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AI活用事例の現在地は?導入58.0%と求人の変化

AI活用事例の現在地は?導入58.0%と求人の変化
鈴木 裕斗監修者

株式会社overflow / 代表取締役 CEO

鈴木 裕斗

株式会社サイバーエージェントに新卒入社。広告営業を経て、Amebaプラットフォームの管轄責任者に就任。その後、スタートアップ企業に入社、代表取締役就任を経て2ヶ月後に株式会社ディー・エヌ・エーにM&A、子会社化。子会社代表取締役とDeNA広告部長を兼任。2017年6月、株式会社overflowを創業。2018年から2020年9月末までエキサイト株式会社の社外取締役を兼任。

「AI活用 事例」で検索すると、8選から120社まで、件数を掲げた記事が並びます。読み終えて手元に残るのは、他社が何をしたかの一覧です。ところが会議で問われるのはその先にあります。自社で同じことをやったら、どこまでいくのか。

この問いに答える材料は、事例をもう1件増やすことでは増えません。事例が全体の中でどこに位置するのかという縦の情報と、その変化が社外にどう現れているかという横の情報が要ります。この記事では前者を情報処理推進機構の調査から、後者を求人データの実測から取りました。

AI活用事例で語られるのは導入した側の話に限られる

事例記事の構造はどれも似ています。業界ごとに企業名が並び、取り組みの要約と成果の数値が添えられ、最後に成功の共通点がまとめられる。読者は導入した企業の内側を見ることになります。

見えないのは2つあります。ひとつは、その事例が全体の中でどれくらい珍しいのかという位置づけ。もうひとつは、AIを扱うようになった企業が、社外からどう見えるようになったのかという変化です。

後者は人事・採用の担当者にとって無視できません。AI活用は社内の業務効率の話として始まりますが、求める人材の要件が変われば、それは求人票に現れ、候補者の目に触れます。事例記事はここを扱いません。

日本企業のAI導入は58.0%、効果の実感は31.8%

まず全体の位置づけです。情報処理推進機構(IPA)が2026年7月30日に公表した『DX動向2026』(2025年度調査・1,799社の有効回答・調査期間は2026年4月中旬から6月中旬)によると、AIを「導入している」企業は42.3%、「現在、試験利用をしている」企業は15.7%で、合計58.0%が何らかの形でAIを使っています。

効果の側はどうか。AIを導入・試験利用している企業のうち、「期待以上の効果があった」は13.7%、「期待どおりの効果であった」は18.1%で、合計31.8%です。最も多いのは「一定の効果はあった」の50.6%でした。効果は出ているが期待したほどではない、という状態に半数の企業がとどまっていることが、同調査の図表3-13に示されています。

事例記事に並ぶのは、この31.8%の側にいる企業の話です。読むときに、残りの約7割がどこで止まっているのかを併せて見ておくと、自社の見通しの精度が上がります。

投資の規模も見立てを補強します。同調査では、売上に対するAI投資額・費用の割合が1%未満の企業が56.8%を占め、0.3%未満だけで49.5%にのぼりました。半数の企業が、売上の0.3%に満たない予算でAIに着手した計算です。

AIの導入はDXへの取り組み方と結びついている

導入率58.0%は全体の平均で、企業によって差が出ます。差がどこから生まれるかを見ると、AIを単独で進めているわけではないことが分かります。

同調査で、全社戦略に基づいて全社的にDXに取り組んでいる企業では「導入している」が70.8%に達しました。一方、DXに取り組んでいない企業では「関心はあるがまだ特に予定はない」が最も多くなります(図表3-2)。AIの導入は、DXの流れの中に位置づけられて進んでいるということです。

業種別では、情報通信業で「導入している」が約7割に達し、他業種を引き離しました(図表3-3)。開発そのものにAIが入り込んでいるためと考えられます。自社と同じ業種の事例を優先し、他業種の事例からは手法ではなく進め方を借りる、という読み分けが現実的でしょう。

事例を探すときも同じです。自社がDXにどう取り組んでいるかを先に整理しておくと、参考にすべき事例の範囲が絞れます。

事例の数値を社内資料に使う前に確認する3点

事例に添えられた成果の数値は、そのままでは社内の判断材料になりません。使う前に3点を確認してください。

第一に、対象範囲です。「工数を大きく削減」と書かれていても、対象が全社の業務なのか、特定の1業務の一部工程なのかで意味がまったく変わります。分母が書かれていない削減率は、比較にも積み上げにも使えません。

第二に、時点です。生成AIの性能も価格も1年で動きます。2024年に測った削減率を2026年の投資判断にそのまま当てるのは危険でしょう。事例の公開日ではなく、その数値を測定した時点を探してください。

第三に、出所です。企業自身が公表した数値なのか、支援したベンダーが自社サイトに書いた数値なのかで、検証可能性が違います。前者はプレスリリースや統合報告書にあたれば確かめられます。後者は確かめる先がありません。

実測した10本のうち、公的統計を年版と公表日つきで引いていたのは1本だけでした。残りは機関名のみか、自社顧客の事例で構成されています。この3点をすべて満たす事例は、実際に探すとかなり減ります。減ったあとに残ったものだけを、社内の議論に持ち込んでください。

事例の再現を止めるのは人材とリテラシーの不足

事例が自社で再現できないとき、原因は技術以外のところにあります。同調査がAI導入・運用上の課題として挙げた上位は、「専門人材が不足している」50.1%、「生成AIの効果やリスクに関する理解が不足している」45.8%、「適切な利用を管理するためのルールや基準の作成が難しい」39.7%でした(図表3-16)。

3つのうち2つは人に関するものです。専門人材の確保と、社内のリテラシー。どちらも人事の守備範囲に入ります。

人材の充足状況を種別ごとに見ると、多くの種別で「不足している」が過半数を占めていました(図表4-12)。とくに「現場の知見と基礎的AI知識を持ち、自社へのAI導入を推進できる従業員」「データマネジメントの知見があり、社内で企画、推進できる人材」の不足感が高いままです。手を動かせる中間層が最も薄い層になっています。

つまり、事例と自社の差は、AIツールの選定ではなく、動かす人と体制の差として現れます。事例を読んだあとに検討すべきなのは「どのツールを入れるか」ではなく「誰が回すのか」のほうでした。

学習データを整備できている企業は7.0%にとどまる

土台の側も同じ状態です。同調査で、AIに使う学習データを「整備しており AI に活用している」と答えた企業は7.0%にとどまりました。「整備しているが十分ではない」が28.4%、「必要性は認識しているができていない」が27.6%です(図表3-15)。

同調査は、学習データを整備してAIに活用できている企業のほとんどが、期待と同等かそれ以上の効果を得ていると報告しています。ここから言えるのは「データを整備した企業では効果が出やすい」までで、「効果が出ている企業の多くがデータを整備している」とは限りません。ただ、着手の順序を決める材料としては十分でしょう。AIツールの選定より先にデータの整理へ手をつける理由がここにあります。

AIの統制は整備が追いついていない

管理の側はさらに手前にあります。AIポリシーやガイドラインについて、「社内ガイドラインやルールは全社的なものを定めている」が32.5%、「AIポリシーを定め、社内に周知している」が28.8%で、「どちらも定めていない」企業が16.7%ありました。社外に公表しているのは3.7%です(図表3-17)。

AIや生成AI独自のリスクマネジメントを実施している企業は14.2%にとどまります(図表3-18)。導入が58.0%まで進んだ一方で、統制はその速度に追いついていません。

事例を読むときは、その企業がどの段階の統制を持っているかも併せて見てください。ルールが決まっていない状態で現場に配ると、使ってよいか分からず利用が止まります。

生成AIに触れる求人は3年で1.6%から43.6%へ

ここまでが導入側の話です。ここから、同じ変化が労働市場にどう現れているかを見ます。

株式会社overflowは、ハイクラスエンジニアの転職プラットフォーム「Offers」を運営しています。掲載された正社員求人の本文に生成AI関連の語が含まれる割合を、年ごとに集計しました。

公開年

正社員求人

生成AIに言及

割合

2023年

897件

14件

1.6%

2024年

1,505件

105件

7.0%

2025年

746件

157件

21.0%

2026年

571件

249件

43.6%

出所: Offers調べ(2026年9月時点)。各年に公開された正社員求人のうち、求人タイトル・職務内容・必須条件・歓迎条件・開発内容のいずれかに 生成AI/LLM/ChatGPT/大規模言語モデル/Claude/Copilot/Cursor を含むものを数えた

3年で1.6%から43.6%へ、直近1年でも21.0%から倍増しました。件数でも14件から249件まで増えており、比率の揺れではありません。

この数字が意味するのは、AI活用がもう社内の業務効率の話にとどまっていないということです。求人票に書かれた時点で、それは候補者が読む情報になります。事例記事が扱う「何をしたか」の裏側で、企業が求める人材像そのものが動いていました。

生成AIに言及する求人は応募が1.34倍つく

では、候補者の反応は変わったのか。2025年から2026年に掲載された正社員求人1,317件を、生成AIに言及するもの406件と、しないもの911件に分けて比べました。

指標

言及あり

言及なし

1求人あたりの平均閲覧数

833.1

761.5

1.09倍

1求人あたりの平均応募数

1.037

0.775

1.34倍

1求人あたりの平均ブックマーク数

0.589

0.383

1.54倍

応募が1件以上ついた求人の割合

41.87%

37.87%

+4.0pt

出所: Offers調べ(2026年9月時点)。2025〜2026年に公開された正社員求人1,317件の比較。判定対象と判定語は前表と同じ

閲覧数の差は1.09倍と小さい一方、応募は1.34倍、ブックマークは1.54倍つきました。求人が目に触れる回数はさほど変わらず、開いたあとの意思決定の局面で差がついていると読めます。

ただし注意点があります。1求人あたりの平均応募数は1.037件と0.775件で、どちらも1件前後です。絶対値の小さい指標の倍率なので、1件の増減が比率に響きます。また、これは相関であって、生成AIに言及したから応募が増えたという因果は示せていません。AIに触れる求人を出す企業は、事業のフェーズや技術的な魅力の面でもともと差がある可能性が残ります。

それでも、人事・採用の担当者にとって示唆はひとつあります。AI活用を社内の効率化で終わらせず、求人票にまで反映させている企業は、候補者から見て別の位置に立っているということです。事例づくりの成果を採用の場面で使えているかどうかは、一度確認する価値のある論点でしょう。

自社の採用がその状態にあるかを外形的に測るには、エンジニア採用力チェックが使えます。5つの指標で募集から入社までの状態を採点するので、要件の書き方と市場のずれがどこにあるかを確認できます。関連する人材要件はAI人材とは?不足の現状と採用・育成で確保する方法で整理しました。

人事・採用領域のAI活用は工数削減から入っている

人事・採用は、AIの効果が出やすい領域にあります。定型的な文書作成と情報の突き合わせが業務の大きな部分を占めるためです。

領域ごとの実態は記事を分けて整理してあります。人事業務全体でのAIの入り方はAI人事とは?HR業務のAI活用率43%、5つの領域と導入企業の成果・リスク、採用に絞った実績はAI採用とは?工数80%削減・承諾率2.4倍、7社が実証したAI活用効果とリスク、面接領域はAI面接とは?導入企業の工数75%削減、主要5サービスの比較とリスクをご覧ください。

事例を自社に持ち帰るときの順序

ここまでの実測を踏まえると、事例の使い方には順序があります。

最初に決めるのは、どの業務の何を測るかです。効果が出ている企業の多くが業務効率化を挙げている以上、まず狙うべきは時間でしょう。どの業務に月何時間かかっているかを先に測っておかないと、導入後に効果を説明できません。

次にデータを見ます。狙った業務でAIに読ませるべき情報が、探せる形で整理されているか。整理されていなければ、ツールの選定より先にそちらへ手をつけます。

3つ目がルールです。入力してよい情報の範囲と、出力を人が確認する工程を先に決めます。ここが決まっていないと現場は使えません。

最後に置くのが人の確保です。専門人材の不足が課題の1位である以上、既存メンバーの育成と採用の両方を並べて考える必要があります。そして、確保しようとする人材の要件は求人票に書くことになります。前節で見たとおり、その求人票はもう候補者に読まれ、反応の差として現れていました。DX全体の中でのAIの位置づけはDXとは?定義とIT化との違い、取組率75.7%の実態を併せてご覧ください。

AI活用事例から何を持ち帰るか

AI活用事例を読む価値は、他社の施策を真似ることではありません。自社がどの段階にいるかを測る物差しを得ることにあります。

導入58.0%・効果の実感31.8%・データ整備7.0%・全社的なガイドライン32.5%。この4つに自社を当てはめれば、事例と自社のあいだにある距離が測れます。距離の正体は、たいていツールではなく人とデータとルールでした。

そして、その4つが動き出すと、変化は求人票に現れます。生成AIに触れる正社員求人が3年で1.6%から43.6%へ増えたという数字は、他社の取り組みが社外から見える形になった記録でもあります。事例を読んだあと、自社の求人票を開いて同じ変化が書かれているかを確かめてみてください。

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