生成AIで業務を効率化した事例は、いま探せばいくらでも出てきます。それでも自社へ持ち帰ろうとすると手が止まりがちです。どの工程のどの作業が置き換わったのかが分からないと、自社の工程に当てはめられません。
国の調査を読むと、生成AIがどの工程にも均等に入っているわけではないと分かります。深く入っている工程と、ほとんど入っていない工程に分かれていました。
この記事では13の工程それぞれの実測を先に置きます。そのうえで工程を入力と出力で割る見方を示し、当社自身が人事・採用の工程に何をどう入れたのかを書きました。
生成AIが入っている工程は議事録とメールに集中する
生成AIを活用していると回答した割合が最も高い工程は、議事録・メール作成補助の71.2%です。次が営業・販売の59.6%、社内ヘルプデスクの50.9%と続きます。総務省の白書も、この3つを高い順に並べて記述しました。出所:総務省「令和8年版 情報通信白書」図表Ⅰ-2-1-7(2026年7月24日公表・合計値はOffers算出)。
この「活用している」は3つの段階を足した値です。業務プロセスがAI中心に変更されている状態、部署内の特定業務で活用している状態、従業員が個人作業の効率化で活用している状態の3つを合計しました。段階まで分けて見ると、工程ごとの入り方の違いがはっきりします。
業務類型ごとの活用状況
次の表は、令和8年版 情報通信白書が示した13の業務類型の内訳です。単位はいずれも%で、右端の合計はOffers算出になります。原典にはこの13行のほかに「上記の業務に当てはまらない業務」の行がありますが、工程として特定できないため表から外しました。
業務類型 | 業務プロセスがAI中心 | 部署内の特定業務 | 個人作業の効率化 | 未導入 | 活用の合計 |
|---|
議事録・メール作成補助 | 11.3 | 24.7 | 35.2 | 17.5 | 71.2 |
営業・販売 | 9.5 | 22.9 | 27.2 | 20.5 | 59.6 |
社内ヘルプデスク | 11.9 | 20.7 | 18.3 | 28.8 | 50.9 |
社内システム開発・運用 | 8.0 | 24.5 | 17.9 | 26.6 | 50.4 |
研究・商品開発 | 7.6 | 22.9 | 19.3 | 27.4 | 49.8 |
マーケティング・広報 | 7.4 | 23.9 | 18.1 | 27.6 | 49.4 |
経営 | 8.0 | 21.3 | 16.7 | 28.2 | 46.0 |
カスタマーサポート | 9.9 | 22.1 | 12.7 | 29.4 | 44.7 |
経理・財務 | 9.3 | 19.5 | 15.9 | 30.8 | 44.7 |
法務 | 6.2 | 22.7 | 13.7 | 32.8 | 42.6 |
製造・生産 | 6.0 | 19.7 | 16.7 | 28.4 | 42.4 |
人事 | 5.6 | 20.3 | 15.1 | 35.4 | 41.0 |
調達 | 7.0 | 16.7 | 14.3 | 35.0 | 38.0 |
出所:総務省「令和8年版 情報通信白書」図表Ⅰ-2-1-7(2026年7月24日公表・日本の回答)。
表を左から右へ読むと、上位の工程ほど「業務プロセスがAI中心」の値が大きいわけではないと分かります。議事録・メール作成補助で突出しているのは、個人作業の効率化の列でした。一人ひとりが手元で使っている状態が、活用の中身のほぼ半分を占めています。
人事は活用の合計が41.0%で、13類型のなかでは下から2番目です。未導入の割合は35.4%で最も高くなります。人事がなぜ遅れているのかはAI導入とは?進め方と定着しない理由で扱っているので、本記事では工程の側を見ていきます。
効果を実感する工程には3倍以上の差がある
同じ図表の右側は、生成AIを活用している企業が効果を実感する業務として挙げた割合です。議事録・メール作成補助が72.3%で最も高く、13業務類型のなかでは経営の20.1%が最も低い値でした。出所:総務省「令和8年版 情報通信白書」図表Ⅰ-2-1-7(2026年7月24日公表・複数回答)。
左の表とは母数が違う点に注意が要ります。左は回答者全体に対する業務類型ごとの状況で、右は生成AIを活用している企業へ1問で尋ねた複数回答です。「その工程に入れた企業のうち何%が効果を得たか」を示す数字ではありません。
業務類型 | 効果を実感する割合 |
|---|
議事録・メール作成補助 | 72.3 |
社内ヘルプデスク | 42.7 |
製造・生産 | 39.8 |
研究・商品開発 | 39.1 |
営業・販売 | 37.5 |
マーケティング・広報 | 36.6 |
カスタマーサポート | 33.8 |
経理・財務 | 29.7 |
法務 | 28.8 |
社内システム開発・運用 | 26.3 |
調達 | 25.9 |
人事 | 23.5 |
経営 | 20.1 |
出所:総務省「令和8年版 情報通信白書」図表Ⅰ-2-1-7(2026年7月24日公表・単位は%)。
最上位と最下位の差は3.6倍です。活用の合計で見た差は最大でも1.9倍でしたから、効果の実感として名前が挙がる頻度のほうが、はるかに大きくひらいていました。
さらに、2つの表の順位は一致しません。製造・生産は活用の合計では下から3番目ですが、効果の実感では3番目に上がります。逆に社内システム開発・運用は活用の合計で4番目に高いのに、効果の実感では10番目でした。入っている量と手応えの大きさは別の話です。
入っている量と手応えの大きさは一致しない
2つの表を順位で並べ直すと、工程ごとのずれが見えます。次の表の順位はいずれもOffers算出で、右端は活用の順位から効果の順位を引いた値です。プラスは効果の側で順位が上がった工程を指します。
業務類型 | 活用の合計の順位 | 効果の実感の順位 | ずれ |
|---|
製造・生産 | 11 | 3 | +8 |
調達 | 13 | 11 | +2 |
社内ヘルプデスク | 3 | 2 | +1 |
研究・商品開発 | 5 | 4 | +1 |
カスタマーサポート | 8 | 7 | +1 |
法務 | 10 | 9 | +1 |
議事録・メール作成補助 | 1 | 1 | 0 |
マーケティング・広報 | 6 | 6 | 0 |
経理・財務 | 8 | 8 | 0 |
人事 | 12 | 12 | 0 |
営業・販売 | 2 | 5 | -3 |
社内システム開発・運用 | 4 | 10 | -6 |
経営 | 7 | 13 | -6 |
出所:総務省「令和8年版 情報通信白書」図表Ⅰ-2-1-7(2026年7月24日公表・順位はOffers算出)。
最も上がるのは製造・生産です。活用の広がりは下位でも、効果を実感する業務として名前が挙がる頻度は上位に来ます。逆に最も下がるのは社内システム開発・運用と経営で、どちらも入っている量のわりに効果として挙げられていません。
このずれは、事例を選ぶときの目安になります。ずれがプラスの工程は、広がりのわりに効果の話題として挙がりやすい領域です。マイナスの工程は逆で、事例が多く見つかっても自社で同じ手応えが出るとは限りません。人事はずれが0で、量と手応えが釣り合った位置にあります。
工程ごとの差は入力と出力の形で決まる
事例を自社へ写すとき、業種の一致はほとんど関係しません。要るのは工程の入力と出力の形が揃うかどうかです。入力も出力も文章で、間違いをその場で直せる工程なら、業種が違っても同じ入れ方が通ります。
採用と人事の工程を、この観点で割ると次のようになります。
工程 | 入力 | 出力 | 人が残す判断 |
|---|
求人票の下書き | 募集要件・既存の求人票 | 文章の初稿 | 事実の正誤・訴求の取捨 |
スカウト文面 | 候補者情報・文面の型 | 候補者ごとの文面 | 送る相手の選定 |
面接メモの整形 | 面接官の走り書き | 構造化されたレポート | 評価そのもの |
面接官の練習 | 過去の面談データ | 練習相手と振り返り | 面接官の登用 |
目標設定の添削 | 目標の下書き・等級要件 | 指摘と修正案 | 目標の確定 |
問い合わせ対応 | 社内規程・過去のQ&A | 一次回答 | 例外の裁定 |
表の右端が、生成AIに渡さない部分です。ここを渡してしまうと、確認の手間が生成の手間を上回ります。効果の実感が工程によって3倍以上ひらく理由も、この列の重さの違いから説明できました。
文章の作成補助が13業務類型で最も進んでいるのは、この列がほぼ空だからです。書き上がった文章が間違っていても、書いた本人がその場で直せて、直した結果が誰かの処遇を動かすわけでもありません。反対に経営の工程は、出力の一文が投資や人の配置を決めます。
したがって着手の順番は、業種でも部門でもなく右端の列の重さで決まります。右端が軽い工程から順に入れれば、どの会社でも同じ順路で進められるわけです。
狙った工程では掲げた目的どおりの効果が出ている
AIを導入した中小企業が導入目的に挙げた項目は、「業務効率化/作業時間の短縮」が87.0%で最も高くなりました。導入したあとに効果があったと答えた項目も、ほぼ同じ並びです。
項目 | 導入目的に挙げた割合 | 効果があったと答えた割合 |
|---|
業務効率化/作業時間の短縮 | 87.0 | 83.2 |
人手不足対応 | 31.7 | 33.9 |
品質向上 | 32.3 | 30.6 |
出所:中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(令和8年3月・複数回答・単位は%)。
目的と効果の差は数ポイントに収まりました。狙いを定めて入れた工程では、狙ったとおりの結果が出ているわけです。裏を返すと、成果が出ないときの原因はたいてい工程の選び方にあります。
もう一点、効果の大きさには相場があります。コスト削減を効果に挙げた企業へ実現できた削減の水準を尋ねると、「1〜3割」が64.1%で最も多く、「4〜6割」が25.6%、「7〜10割」が10.3%と続きました。出所:中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(令和8年3月・n=39)。事例集で目にする8割減は、分布の端にある数字です。
なお、この調査が言う「AI」は画像認識や需要予測を含めたAI技術の全般です。ただし導入済みのサービスを尋ねると生成AIが82.6%で最も高く、次点の音声認識・音声対話AIは29.8%にとどまります。出所:中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(令和8年3月・n=322・複数回答)。中小企業が「AIを導入した」と言うとき、その中身はほとんどが生成AIでした。
事例を読むときに確かめる3点
他社の事例を自社の判断材料にするなら、読む前に観点を決めておくと迷いません。
- 工程の粒度。どの作業の入力と出力が置き換わったのかが書かれているか。部署名だけの記述では足りない
- 効果の出どころ。実測値か、導入前の見積もりか。見積もりの値は自社では再現しない
- 前提条件。母数・時点・対象範囲が示されているか。示されていない数値は比較に使えない
3点のうち一つでも欠けていたら、その事例は「できることの例示」として読みます。投資判断の根拠には使いません。
当社が人事・採用の工程に入れたもの
ここからは株式会社overflowが自社の工程に入れた実装の記録です。社内の記録に残っているものだけを挙げます。個々の実装をいつまで動かしているかは時期によって変わるため、記録に書かれている範囲で書きます。効果の数値は社内で実測した記録が無いため書きません。
スカウト文面の生成
候補者情報をフォームから取り込み、候補者ごとにパーソナライズした文面を一括生成して格納・通知するまでを自動化しました。先に決めたのは文面の型でした。生成の精度はその後です。返信が来る書き手の書き方を言語化し、生成をその型の適用に限定しています。型を直せば、次に生成する分から全員に反映されました。
面接メモのレポート化
面談・面接のメモをシートに追加すると、整形されたレポートへ即時に変換して共有します。面接官が書くのはメモだけです。構造化と共有は機械が引き受けます。最初に決めたのは評価の観点でした。
面接官のロールプレイ
実際の一次面談データから候補者ペルソナを作り、面接官が練習相手として面談できるものを社内で運用しています。終了後に返るのは、評価予測・面接官の5軸スコア・情報の引き出しチェックリスト・申し送りのドラフトでした。面接官のスキルを上げるための仕組みで、社内限定の環境で動かしています。
社内の接点づくり
当日の予定から休憩や雑談の案内を自動で投稿する仕組みも、人事の領域に入れました。リモートと多拠点で偶発的な接点が減ることへの手当てです。
採用市場のウォッチ
人事の工程ではありませんが、経営企画とカスタマーサクセスの工程に入れた2つは採用へ転用できました。毎朝、業界のニュースを収集して選別・要約し、日次のまとめとして配信する仕組みが1つです。もう1つは、対象企業の動向を定期的に集めてレポートに起こす仕組みになります。どちらも人が毎日見に行くのをやめるための実装で、対象リストを採用の競合や候補者の所属企業へ替えれば、そのまま採用市場のウォッチに使えます。
5つに共通しているのは、AIに判断させていない点です。合否も処遇も、決めるのは人のままにしてあります。置き換えたのは判断そのものではなく、判断の前後にある記録・整形・共有・練習の工程でした。入力と出力で工程を割ったときの右端の列を、どれも渡していません。
自社の採用がいまどの工程で詰まっているかを先に把握すると、生成AIを入れる順番を決めやすくなります。エンジニア採用力チェックでは、採用活動を5つの指標に分けて現在地を確認できます。
人事領域でよく入る型
支援の現場で繰り返し現れる入れ方も、工程の単位で整理できるものです。以下は特定の企業の実績ではなく、よく見る型になります。効果は定性で書き、数値は置きません。
- 目標設定の一次添削。目標案に対して、具体性・測定可能性・等級要件との整合をその場で返す。一次添削を機械が引き受け、面談は磨かれた目標から始まる。最終確定は面談で人が行う
- 支給前の異常検知。給与改定や手当変更のたびに発生する検算を、支給前のチェックとして自動化する
- 評価データの形式チェック。集約後の評価データの形式不備を機械で洗い、分布と傾向を可視化する
3つとも、人が決める直前までを機械が整える形です。判断を渡していないので、間違いが処遇に直結しません。人事領域のAI活用の全体像はAI人事とは?HR業務のAI活用率43%、5つの領域と導入企業の成果・リスクで、面接への適用はAI面接とは?導入企業の工数75%削減、主要5サービスの比較とリスクで整理しました。
他部門の事例から人事が借りられるもの
工程の入力と出力で見ると、部門をまたいで同じ形の作業が見つかります。人事より先に進んでいる工程の事例は、そのまま人事へ移せることがあるわけです。
営業・販売は活用の合計が59.6%で、議事録・メール作成補助に次ぐ位置にあります。社内ヘルプデスクは50.9%でその次です。この2つで起きていることは、人事の工程と形がよく似ていました。
先に進んでいる工程 | そこで起きていること | 人事での対応物 |
|---|
営業・販売 | 相手ごとに文面を作り分ける | 候補者ごとのスカウト文面 |
営業・販売 | 商談前に相手を調べてまとめる | 面接前の候補者情報の整理 |
社内ヘルプデスク | 規程を根拠に一次回答を返す | 労務・制度の問い合わせ対応 |
議事録・メール作成補助 | 話した内容を構造化して共有する | 面接メモのレポート化 |
当社が営業の工程に入れた商談前のリサーチも、採用へそのまま移せる形でした。対象を企業名から候補者の公開情報へ替えれば、面接前の下調べになります。工程の形が同じなら、業種も部門も関係ありません。
事例を探すときも、「人事の事例」で絞らないほうが見つかります。入力と出力の形で探せば候補が一気に増えるからです。人事の活用が13業務類型で下位にとどまっている以上、人事の事例だけを待っていても数は揃いません。
事例を自社の工程に置き換える手順
工程別の分布を踏まえると、着手の順番は決めやすくなります。
- 自部門の工程を作業の単位まで割る。「採用」ではなく「スカウト文面を書く」「面接メモを整える」まで割る
- 入力と出力を書き出し、人が残す判断を決める。ここが重い工程は後回しにする
- 右端の列が軽い工程を1つだけ選び、型を先に決める。生成の精度より、何を出したいかの型が先に来る
- 運用の担当と費用を先に決める。狙いを定めた工程では目的どおりの効果が出ているので、狙いを曖昧にしたまま始めない
この順番で進めると、事例集を眺めているだけでは決まらない着手点が決まります。1工程で型ができてから、隣の工程へ広げれば十分です。
生成AIの業務効率化事例から持ち帰るもの
生成AIは、どの工程にも同じように入るわけではありません。議事録とメールには71.2%が入り、人事には41.0%しか入っていません。効果を実感する業務として挙げられた割合も、最上位の議事録・メール作成補助72.3%と最下位の経営20.1%で3.6倍ひらきました。出所:総務省「令和8年版 情報通信白書」図表Ⅰ-2-1-7(2026年7月24日公表・活用状況の合計値はOffers算出)。
この差は工程の性質から来ています。入力と出力がどちらも文章で、間違いをその場で直せる工程から入りました。判断が結果に直結する工程は後回しです。
したがって事例から持ち帰るべきものは、他社の成果ではなく工程の切り分け方になります。自社の仕事を作業の単位まで割り、人が残す判断を先に決める。そのうえで判断の手前にある記録・整形・共有から置き換えれば、人事のように未導入が最も多い領域でも着手できます。AI活用の全体像と労働市場側の変化はAI活用事例の現在地は?導入58.0%と求人の変化で扱いました。