた時も、他社の同じような職種の求人と比較するとどうかな、ということがありました。そういう時は、企業の課題感やフェーズにもよりますが「制度を作ってしまう」のも一つの提案です。

例えば、成長中のポジションだけどスキルを得たらさようならではなく長くコミットしてくれる、経営視点で物事を見てくれる人が欲しいという要望に対し、社内に実態としてはあったけど明文化した方がいい社内異動の制度を確立してプレスリリースを打つ、ナイルでの経験を経て起業したくなった時に出資する制度を作る、といったことをエビデンスとして出すと、魅力ができたり強化されたり説得力が増します。

「魅力これで合っているのか問題」もありますが、採用はスピード重視なので、まず出してみて、候補者・採用の現場・エージェントに聞きながら、響いているかを中長期的に検証していくといいです。

どんな言葉で──抽象から具体へ言語化する

――RIKU:ステップ3の「どんな言葉で」、言語化のポイントを教えてください。

峰尾様:魅力が出てきたら具体で言語化していきます。主語を候補者に、抽象じゃなく具体に。慣れていないと難しいかもしれませんが、ChatGPTもあるので「こういう方に向けてこういう要素が刺さると思うが、どんな感じで書けばいいか」を壁打ちしながらテキストにするといいです。

カルモのインサイドセールスの求人票の例では、「直接顔を合わせず非対面で完結するサービスです。お客様と直接会わせることはありません。顔が見えないからこそ、電話の向こうにいるお客様にどれだけ寄り添えるかが成約の鍵を握っています」と書きました。資格もそこまで高くなく、これまでの対面の接客経験が生きるとなんとなく分かってきます。

IT・Web業界だからと横文字を盛り盛りにすると「怖い、私は違うかも」と離脱されるので、ターゲットの候補者が安心できる書き方にします。「こんな方におすすめ」「セールスとして活躍して以降のキャリアパス」を示すと20代の方は安心しますし、チームの特徴(どういう組織に入るのか)も気になるところなので、成長中の組織だからこそチャンスがある、とエビデンスを踏まえつつ具体で書くといいです。

どう届けるか──オウンドメディア・採用資料・オファー資料

――RIKU:最後のステップ、どう届けるかについて、ナイルの具体事例を伺えますか。

峰尾様:候補者のフェーズ(検討初期・応募直前・内定後)によって知りたい情報が異なるので、各種資料を用意します。

オウンドメディア「Nyle Arrows」

1つ目はオウンドメディア「Nyle Arrows」です。2018年からスタートして運用8年目、100本以上、非公開を含めると200本以上の記事があるメディアです。

人・組織・事業・カルチャー・制度などのテーマに分け、個人インタビューや制度解説、給与と評価も画像・図表で解説します。求人票はスペースが限られるので、どんな人がどんな思いで活躍し、どんなキャリアを築きたいかを、リアルが伝わるように記載します。

職種別の採用資料

2つ目は採用資料です。主要職種ごとに個別化して作成し、Webコンサル・編集者・エンジニアという通年で採用ボリュームが多いところに用意しています。組織構成・業務フロー・成果事例・カルチャー、メンバーの個別プロフィールも掲載し、長いものだと最大70ページほどになります。

制作で注意したのは、当たり前と思っていることが魅力や納得感につながるので、可視化を頑張ったところです。例えば編集の募集では、採用ターゲットが出版・紙媒体で活躍された方でWebの知識を身につけたく入社するケースが多いので、ツールでこう可視化できる、だからこそユーザーニーズがあるコンテンツを合理的に作れる、とスライドで用意しました。

内定後のオファー資料

3つ目はオファー資料です。内定が決まったら採用通知書で詳細をすり合わせますが、ナイルではスライド資料で用意します。特徴的なのは、その方へのオファー理由をスライド1枚にびっしり書いて提示することと、3ヶ月後・6ヶ月後・1年後・2年後の期待されるキャリアパスを可視化してすり合わせることです。

私もナイルに入社する時に上長からこれをいただき、私の意向も踏まえたキャリア成長を一緒に考えてくれているのだと、安心感と熱意が伝わりました。1人1人書くのは大変ですが、内定後の承諾率に寄与し、オンボーディングもやりやすくなります。

未経験者に「伝わる」ための工夫

最後にカルモのインサイドセールスで、未経験者に伝わるために工夫したポイントです。求人票では「内勤営業」とWeb業界未経験の方でも働き方のイメージがつく言い方にする。「セールスの1日」を写真多めで画像化し、実際の仕事や人の雰囲気を見せて安心して応募してもらえるようにする。スキルアップしたら何ができるか、事業部内で異動したメンバーの事例や職種を超えて異動した事例など、いろんな角度から「不安に思うことはない」と提示しています。

まとめると、企業の魅力を伝えようとして候補者を無視したメッセージングになりがちなので、候補者が得たいと思う未来を起点にしましょう、ということです。

ディスカッション①──オウンドメディアの効果測定・立ち上げ方・AI活用

――RIKU:視聴者の方から「オウンドメディアの効果測定はどのようにしていますか。ちょうど5月から始めたばかりです」という質問です。

峰尾様:効果測定は、数値もGoogleアナリティクスでどのくらい見られているかは気にしますが、厳密にこの指標を追ってはいません。それより定性的なところで測っています。

応募時・入社時のアンケートで「ナイルが気になるきっかけになった」「入社を決めるきっかけになった」にオウンドメディアの選択肢を入れ、役に立ったと言う方がこのくらいいたらいいよね、と置いたり、面談・面接で「Nyle Arrowsのこの情報が参考になった」という事実があればよし、としています。

採用オウンドメディアは、候補者に「次に面接する人の記事を送る」とダイレクトに送る手法が多く、一般的なメディアと違って流入の母数がそこまで多くありません。数字を追いすぎると母数の少ない数字に振り回されて本質的な結果にならない、と8年運営して思いました。見はするけど追いすぎない、という感じです。

――RIKU:自社でオウンドメディアを立ち上げる場合、何がハードルになりますか。

峰尾様:スタートは外部のプラットフォーム(noteなど)を使うのも全然ありで、保守運用が楽です。現場の協力で大変なのは、記事コンテンツの企画をどうするか。ネタがどこにあるか分からない、出したくない、忙しい、と言われることもあります。

ナイルの場合は、実際に入社したメンバーがこれを見て入社を決めたところもあるから「協力して当たり前」という認識ができているのが大きいです。新しく始める方は、こういう情報が採用で必要になるし、その方のオンボーディングの角度も上がる、という形で協力を取り付けるといいです。

何より、自分がターゲットだったら何を知りたいかを考えながら、自分が楽しんでインタビューする。運営する側が楽しんでいる方が読み手にも伝わり、継続することが一番大事です。

――RIKU:マーケティングのノウハウがない業界の方は、まず何から始めればいいでしょうか。弊社のプロダクトでも、誰に・何を・何で訴求するかの言語化を、AIの力を使ってやっている会社さんがいます。GPTで同業他社の求人票と自社の求人票を貼り付けて、ターゲット層と差分を抽出すると、表現が見えてきたりします。

峰尾様:採用活動を俯瞰して、課題感が強いところから着手するといいですが、目安としては採用資料がなかったら採用資料を作るところから始めてもいいと思います。選考で何回も使うものなので、まず全社で1つ、企業概要・これまでの流れ・大事にしている思い(ミッション・ビジョン)が伝わるものを用意すると、面談・面接の生産性が上がり、説明の労力も省けます。

オウンドメディアは一番手間がかかり編集観点も難しいので、プロの手を借りるのもありです。ChatGPTも本当にすごく、インタビューの初稿のニュアンス調整や、採用資料の図の叩き台を出してもらうのに活用しています。知識がない場合は一旦AIに頼ってみるのも大事です。

ディスカッション②──オファーレターと差別化、採用広報は誰が旗を振るか

――RIKU:オファーレターについて質問です。「なぜあなたなのか」をどう伝えていきますか。

峰尾様:その方のオファー理由は、「今までこういうご経験をお持ちだと面接を通じて判断しました」「こういうスタンスや思考性は弊社でも活躍いただけると思いました」と、面接で得たその方のスキルやマインド面の良さを、ポジションとのマッチも踏まえてしっかり記載します。

300文字くらいの結構な文字数で書くことが多いです。面接で発言された内容を申し送り事項として残しつつ、肯定・許容する形でうまく表現します。

――RIKU:あるクライアントだと、巻物に「何をして、なぜそう思ったか、今後のキャリア・期待」を全部書いて渡すお客さんもいて、そこからもう演出が始まっています。もう少しジュニアな層だと、親御さん向けのメッセージを書くケースもあります。弊社の場合は500文字くらいで、スライド資料にまとめて印刷してお渡ししています。第二新卒くらいまでだと、家族で合意形成を取りつつ安心感を出す、本人の意向を取るという事例もありました。

峰尾様:候補者ターゲットによっては必要なので、そういう手を打つのは大事ですね。

――RIKU:逆に、うまくいっていない会社さんはどういうところでしょうか。

峰尾様:企業側が差別化を完全に諦めてしまっているのをたまに見受けます。会社としての差別化も、中途では基本は職種に基づいた方がいいです。中途で転職する時はどんなスキルアップができるか・年収が上がるかなど職種に紐づいた話が多くなるので、企業側が魅力付けを諦めてしまうと、うまくいくものもうまくいかなくなります。

餌も垂らしていないのに魚が寄ってこないな、そりゃそうだ、ということもあるので、垂らす餌がないならどう作るかを経営陣も巻き込んで話した方がいいです。

エンジニア職はより一層難しくなりますが、コンテンツの量が全てではなく、ドンピシャで刺さる魅力や、スカウトで自社にハマるターゲットに向けて送れているかも大事です。ただ、採用競合になる会社がこうしたツールを出しているなら、自社も頑張って作った方がいい。忙しいと自社の目の前のことだけになりがちですが、他社にも目を向けるベンチマーク視点は大事です。

――RIKU:最後に、採用広報は誰が旗を振るべきでしょうか。求められる資質も含めてお願いします。

峰尾様:人事が旗を振ろうね、はあると思います。ただ弊社では、採用人事・組織人事のメンバーと私のような広報のメンバーなど複数人が協力してやっています。私は採用側のKPIは追っておらず、広報のことを実施しています。中途採用のマネージャー曰く、採用担当が旗は振るべきだけど実行は別にした方が長期的には続くだろう、と。

オウンドメディアのような定量より定性でしか測りにくい施策は優先順位付けが難しいので、役割を分けられるなら分けて、広報メンバーが人事メンバーと密に共同するやり方がいいです。求められる資質は、自社を良くしたい・自社のメンバーが好きという方は深掘りも上手なので、その目線と、「ちゃんと伝えるには」という観点をリンクさせられるとなおいいです。

――RIKU:ロジカルな話と、愛情・感情的な話の両方がクロスオーバーするのが一番いい、ということですね。本日はありがとうございました。

おわりに

採用広報の起点は「企業が言いたいこと」ではなく「候補者が得たい未来」にあります。誰に・何を・どんな言葉で・どう届けるかを分解し、ターゲットの解像度を上げ、現場から魅力を拾い(時に制度として作り)、抽象を具体に言語化し、フェーズに合う資料で届ける。一つひとつは地道ですが、この積み重ねが「伝える」を「伝わる」に変えていきます。

効果測定は定量だけにとらわれず、面談で「あの記事が参考になった」と言われる定性の手応えを大切に。まずは自社の採用資料を1つ作るところから、その一歩を持ち帰っていただければ幸いです。