社員の紹介で選考を進めた候補者から、内定辞退の連絡が届く。紹介経由の採用では、ここで人事が向き合う相手が2人になります。辞退した候補者と、その人を紹介した社員です。
辞退そのものは止められません。止められるのは、辞退の後に紹介者との関係がこじれることです。こじれる原因はたいてい2つで、紹介者が辞退を人づてに知ることと、紹介報酬の扱いが決まっていないことです。どちらも、辞退が起きる前に手順と規程を決めておけば防げます。
辞退の連絡を受けたら当日中に人事から紹介者へ伝える
辞退の連絡は候補者から人事が直接受け、紹介者へはその日のうちに人事が伝えます。紹介者が候補者本人や社内の噂から先に知ると、「会社は自分に何も言わなかった」という不信が残るからです。
順番 | 誰が | 何をする |
|---|
1 | 候補者 | 採用担当へ辞退を伝える |
2 | 採用担当 | 辞退を受け、紹介者に伝えてよい範囲を候補者に確かめる |
3 | 採用担当 | 当日中に紹介者へ事実と感謝を伝える |
候補者が先に紹介者へ伝えている場合もあります。その場合も、会社としての連絡は人事から入れておいてください。紹介者にとって大事なのは情報の早さより、会社が自分を当事者として扱ったかどうかです。
紹介者への連絡は事実と感謝の2点に絞る
紹介者への連絡は、辞退の事実と、紹介してくれたことへの感謝の2点で足ります。辞退の理由は候補者の情報なので、本人が伝えてよいと言った範囲に限る。
``` 〇〇さん
ご紹介いただいた△△さんについて、先にお伝えしておきたいことがあります。 今日、ご本人から今回の内定を辞退するとのご連絡をいただきました。
面接では現場のメンバーとも深く話ができ、〇〇さんのご紹介がなければ出会えなかった方だと思っています。 結果は残念ですが、紹介してくださったことに心から感謝しています。 今回の件で〇〇さんが気にされることは何もありません。また良い方がいたら、ぜひ話を聞かせてください。 ```
最後の2文は省かないでください。紹介者は、辞退を自分の紹介の失敗と受け取りやすいものです。気にしなくてよいと言い切ることと、次の紹介を歓迎していると伝えることが、制度を次に回す一言です。紹介経由の採用で気まずさが生まれる構造は、リファラル採用の気まずさを減らす記事が詳しく扱っています。
紹介者に説得を頼まない
紹介者に「もう一度本人と話してもらえないか」と頼むのは避けます。頼んだ時点で、採用の問題が社員の友人関係の問題に変わってしまうからです。候補者と紹介者の関係は、会社の採用が終わった後も続きます。
紹介報酬は内定承諾ではなく入社日を支給条件にする
紹介報酬は、入社日か入社後の在籍期間を支給条件にします。内定承諾で報酬を払う規程は、承諾後に辞退されたとき、紹介してくれた社員に「報酬を返してほしい」と頼む規程でもあるからです。
社員に紹介の報酬を払うときは、賃金として払うのが原則です。職業安定法第40条は、募集に従事する社員へ報酬を与えることを、賃金や給料などとして支払う場合を除いて禁じています。
出所:e-Gov法令検索「職業安定法」第40条。
賃金として払った報酬は、辞退されたからといって給与から差し引くことも簡単ではありません。労働基準法第24条は賃金を全額で支払うことを原則とし、一部の控除は法令の定めか労使の書面協定がある場合に限っています。
出所:e-Gov法令検索「労働基準法」第24条第1項。
支給条件ごとに、承諾後の辞退で何が起きるかを比べると次のとおりです。
支給のきっかけ | 承諾後に辞退されたとき | 運用の負担 |
|---|
内定承諾 | 支給済みなら返還の相談になり、給与からの差し引きは全額払いの原則にかかる | 大きい |
入社日 | まだ支給していないので、何も起きない | 小さい |
入社後の在籍期間(例:3か月) | 入社日と同じ。入社後すぐの退職にも条件で対応できる | 在籍確認の手間だけ |
入社日か在籍期間を条件にしておけば、辞退が起きても報酬の話は発生しません。紹介者への説明も「今回は入社に至らなかった」の1点で済みます。
規程には辞退時の扱いを1行で書いておく
支給条件は、就業規則か賃金規程に書いておくのが基本です。常時10人以上を使用する事業場では、臨時の賃金等の定めをする場合、その事項を就業規則に記載する義務があります(労働基準法第89条第4号)。辞退時の扱いは、次のように1行足すだけで済む。
紹介報酬は、被紹介者が入社し、入社日から3か月在籍した月の給与とあわせて支給する。 被紹介者が内定を辞退した場合、または入社しなかった場合は支給しない。
在籍期間の長さは自社で決めてください。文言は、社内の労務担当か社会保険労務士に確認してから確定します。報酬額の決め方や制度全体の設計は、リファラル採用の仕組みと制度設計の記事にまとめました。
内定辞退は引き止められず、違約金も定められない
内定辞退は、紹介経由であっても候補者の自由です。内定で労働契約が成立していなければ、候補者に入社の義務はそもそもありません。成立していると扱われる場合でも、期間の定めのない雇用なら労働者はいつでも解約を申し入れられ、2週間で雇用は終わると民法第627条第1項が定めています。
「辞退したら違約金を払う」と内定時に取り決めることもできません。労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定したりする契約を禁じています。
出所:e-Gov法令検索「民法」第627条第1項、e-Gov法令検索「労働基準法」第16条。
人事にできるのは、辞退を引き止めることではありません。辞退を受け止めたうえで、紹介者との関係と社内の手続きを整えることです。
紹介経路の内定辞退率は全体と分けて数える
紹介経路の辞退は、他の経路と分けて数えます。紹介経由は辞退しにくいと考えられがちですが、それが自社に当てはまるかは、自社の数字で確かめるしかないからです。
厚生労働省の委託調査は、採用手段ごとに企業が利用する理由を尋ねています。「知り合い・社員等からの紹介(縁故)」を選んだ回答の内訳は次のとおりで、選択肢に内定辞退に関する項目はありません。
紹介(縁故)を利用する理由(主なもの3つまで) | 割合 |
|---|
採用に係るコストが安い | 60.8% |
就職後の離職率が低い | 44.8% |
希望する能力を持った求職者を採用できる | 35.2% |
出所:厚生労働省「令和3年度厚生労働省委託調査 採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査 報告書」(令和4年3月)図表IV-16・回答125件。
同じ調査では、1件あたりの平均採用コスト(正社員)が紹介(縁故)で4.4万円、民間職業紹介事業者で85.1万円でした。制度化したリファラル採用だけでなく知人の紹介全般を含む数字ですが、紹介経由が費用の小さい経路であることは読み取れます。
出所:厚生労働省「令和3年度厚生労働省委託調査 採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査 報告書」(令和4年3月)図表IV-14。
比べる軸として、中途採用全体の内定辞退率は2025年実績で15.0%です。2024年実績の9.3%から上がっています。
出所:株式会社マイナビ「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」(2026年3月公表・調査時期2025年12月)。
紹介経路の辞退が紹介に固有の問題なのか、採用全体の問題なのかは、他の工程とあわせて見ないと切り分けられません。自社の採用の進め方を項目ごとに採点するエンジニア採用力チェックは、その切り分けに使える道具のひとつです。
件数が少ないうちは率より理由を記録する
紹介経由の内定は、年に数件という企業も多いはずです。母数が小さいと、1件の辞退で率が大きく振れます。年間の内定が20件で、そのうち紹介経由が4件だった場合の例です。
経路(仮の数字) | 内定 | 辞退 | 内定辞退率 |
|---|
紹介経由 | 4件 | 1件 | 25.0% |
紹介以外 | 16件 | 2件 | 12.5% |
紹介経由の率は、辞退が1件増えるだけで25.0%から50.0%に跳ねます。件数が少ないうちは、率を追うより1件ずつ理由を残すほうが次の打ち手につながる。
記録する項目 | 読み取れること |
|---|
辞退の理由(条件・仕事内容・現職の引き止め・他社) | どの局面で志望度が下がったか |
紹介者の説明と面接の説明のずれ | 紹介時に渡す情報が足りているか |
辞退までの日数(内定から辞退の連絡まで) | 検討期間の置き方が合っているか |
紹介経路で目立ちやすいのは、2つめの「説明のずれ」です。紹介者は善意で自社の良い面を語ります。面接で聞く条件や仕事内容との差が大きいと、候補者は内定後に迷い始める。紹介時に求人票や仕事内容の資料を渡す運用にすると、このずれは小さくなります。
辞退の理由を減らす打ち手そのものは内定辞退防止の記事に、率の分母の置き方は承諾率の記事にまとめてあります。
辞退した候補者と紹介者との関係を次につなげる
辞退で関係を終わらせないことが、紹介経路の採用では特に大切です。候補者は紹介者の知人で、紹介者は社内に残ります。どちらとの関係も、次の採用の資産になる。
候補者への打診は、辞退の連絡を受けたその場では行いません。電話口で断ったばかりの人に次の話をすると、引き止めに聞こえるからです。辞退を受け取った旨を返すメールの末尾に「また機会があれば、こちらからご連絡してもよろしいでしょうか」と一言添え、返事は求めない形にしておきます。
了承の返事があれば、連絡先と選考の記録を残しておいてください。数年後に状況が変わり、再び話ができることもあります。
紹介者には、紹介という行動そのものへの感謝を伝え続けます。報酬は入社を条件にしていても、紹介してくれた事実は変わりません。辞退の後に人事がどう動いたかを、紹介者は周りの社員に話します。その話が、次の紹介を頼めるかどうかを左右するのです。
リファラル採用の内定辞退で人事が押さえる要点
リファラル採用で紹介経由の候補者が内定を辞退したとき、人事が押さえるのは、紹介者への伝え方・紹介報酬の支給条件・辞退率の数え方の3点です。候補者は民法627条により辞退でき、企業は労働基準法16条により違約金を定められないため、打ち手は引き止めではなく、紹介者との関係を保つ連絡と、報酬規程の書き方と、経路別の記録に置きます。
- 辞退の連絡は候補者から人事が受け、紹介者へは人事が事実と感謝を当日中に伝える。紹介者に説得は頼まない
- 紹介報酬は賃金として払い、支給条件は内定承諾ではなく入社日か在籍期間で規程に書く
- 辞退は引き止められず違約金も定められないので、紹介経路の辞退率は他の経路と分けて数え、1件ずつ理由を残す