母集団形成の定義と中途採用での範囲
母集団形成とは、自社の募集に応じうる候補者の集まりを意図的につくる活動のことです。求人を公開してから選考を始めるまでの間に、誰と接点を持ち、何人を選考の入口に立たせるのかを設計する工程がこれにあたります。
中途採用では、この集まりの範囲を応募者よりも広く取る必要があります。応募という行動は、候補者が転職活動を始めていて、自社を見つけていて、そのうえで応募する気になったときにだけ起きるからです。3つの条件が重なった人だけを母集団と呼ぶと、母集団形成という言葉は「応募を増やす工夫」に縮んでしまいます。実務で設計の対象になるのは、まだ応募していない転職希望者を含んだ、もっと広い層のほうです。
整理すると、中途採用の母集団は3つの層に分かれます。すでに応募してきた人、自社を知っていて条件が合えば動く人、自社をまだ知らない人。層ごとに届く手段が違うため、どの層をどれだけ厚くするのかを先に決めておかないと、手法の選択が場当たりになります。採用プロセス全体の流れは中途採用とは?基本の流れ・手法と成功する企業の進め方を土台にしてください。
応募を待つ設計が届くのは転職等希望者の36.2%まで
総務省統計局の労働力調査(詳細集計)2026年4〜6月期平均によると、転職等希望者は969万人で、そのうち求職者が351万人、求職活動をしていない非求職者が618万人でした。求職活動をしている側は36.2%にとどまります。
ここでいう転職等希望者は、同調査の定義では「就業者のうち現在の仕事を辞めてほかの仕事に変わりたいと希望している者及び現在の仕事のほかに別の仕事もしたいと希望している者」です。つまり、仕事を変えたい人に加えて、いまの仕事のほかにもう1つ仕事を持ちたい人も入った数です。逆に、いま働いていない人(完全失業者と非労働力人口)は含みません。この定義のうえで、求人を出して応募を待つ設計が接点を持てるのは、求職活動をしている351万人の側だけです。
区分 | 人数 | 転職等希望者に占める割合 |
|---|
転職等希望者 | 969万人 | 100% |
うち求職者 | 351万人 | 36.2% |
うち非求職者 | 618万人 | 63.8% |
出所: 総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2026年(令和8年)4〜6月期平均」(2026年8月10日公表)。割合は同調査の人数からOffersが算出。
労働力調査の同じ期の転職者数は325万人、就業者に占める転職者比率は4.7%でした。年単位でも人は動いています。厚生労働省の令和7年雇用動向調査結果の概況によれば、令和7年の転職入職者数は5,061.8千人。母数そのものは大きい。ただし転職等希望者の63.8%は、求職活動という形を取らないまま、仕事を変えるか、もう1つ持ちたいと考えている状態にあります。
同じ構図は自社の登録データにも出ました。株式会社overflowが運営するエンジニア向け転職プラットフォーム「Offers」の登録者に転職意向を聞くと、「今は考えていない」が47.5%、「良いオファーがあれば検討する」が31.4%で、合わせて78.9%を占めます。「すぐ転職したい」と答えた人は10.8%にとどまりました。
転職意向 | 構成比 |
|---|
今は考えていない | 47.5% |
良いオファーがあれば検討 | 31.4% |
すぐ転職したい | 10.8% |
半年以内に考えている | 3.7% |
1年以内に考えている | 3.6% |
3か月後に考えている | 3.1% |
出所: Offers 登録者データ(株式会社overflow調べ・2026年9月時点・n=31,649)
公的統計は「転職等希望者のうち求職活動をしているのは36.2%」と言い、自社の登録データは「登録者のうちすぐ動く気があるのは10.8%」と言う。母数も定義も違う2つの数字が、同じ向きを指しています。労働力調査の数え方では、応募を待つ設計が届くのは転職等希望者の4割に満たない一部です。
だからといって応募を軽く見る話にはなりません。設計の順序が変わるだけです。母集団を「応募者の数」で定義している限り、打ち手は媒体の追加しか残りません。母集団を「接点を持てた候補者の数」で定義し直すと、非求職者へ届く手段が選択肢に入ってきます。
中途採用で母集団形成が要る背景
中途採用の母集団の薄さは、働く人の総数ではなく、仕事を変えたいと考える人の数に表れています。総務省統計局の労働力調査(詳細集計)2026年4〜6月期平均では、就業者は6,872万人で前年同期から45万人増え、労働力人口も7,080万人で49万人増えました。一方、同じ期の転職等希望者は969万人で前年同期から31万人減り、減少分のうち28万人は求職活動をしていない非求職者でした。
年齢で区切った人口は減っています。総務省統計局の人口推計(2026年9月報)(2026年9月24日公表)によると、2026年4月1日時点の15〜64歳人口は7,333万6千人で、前年同月から22万2千人(0.30%)減りました。前月の人口推計(2026年8月報)が示した3月1日時点の減り幅(前年同月比0.36%減)より小さいものの、減少は続いています。労働力調査でも15歳以上人口は前年同期から11万人減っていますが、就業者はそれでも45万人増え、その増加分のうち34万人は女性でした。
需要側は張り付いたままです。厚生労働省の労働経済動向調査(令和8年8月)(2026年9月29日公表)では、8月1日時点の正社員等労働者の過不足判断D.I.が調査産業計で47ポイントでした。この指標は「不足」と答えた事業所の割合から「過剰」と答えた割合を引いた値で、産業計では不足50%に対して過剰は3%。情報通信業は52ポイントで、2月調査の62ポイント、5月調査の54ポイントから2回続けて下がったものの、産業計を5ポイント上回っています。
人手の足りない事業所がどう埋めようとしているのかも、同じ調査に出ています。労働経済動向調査(令和8年8月)によると、労働者が不足している部門等に何らかの対応をした事業所は、2026年4〜6月期の実績で調査産業計の67%でした。その対応内容(複数回答)で最も多かったのが「中途採用の開始・拡大・強化」の66%です。
情報通信業に限ると、この割合は71%に上がります。人が足りない事業所の多くが同じ中途採用の市場に手を伸ばしている以上、転職を考える人のもとには複数の会社から声が届き、自社の募集は埋もれやすくなると見るのが自然です。
求人の側からも同じ絵が見えます。厚生労働省の一般職業紹介状況によれば、令和8年7月の有効求人倍率は1.18倍、新規求人倍率は2.10倍(いずれも季節調整値)。募集を出す企業は多く、求職活動をしている人は少ない、という状態が続いています。
人材の質でも同じことが起きています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のDX動向2026では、DXを推進する人材の量について「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた企業が合計85.5%を占めました。ただしこの設問に答えたのは、DXに取組んでいると回答した企業だけです。
有効回答1,799社のうちDXに取組んでいるのは75.7%、従業員100人以下に限ると41.6%です。したがって85.5%が示すのは、DXを進めている企業の中での不足感であって、全企業の不足率ではありません。その内側では、従業員301人以上の企業で不足の回答が9割を超えました。
もっとも「大幅に不足している」だけを取り出すと、2023年度の62.1%、2024年度の58.5%から2025年度は50.1%へ下がりました。逼迫の度合いは少しずつ和らいでおり、危機を煽るより、必要数を数えて手を打つ段階に入ったと読めます。
母集団形成を設計すると得られる3つの効果
中途採用で母集団形成を設計して進めると、3つの効果が得られます。候補者を比べて選べるようになること、採用計画に届くかどうかを期の途中で判定できること、経路ごとの採用単価を比べて予算を寄せられることです。どれも人数が増えたことから生まれるのではなく、人数を経路別・段階別に数える仕組みを持ったことから生まれます。
1つめは、選考が比べて選ぶ場になることです。最終面接に残る候補者が1人しかいなければ、判断は合格か不合格かの二択になり、欠員を早く埋めたい事情が要件を下げる方向に働きます。同じ段階に複数の候補者が並べば、要件に照らして比べられるので、入社後のミスマッチを選考の中で減らせます。
2つめは、計画の達成見込みを期末より前に判定できることです。採用人数から割り戻した必要数(計算の型は次の章に置きました)を決めておけば、週ごとの接点数と照らして、足りているかを途中で確かめられます。足りなければ、残りの期間で手法を足すのか、時間のかかる手法を翌期に向けて仕込むのかを選べます。
3つめは、予算の配分に根拠を持てることです。経路ごとに接点数と通過率を記録していれば、どの経路が1人の入社に最も安く結びついているかを比べられます。媒体を追加するかどうかも、この比較のうえで決められるようになります。
裏返せば、量だけを追う母集団形成ではこの3つがまとめて失われる。要件に合わない候補者が増えると選考の工数だけが膨らみ、入社人数は変わりません。この失敗の型は、後半の「母集団形成がうまくいかない4つの原因」で扱います。
母集団の必要数は逆算で出し、質は3つの通過率で測る
必要な母集団の人数は、採用したい人数を選考の各段階の通過率で順に割り戻すと求められます。式は「採用人数 ÷ 内定承諾率 ÷ 内定率 ÷ 面接通過率 ÷ 書類選考通過率」です。計算の要点は、積み上げずに下から遡るところにあります。
段階 | 例に置いた通過率 | 必要な人数 |
|---|
入社 | — | 2人 |
内定 | 内定承諾率 50% | 4人 |
最終面接 | 内定率 20% | 20人 |
書類選考の通過 | 面接通過率 50% | 40人 |
応募・接点 | 書類選考通過率 20% | 200人 |
出所: 通過率は計算の型を示すために置いた仮の値。自社の過去実績に置き換えて使う
2人採用するために200人の接点が要る、という結論そのものより重いのは、この計算をすると議論の対象が変わることです。200人という数字が出れば、「求人媒体を1つ増やせば足りるのか」を検討できます。逆算していない状態では、母集団の多い少ないが感覚の話にとどまり、期末に振り返っても何が足りなかったのかを特定できません。
ここまでは計算の型で、置いた通過率はすべて仮の値です。実務が分かれるのはこの先で、母集団の良し悪しは人数では判断できません。判断できるのは、書類選考通過率・面接通過率・内定承諾率の3つを並べたときの形です。人数を増やしても3つの通過率が下がれば入社する人数は変わらず、募集にかけた費用と選考の工数だけが増えていきます。
どこが詰まっているのかは経路によって違います。Offers のスカウトでは、送信から面談までの到達率が次のようになりました。
段階 | 送信を100としたときの到達率 | 直前の段階からの通過率 |
|---|
スカウト送信 | 100% | — |
開封 | 59.7% | 59.7% |
返信 | 6.2% | 9.8%(開封が記録された送信に限る) |
面談 | 2.9% | 46.1%(返信した人に限る) |
出所: Offers スカウトデータ(株式会社overflow調べ・2025年3月〜2026年2月送信分・候補者×企業の組み合わせ31,000件)。
このスカウトデータに照らすと、面談を1件つくるのに必要な送信は約35通でした。詰まっている場所ははっきりしています。開封は59.7%まで届いており、返信さえ取れれば46.1%が面談まで進む。
抜けているのは開封から返信までの一段だけで、開封した候補者の90.2%が返信せずに終わっていました。そのうち明示的に辞退の意思を示したのは20.0%で、残る8割は無反応です。この形なら、手を入れる先は返信率のほうです。
なお開封から返信の9.8%は開封が記録された送信だけを母数にしているため、59.7%×9.8%は送信全体の返信6.2%と一致しません。
通過率は職種ごと、経路ごとに分けて持ってください。同じ会社でも、応募からの通過率とスカウトからの通過率は別の値になります。ひとつの平均値でまとめると、経路の構成が変わっただけで必要数の見積もりが崩れます。
過去の実績が無い場合は、最初の四半期を計測のための期間と割り切って、暫定値で回しながら実測に置き換えていくのが現実的な進め方でしょう。
候補者から見える自社の採用情報(採用ページ・求人票・技術発信)を外から点検したい場合は、エンジニア採用力チェックを使ってください。企業の公開情報をAIが5指標24項目で採点したレポートが、原則1営業日以内に届きます。選考の通過率は採点の対象外です。母集団の量を増やす前に、候補者の目に入る情報で見劣りしている箇所があるかどうかを確かめられます。
職種によって母集団の作られ方が変わる
同じ手法を使っても、職種が変われば結果は変わります。厚生労働省の一般職業紹介状況(令和8年7月分)の職業別データでは、常用(パートを除く)の有効求人倍率が職業計で1.16倍、情報処理・通信技術者では1.50倍でした。
この統計は、ハローワーク(公共職業安定所)が受け付けた求人・求職・就職だけの集計です。民間の人材紹介会社を経由した分は入っていません。以下で「紹介」と書くのはすべてハローワークにおける紹介を指し、後の章で手法として挙げる人材紹介とは別のものです。
職業 | 有効求人倍率 | 新規求職者数(令和8年7月) | 紹介件数に対する就職件数の比率 |
|---|
職業計 | 1.16倍 | 226,996人 | 22.6% |
専門的・技術的職業従事者 | 1.85倍 | 36,506人 | 24.3% |
情報処理・通信技術者 | 1.50倍 | 5,726人 | 5.1% |
建築・土木・測量技術者 | 6.65倍 | 1,849人 | 22.6% |
営業職業従事者 | 2.20倍 | 6,837人 | 13.7% |
一般事務従事者 | 0.28倍 | 47,271人 | 12.8% |
サービス職業従事者 | 2.32倍 | 20,280人 | 35.3% |
出所: 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」参考統計表7-2(全国計・常用〔パートを除く〕・原数値)。比率はOffersが算出。
一般職業紹介状況の職業別データで、倍率より目を引くのは右端の列です。紹介件数に対する就職件数の比率は、職業計の22.6%に対し、情報処理・通信技術者では5.1%と約4分の1にとどまります。ここには注意が要ります。
紹介件数と就職件数は、同じ月に起きたことを別々に数えた値です。就職件数には、求職者がハローワークインターネットサービスの求人に直接応募した就職も含まれます(厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」公表ページの注)。同じ人を追跡した集計とは違うので、7月に紹介された人が8月に決まる分も混ざります。
これを選考通過率や決定率と呼ぶことはできない。職種のあいだの相対差を見るための材料として扱うのが正しい使い方です。
同じ一般職業紹介状況で実数を見ると、差はさらにはっきりします。情報処理・通信技術者の就職件数は、令和8年7月の全国で332件でした。同じ月の有効求人は51,741件です。
一般職業紹介状況はハローワーク経由の就職だけを数えており、ハローワーク外で決まった採用の件数は含まず、有効求人との差には埋まっていない求人も含まれます。統計が直接示すのはそこまでですが、件数の開きを見る限り、この職種の採用の大半はハローワークの外側で起きていると考えられます。
新規求職者数が5,726人と少ないうえに、紹介件数に対する就職件数の比率も他職種より低い。同じ仕組みに乗せても、この職種では結果が出にくいということになります。
産業の側の数字からは、働く人が増えている産業だと分かります。厚生労働省の令和7年雇用動向調査では、情報通信業の入職率が13.6%、離職率が10.4%で、入職超過率は3.2ポイント。産業計の入職率14.7%・離職率13.7%と比べると入職率も離職率も低く、上回っているのは入職超過率(産業計1.0ポイント)だけです。
人の出入りが特に多いわけではなく、入る人が出る人を上回って純増している産業といえます。働く人は増えているのにハローワークでは決まりにくい。
この2つが同時に成り立つなら、ハローワーク以外の経路で接点を持つ設計が要ります。職種ごとの市場の見方はエンジニア中途採用とは?職種別の市場と進め方・成功事例にまとめました。
中途採用で使える母集団形成の手法6つ
中途採用で使える手法は6つに整理できます。並べる軸は2本です。1本は「非求職者に届くかどうか」、もう1本は「いつ母集団になるか」。前者だけで並べると、今期の計画に間に合う手法と間に合わない手法が同じ列に並んでしまいます。
手法 | 主に届く層 | 非求職者への到達 | 母集団になるまでの時間 | 向いている場面 |
|---|
求人広告 | 求職者 | 届きにくい | 今期に間に合う | 募集数が多く要件が標準的な職種 |
人材紹介 | 求職者 | 届きにくい | 今期に間に合う | 短期に母集団をつくりたい、選考工数を抑えたい |
求人検索エンジン | 求職者 | 届きにくい | 今期に間に合う | 応募単価を抑えて量を確保したい |
ダイレクトリクルーティング | 求職者と非求職者 | 届く | 今期から翌期 | 要件が狭く対象者数が限られる職種 |
リファラル | 非求職者 | 届く | 制度が定着してから | 社員と近い職種・技術領域 |
採用広報・自社メディア | 非求職者 | 時間差で届く | 半年から1年 | 同じ職種を継続的に採用する |
前半の3つは、候補者が求職活動を始めていることを前提にした手段です。求人広告と求人検索エンジンは自社の枠を見つけてもらう形、人材紹介は仲介者に探してもらう形で、いずれも入口は候補者の行動に依存します。労働力調査でいう転職等希望者の36.2%にあたる求職者の側が主戦場になります。ここでいう人材紹介は民間の職業紹介事業者を指し、前章で見たハローワークの紹介とは別の経路です。
後半の3つは、動いていない人に企業側から接触する手段です。企業から個別に声をかけるダイレクトリクルーティングの利用状況と費用は、ダイレクトリクルーティングとは?利用率と費用にまとめています。社員の人脈をたどるリファラル、自社の情報を継続的に出して認知を積む採用広報も、届く先は同じく非求職者の側です。
配分の考え方はこうなります。四半期で埋めたい人数のうち、求職者から集める分と非求職者から集める分を先に決め、それぞれに手法を割り当てる。職種によって求職者の絶対数が違うので、この比率は全社で1つに決めず職種ごとに置きます。前半だけで組むと、母集団の上限が求職者の人数で決まってしまいます。後半だけで組むと、今期の充足に間に合いません。両方を持ったうえで比率を決めるのが実務的な形です。エンジニア職に絞った具体例はエンジニア採用で母集団形成を成功させるにはが参考になります。
他社がどの経路で母集団をつくり、入社した人がどの経路から来ていたのかは、母集団形成の事例17社|採用経路と定着率で比較に厚生労働省の事例集などから並べました。手法の配分を決める前に、同じ規模・同じ職種の会社が実際に使った経路を確かめておくと、割り当ての見当がつけやすくなります。
手法別の費用構造と採用単価の見方
費用の形は3つに分かれます。成功報酬型(人材紹介)、掲載課金型や応募課金型(求人広告、求人検索エンジン)、定額型(ダイレクトリクルーティングの利用料、採用広報の運用費)。この違いは、母集団が計画どおりに集まらなかったときの損失の出方を変えます。
成功報酬型は採用できなければ費用が発生しないため、単発の欠員補充では読みやすい。反面、同じ職種を毎年続けて採用する場合は、採用人数に比例して費用が伸び続けます。掲載課金型は費用が先に確定するので、応募が集まらなかったときの単価が跳ね上がる。定額型は運用の工数を自社で負う代わりに、採用人数が増えるほど1人あたりの費用が下がっていきます。
判断は応募単価ではなく採用単価で行ってください。応募単価は分母が応募数なので、通過率の低い経路ほど有利に見えてしまいます。前述の通過率をかけ合わせれば、経路ごとの採用単価は計算できます。応募単価が半分でも、書類選考通過率が3分の1なら、採用単価は高くつくわけです。
自社の工数も同じ土俵に載せてください。Offers のスカウトでは面談1件に約35通の送信が必要でした。ここに面談から先の通過率を掛ければ、1人の採用に要る送信数が出ます。定額型は請求額が動かない代わりに、この送信数が自社の作業として乗る。成功報酬型は逆に、請求額の側に候補者を探す作業の分が含まれています。3つの型を比べるときは、請求額と自社の工数を足したうえで1人あたりに直してください。
もうひとつ、母集団形成の費用には時間軸の違いがあります。求人広告と人材紹介は今期の充足に直結し、採用広報とリファラルは半年から1年遅れて効果が出ます。前者だけに寄せると毎期同じ費用がかかり続け、後者だけに寄せると今期が埋まりません。年間の予算配分では、この時間差を分けて置いておくと判断がぶれにくくなります。
母集団形成がうまくいかない4つの原因
上位の記事は解決策を数多く並べていますが、原因の側から見ると、つまずき方は4つに集約できます。
ひとつめは、母集団の定義が応募者で止まっていることです。応募者だけを数えていると、打ち手は媒体の追加に限られ、労働力調査で転職等希望者の63.8%を占める非求職者は最初から視野の外に出ます。直し方は定義の変更で、母集団を「接点を持てた候補者」として数え直し、経路別に記録を分けるところから始めます。
ふたつめは、必要数を逆算していないことです。目標が「応募をできるだけ多く集める」になっていると、達成したのかどうかを判定できません。採用人数から通過率で割り戻した必要数を置けば、母集団が足りているかを毎週判定できるようになります。
みっつめは、職種の需給を見ずに全社共通の手法を使っていることです。厚生労働省の一般職業紹介状況によると、ハローワークが令和8年7月の1か月に受け付けた新規求職者は、情報処理・通信技術者が5,726人、一般事務従事者が47,271人で桁が違います。同じ月・同じ経路の数字なので比較はできますが、どちらもハローワーク経由に限った値で、職種によるこの経路の使われ方の差も混ざっている点は差し引いて読んでください。
それでも差は大きい。同じ手法・同じ予算配分で回している限り、需給が厳しい職種ほど計画から遅れ続けます。職種ごとに手法と単価の前提を分けてください。
よっつめは、量だけ増やして通過率が落ちていることです。母集団を増やす施策は、要件に合わない候補者を混ぜる形でも達成できてしまいます。3つの通過率を同時に見ていないと、選考工数だけが増えて入社人数が変わらない状態に気づけません。量の目標と質の目標は必ず対で置くのが安全です。
母集団形成は5つの手順で進める
ここまでの内容を実務の順番に並べ直したのが、次の5つの手順です。上から順に決めていけば、前の手順の答えがそのまま次の手順の入力になる。
手順 | 決めること | 使う数字 |
|---|
1. 範囲を決める | 母集団を応募者で数えるか、接点を持てた候補者で数えるか | 求職者と非求職者の比率 |
2. 必要数を逆算する | 採用人数から割り戻した接点の必要数 | 3つの通過率(自社の過去実績) |
3. 職種ごとの需給を確かめる | 求職者向けの手法だけで必要数に届くか | 職種別の求人倍率・求職者数 |
4. 手法と時間軸を割り当てる | 求職者から集める分と非求職者から集める分の比率 | 手法ごとの採用単価と自社の工数 |
5. 経路別に測って見直す | どの段階で抜けているか、次の四半期に何を直すか | 経路別の通過率 |
手順1で決めるのは母集団の範囲です。労働力調査(2026年4〜6月期平均)でいう転職等希望者、つまり仕事を変えたい人といまの仕事に加えて別の仕事もしたい人を合わせた969万人のうち、求職活動をしているのは36.2%。残りの63.8%には応募を待つ設計では届きません。この一点を認めるかどうかで、その後の手法の選び方が変わります。
手順2と手順5は対の関係です。採用人数から割り戻した必要数と、書類選考通過率・面接通過率・内定承諾率の3つを経路別に持てば、母集団が足りないのか、質が落ちているのかを分けて判断できます。Offers のスカウトデータで開封は59.7%まで届いているのに返信で抜けていたように、詰まりの位置も四半期ごとに確かめられる。
手順3と手順4では、職種ごとに手法を割り当ててください。一般職業紹介状況(令和8年7月分)で新規求職者が5,726人にとどまる情報処理・通信技術者のように、求職者の絶対数が少ない職種では、求職者向けの手法だけで必要数を満たすのは難しい。非求職者へ届く手段を、今期の充足とは別の時間軸で仕込んでおく必要があります。
自社の採用がいまどの水準にあるかを外形的に把握するところから始めたい場合は、エンジニア採用力チェックで現在地を確認できます。採点するのは候補者から見える公開情報で、選考の数値は扱いません。いまある接点のどこが抜けているのかは、手順5で経路別に記録する通過率で確かめてください。母集団の数を追加する前にそこを見るほうが、費用の効率は上がるはずです。