情シス(情報システム部門)のDXは、社内のシステムを止めずに動かす仕事に加えて、事業や業務を変える取組みをIT部門が推進することを指します。
経営から情シスへの期待は変革の側へ広がっています。ところが予算の多くは、今あるシステムの維持に使われたままです。
足りない役割は担当業務によって性質が違い、社外から採用して埋めるもの、社内で育てるもの、外部に任せるものに分かれます。IT部門長への調査の数字で、その分かれ目を確かめていきます。
情シスのDXは、IT部門の役割を事業の変革まで広げる取組み
情シスのDXとは、IT部門が担ってきたシステムの安定稼働と業務の改善に、デジタル技術を使った事業の変革を推進する役割を加えることです。
JUAS(一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会)の企業IT動向調査報告書2026(2026年3月31日発行・2025年度調査)は、経営から見たIT組織の役割を3つの側面に分けて調べています。「事業創造やビジネス面の変革(DX等)」「業務やサービスの改善」「システムの安定稼働(基盤整備、セキュリティ対策含む)」の3つです。
IT組織の役割の側面 | 情シスにとっての位置づけ |
|---|
システムの安定稼働(基盤整備、セキュリティ対策含む) | 従来からの基本の役割 |
業務やサービスの改善 | ITを使った既存業務の効率化 |
事業創造やビジネス面の変革(DX等) | DXで新たに求められる役割 |
出所:JUAS「企業IT動向調査報告書2026」(2026年)をもとに編集部作成
同報告書の提言は、IT部門が引き続き、DX・生成AIによる企業変革の「推進リーダー」としての役割を担うことが求められるとしています。各部門の取組みが企業全体の方向性と整合するよう気を配りながら、企業活動全体の成果へ結び付ける役割です。
この調査の対象は東証上場企業とそれに準じる企業4,500社のIT部門長で、期間は2025年9月5日から10月24日、回答は957社です。報告書では、IT部門と情報子会社を合わせて「IT組織」と呼びます。以下の数字は、特に断りがない限りこの調査から引いています。
DXそのものの定義と、IT化・デジタル化との線引きは「DXとIT化・デジタル化の違い」が詳しい内容です。
経営の期待に応えられている割合は、安定稼働8割・DX4割弱
IT組織が経営の期待に「十分応えられている」「一部応えられている」と答えた企業は、2025年度にシステムの安定稼働で合わせて80.7%、業務やサービスの改善で67.6%でした。事業創造やビジネス面の変革(DX等)は「十分」が3.9%、「一部」が33.3%で、合わせて37.2%(編集部の計算)にとどまります。
役割の側面(2025年度・n=954) | 十分応えられている | 一部応えられている | どちらともいえない | 応えられていない | IT部門・情報子会社の役割ではない |
|---|
事業創造やビジネス面の変革(DX等) | 3.9% | 33.3% | 26.4% | 22.3% | 14.0% |
業務やサービスの改善 | 10.5% | 57.1% | 18.4% | 8.2% | 5.8% |
システムの安定稼働 | 37.0% | 43.7% | 12.6% | 4.3% | 2.4% |
出所:JUAS「企業IT動向調査報告書2026」図表6-1-1(2026年)
DXの側面は3年間で少しずつ上がっています。「十分」と「一部」は、2023年度が3.8%と28.8%、2024年度が3.8%と31.3%でした。
一方で安定稼働は高い水準にあるものの、やや低下傾向です。報告書は、IT人材不足に加えて情報システム運用の複雑化やサイバー攻撃の巧妙化などが複合的に関係していると見ています。
DXの側面では、14.0%の企業が「IT部門・情報子会社の役割ではない」と答えました。DXを情シスの仕事に含めるかどうかは、企業によって判断が分かれています。
売上高が大きい企業ほど、DXでの貢献が高い
DXの側面で「十分」「一部」応えられているとする企業の割合は、売上高が大きいほど高くなります。売上高1兆円以上の企業は「十分」12.8%・「一部」68.1%で、1兆円未満の企業と比べて突出した水準です。
売上高(2025年度) | 十分応えられている | 一部応えられている | どちらともいえない | 応えられていない | IT部門・情報子会社の役割ではない |
|---|
100億円未満(n=224) | 3.6% | 28.1% | 29.0% | 17.9% | 21.4% |
100億〜1,000億円未満(n=441) | 3.2% | 27.9% | 28.8% | 27.4% | 12.7% |
1,000億〜1兆円未満(n=185) | 4.9% | 42.7% | 23.2% | 19.5% | 9.7% |
1兆円以上(n=47) | 12.8% | 68.1% | 12.8% | 4.3% | 2.1% |
出所:JUAS「企業IT動向調査報告書2026」図表6-1-2 事業創造やビジネス面の変革(DX等)(2026年)
報告書は、資金力や人材力のある企業ほどIT組織の貢献が高いとしたうえで、売上高の小さい企業にもITを競争力につなげている企業が一定割合あり、二極化していると述べています。
売上高100億円未満の企業では、21.4%がDXを「IT部門・情報子会社の役割ではない」と答えています。少人数の情シスにDXを任せるかどうかは、規模の小さい企業ほど判断が割れる論点です。
IT予算の4分の3は、今の事業の維持に使われている
情シスがDXを担っても、IT予算の大半は今の事業を回すために使われています。JUASの同調査では、IT予算を「現行ビジネスの維持・運営」に使うランザビジネス予算と、「ビジネスの新しい施策展開」に使うバリューアップ予算に分けて、その配分を毎年たずねています。
2025年度の配分は、ランザビジネス75.9対バリューアップ24.1でした。バリューアップの比率は2021年度から24%前後で推移し、大きく動いていません。
年度 | ランザビジネス予算の割合 | バリューアップ予算の割合 |
|---|
2021年度(n=1,078) | 76.4% | 23.6% |
2022年度(n=993) | 76.1% | 23.9% |
2023年度(n=936) | 75.5% | 24.5% |
2024年度(n=941) | 76.2% | 23.8% |
2025年度(n=929) | 75.9% | 24.1% |
2022年度調査での3年後の目標(n=992) | 67.0% | 33.0% |
2025年度調査での3年後の目標(n=927) | 67.3% | 32.7% |
出所:JUAS「企業IT動向調査報告書2026」図表2-1-18(2026年)
2025年度調査での3年後の目標は、バリューアップ32.7%です。ただ、3年前の2022年度調査でも3年後の目標は33.0%で、実際の比率は上がっていません。
DX推進の課題のうち「予算の不足」への施策を答えた19社の回答には、経営層への投資対効果の説明、IT戦略と連動させた中長期の投資計画、DX投資とIT投資の別予算枠化、老朽化対策費用の一環としてDX費用を追加計上することが並びます(図表3-2-5)。
維持の予算と変革の予算を同じ枠で取り合う限り、障害対応や更新のような止められない支出が先に埋まります。情シスにDXを任せるなら、変革に使う枠を別に決めておくことが前提になります。
DX推進の機能をIT組織に置く企業は4割
DX推進の機能をどこに置くかについて、2025年度に最も多かったのは、ITの整備・管理機能とDX推進機能の両方をIT組織に置く形で、40.6%でした。IT組織は整備・管理を担い、別の組織にDX推進の機能を置く企業は20.4%です。残る39.0%は、整備・管理の機能だけで、DX推進の機能を明示的には置いていません。
DX推進の機能の置き場所(2025年度) | 別の組織にDX推進機能 | 両方をIT組織に | 整備・管理機能のみ(DX推進の機能は明示的にはない) |
|---|
全体(n=954) | 20.4% | 40.6% | 39.0% |
100億円未満(n=224) | 16.5% | 29.0% | 54.5% |
100億〜1,000億円未満(n=441) | 16.6% | 39.7% | 43.8% |
1,000億〜1兆円未満(n=185) | 32.4% | 49.7% | 17.8% |
1兆円以上(n=47) | 25.5% | 70.2% | 4.3% |
出所:JUAS「企業IT動向調査報告書2026」図表6-3-1・6-3-2(2026年)
売上高1兆円以上の企業で両方をIT組織に置く割合は、57.5%(2023年度)から68.4%(2024年度)、70.2%(2025年度)へと伸びました。報告書は、DXの効果を出すには基幹システム等との連携が必要になるため、IT部門内にDX推進機能を置く傾向があると推察しています。
反対に売上高100億円未満の企業では、DX推進の機能を明示的に置いていない割合が、半数を超える54.5%です。
推進体制が不明確なときは、責任の所在から決める
DXを推進するうえでの課題のうち「DX推進体制が不明確」への施策を答えた50社の回答には、DX専門部署の新設、DX予算の策定とDX人員の拡充、経営トップのプロジェクト参加が挙がっています(図表3-2-5)。
IT部門と事業部門の責任をはっきりさせるため、「事業がDX推進の主体であり、ITは支援」という役割分担を全社ルールにした企業もあったと報告書は紹介しています。
情シスの中にDX推進を置くか、事業側に置いて情シスが支えるかは、どちらにも実例があります。決めておくべきなのは形よりも、誰が成果に責任を持つかです。
情シスに足りない機能の1位は「IT人材の採用・育成」
IT組織の機能・能力17項目のうち、「不足している」と答えた企業が最も多かったのは「IT人材の採用・育成」で73.9%でした。続いて「データ活用・データマネジメント」71.9%、「新技術の探索・評価」69.5%です。
区分(2025年度・n=946〜948) | 1位 | 2位 | 3位 |
|---|
充足している機能・能力 | システム運用管理(安定化、運用状況管理)49.2% | ベンダーマネジメント・関係構築 42.0% | ITを用いた既存業務の改善 39.1% |
不足している機能・能力 | IT人材の採用・育成 73.9% | データ活用・データマネジメント 71.9% | 新技術の探索・評価 69.5% |
出所:JUAS「企業IT動向調査報告書2026」図表6-3-3(2026年)
充足しているのは運用や管理にかかわる機能で、不足しているのは人材・データ・新技術という、新しい活動に要る3つの要素です。報告書は、2024年度と比べて顕著な増減が無いことから、不足している機能・能力は短期的な改善が難しいとみています。
人を増やしたい意向は強く出ています。IT部門の人員数の増減の見通しを、「増加」の割合から「減少」の割合を引いたDI(ディフュージョン・インデックス)値で見ると、短期(1〜2年)が35.8ポイント(n=927)、中長期(3〜5年)が48.5ポイント(n=926)でした。
採用・育成が足りている企業は、DXでの貢献も高い
「IT人材の採用・育成」が充足している企業(n=153)では、DXの側面で「十分応えられている」が9.8%、「一部応えられている」が43.8%で、合わせて53.6%でした。不足している企業(n=700)は2.7%と33.3%で、合わせて36.0%です(合計は編集部の計算)。
報告書はこの差から、IT人材の採用・育成の能力が経営に対するIT部門の貢献に大きく影響していると確認しています(図表6-4-3)。情シスのDXが進むかどうかは、人をそろえる力に左右されているということです。
IT人材が足りなくなる背景は「IT人材不足はなぜ起きる?背景と企業がとれる対策」で扱っています。
担当業務ごとに、採用で埋めるか育成で埋めるかが分かれる
情シスに足りない人材は、担当業務ごとに「採用が難しい」「育成が難しい」「流出が心配」のどれが主な課題かが違います。JUASは12の担当業務について、主な課題を1つ選ぶ形でたずねました。
担当業務(2025年度・各 n=954) | 人員数・スキルともに概ね充足 | 主に採用面に課題 | 主に育成面に課題 | 主に流出(含む高齢化)に課題 | IT部門担当業務でない・アウトソース |
|---|
IT/DX戦略・企画担当 | 9.0% | 20.2% | 44.8% | 11.3% | 14.7% |
新技術調査・検証担当 | 10.5% | 20.3% | 45.4% | 9.0% | 14.8% |
顧客向けプロダクト(サービス)企画担当 | 5.6% | 11.6% | 28.2% | 6.5% | 48.1% |
プロジェクトマネジメント担当 | 11.7% | 14.2% | 49.9% | 10.6% | 13.6% |
上流工程担当(業務分析・システム要件定義等) | 11.5% | 15.0% | 46.6% | 11.6% | 15.2% |
データ分析担当(生成AI除くデータサイエンティスト等) | 6.3% | 21.3% | 42.5% | 6.9% | 23.1% |
生成AI担当 | 9.6% | 20.0% | 45.3% | 6.2% | 18.9% |
インフラ・ネットワーク担当 | 23.5% | 19.2% | 36.7% | 12.5% | 8.2% |
情報セキュリティ担当 | 18.1% | 23.9% | 41.0% | 11.4% | 5.6% |
アプリケーション設計・開発担当(ウォーターフォール型) | 16.5% | 12.8% | 28.6% | 10.6% | 31.6% |
アプリケーション設計・開発担当(アジャイル型) | 9.2% | 13.8% | 37.0% | 7.9% | 32.1% |
運用管理・運用担当 | 25.9% | 15.8% | 35.2% | 13.5% | 9.5% |
出所:JUAS「企業IT動向調査報告書2026」図表6-4-4(2026年)
12の担当業務のうち10で、最も多い回答は育成面の課題でした。残る顧客向けプロダクト企画とウォーターフォール型の開発は、「IT部門担当業務でない・アウトソース」が最多です。
育成が課題になりやすいのは、自社の業務を知る必要がある役割
育成面の課題が最も大きいのは、プロジェクトマネジメント担当(49.9%)と上流工程担当(46.6%)です。報告書は、どちらも自社員が主体となる業務であることが課題の理由だとしています。
プロジェクトマネジメントと上流工程は、自社の事業と業務の流れを知っていることが前提になる役割です。社外から経験者を迎えても、社内の業務を覚える期間は省けません。業務部門で業務を知る人をIT側へ移して育てる道も、並べて考える価値があります。
採用が課題になりやすいのは、専門技術の役割
採用面の課題が最も高いのは情報セキュリティ担当で23.9%、次いでデータ分析担当21.3%、新技術調査・検証担当20.3%でした。報告書によると、情報セキュリティ担当は他の担当業務より充足しているものの、技術が高度化して採用が難しい人材です。
情報セキュリティとインフラ・ネットワークは業種に依存しない仕事のため、人材の流出も起きやすいと報告書は指摘しています。採用で埋める役割は、入社後に他社へ移られないための処遇やキャリアの設計まで含めて考える必要があります。生成AI担当は流出面の課題が6.2%と低く、採用面が20.0%と高めでした。
情報セキュリティやデータ分析のように採用で埋める役割の求人を出す前に、自社の採用情報が候補者からどう見えているかを確かめるなら、エンジニア採用力チェック(無料)が使えます。企業URLを入力すると、公開情報を技術ブランド発信力・技術環境の透明性・採用情報の充実度・雇用条件の競争力・採用活動の積極性の5指標24項目で採点したレポートが、原則1営業日以内にメールで届く仕組みです。
開発は外部に任せる企業が3割
アプリケーション設計・開発担当は、アジャイル型の32.1%、ウォーターフォール型の31.6%が「IT部門担当業務でない・アウトソース」と答えています。開発を外部に任せる場合も、何を作るかを決めるのは上流工程とプロジェクトマネジメントの役割で、育成面の課題が大きいのはまさにこの2つです。
どの工程を社内に残すかは「内製化とは?完全内製4.5%と工程別の進め方」、DXを担う職種の分け方は「DX人材とは?6類型の職種・必要スキルと採用・育成の進め方」で扱っています。
生成AIでは、社内ルールの整備を情シスが主導している
生成AIの活用で、IT部門が主体的に取り組んでいる割合が最も高いのは社内ルールの整備です。「成果が出ている」16.1%と「成果は検証中」26.1%を合わせて42.2%でした。AI活用の企画・戦略の立案が36.1%、生成AI活用のための社内基盤の整備が34.9%で続きます。
生成AIに対するIT部門の役割(2025年度・各 n=954) | 主体的に取り組み成果が出ている | 主体的に取り組み成果は検証中 | 主体的に取り組みを検討中 | IT部門以外が対応 | 取り組んでいない・個人に任されている |
|---|
AI活用に対する企画・戦略の立案 | 8.6% | 27.5% | 22.5% | 15.5% | 25.9% |
社内に専用の生成AI活用のための基盤整備(AIエージェント等含む) | 9.6% | 25.3% | 25.2% | 10.1% | 29.9% |
有用な活用方法やプロンプトを調査し社内に発信 | 8.7% | 24.4% | 21.9% | 11.8% | 33.1% |
生成AI活用のための社内ルールを整備 | 16.1% | 26.1% | 22.2% | 11.4% | 24.1% |
生成AI活用の研修を準備し、社内で展開 | 11.7% | 20.0% | 22.9% | 12.4% | 33.0% |
生成AI活用拡大のための支援組織を設置 | 5.6% | 13.8% | 20.5% | 12.2% | 47.9% |
高度な生成AI活用のために専門組織を設置 | 3.1% | 8.1% | 19.2% | 11.7% | 57.9% |
出所:JUAS「企業IT動向調査報告書2026」図表6-5-1(2026年)
支援組織や専門組織の設置まで進んでいる企業は、まだ少数です。専門組織の設置は57.9%が「取り組んでいない、または個人に任されている」と答えました。
報告書は、すべての役割で売上高1兆円以上の企業の「成果が出ている」割合が高く、IT人材に余力のある企業が新しい技術の導入で先行しやすいと分析しています。生成AIの導入でも、前の節で見た人材の不足がそのまま差になって表れた形です。社内への定着の進め方は「AI導入の進め方|定着しない理由と担い手の決め方」で扱っています。
情シスにDXを任せる前に決めておく3点
情シスにDXを任せる前に、置き場所、予算の枠、人材の埋め方の3点を決めておくと、安定稼働の仕事を抱えたまま新しい役割だけが上乗せされる事態を避けられます。
- DX推進の機能をどこに置くか:IT組織の中に置くか、別の組織に置いて情シスが支えるか。どちらの形でも、成果に責任を持つ部署と、事業部門との役割分担を先に決めます
- 変革に使う予算の枠:IT予算の4分の3が維持に使われている前提で、バリューアップに回す比率の目標を置きます。DX投資をIT投資と別枠にするのも一つの方法です
- 担当業務ごとの埋め方:プロジェクトマネジメントや上流工程は社内で育て、情報セキュリティやデータ分析は採用で、開発の一部は外部に任せる、というように担当業務ごとに手段を分けます
JUASの調査でIT組織の機能・能力の不足の1位に挙がったのは、IT人材の採用・育成でした。3点のうち最も時間がかかるのは3つ目です。どの担当業務を誰で埋めるかを決めるところから、情シスのDXは始まります。