スカウトを送っても響かない、カジュアル面談で自社をうまく語れない。その原因の多くは、自社の「魅力」が言語化・整理されていないことにあります。

魅力設計、いわゆる採用ブランディングには本来、数ヶ月単位の時間がかかります。しかし生成AIを使えば、その叩きを一気に作り、解像度を引き上げることができます。鍵になるのは、AIに渡す「材料」と、魅力の定義を理解した「対話」の設計です。

2025年7月30日、株式会社overflow 代表取締役CEOの鈴木裕斗と、株式会社ポテンシャライト HRパートナーの峯菜穂様が登壇し、「AIを活用した自社の魅力設計方法」をテーマにした共催ウェビナーを開催しました。

本記事では、事実を魅力に変える「IFA」という考え方、AIと魅力設計を進める4つのステップ、対話形式とプロンプトの使い分け、そしてアウトプットの活用とAIエージェント時代に人間が担うべきことまでをお届けします。

「魅力設計」とは何か──自社の魅力を知る

――鈴木:まず峯さんから、AIを活用した魅力設計で大事なことをお願いします。

峯様:採用領域には課題がたくさんありますが、今回は採用ブランディング、つまり自社の魅力設計をどうやるかにフォーカスします。大事なことは3つです。

峯様:1つ目は自社の魅力を知ること。2つ目は事実と魅力の違いを知ること。魅力とは、事実を相対比較して希少価値を高めた情報です。3つ目はなぜそれが重要なのかを知ることです。

峯様:自社の魅力を知ることは、採用ブランディングそのものです。弊社では魅力を発掘・言語化・整理する支援を行っていて、魅力をフレームワークに分けて整理することを強みとしています。

峯様:例えばプロダクトの魅力、ストラテジ(戦略)の魅力、マーケットの魅力、とそれぞれ整理しておく。すると、スカウト文面でどの魅力を打ち出すか、カジュアル面談で候補者のニーズに合わせてどの魅力を引き出すか、ができるようになります。

「事実」を「魅力」に変える──相対比較と希少価値

――鈴木:事実と魅力は、どう違うのでしょうか。

峯様:例えば「鈴木さんはサッカーが上手」が事実だとして、魅力に消化させるのは比較観点です。「鈴木さんは東京で1番サッカーが上手」と言われると「すごい」となりますよね。

峯様:採用活動に置き換えると、「今1番勢いのあるベンチャー企業です」はよく聞きますが、ただの事実です。そこに希少価値の観点を入れると、一気に魅力度が増します。

峯様:例えば「弊社は日本のIoT企業の中でもナンバーワンを誇る成長率です。通常のIoT企業の平均成長率が約110%のところ、弊社は業界ナンバーワンの成長率250%を実現しています」。ここで比較しているのは業界の平均成長率です。

峯様:さらに、IoT業界の企業が何社あるのか(3社中の1社か、100社中の1社か、1万社中の1社か)も含めると、印象がガラッと変わり、より説得力が増します。

峯様:「HR特化型企業です」という事実なら「ベンチャー×HR支援企業は日本で唯一なんです」、「製造業に特化したSaaSです」なら「日本で最も多い産業は製造業で、それに特化したSaaSなんです」。事実を相対比較したり装飾したりするイメージです。

なぜ重要なのか──IFA(Important・Fact・Attract)

――鈴木:3つ目の「なぜ重要なのか」は、どう設計するのでしょうか。

峯様:ポテンシャライトの事例でお話しします。「ベンチャー特化型HR企業です」は事実なだけ。そこに「なぜ重要なのか(Important)」を加えます。これがIFA、Important・Fact・Attractという概念です。

峯様:「なぜ重要なのか」は、日本のGDPを上げるためにはベンチャー企業を支援しないといけない、ということです。

峯様:弊社のメンバーが人材紹介会社にいた頃、ある企業様(当時はオフィスの一角で人数も少ないスタートアップ)を支援していました。今や日本を代表する企業です。

優秀な人材のご縁をつなぐとこんなにも成長するのか、まだスポットライトの当たっていない企業にフォーカスできれば日本のGDPを上げられるのではないか、と。

峯様:そう聞くと「確かに重要かも」となりますよね。そこに希少価値の観点を乗せて「ベンチャーに特化したHR企業は日本にほぼないんです」と言われると、めちゃくちゃ価値があると感じます。

「なぜ重要か」を語れると魅力が増す

峯様:採用・転職市場でよく聞く「顧客満足度が高い」「やりがいのある環境」も、そこに「なぜこれが重要なのか」を語れるとグッドです。基本的なノウハウですが、ここを掴んでおくことが大事です。

峯様:補足として、リクルートバリューポジションを見つけられるといいです。競合が打ち出しておらず、候補者が望んでいて、自社が打ち出している魅力。そこが見つかればグッドです。

AIと魅力設計を進める4つのステップ

――鈴木:ここからAIとの対話ですね。

峯様:AIと対話するステップを4つ用意しました。マテリアルインプット、ノウハウインプット、アウトプット、チューニングです。

①マテリアルインプット──音声認識が効く

峯様:最高の材料とは、自社の事業内容や企業説明です。「魅力が分からないから来ている」という方もご安心ください。対話式のAIができれば、事業内容という事実だけでも十分魅力に消化できます。

峯様:ここで音声認識が非常に有効です。テキストだと人間の感情が乗りづらいのですが、音声認識だとフィラーは入るものの、その場で発された生々しい情報をインプットできます。私はよく携帯のマイクに向かって話しながら街中を歩いています。

――鈴木:僕も全然やりますね。テキストより早いんですよね、音声認識の方が。

②ノウハウインプット──ノートをPDFで読み込ませる

峯様:次に、AIにノウハウを読み込ませます。弊社のIFAと採用ブランディングのノートを読み込ませ、「あなたは採用ブランディングのプロです。この手法を完全に理解して、先ほどの文字起こしを最高の魅力としてアウトプットしてください」と指示します。

峯様:資料を読み込ませる時は、URLよりPDFが有効です。URLだと違う内容を読み込むことがあります。

――鈴木:NotebookLMにスライドを投げ込んで、全部テキストに書き起こして貼り付けるのもいいかもしれないですね。

③アウトプット──フレームワークごとに整理する

峯様:先ほどのフレームワーク(プロダクト・ストラテジ・マーケットなど)ごとに整理してアウトプットしてください、と伝えます。すると魅力を羅列するのではなく、項目ごとに出してくれて、後々整理しやすくなります。

④チューニング──過去事例で「プロのニュアンス」に近づける

峯様:最後に、私たちが過去に支援した企業様のIFAのサンプル(お手本)をインプットし、「このトンマナ・量・詳細を完全に再現してほしい」と依頼します。これで本物のプロのニュアンスに近づきます。

峯様:実際にGeminiで実演すると、「日本の成長の鍵はベンチャーの飛躍にあり、その心臓部はHRである」という、解像度の高い採用ブランディング案が出力されました。

――鈴木:これを作るのはかなり時間がかかります。叩きを作り、ステークホルダーと確認を重ねて、数ヶ月かかってしまう。これだけ精度高く叩きを作ってくれれば、意思決定も早く進みますね。

対話形式とプロンプトの使い分け

――鈴木:指示文章を毎回考えるのは大変、という方もいそうですね。

峯様:そこでプロンプトが活きます。対話形式のメリットは、思いついた時にすぐ質問でき、手軽に自分好みのアウトプットに育てられること。デメリットは、対話する人によってクオリティが変わることです。

峯様:プロンプトは、設計の工数はかかりますが、一度登録すれば誰でもいつでもできます。GeminiのGemという機能で、前提条件・実行指示・アウトプットのルールという構造で指示文章を登録し、共有すれば誰でも使えます。

峯様:先ほどの長いテキストも、プロンプトなら1発で同じクオリティを出してくれます。国語が赤点だった私も書けるようになりました。書けるようになると、メンバー1人ひとりのレバレッジが5倍、10倍に変わります。

峯様:なぜ熱く語るかというと、AIの進化スピードがとてつもないからです。今は2025年、AIの戦国時代です。AIと対話して成果物を出すのは基本の「き」。これからはプロンプトを設計できることが重要になります。

AIを動かす「コンテキスト」の設計

――鈴木:プロンプトを設計する上で、大事なことはありますか。

峯様:「コンテキスト」です。コンテキストとは、言葉や行動が意味を持つための背景や状況のことです。

峯様:例えば「進捗どうなってる?」も、上司が新卒社員に朝10時に聞くと見守る意味合いに、夕方に聞くと納期を懸念するプレッシャーにも捉えられます。聞く人との文脈で意味が変わります。

峯様:AIも一緒で、言葉だけで指示するのではなく、どういう文脈で指示を出したのかを伝えないと、正しく出力できません。コンテキストは空気ではなく構造です。

峯様:今回の場合だと、誰が=採用担当者、目的=企業の魅力を言語化・設計したい、使用用途=第三者に伝えられるようになりたい、出力者=AI(HR業界に詳しいのか飲食業界に詳しいのかで脳が変わる)、期待値=文字数や文章の固さ。文脈ごとに設計する力が、成果を決める鍵です。

アウトプットの活用とAIエージェント時代に人間がやるべきこと

――鈴木:作ったアウトプットは、どう使っていくのがいいのでしょうか。

峯様:採用活動なら何でも使えるのが結論です。メインで使うのはAttract(魅力)で、スカウト文面、会社概要、求人票の募集背景、エージェントブック、採用ピッチ資料、採用キャッチコピーなど幅広く使えます。

峯様:Importantはカジュアル面談で使えます。候補者から「どういう事業ですか」と聞かれた時、Attractだけでも魅力的ですが、「なぜならば」を自分の口で伝えられると、納得が一層増します。

――鈴木:スカウトはAttractの比率が高く、面談・面接では候補者が真実を知りたいのでImportantを話す、という感じですね。候補者が一番魅力に感じるところをキャッチアップして当てるのは、AIだけでは解決できなそうで、見極めの力が重要になりそうです。

峯様:候補者それぞれ、カジュアル面談前・面談後・内定承諾前で気になるポイントが変わります。魅力項目ごとに整理・分解しておくほど、その時点に合わせて伝えられます。

一次情報を集めることが最重要

――鈴木:4ステップのうち、①のインプットがとにかく一番大事だと思っています。②③④はコモディティ化しながら進化していくものですが、①は変わらず本質的で、その会社が何を成し遂げたいのかが詰まっていないと、原液が薄くなってしまう。

――鈴木:一次情報さえあれば、加工はAIが得意なので、素材を集めることが重要です。創業の思いは時代が変わっても変わりませんが、今と照らすと伝え方が変わる。そこは創業者や社長が一番持っているので、引き出す能力が大事です。

――鈴木:「出してください」では出ないので、創業者を1〜2時間ブロックして録音し、なぜ起業したのかをひたすら聞くインタビューがいい。喋るうちに経営者のシナプスが繋がり、今の世界で言うならこう、といういいコンテンツになります。

AIエージェント時代も「意思決定と評価」は人が担う

峯様:AIエージェントとは、ユーザーの代わりに目標を追求しタスクを完了させるシステムです。HRではスカウトメールの自動生成、AI動画面接などが有名です。採用領域の課題は、ほぼAIが代替できてしまうかもしれません。

峯様:では私たちの仕事に何が残るのか。これは一生問い続ける問いです。AGI時代が来ても、AIを活用して自分が経験したことのないことができるようになるのは面白い。だからこそ学ぶ意味があると思いました。

――鈴木:私はAGI時代になっても、意思決定と評価は残ると思います。なぜAIがそのアウトプットを出したのかを理解して修正・指示しなければいけない。根本が分からないと、AIに言われたままになってしまうので、今学習しておくことが大事だと思っています。

おわりに

採用ブランディングは、本来は数ヶ月かかる重い仕事です。生成AIは、その叩きを一気に作り、事実を「相対比較」と「なぜ重要か」で魅力へと消化する強力な相棒になります。IFAというフレームと、4ステップの対話、そしてコンテキストの設計が、その精度を左右します。

一方で両者が口を揃えたのは、AIに渡す「一次情報」こそが本質だということ。創業の思いやユーザーへの提供価値という原液は、AIには生み出せません。そして最後の意思決定と評価は、人が担い続けます。

まずは自社の魅力を、音声入力でAIに語りかけるところから。その一歩を持ち帰っていただければ幸いです。