「人事DX」という言葉に、国が定めた定義はありません。だから「どこまでやれば人事DXなのか」を語の意味から決めることができず、システムを入れ終えても手応えが残らない状態が起きます。
一方で、範囲を外側から決めている公的な文書は存在します。経済産業省が定めたDXの定義と成熟度の段階、国の認定制度が求める公表事項、そして人事データの開示を義務づけた2つの制度です。
この記事では、その4つを一次資料から並べ、人事DXの線がどこに引かれているのかを確定させます。最後に置くのは、自社の現在地を確かめるための4つの問いです。
人事DXの定義と、この記事で扱う範囲
人事DXとは、人事領域の業務にデータとデジタル技術を持ち込み、業務そのものと組織・プロセス・企業文化まで変える取り組みを指します。給与計算や勤怠の電子化はその入口であって、全体ではありません。
ただし、この語そのものに公的な定義はありません。定義に当たるものは、DXの定義と、国の制度が求める公表事項から逆算して決まります。
この記事が扱うのは次の3つです。
扱うもの | 出所となる公的文書 |
|---|
DXの定義と、IT化との線引き | 経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」「DXレポート2」 |
国が認定基準として求める公表事項 | DX認定制度(認定基準は経済産業省令) |
人事データの情報公表を求める制度 | 企業内容等の開示に関する内閣府令/女性活躍推進法 |
言葉としてのDXの定義と、IT化との違いの全体像はDXとは?定義とIT化との違い、取組率75.7%の実態で整理しました。ここから先は、その定義を人事領域に当てたときに何が決まるかを追います。
「人事DX」という語に公的な定義はない
人事DXを定義した官公庁の文書は見当たりません。定義があるのは上位概念のDXのほうです。経済産業省の定義は、4つの要素に分けて読むと構造がつかめます。
定義の要素 | 原文(経済産業省によるDXの定義) |
|---|
前提 | 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して |
外向きの変革 | 顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに |
内向きの変革 | 業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し |
到達点 | 競争上の優位性を確立すること |
出所:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」(2024年9月19日改訂・2ページ脚注)。
人事DXが担うのは、このうち内向きの変革でした。業務そのもの、組織とプロセス、企業文化・風土の3つが対象に入ります。
定義が示す「人事DXの重さ」
この定義に照らすと、人事システムの入れ替えだけでは定義を満たしません。組織とプロセスが変わり、企業文化・風土まで届いて初めて条件がそろうからです。
言い換えると、人事DXは人事部門の業務改善の話ではなく、経営の話として書かれています。同コードが自らに与えている位置づけも、企業価値向上のために経営者が実践すべき事柄を取りまとめた文書です。
人事DXで何が変わるのかは、公的文書が4つ挙げている
人事DXの効果として語られるものは幅がありますが、デジタルガバナンス・コード3.0の序文は、DXの推進で得られるものを4つに整理しています。人事に直接かかわるのは2つ目です。
DXを推進していく中で、企業は、生産性や従業員エンゲージメントの向上、創造性人材の育成等の恩恵を享受し、結果的に優秀な人材を獲得でき、人的資本経営の実現にもつながる。
出所:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」(2024年9月19日改訂・序文)。
ここで並ぶ順番に意味があります。生産性と従業員エンゲージメントの向上が先に来て、その結果として優秀な人材の獲得がついてくる、という向きの記述でした。採用の成果は人事DXの出発点ではなく、社内の状態が変わったあとに現れるものとして位置づけられています。
残る3つと、人事との距離
残りの3つは、顧客提供価値や収益の向上、サイバーセキュリティ対策によるコストと損失の最小化、国境や産業をまたぐデータ連携による付加価値の向上です。
人事から遠いように見えますが、1つ目と3つ目は人材要件に跳ね返ります。既存ビジネスモデルの深化や新規ビジネスモデルの創出を担う人材と、データを扱える人材が要るからです。柱3-2が求める「必要な人材の明確化」は、この4つのどれを狙うのかが決まって初めて書けます。
序文はさらに、優れた成果を出しているデジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)選定企業の株価が日経平均株価よりも伸長しており、市場でも評価されているとも述べました。DX認定を受けると、上場企業はDX調査への回答時にDX銘柄の選定対象となり、中堅・中小企業等はDXセレクションへ自薦で応募できます。認定基準を満たす作業は、外部評価への入口です。
IT化との線引きは、経済産業省の3段階で決まる
「IT化と人事DXは違う」という説明はよく見かけますが、どこで線が引かれるのかは経済産業省の3段階モデルで確定できます。DXレポート2は、企業が成熟度ごとにアクションを設計できるようDXを3つの段階に分解しました。
デジタイゼーションは、アナログ・物理データの単純なデジタルデータ化のことであり、典型的には、紙文書の電子化である。デジタライゼーションは個別業務・プロセスのデジタル化であり、さらに、デジタルトランスフォーメーションは全社的な業務・プロセスのデジタル化、および顧客起点の価値創造のために事業やビジネスモデルを変革することである。
出所:経済産業省「DXレポート2 中間取りまとめ(本文)」(2020年12月28日・図5-8 の説明)。
この3段階を人事の実務に当てると、次のようになります。
段階 | 定義(DXレポート2) | 人事業務での例 |
|---|
デジタイゼーション | アナログ・物理データの単純なデジタルデータ化 | 紙の履歴書や申請書をPDFにする/台帳をExcelに移す |
デジタライゼーション | 個別業務・プロセスのデジタル化 | 勤怠をクラウドで締める/評価シートをシステム上で回す |
デジタルトランスフォーメーション | 全社的な業務・プロセスのデジタル化と、事業やビジネスモデルの変革 | 評価・配置・採用が同じ人材データの上で連動し、事業計画の前提が変わる |
「DXの定義はこの範囲」という注記
同じ図には、3段目にだけ「DX推進指標における“DXの定義”はこの範囲」という注記が付されています。つまり国の指標が言うDXは3段目だけを指し、1段目と2段目はそこへ向かう途中の状態にすぎません。
ここが実務で効果を持ちます。勤怠と給与をクラウドに移した状態は2段目であって、国の指標の上では「DXに到達した」とは数えられません。進捗が止まって見える原因の多くは、2段目の作業を3段目の目盛りで測っていることにあります。
段階を飛ばさないほうがよい理由
3段目から始めることはできません。全社的なプロセスのデジタル化は、データが個別業務の単位でそろっていることを前提にするからです。
一方で、1段目と2段目を積み上げれば自動的に3段目に届くわけでもありません。DXレポート2の図でも、各ステップは左から右へ進行するものとして描かれつつ、目指す段階を見据えて設計することが前提に置かれています。
国が認定基準で引いた線
人事DXの範囲を外形的に決めている制度が、DX認定制度です。デジタル技術による社会変革に対して経営者に求められる事項を取りまとめたデジタルガバナンス・コードに対応し、DX推進の準備が整っていると認められた企業を国が認定する仕組みです。
出所:独立行政法人情報処理推進機構「DX認定制度のご案内」(最終更新 2026年8月24日)。
制度の対象は全ての事業者で、法人と個人事業主を含み、法人は会社だけでなく公益法人等も含みます。認定基準は経済産業省令に定められ、これに適合するかが審査されます。申請は1年を通していつでも可能で、審査の標準処理期間は60営業日、認定の有効期間は2年です。
5つの柱のうち、人事が直接担う3つ
デジタルガバナンス・コード3.0は全体像を「DX経営に求められる3つの視点・5つの柱」として整理しています。5つの柱のうち、人事が直接担うのは3つです。
柱 | 人事との関係 |
|---|
3-1 組織づくり | DX戦略の推進に必要な体制と、外部組織との関係構築を含む組織設計 |
3-2 デジタル人材の育成・確保 | 育成・確保の方策を定める。人事が主担当になる柱 |
4 成果指標の設定・DX戦略の見直し | 達成度を測る指標を定め、成果を自己評価する |
残る柱は、経営ビジョン・ビジネスモデルの策定(柱1)、DX戦略の策定(柱2)、ITシステム・サイバーセキュリティ(柱3-3)、ステークホルダーとの対話(柱5)の4つになります。
認定基準は「示すこと」ではなく「公表すること」
柱3-2と柱4の認定基準は、次の2文です。
DX戦略において、DX戦略の推進に必要な人材の育成・確保に関する事項を示していること。
DX戦略の達成度を測る指標について公表していること。
出所:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」(2024年9月19日改訂・柱3-2および柱4の認定基準)。
前者の判断は、機関承認を得た公開文書に記載されている事項を基に行われます。後者は端的に「公表していること」と書かれています。どちらも、社内で決めただけでは基準を満たしません。
指標については、企業価値創造に係る指標、DX戦略実施により生じた効果を評価する指標、計画の進捗を評価する指標の3種が想定されています。認定に際して求められるのは、後ろ2つのいずれかの公表か、企業価値創造に係る指標の公表とDX戦略上の取組との紐づけの明確化です。定量指標だけでなく、達成したか否かが判断できる定性指標も含まれます。
望ましい方向性が求める人事の実装
柱3-2には認定基準とは別に「望ましい方向性」が置かれています。そこに並ぶのは、人事制度そのものへの具体的な要求です。要点は次の3つです。
- スキルを可視化する。デジタルスキル標準を参照して必要なスキルを明確化し、社員のスキルを見える状態にする
- 学ぶ仕組みを置く。リスキリングやリカレント教育の仕組みと、自律的なキャリア形成支援を用意する
- 処遇に接続する。スキル証明により適性評価・処遇される人事制度と、実践的なスキルが身につく人材配置の仕組みを持つ
確保の手段としては、計画的な育成、中途採用、外部アドバイザー・パートナーの活用、外部からの出向、事業部門とIT担当部門の間の人事異動が挙げられています。求める人材像の整理はDX人材とは?6類型の職種・必要スキルと採用・育成の進め方で詳しく扱いました。
開示制度が引いたもう1つの線
人事データを外に出すことを求めた制度が、2023年に始まりました。企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正が2023年1月31日に公布・施行され、有価証券報告書等の記載事項が変わっています。
出所:金融庁「サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ」(令和5年1月31日公布・施行)。
改正で入ったものは2つです。ひとつは「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄の新設、もうひとつは「従業員の状況」における多様性の指標の開示です。いずれも2023年3月期決算企業から適用されています。
何が必須で、何が重要性に応じてか
サステナビリティの記載欄は、4つの項目すべてが同じ扱いではありません。
項目 | 扱い |
|---|
ガバナンス | 必須記載事項 |
リスク管理 | 必須記載事項 |
戦略 | 重要性に応じて記載 |
指標及び目標 | 重要性に応じて記載 |
ただし人材の話は別枠でした。人材の多様性の確保を含む人材育成の方針、社内環境整備の方針、その方針に関する指標の内容等は、必須記載事項として「戦略」と「指標及び目標」に記載が求められます。人事にかかわる部分には、重要性の判断で省く余地がありません。
この改正は、令和4年6月13日に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告の提言を踏まえたものです。
数字で出すことが決まった3指標
提出会社やその連結子会社が女性活躍推進法等に基づいて公表している場合、その指標は有価証券報告書等にも記載が求められます。対象は女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差の3つです。
ここが人事DXの線引きに直結します。方針は文章で書けますが、この3つは数字でしか書けません。数字を毎年同じ定義で出すには、人事データが1か所に集まり、同じ基準で集計できる状態が要ります。
なお有価証券報告書の記載義務が及ぶのは、有価証券報告書を提出する企業に限られます。非上場の中堅・中小企業がこの改正の対象に入るわけではありません。
2026年4月、対象は101人以上の企業まで広がった
情報公表の線は、上場企業の外側へ動いています。令和8年(2026年)4月1日施行の改正女性活躍推進法により、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主についても、男女間賃金差異が情報公表の必須項目になりました。
出所:厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」(2026年9月13日閲覧)。
301人以上の事業主については、令和4年(2022年)7月8日から男女間賃金差異の情報公表がすでに義務づけられていました。今回の改正で、対象が101人以上まで下りたことになります。
常時雇用する労働者 | 男女間賃金差異の情報公表 |
|---|
301人以上 | 2022年7月8日から義務 |
101人以上300人以下 | 2026年4月1日から必須項目 |
100人以下 | 義務の対象外 |
有価証券報告書に書くだけでは義務を満たさない
厚生労働省は、有価証券報告書のみで公表しても女性活躍推進法の義務を果たしたことにはならない、と明記しています。一般の求職者等から見て、どこに掲載されているのかが分かるように公表する必要があるためです。
この一文が示す方向は明確です。人事データの公表先は、投資家向けの書類だけでなく求職者が見る場所でもある、ということになります。採用の現場から見れば、開示は広報の一部です。
外に出す数字は、いま何を映しているのか
公表が求められる指標の全国水準は、厚生労働省の調査で確認できます。数字を出す前に、自社の値がどのあたりに置かれるのかを知っておくと、説明の準備がしやすくなります。
指標 | 令和6年度 | 令和5年度 |
|---|
管理職等に占める女性の割合(部長相当職) | 8.7% | 7.9% |
管理職等に占める女性の割合(課長相当職) | 12.3% | 12.0% |
管理職等に占める女性の割合(係長相当職) | 21.1% | 19.5% |
育児休業取得者の割合(女性) | 86.6% | 84.1% |
育児休業取得者の割合(男性) | 40.5% | 30.1% |
出所:厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」(2025年7月30日公表・企業調査 n=3,231/事業所調査 n=3,383)。
男性の育児休業取得率は40.5%で、令和5年度の30.1%から1年で上がりました。女性の86.6%とは、なお差が残っています。
母数が違う2種類の「女性管理職」
同じ調査には、似て非なる数字がもう1組あります。管理職等に占める女性の割合ではなく、女性管理職等を有する企業の割合です。
役職 | 女性管理職等を有する企業の割合 |
|---|
部長相当職 | 14.6% |
課長相当職 | 22.5% |
係長相当職 | 24.8% |
前者は管理職の人数を分母にし、後者は企業数を分母にします。課長相当職の女性がいる企業は22.5%にとどまり、女性の課長が1人もいない企業のほうが多数派です。自社の比率を公表するときは、どちらの分母で語っているのかを最初に定めておくと説明がぶれません。
人事DXが扱う5つの領域と、止まりやすい段階
ここまでの線を重ねると、人事DXの範囲は5つの領域に整理できます。領域ごとに、3段階のどこで止まりやすいかが違います。
領域 | 止まりやすい段階 | 外に出る数字との関係 |
|---|
採用 | デジタライゼーション | 応募から入社までの歩留まりが部門横断で追えるか |
労務・勤怠 | デジタライゼーション | 男性の育児休業取得率の算定根拠になる |
評価・報酬 | デジタイゼーション | 男女間賃金差異の算定根拠になる |
育成・スキル | デジタイゼーション | デジタルスキル標準を参照した可視化の対象 |
配置・異動 | デジタライゼーション | 女性管理職比率の推移を説明する材料になる |
労務・勤怠と採用は、専用のシステムが早くから普及したため2段目まで進んでいる企業が多い領域です。一方で評価・報酬と育成・スキルは、紙とExcelのまま残りやすく、外に出す数字の算定でつまずく原因になります。
採用の領域が2段目まで来ているかどうかは、母集団の作り方と選考の記録の取り方に表れます。自社の位置を短時間で確かめる手段が、次の診断です。
自社の採用体制がどこまで整っているかを5分で確認する(Offers エンジニア採用力チェック)
評価・報酬と育成・スキルが遅れやすい理由
5領域のうち、評価・報酬と育成・スキルは1段目に残りやすい領域です。分かれ目は法令上の締切の有無にあります。
労務・勤怠は給与支払と社会保険の手続きに期限があり、採用は応募者を待たせられないため、どちらも仕組みを整える圧力が外から掛かります。一方で評価と育成の領域は、Excelと面談記録のままでも年次の運用が止まりません。
ところが情報公表で求められる男女間賃金差異は評価・報酬のデータから作り、デジタルスキル標準を参照した可視化は育成・スキルのデータから作ります。外に出す数字を用意する段になって、最も整っていない領域の整備が要るという順番になります。
領域をまたぐと3段目に近づく
3段目の条件は、全社的な業務・プロセスのデジタル化でした。人事に置き換えると、5つの領域が別々のシステムで完結している状態から、同じ人材データを共有する状態へ移ることです。
たとえば評価の結果が配置の判断材料になり、配置の結果が育成計画に戻り、そこから採用要件が決まる。この循環がデータの上で成立していれば、領域をまたいだ変革が起きています。AIを人事業務に組み込む際の前提も同じで、扱える範囲はAI人事とは?HR業務のAI活用率43%、5つの領域と導入企業の成果・リスクで整理しました。
現在地は4つの問いで置ける
人事DXの現在地は、制度が求める公表事項をそのまま問いに直すと確認できます。答えられない問いが、次に着手する場所になります。
問いは4つです。
- 人事データは1か所に集まり、同じ定義で集計できるか(3段階のどこにいるか)
- DX戦略に人材の育成・確保の方策が書かれ、公開文書として出ているか(柱3-2の認定基準)
- DX戦略の達成度を測る指標を公表しているか(柱4の認定基準)
- 女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金差異を、毎年同じ基準で出せるか(情報公表)
4つの問いを着手の順番に置き換える
問いに答えられなかった場所から、次の作業が決まります。手順にすると4段です。
順番 | やること | 終わったと言える状態 |
|---|
1 | 人事データの置き場と定義をそろえる | 5つの領域の主要項目が同じ社員IDで突き合わせられる |
2 | 人材の育成・確保の方策をDX戦略に書く | 機関承認を得た公開文書に記載されている |
3 | 達成度を測る指標を決めて公表する | 効果か進捗のいずれかの指標が外部から参照できる |
4 | 情報公表の3指標を年次で出す運用にする | 担当者が変わっても同じ定義で再計算できる |
2番目と3番目は公開文書が成果物になるため、広報や経営企画との作業になります。人事の中だけで完結するのは1番目と4番目です。ここを分けておくと、着手前に誰を巻き込むかが決まります。
問いの順番を入れ替えない
この4つは、上から順に前提の関係です。1に答えられない状態で4の数字を作ると、毎年の算定が手作業になり、担当者が変わった時点で継続しなくなります。
逆に、1と4だけを見て2と3を後回しにすると、データはそろっているのに何を目指しているのかを説明できない状態が残ります。柱4の認定基準が指標の公表を求めているのは、この状態を避けるためです。
停滞する3つの型
人事DXが途中で止まるとき、原因はおおむね3つの型に収まります。いずれも制度側の記述と照らすと、どこがずれているのかが分かります。
型1は、システムの導入が目的になる状態です。 勤怠と給与をクラウドに移した時点で完了とみなすと、2段目で止まります。3段目の条件は全社的なプロセスの変革なので、領域をまたぐ設計を先に置いておく必要があります。
型2は、指標を決めずに始める状態です。 デジタルガバナンス・コード3.0は、経営ビジョンの実現を妨げるデジタル面の課題ごとにKPIを用い、目指すべき姿と現在の姿のギャップを定量的に把握することを3つの視点の1つに挙げています。指標が無いと、進んだかどうかを判断する手がかりが残りません。
型3は、人事部門だけで進める状態です。 同コードは、DX推進はIT部門ではなく経営陣や取締役会の役割であると経営者が考えることを求めています。人事の権限だけで組織・プロセス・企業文化までは動かせません。
経営との接続をどう作るか
型3を避けるには、人事戦略そのものを経営計画の側に置く必要があります。デジタルガバナンス・コード3.0の3つの視点の1つが「企業文化への定着」で、企業文化はDX戦略の実行を通じて変革され醸成されるものだと位置づけられています。
人事戦略を経営と連動させる具体的な手順と、開示制度との関係は人事戦略とは?経営と連動させる立て方と開示制度にまとめました。
人事DXの範囲を決める4本の線
人事DXという語を定めた官公庁の文書はありませんが、範囲を決めている公的な線は4本あります。
1本目はDXの定義で、変革の対象に組織・プロセス・企業文化を含みます。2本目はDXレポート2の3段階です。システム導入は2段目、全社的な変革が3段目という目盛りでした。
3本目はDX認定制度の認定基準で、人材の育成・確保の方策と達成度を測る指標を公表することを求めます。4本目が情報公表で、有価証券報告書の3指標に加え、男女間賃金差異の公表対象が2026年4月から101人以上の企業に広がりました。
この4本を自社に当てると、次に着手すべき場所が決まります。手を付ける順番は、データを1か所に集めることから始めます。