採用の歩留まりを改善しようとして、まず他社の平均値を探す。ここでつまずく採用担当者は少なくないはずです。検索して出てくる段階別の目安は記事によって3倍以上ひらき、出所をたどれるものは限られています。たどれたとしても、行き着く先は同じ1本の民間調査でした。基準にしようにも、比べる相手が1本しかない。
この記事は、基準値をどこから取るかという一段手前の問題から始めます。国が毎月公表している統計には、求人がどこまで埋まっているかを示す数字が載っている。自社の歩留まりを測る土台は、まずそこに置けます。
採用の歩留まりの定義と計算式
採用の歩留まりとは、選考のある段階から次の段階へ進んだ人の割合を表す言葉です。歩留まり率は、次の段階へ進んだ人数を前の段階の人数で割り、100を掛けて求めます。応募100人のうち20人が書類選考を通過したなら、書類選考の歩留まり率は20%になる。
もともとは製造業の用語で、投入した原材料に対してどれだけ完成品ができたかを表しました。採用に置き換えると、母集団に対してどれだけ採用まで到達したかという見方になります。
段階ごとの率とは別に、応募から採用までを通した全体の歩留まりも同じ式で出せます。採用人数を応募人数で割った値で、採用計画から逆算して必要な応募数を見積もるときに使う数字です。段階別の率は改善する場所を探すため、全体の率は必要な母集団の規模を決めるため。用途が違うので、どちらか一方だけを追うと片方の判断ができなくなります。
同じ職種の同じ選考でも、算出した歩留まり率が担当者によって違う値になることがある。原因のほとんどは分母の取り方にあります。面接の通過率を出すとき、分母を「面接を実施した人数」に取るか「書類選考を通過した人数」に取るかで値は変わる。前者は面接に来なかった人を分母から外すので、面接前の辞退が数字に現れません。後者は辞退を含めた実態を映しますが、面接そのものの精度は見えにくくなる。
どちらが正しいということはありません。決めるべきなのは、自社の中で一つに固定して文書に残すことのほうです。分母が揺れたまま前年と比べると、選考が改善したのか集計方法が変わったのかを区別できなくなります。
歩留まり率と通過率と辞退率は同じ数字の裏側にある
通過率は歩留まり率とほぼ同義で、辞退率はその補数にあたります。書類選考の通過率が20%なら、不通過と辞退を合わせて80%。内定承諾率を仮に70%と置けば、内定辞退率は30%になります。3つを別々の指標として管理すると同じ現象を三重に数えることになるので、段階ごとに使う指標を一つ決めておけば足ります。
なお、そもそも段階をどう区切るかで数字の意味は変わる。自社の選考フローの区切り方から見直す場合は、選考フェーズの整理が前提になるはずです。
公的統計が示す採用の充足水準
日本の求人がどこまで埋まっているかは、厚生労働省が毎月公表する職業安定業務統計から直接読めます。厚生労働省『一般職業紹介状況(令和8年7月分)』(2026年8月28日公表)によると、令和8年7月の正社員求人の充足率は8.2%でした。新規求人411,725人に対して就職件数が33,950件という内訳で、前年同月の8.8%から0.6ポイント下がっています。公共職業安定所(ハローワーク)で受理した求人・求職・就職に限った値で、中途採用にあたる常用求人が対象です。
同じ統計の全体では充足率10.6%、就職率23.7%。有効求人倍率は季節調整値で1.18倍、正社員有効求人倍率は1.00倍でした。求人1件に対して求職者がほぼ1人という需給のなかで、実際に埋まるのは1割前後にとどまる。この水準が、段階別の歩留まりを考えるときの外枠になります。
市場全体の入口側も公的統計から取れます。総務省統計局『労働力調査(詳細集計)2025年平均結果の要約』(2026年2月13日公表)によると、2025年平均の転職者数は330万人で、前年から1万人減り、4年ぶりの減少に転じました。1年間に実際に職を移る人の総数がこの規模で、しかも増加が止まっている。母集団形成の難しさは、選考が始まるより前の段階から生じています。
充足率は求人数に対する採用の歩留まりを表す
充足率は、新規求人数を分母、就職件数を分子にした比率です。選考の段階別の通過率とは分母が違いますが、出した求人がどれだけ埋まったかという意味では歩留まりそのものにあたります。自社の求人が何件出ていて、そのうち何件が採用に至ったか。この一段粗い見方を先に持っておくと、段階別の数字を追ううちに全体を見失う事態を避けられます。
この統計を自社の基準値としてそのまま使えるわけではない点にも注意が要ります。母数はハローワークで受理した求人と求職に限られ、求人媒体や人材紹介を経由した動きは入っていません。使えるのは、求人を出しても大半は埋まらないという相場観と、その水準が前年からどちらへ動いたかという方向です。自社の充足率が8.2%より高いか低いかを競う数字ではありません。
基準値は産業をそろえてから比べる
比べる相手は、産業までそろえる必要があります。厚生労働省『令和7年上半期雇用動向調査結果の概況』(2025年12月23日公表)によると、2025年6月末日現在の欠員率は全産業計で2.6%、未充足求人数は1,359.5千人でした。産業別では宿泊業・飲食サービス業の4.8%が最も高く、運輸業・郵便業4.1%、建設業3.5%と続きます。情報通信業は1.8%で全産業計を下回りました。同調査の定義では、欠員率は未充足求人数を6月末日現在の常用労働者数で割った値です。同じ国内でも、人が埋まらない度合いは2倍以上ひらきます。
情報通信業の欠員率1.8%は全産業計を下回りますが、これは採用が楽であることを意味しません。未充足求人数そのものが33.4千人と少なく、母集団の絶対数も他産業より小さい。他産業の数字をそのまま自社の目標に置くと、産業構造の違いを見落とします。
出回っている段階別の平均値は1本の民間調査に集まっている
検索上位に並ぶ段階別の平均値は、そのまま自社の基準にはできません。Offers(株式会社overflow)が2026年9月6日に「採用 歩留まり」の検索上位8本(n=8)の本文を機械的に取得して確認したところ、書類選考の通過率の目安だけで15〜30%、30〜50%、約50%、46.70%と3倍以上の開きがありました。
開きの理由は、参照している調査がそろっていないことにあります。段階別の目安を示していたのは8本中6本。そのうち機関名と調査名を本文に書いていたのは3本で、残る3本は「以下の数値を参考に」「こちらを参考に」「以下のような数値が平均値と言われています」という書き方でした。出所を書いていた3本のうち1本は米国の採用管理ベンダー3社が公開した自社データで、日本の中途採用を対象にした2本は、いずれも同じ民間調査会社の同じ調査(2023年実績)に行き着きます(Offers 調べ・n=8・2026年9月時点)。
つまり、日本の中途採用について外部から引ける段階別の平均値は、実質的に1本の民間調査に集約されています。1社が1年分の実績を集計した数字を、業界の相場として扱っている状態です。
公的統計のほうは、同じ8本の走査で一つも現れませんでした。「充足率」「欠員率」「有効求人倍率」「ハローワーク」「職業安定業務統計」「雇用動向調査」「労働経済動向調査」を含む記事はいずれも0本、「厚生労働省」を含むものは1本だけで、その1本も採用面接時のハラスメント防止に関する事例集への参照でした(Offers 調べ・n=8・2026年9月時点)。
出所が1本に集まった数字を基準に置くと、実務では2つの誤りが起きます。一つは、自社の数値が目安を下回ったときに、選考の問題なのか集計方法の違いなのかを切り分けられないこと。もう一つは、目安を上回ったときに改善の必要がないと判断してしまうことです。比較の相手が1社分の集計である以上、上回っても下回っても解釈が定まりません。
では公的な調査で段階別の通過率が取れるのかというと、そこにも空白があります。中途採用の選考実態を国が測った最新の調査は、厚生労働省の令和2年転職者実態調査(結果の概況は2021年11月8日公表)のままです。同調査は不定期に実施されるもので、次の令和7年調査は2025年9月に協力依頼が公開された段階にとどまり、結果は出ていません。
四半期ごとの動きも追えなくなりました。厚生労働省『労働経済動向調査(令和8年5月)の概況』(2026年6月23日公表)の利用上の注意には、常用労働者の中途採用の実績および予定と未充足求人数に関する事項を令和7年5月調査で終了したと明記されています。日本の中途採用の段階別の通過率について、更新され続けている公的な平均値は存在しない。この前提を置かずに他社の目安を並べても、比較の土台が作れません。
前年同期を基準線に置き、公的指標で年差を切り分ける
比較対象は自社の過去に置くのが妥当です。前年同期の同じ職種・同じ求人経路の歩留まりを基準線にすれば、分母の定義も選考の設計もそろいます。他社平均との比較では、職種構成も選考回数も求人経路も違うので、差が出た理由を特定できません。
ただし前年同期との差を、そのまま自社の改善や悪化として読むと外れます。採用市場そのものが年ごとに動くからです。ここで前段の公的統計が使えます。自社の歩留まりが前年から落ちたとき、同じ期間の正社員求人の充足率、自社が属する産業の欠員率、正社員等労働者過不足判断D.I.が同じ向きに動いていれば、市場側の変化が下落の相当分を説明します。逆に外部の指標が横ばいか改善しているのに自社だけ落ちているなら、原因は選考の側にある。前年比較を単独で使うと、この切り分けができません。
前年のデータがない場合は、最初の3か月を基準期間として固定し、そこからの変化を見る形にすれば運用を始められます。他社の目安は、自社の数字が桁違いに外れていないかを確かめる程度の使い方にとどめるのが安全です。
どの段階で詰まっているかを見つける手順
詰まりの発見は4つの手順で進めます。分母を固定し、応募した月ごとの集団で追い、段階を4つに絞り、前年同期から最も落ちた段を選ぶ。順番に意味があり、最初の2つを飛ばすと、あとの2つで出した結論が集計方法の産物になります。
手順1は、分母の定義を先に決めて文書に残すことです。各段階の分母を一つに決め、辞退者を分子と分母のどちらから外すかまで書きます。この文書がないと、担当者が変わった翌年に別の方法で集計され、時系列の比較が成り立たなくなる。
手順2は、同じ月に応募した人をひとまとまりとして最後まで追いかけることです。月末時点の断面で各段階の人数を並べると、段ごとに違う集団を比べる形になります。厚生労働省『令和2年転職者実態調査の概況』(2021年11月8日公表)によると、転職活動を始めてから直前の勤め先を離職するまでの期間は「1か月以上3か月未満」が28.8%で最も多く、「転職活動期間なし」23.6%、「1か月未満」18.3%、「3か月以上6か月未満」15.7%と続きました。1か月以内に決着する層と、3か月を超える層が同じ母集団に混ざっている。決着までの長さがこれだけ割れる以上、ある月の応募数とその月の内定数は別の集団の数字です。
手順3は、段階を4つに絞ることです。入口(応募・スカウト返信)、書類、面接、内定から承諾までの4つで足ります。段階を細かく分けるほど各段の人数が小さくなり、率が数人の増減で振れて判断できなくなる。
手順4は、率が前年同期から最も落ちた段を選ぶことです。減った人数の絶対値で選ぶと、入口の人数がどの会社でも最大なので毎回同じ結論に行き着きます。動いたのは率のほうだという段が、直せる余地の大きい場所です。
入口が詰まっているときは応募の少なさを疑う
入口の詰まりは、採用の問題として最も多く報告されています。厚生労働省『令和2年転職者実態調査の概況』(2021年11月8日公表)では、転職者を採用する際に問題があるとした事業所が84.1%あり、そのうち「必要な職種に応募してくる人が少ないこと」を挙げた割合が67.2%で最多でした。同調査の個人側を見ると、転職活動の方法は求人サイト・求人情報専門誌等が39.4%、ハローワーク等の公的機関が34.3%、縁故が26.8%と分散しています。求職者の経路が割れている以上、一つの媒体だけで母集団を作る設計では入口が細くなる。
面接が詰まっているときは評価基準の不在を疑う
面接の通過率が上下に揺れるときは、評価する側の基準を疑います。同じ調査の産業別を見ると、情報通信業では「応募者の能力評価に関する客観的な基準がないこと」を挙げた事業所が45.6%あり、産業計の38.8%を上回っていました。評価基準が言語化されていないと、面接官ごとに合否が割れ、通過率は候補者の質より面接官の割り当てで動きます。
内定から承諾が詰まっているときは処遇の説明を見直す
終盤の詰まりでは、処遇とキャリアの説明が焦点になります。同じ調査で、情報通信業の事業所が「採用後の処遇やキャリア形成の仕方」を問題として挙げた割合は38.0%で、産業計の17.8%の2倍を超えていました。入社後に何を任され、どう評価されるのかが選考中に伝わらなければ、候補者は条件だけを他社と比べることになる。終盤の数字の作り方と打ち手は内定辞退防止で扱っています。
どの段からたどるか決めきれない場合は、自社の採用体制を外形から点検するところから入る方法もあるはずです。エンジニア領域であればエンジニア採用力チェックで、母集団・選考・訴求のどこに弱さがあるかを一通り確認できます。段階別の数字を集める前に、当たりをつける材料として使えるはずです。
人手不足の局面では歩留まりが採用単価に返る
人手不足が続く局面では、母集団を増やすより歩留まりを直すほうが採用単価に返ります。厚生労働省『労働経済動向調査(令和8年5月)の概況』(2026年6月23日公表)によると、令和8年5月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.は調査産業計で+47ポイントの不足超過でした。産業別では建設業+59、医療・福祉+57、運輸業・郵便業+55、情報通信業+54と並びます。
同じ調査で、労働者が不足している部門等に何らかの対応をした事業所は令和8年1〜3月期実績で63%あり、その対応内容の最多は「中途採用の開始・拡大・強化」の69%でした。多くの企業が同じ時期に同じ層を採用しようと動いている状態です。
この局面では、応募を1件増やすための費用が上がります。すでに応募している人の歩留まりを1ポイント改善するほうが、同じ採用数を得るための費用は下がる。各段階を指標として管理する方法は、人事KPI一覧に算出式ごと整理されている。
2026年10月から選考の運用に加わる条件
2026年10月1日から、選考の進め方そのものに法的な条件が加わります。厚生労働省告示第52号(2026年2月26日告示・男女雇用機会均等法第13条第3項に基づく)は、求職活動等における性的な言動に起因する問題について事業主が講じる措置を定めた指針で、令和7年法律第63号の施行日である2026年10月1日から適用されます。指針が挙げる「求職活動等」には企業の採用面接への参加や、企業の雇用する労働者への訪問が含まれ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)等のオンラインを介したものも対象になる。
選考の運用に直接かかるのは2点です。
- 面談時間および場所の指定、実施体制、やり取りに用いるSNSの種類の指定を含む「求職活動等に関するルール」をあらかじめ明確化し、労働者に周知するとともに、求職者にもホームページやパンフレット等で周知すること
- 相談窓口をあらかじめ定めて求職者に周知すること。指針は、求職者が人事担当者への相談をためらう場合も想定されるとして、人事担当者以外の者を担当者に指定することも考えられるとしています
この対応は、歩留まりの観点からも意味を持ちます。面談の時間・場所・進め方を明文化して公開する作業は、そのまま候補者への事前説明の材料になる。誰と何回会い、何を見られるのかが分からないまま進む選考は、面接段階の離脱要因の一つです。義務への対応と、説明不足による離脱の抑制が同じ作業に乗ります。
適用の期日は決まっているので、選考フローの文書化を後回しにしていた場合は、この機会に分母の定義とあわせて整理しておくと二度手間になりません。
歩留まりを見続けるための計測の設計
計測は、残すものと捨てるものを決めてから始めます。
残すもの | 捨てるもの |
|---|
各段階の分母の定義書 | 1社分の集計を相場とみなした比較 |
同じ月に応募した人をまとめた集計 | 段階を細かく分けすぎた率 |
4段階に絞った歩留まりの表 | 月次断面の単純な前月比 |
自社の前年同期との差分 | 一度きりの分析レポート |
更新の入口は「答えが変わった数字」です。充足率と有効求人倍率は毎月、欠員率は年2回、正社員等労働者過不足判断D.I.は四半期ごとに更新されます。自社の数字を外部環境と並べて見るなら、この更新周期にあわせて基準線を引き直せばよい。
詰まっている段が決まったあと、その原因まで踏み込む手順は採用分析にまとめています。数字が動いた理由を選考記録から遡る作業は、歩留まりの計測とは別の工程になる。
採用の歩留まりは、他社の平均値と比べるための指標ではありません。自社の選考のどこで人が減っているかを、同じ物差しで測り続けるための仕組みです。分母を固定し、同じ月に応募した人をまとめて追い、前年同期と比べる。この3つに外部環境の指標を並べれば、1社分の目安を探し回る必要はなくなります。
自社の採用体制がいまどの水準にあるかを外形から確認しておきたい場合は、エンジニア採用力チェックが起点になります。段階別の数字を集める前に、どこを疑うべきかの見当をつける材料として使えるはずです。