スカウトを大量に送っても返信が来ない。求人票を整えても応募につながらない。多くの開発組織が、かつての採用の「正解」が通用しなくなった現実に直面しています。
エンジニアバブルが終わり、採用は「人数を集める」時代から「一人を口説く」時代へと変わりました。AIネイティブな人材を求める声も高まる一方で、現実とのギャップは広がっています。
本記事は、2025年9月24日に開催したウェビナー「AI時代だからこそ重要な、エンジニアの心を動かす採用コミュニケーション」のレポートです。合同会社エンジニアリングマネージメント代表で、レンタルEMとして20社を支援する久松剛氏が登壇しました。
母集団の罠から、伝わるスカウト・求人票の作り方、候補者の感情設計、そしてAI活用の実態まで。明日から実践できる採用コミュニケーションの要点をお届けします。
「母集団の罠」から抜け出す──One to ManyからOne to Oneへ
採用のご相談をいただく時、多くの企業が取り憑かれている悪魔があります。私が「母集団の罠」と呼んでいるものです。
2015年から2022年のエンジニアバブルでは、正社員人数を確保することが各社の最優先でした。多少のミスマッチには目をつぶり、未経験採用も行っていた時期です。
この発想だと、マーケティング的な母集団形成が手法として流れます。100人に声をかけて1人が入社したなら、5人欲しいので500人に声をかけよう、という考え方ですね。

しかし今は、厳選採用の時代です。スキルマッチもカルチャーマッチも、コミュニケーションも厳しく見られ、事業への興味やドメイン知識まで求められます。
年収も現実的になりました。かつては転職で1.25倍、極端には2倍に上がることもありましたが、今は相場と自社の給与制度に沿った適正水準です。
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加えてこの1年は、Vibe Codingをやっているか、まで問われます。すべての条件を満たす人は、ほぼいないのです。
ではどうするか。「One to ManyからOne to Oneへ」です。例えばプロダクトマネージャーなら、成功させたいサービスを思い描き、その担当者を具体的にリストアップすると、対象は自然と絞られます。
数百名にスカウトを送るのではなく、絞り込んだ対象者をどう口説くか。これがワントゥワンの考え方です。
採用のあり方はどう変わったか──言語化と決め打ちのアプローチ
エンジニアバブルの間は、母集団形成とワントゥメニーが一般的でした。スカウトは自動送信で再送1回、人材紹介費を上げる手も見られました。
人材紹介費は今も安くありません。40%が下限で45%での交渉もある一方、余裕がありそうと見られると50〜60%、コンサルやPMでは100〜200%という水準も残っています。
今は、欲しい人を言語化し、決め打ちで会いに行きます。職種は欲しいが居場所が分からない時は、他社と組んで「プランナー集まれ」のようなキャリアイベントを開き、集まった人とネットワーキングする方法もあります。
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粘り強い接触も重要です。スカウトを15回送り、相手が折れて採用に至った会社さんもありました。豆に連絡し、接点を持ち続けるわけです。
最近のHRテックでは、対象者の在籍企業の状況悪化をニュースから拾って通知し、それを取っ掛かりに連絡する仕組みもあります。
財政に余裕のある会社ばかりではないため、給与以外で訴求する場面も増えています。給与を軸にする候補者への需要も、それを叶えられる会社も減っているのが実情です。
伝わらないスカウト・求人票──情報渋滞という落とし穴
スカウトも求人票も、情報が渋滞していて何も伝わらないケースが少なくありません。
例えば「フルリモート、フルフレックス、少数精鋭の技術組織、裁量大きく自由度の高い環境」とだけ書かれていても、何のプロダクトで何をするのかが一切伝わりません。
良さそうなキーワードを並べただけのスカウトは、耳触りだけ良く、かえって詐欺っぽく映ります。エンジニアの受信箱にはこの手の文面が溢れているので、避けるべきです。
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ポジション名も同じです。「開発効率最大化を担うFlutterエンジニアリーダー募集 兼 iOSテックリード歓迎」のように長いと、結局誰が欲しいのか分かりません。
この時は、実際に欲しいのがFlutterエンジニアだったため、それを前面に出し、「全面リプレイスをかける開発組織づくり」とタイトルにまとめて提案し、採用に至りました。
可読性を意識することが、伝わるスカウトの第一歩になります。
自社の魅力を言語化する──面接関係者を集めたワークショップ
整理の出発点は「そもそも自社の魅力は何か」を言語化することです。私が顧客向けに行うワークショップを紹介します。
CTO、VPoE、マネージャー、リーダー、人事など、面接に関わるメンバーを召集します。そして各自の入社理由や入社後の実感を振り返り、付箋に書いてディスカッションします。
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普段こうした話はしないので、大きな気づきになります。前職と比べてエンジニアの意見が通る、開発環境がモダン、開発生産性が高い、といった魅力が言葉になっていきます。
SESや受託開発の会社は、お客様先で働くため自社の魅力を見つけにくいものです。それでも議論すると、社長のキャラクターや帰社日の社員交流、評価制度の透明性といった前向きな材料が見つかります。
もう一つ、複数の事業を持つ会社では、担当者ごとに作った求人票を横並びで比較していないことがよくあります。読み合わせをすると、互いの良い書き方を共有できます。
逆質問対策も大切です。候補者から「あなたが入社した理由は何ですか」と聞かれて面接官が詰まると、志望度が下がり、訳ありの会社かと邪推されます。あらかじめ言語化して備えましょう。
スカウトの改善──「なぜあなたに」を伝え、URLで補う
読みにくいスカウトには共通点があります。対象者への訴求が埋もれていて、なぜその人に声をかけたのかが伝わらないこと。
自社の説明が長く、スクロールしてもサービス紹介が続くこと。継ぎ足しの運用で似た内容が複数箇所に並ぶこと。こうした文面はスルーされます。
改善の起点は、なぜ声をかけたかの理由を明記することです。この経験が良い、公開されているテックブログやスピーカーデックを拝見し、このレベル感で活躍されている方にぜひ、といった具体性が望ましいです。
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長さの目安は、スマホのファーストビューに全文が収まる程度。2画面、3画面と続く文面は、途中で読まれなくなります。
どうしても伝えたい自社語りは、URLで補います。採用サイト、似た境遇の人のインタビュー記事、テックブログ、IRニュース、マスメディア掲載などが有効です。
特におすすめは動画です。私のお客様の日経大手企業では、新卒・20代採用でYouTube動画が効果的でした。
最も視聴されたのは「配属された部署と合わなかったが、すぐ異動できて今は楽しい」という内容で、今の若手を象徴していると感じました。意味の取りにくいスカウトは、生成AIに構成を整えてもらうのも一案です。
「イケてる求人票」の条件──働くイメージが湧くか
従来の求人票は、就業条件と企業都合を並べた、ハローワークに持っていけるようなものでした。財政が厳しくなると、会社はこの従来型に戻りがちです。
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イケてる求人票の条件は、働くイメージが湧くことです。複数社が声をかける中で「なぜ今の会社より自社が良いのか」に答える必要があります。
会社の雰囲気も、若手の転職理由の上位に入ります。出社中心なら議論する写真を発信できますが、フルリモートだと雰囲気が伝わりにくいので工夫が要ります。
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成長を後押しする仕組みや入社後研修の有無も、優秀層から問われます。ポジション名は、定義からずれない範囲でトレンドを抑えてください。
要件は欲張らないことです。必須要件・歓迎要件はそれぞれ3つが目安。コミュニケーション力や元気といった抽象的・自己申告の項目は、必須から外して構いません。
「こんな人が活躍しています」は、応募していいのかという不安を払拭します。SI出身者が多いと分かれば、自分も応募していいと思えるわけです。
働き方、開発環境、選考日数、キャリアパス、具体的な数値も書きましょう。特に選考日数がないと、ワンデー選考を仕掛ける他社に取りこぼされます。
そして、2ヶ月以上更新していない求人票の内定承諾率は5%にとどまる、という大手人材紹介会社の社内調査もあります。改善し続ける姿勢が承諾率に表れるのです。ATSやnoteで更新ハードルを下げ、鮮度を保ちましょう。
候補者ジャーニーと感情設計──「感じのいい選考」をつくる
採用は、認知から関心、カジュアル面談、選考、内定、入社へと進みます。この流れを候補者ジャーニーマップとして捉えます。
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鍵になるのはカジュアル面談です。それまでの「知りたい」という段階から、「内容を理解した上で応募したい」へと気持ちを転換させる場だからです。
感情の動きを設計することが重要です。認知では無関心、関心で少し上がり、カジュアル面談でポジティブになります。
ところが本選考では、スキルアセスメントなどで「自分はやっていけるのか」と打ちひしがれがちです。ここでカジュアル面談がネガティブだと、厳しい選考に耐えられず辞退します。
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ポジティブが続けば、オファー面談で評価ポイントを伝え、課題も一緒に乗り越えようと話すことで志望度が上がり、内定承諾につながります。
油断は禁物です。新卒では内定承諾後の辞退が増え、2社以上に承諾している学生が34%という調査もあります。承諾されても辞退リスクは残るのです。
平たく言えば「感じのいい選考」ができているか。そして、自社のことを自分の口で語れること。人事に丸投げする面接官がいると、良くない会社だと邪推されてしまいます。
AIネイティブ幻想と現実──「使える人」は5%
「Vibe CodingをやっているAIネイティブなエンジニアが欲しい」という経営層が急増しています。ただ、ここには現実とのギャップがあります。
生成AIが広まったのは2023年ごろ、ChatGPTの公開以降です。それなのに「生成AIでのVibe Coding5年」といった求人もあり、これはさすがに無理があります。
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優秀なAIソリューションのライセンスを付与しても、特に働きかけなければ、利用率はイノベーター理論に近似して16%前後にとどまります。
使われない理由は明確です。ジュニア層はAIへの指示の出し方が分からず、シニア層は自分でやった方が早いと言い始めるからです。
うまく使えるのは、詳細設計まで担うプロジェクトマネージャーや、オフショアで意思疎通の苦労を経験し、丁寧な指示とフィードバックに慣れている人です。
私の見立てでは、AIを使った開発が本当にできる人は全体の5%ほど。そしてその層は現職で楽しく働いているため、転職市場にはしばらく出てきません。
採りに行くなら、リファラルやイベントでの接触を前提にした方が現実的です。
明日からできるアクションリスト&Q&A
最後に、明日から取り組めるアクションを整理します。まず自社の魅力を言語化して採用活動に活かすこと。次に候補者へ伝わるスカウト・求人票を作ること。
そして求人票を定期的に更新して鮮度を保つこと。さらに候補者ジャーニーマップを見直し、候補者体験を高めること。この4点です。
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ここからは、当日の視聴者Q&Aを抜粋してお届けします。
質問: 最近のエンジニアの悩みがあれば教えてください。
久松:2022年まで好景気でちやほやされていた層が、23年・24年で一転、5〜6社の応募で決まっていたのが20〜70社必要になり、氷河期のような状況に直面しています。
自分のスキルがAI時代に通用するか不安で、市場価値を確かめに動く方も増えました。選考では転職の温度感を各ステップで確認するよう気をつけています。
質問: 転職意欲が高くない候補者と、カジュアル面談でどう向き合えばよいですか。
久松:今の悩みをベースに話すのが有効です。元キャリアアドバイザーの担当者が「お悩みにも乗れます」という切り口でスカウトし、面談を悩みから始めて優しく受け止め、採用につなげていました。受容ですね。
質問: 内定後のフォローで大切なポイントはありますか。
久松:人事が豆に連絡すること、承諾段階でメンターをつけることが王道です。入社が先の転職者には、メンバーやリーダーと定期的に会う断続的な接点が効きます。
質問: 採用とハイヤリングマネージャーで役割分担する際のアンチパターンは。
久松:責任の範疇を切り分けないことです。ワンチームで入社まで伴走しないと、間に落ちる対応が生まれます。半日でも、自社の魅力を発見するワークショップから作戦会議を始めるのがおすすめです。
AIを活用した採用ソリューション(Offersより)
最後に、Offersのサービスをご紹介します。Offersは、採用担当者の工数をかけずに採用成功へつなげることに注力しています。
AIスカウト機能は、AIが候補者のプロフィールを読み込み、ワントゥワンのメッセージを自動でカスタマイズします。エンジニア目線で引きの強い文面を簡単に送れます。
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蓄積したナレッジをもとにAIの精度を高める取り組みも継続しており、返信率が向上した事例もあります。AIエンジニアの登録割合も増えています。
リリースした「即レポ面接」は、面接後の申し送りや議事録をAIが自動作成し、Slackに投稿する機能です。
合否判断の整理をAIに任せることで評価の一貫性を担保でき、面接官へのフィードバックも届くため、候補者体験の改善が見込めます。ご関心があればお問い合わせください。
おわりに
エンジニア採用は、母集団を集める時代から、一人を口説く時代へと移りました。スカウトも求人票も、自社の魅力を言語化し、働くイメージが湧くまで具体化できるかが分かれ目になります。
候補者ジャーニーを見直し、感じのいい選考を設計することが、辞退を防ぎ志望度を高めます。AIは作業を肩代わりしますが、最後に候補者の心を動かすのは人の言葉です。
明日からの一歩として、まずは自社の魅力を面接関係者と言語化し、ひとつの求人票を書き直すところから始めていただければ幸いです。







