外に出していた仕事を社内に戻す。言葉にすると単純ですが、実際に手をつけた企業ほど「どこまで戻すのか」で止まります。全部を社内に抱えれば固定費が跳ね上がり、外に出したままではシステムの中身が誰にも分からなくなる。その間のどこかに線を引く作業が、内製化の実務です。
そして、その線は各社が思っているよりずっと手前に引かれています。国内のユーザー企業を対象にした調査では、完全な内製を方針に掲げている企業は20社に1社に届きません。多くの企業が実際にやっているのは、工程ごとに社内と社外を切り分けることでした。
この記事では、内製化の意味を整理したうえで、どの工程が社内に残り、どこから先が外部に委ねられているのかを実データで確認します。そのうえで、内製化の議論が最後に必ず突き当たる人材の問題を、Offersの求人データから掘り下げます。
内製化とは
内製化とは、これまで外部の企業に委託していた業務を、自社の人員と設備で行う体制へ切り替えることです。英語のインソーシング(insourcing)に対応し、アウトソーシング(外部委託)の対義語にあたります。
言葉自体は製造・物流・バックオフィスなど業務全般に使えます。ただし企業の実務で「内製化」が議論の的になるのは、ほとんどがシステム開発の領域です。基幹システムの刷新、社内業務のデジタル化、プロダクト開発。いずれも仕様が事業そのものと結びついており、外部に丸ごと預けると事業判断の速度がそこで頭打ちになるためです。
内製化とアウトソーシングの違い
両者の違いは、業務の遂行主体と、そこで生まれた知識の置き場所にあります。
観点 | 内製化 | アウトソーシング |
|---|
遂行主体 | 自社の社員 | 外部の企業・その要員 |
費用の性質 | 人件費・設備費として固定的に発生 | 委託費として案件ごとに変動 |
知識の蓄積先 | 社内に残る | 委託先に残る |
立ち上げの速さ | 採用・育成の時間が先に必要 | 契約すれば当月から動く |
業務量の増減 | 人員が固定されるため吸収しにくい | 契約の増減で調整しやすい |
重要なのは、この表が「どちらが優れているか」を示すものではない点です。立ち上げの速さと知識の蓄積先はトレードオフの関係にあり、事業のどの局面にいるかで答えが変わります。
内製化と自社開発の違い
内製化と自社開発は、しばしば同じ意味で使われがちです。自社開発は「誰のためのものを作るか」を表し、自社のサービスやプロダクトを開発することを意味します。内製化は「誰が作るか」を表し、開発の主体が社内にあることを意味します。
したがって、自社サービスを持ちながら開発を外部委託している企業は、自社開発ではあっても内製ではありません。逆に、社内の業務システムを情報システム部門が自ら開発していれば、それは自社開発とは呼ばれなくても内製です。この2つを混同したまま議論すると、「うちは自社サービスだから内製化は済んでいる」という誤解が生まれます。
内製化が注目されている理由
内製化への期待は、この1年で「知識を貯める」から「費用を下げる」へ移りました。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が国内のユーザー企業を対象に行った企業IT動向調査2026によると、システム開発の内製化に期待する効果の1位は開発コスト削減で41.3%。前年に1位だった「社内へのナレッジ蓄積による開発能力向上」は43.9%から35.1%へ、8.8ポイント下がっています。
この逆転の背景にあるのは、同調査が指摘するベンダーの価格高騰です。委託単価が上がれば、同じ予算で発注できる量は減ります。中長期の能力強化よりも、目の前の支出を抑えることが先に立つ状況が生まれました。
もうひとつの理由が、仕様のブラックボックス化です。長く外部に委ねたシステムは、なぜその作りになっているのかを社内の誰も説明できなくなります。同調査では「システム仕様のブラックボックス化抑止」を期待する企業が27.3%から29.0%へ増えました。基幹システムの更新時期を迎えた企業ほど、この問題に直面します。
こうした動きはDXとは?定義とIT化との違いで扱ったデジタル化の流れとも重なりますが、内製化とDXは別の問いを扱います。DXが問うのは事業をどう変えるかであり、内製化が問うのはその変更を誰の手で実装するかという実行体制です。
企業が目指しているのは完全内製ではない
内製化の議論で最初に外すべき前提が、「内製化=すべてを社内で行うこと」という理解です。実際にそれを目指している企業は、ごく少数にとどまります。
企業IT動向調査2026で方針を尋ねた結果は次のとおりです。
システム開発の方針 | 割合 |
|---|
内製・外部委託の混成 | 44.0% |
完全外部委託 | 18.7% |
完全内製化 | 4.5% |
「内製・外部委託の混成」に「内製を増やす」「外部委託を増やす」を加えると70.2%になり、7割の企業が内製と外部委託を使い分ける姿を目指していることが分かります。完全内製化は4.5%です。
企業規模による差もはっきり出ています。同調査では、売上高の大きい企業ほど「内製を増やす」と「混成」の割合が高くなる一方、売上高1兆円未満の企業では、内製の方向(完全内製化+内製を増やす)よりも外部委託の方向(完全外部委託+外部委託を増やす)の合計が上回りました。内製化は、体力のある企業から先に進む施策だと言えます。
どの工程が社内に残っているのか
方針が「使い分け」なら、次の問いは「どこで分けるか」です。ここに、上位の解説記事がほとんど触れていない実態があります。
企業IT動向調査2026は、工程ごとに内製の度合いを調べています。「ほぼ内製」と「内製が多い」を合計した値は次のようになりました。
工程 | 内製が主 | 外部委託が主 |
|---|
システム企画(システム化構想策定) | 70.9% | ー |
機能要件定義 | 46.1% | ー |
設計・実装・テスト | ー | 63.4% |
システム運用・保守 | 内製と外部委託が拮抗 | 同左 |
線は「上流と下流の間」に引かれています。何を作るかを決める工程は社内に残し、実際に作る工程はベンダーに委ねる。これが日本のユーザー企業の標準的な形です。
さらに踏み込むと、この傾向は方針を問いません。完全外部委託を方針とする企業でも、システム企画は45.4%が内製で行われています。逆に完全内製化を掲げる企業は、どの工程でも内製の合計が90%を超えており、方針どおりに動いていました。
ここから導かれる実務上の結論は明快です。内製化の論点は「するかしないか」ではなく、「どの工程を社内に残すか」にあります。この置き換えができると、次に必要な人材像も具体化します。必要なのは、上流を残すなら要件定義とプロジェクトマネジメントを担える人材、下流まで戻すならフロントエンドからインフラまでを扱える開発体制です。
内製化のメリット
内製化のメリットは、期待されている効果の順位を見ると輪郭がつかめます。企業IT動向調査2026で挙がった項目は次のとおりです。
期待する効果 | 割合 |
|---|
開発コスト削減 | 41.3% |
社内へのナレッジ蓄積による開発能力向上 | 35.1% |
ビジネスプロセスの改善・最適化 | 33.6% |
ビジネススピードの向上 | 32.8% |
ビジネス構想の確実な反映 | 31.7% |
システム仕様のブラックボックス化抑止 | 29.0% |
開発のリードタイム短縮 | 19.8% |
開発リソースの柔軟化 | 10.4% |
上位4項目は、それぞれ性質が違います。
コストが下がるのは、委託費に含まれる管理費や利益分が消えるためです。ただし人件費という固定費に置き換わるので、稼働率が低いと逆転します。
知識が社内に残るのは、内製化の効果のうち最も長持ちするものです。仕様の経緯、過去の失敗、直しにくい箇所。こうした暗黙知は成果物には現れず、担当した人の中にだけ残ります。
業務プロセスを直せるのは、システムと業務を同じ組織が持つためです。外部委託では、業務側の都合で仕様を変えるたびに見積もりと合意が必要になりますが、内製ならその往復が消えます。
事業の構想が正確に反映されるのは、伝言の段数が減るからです。企画した人と実装する人の距離が近いほど、意図の欠落は起きにくくなります。
一方で、下2つの数字には注意が必要です。リードタイム短縮は19.8%、開発リソースの柔軟化は10.4%にとどまりました。内製化は「速くなる」「柔軟になる」施策としては期待されていません。人員が固定される以上、繁忙期の上振れを吸収する力はむしろ落ちます。この2つを狙って内製化を始めた企業は、後から期待と結果のずれに直面しがちです。
内製化のデメリットと課題
内製化のデメリットは、突き詰めると1点に集約されます。人が確保できないことです。
企業IT動向調査2026が内製化を進めるうえでの課題を尋ねた結果、上位3項目はすべて人材でした。
内製化の課題 | 2025年度 | 2024年度 |
|---|
開発人材の量の不足 | 52.7% | 50.8% |
開発人材の質の不足 | 49.6% | 45.2% |
プロジェクトマネジメント人材の不足 | 44.4% | 38.3% |
現行業務への理解不足 | 38.2% | 38.7% |
システム企画力不足 | 34.5% | 30.2% |
設備投資でも、初期コストでもありません。しかも上位3項目はいずれも前年から増えており、伸び幅が大きいのはプロジェクトマネジメント人材の不足(+6.1ポイント)と質の不足(+4.4ポイント)です。量の不足も+1.9ポイント増えていますが、伸び幅で見ると質と管理側のほうが速く悪化しています。
隣接するDX人材の状況も見ておきます。情報処理推進機構(IPA)が2026年7月に公表したDX動向2026は、内製化の課題調査とは別の物差し(4段階の過不足評価)で人材の充足を測っており、方向も同じではありません。DXを推進する人材の「量」について「大幅に不足している」と答えた企業は、2023年度の62.1%、2024年度の58.5%から2025年度は50.1%へ下がりました。「質」も同じ基準で見ると、「大幅に不足している」は前年の58.9%から52.9%へ下がっています。ただし「やや不足」を含めた合計では、質は86.1%から88.8%へ増えました。深刻な不足はどちらも緩んだ一方、質の不足を感じる企業の裾野は広がっている、という読み方になります。同じDX動向2026で企業規模別に「合計」を見ると、量は従業員301人以上で9割超・100人以下で6割超、質は301人以上で9割超・100人以下で7割超でした。
つまり内製化のデメリットは、「固定費が増える」という会計上の話から、「求める水準の人材が確保できない」という採用の話へ移っています。IT人材不足はなぜ起きる?でも触れたとおり、この不足は景気変動よりも構造的な要因が大きく、数年で解消する見通しは立っていません。
内製化を止めるのは、広がりすぎた人材要件
ここまでは公開された調査データの話です。では、内製化に踏み出した企業は実際にどんな人材を探しているのか。Offersに掲載されている正社員求人の本文を集計すると、上位の解説記事に出てこない事実が見えます。
内製や内製化に言及している求人は、正社員求人全体の4.7%でした。そしてその求人は、要求するスキルの数がはっきり多くなっています。
指標 | 内製への言及あり | 言及なし |
|---|
1件あたりの要求スキル数(平均) | 10.9個 | 8.0個 |
フロントエンド・バックエンド・インフラ・モバイルのうち3領域以上を求める割合 | 48.3% | 34.6% |
集計対象は、Offersに公開された正社員の求人票です。求人タイトル・概要・必須条件・歓迎条件・開発内容の本文に内製を指す語が含まれるものを抽出し、求人に紐づくスキル要件の数を数えました。
内製に言及する求人のおよそ半数が、3つ以上の技術領域にまたがるスキルを1つの求人で求めています。開発を社内に戻すという意思決定が、そのまま「フロントエンドもサーバーサイドもクラウドも扱える人」を探す動きに変わっているわけです。
興味深いのは、こうした求人が候補者から見られていないわけではないことです。同じ集計で、求人ページの閲覧数と応募数は内製への言及の有無でほとんど差がありませんでした。候補者の目には触れています。止めているのは条件の幅です。
フルスタックエンジニアとは?で整理したとおり、複数領域を実務水準で扱える人材の母数は限られます。内製化の初手でその層だけを狙うのは、採用が動かないまま計画だけが遅れる典型的なパターンです。工程で線を引く発想がここでも生きます。上流を内製すると決めたなら求めるのは要件定義とプロジェクトマネジメントの力であり、必ずしも全レイヤーの実装力ではありません。エンジニアの種類一覧を手元に置いて、求人票を職種に分解するところから始めてください。
自社の求人票がどれだけ広がっているかは、外から見ないと気づきにくい部分です。エンジニア採用力チェックは、要件の絞り込みを含む5指標24項目で現在地を採点する診断です。
内製化の進め方
内製化は、対象範囲を絞ってから人を集める順番で進めます。逆の順番、つまり人を採用してから何をさせるか考える進め方は、要件が広がるぶん失敗しやすくなります。
1. 目的を1つに決める
コスト削減なのか、知識の蓄積なのか、仕様の可視化なのか。期待効果の調査では複数の項目が3割前後で並んでいますが、社内で1つに絞らないと、成果の判定ができません。コスト削減を選ぶなら委託費と人件費の比較、知識の蓄積を選ぶなら仕様を説明できる社員の数、といった形で測り方まで決めます。
2. 工程で線を引く
システム企画、要件定義、設計・実装・テスト、運用・保守のうち、どこを社内に残すかを決めます。実態としては上流から社内に戻す企業が多数派です。全工程を一度に戻す計画は、完全内製化を目指すと答えた4.5%の企業と同じ到達点を前提にしていることになります。この4.5%は目指す姿の割合であって、実現できている企業の割合ではありません。同調査は実現率そのものを数値で示していないため、達成状況は別の指標で見る必要があります。
3. 現行業務の理解を先に埋める
課題として38.2%の企業が挙げた「現行業務への理解不足」は、人を増やしても解消しません。今のシステムが何をしていて、どの業務がそこにぶら下がっているかを、社内の言葉で書き出す作業が先に必要です。ここを飛ばすと、要件定義を内製に戻した瞬間に止まります。
4. 人材要件を職種に分解する
残すと決めた工程から逆算して、必要な職種を分けます。1つの求人にすべてを詰め込まず、要件定義を担う人と実装を担う人を別に定義する。この分解が、先ほどの「要求スキル10.9個」の問題を避ける唯一の方法です。中途での確保を検討する場合は、エンジニア中途採用の進め方やエンジニア採用手法の比較が判断材料になります。
5. 育成と採用を並行させる
内製化は既存社員の育成だけでは間に合わず、採用だけでも定着しません。研修で社内の理解を底上げしつつ、核となる技術判断ができる人材を外から迎える。両輪で進めるのが現実的です。育成側では、自社が実際に使っているシステムを題材にした実務経験を組む企業が多く、その題材を外部委託していると成立しません。内製化と育成が相互に依存する関係にある点は、計画時に見落とされがちです。
6. 段階的に移す
外注を止めてから内製を立ち上げると、その間に事業が止まります。既存の委託を続けながら並行して社内の体制を作り、工程単位で置き換えていく方が安全です。
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内製化に関するよくある質問
内製化の意味を一言で説明すると?
外部に委託していた業務を、社内の要員と設備でまかなう形に切り替えることです。インソーシングとも呼びます。実務では工程単位で対象を決めるのが一般的で、全業務を社内へ戻す意味で使われることはまれです。
内製化に研修は必要ですか?
既存社員の育成なしに内製化を成立させるのは困難です。ただし座学だけでは足りず、自社のシステムを題材にした実務での経験が要ります。内製化の課題として「現行業務への理解不足」が38.2%で挙がっているとおり、技術研修より先に要るのは、自社の業務とシステムの対応関係を社内で言語化する場です。
内製化の事例にはどんなパターンがありますか?
方針別に見ると、大きく3つに分かれます。全工程を社内で行う完全内製化型は4.5%と少数です。ただしこれは大企業に偏った型ではなく、同調査では売上高の小さい企業ほど完全内製化・完全外部委託のどちらかに振り切る割合が高いと報告されています。最も多いのが混成型で44.0%を占め、システム企画と要件定義を社内に残し、設計・実装・テストをベンダーに委ねる形です。3つ目が段階移行型で、運用・保守など影響範囲の限定された領域から社内に戻し、徐々に上流へ広げていくパターンにあたります。自社がどの型を目指すのかを先に決めると、必要な人材像も明確になります。
本記事のポイント
内製化とは、外部委託していた業務を社内へ引き取り、自前の体制で回すよう切り替えることです。ただし実務における論点は、どの工程を社内に残すかという線引きに集約されます。
- 完全内製化を方針とする企業は4.5%にとどまり、7割の企業は内製と外部委託の使い分けを目指している
- 線は上流と下流の間に引かれる。システム企画は70.9%が内製、設計・実装・テストは63.4%が外部委託。完全外部委託を掲げる企業でもシステム企画は45.4%が内製
- 期待効果の1位はコスト削減41.3%へ移り、ナレッジ蓄積は8.8ポイント下がった。一方でリードタイム短縮19.8%、リソース柔軟化10.4%と、速さと柔軟性は期待されていない
- 課題の上位3つはすべて人材。開発人材の量52.7%、質49.6%、プロジェクトマネジメント人材44.4%で、前年からの悪化幅が大きいのは質と管理側の人材
- Offersの求人データでは、内製に言及する求人の要求スキルは平均10.9個(言及なしは8.0個)、3領域以上にまたがるものが48.3%。内製化の意思決定が求人票の幅を広げ、そのまま採用の停滞につながっている
内製化を止めているのは、広がりすぎた人材要件です。工程で線を引き、求人票を職種に分解したうえで、社内に知見を残す形で採用を進めたい方は、Offersの予算型リテーナー採用をご確認ください。自社の採用体制の現在地を先に把握したい場合は、エンジニア採用力チェックで5指標24項目の採点を受け取れます。