リファラル採用(社員紹介制度)は、制度を作っただけでは紹介が集まりません。社員が「誰に・どう声をかけ・どこへ申し込むか」で迷わないように、社内の決まりから友人への声かけ、選考後の連絡までの文面を一式で用意しておく必要があります。
ここでは、社員紹介制度を回すのに要る6種類の文書を、自社の名前と数字を入れればそのまま使える形で載せました。規程の雛形には、条文ごとに職業安定法・労働基準法のどの規定が根拠になるかの対応表も付けました。
リファラル採用で用意するテンプレートは6種類
社員紹介制度を回すには、社内の決まりを定める「規程」、社員に制度を知らせる「社内告知文」、社員が友人に送る「紹介依頼文」、人事が紹介を受け付ける「紹介受付フォーム」、人事から候補者への「初回連絡文」、紹介者に結果を返す「結果連絡文」の6種類を用意します。規程が無いまま告知だけを出すと、手当の条件を聞かれるたびに人事が個別に答えることになり、社員ごとに説明がずれる点に注意が必要です。
文書 | 誰から誰へ | 使う場面 |
|---|---|---|
社員紹介制度規程 | 会社から全社員へ | 制度の開始前に定め、就業規則の手続きに乗せる |
社内告知文 | 人事から社員へ | 制度の開始時と、募集職種が変わるたび |
紹介依頼文 | 社員から友人・知人へ | 社員が最初に声をかけるとき |
紹介受付フォーム | 社員から人事へ | 友人の了承を得たあと |
初回連絡文 | 人事から候補者へ | 受付から2営業日以内を目安に |
結果連絡文 | 人事から紹介者へ | 入社が決まったとき・見送ったとき |
作る順番は、規程を先に固め、そのあとで告知文と受付フォームを規程の条文に合わせて書くのが手戻りの少ない進め方です。告知文に書いた手当の条件と規程の条文が食い違うと、支給の段階で紹介者ともめる原因になります。制度全体の設計(目的・対象職種・運用の体制)から考える場合の全体像は、リファラル採用とは?仕組み・制度設計と社員紹介を回すコツにまとめました。
社員紹介制度規程のテンプレート(全9条)
社員紹介制度規程には、紹介手当を賃金として支払う条項と、社外の人への謝礼や候補者からの金品の受け取りを禁じる条項を必ず入れます。職業安定法第40条は、募集を行う会社が募集に関わった社員に与えてよい報酬を、賃金・給料その他これらに準ずるものに限っているためです。条文中の「〇」は自社の値に置き換えてください。
社員紹介制度規程
第1条(目的)
この規程は、社員が知人・友人を当社の採用選考に紹介する制度(以下「社員紹介制度」という)の手続きと、紹介した社員に支給する社員紹介手当について定める。
第2条(対象者)
1. 社員紹介制度を利用できるのは、当社と雇用契約を結んでいる社員とする。
2. 次の者は紹介者の対象外とする。
(1) 役員
(2) 人事部で採用業務を担当する者
(3) 紹介した候補者の選考で面接官または合否の判定者を務める者
第3条(対象となる求人)
紹介の対象は、人事部が社内に公開している中途採用の求人とする。対象の求人は人事部が社内ポータルに掲示し、随時更新する。
第4条(紹介の手続き)
1. 紹介者は、候補者本人から当社の連絡を受けることへの了承を得たうえで、所定の紹介受付フォームから申請する。
2. 同じ候補者について複数の申請があった場合は、先に受け付けた申請を有効とする。
3. 申請の時点で、候補者が他の経路(求人媒体・人材紹介会社など)から既に応募している場合は、社員紹介制度の対象外とする。
第5条(社員紹介手当)
1. 紹介した候補者が採用され、入社日から〇か月を経過した日に在籍している場合、紹介者に社員紹介手当として〇〇円を支給する。
2. 社員紹介手当は賃金として、前項の日の属する月の翌月の給与と併せて支給し、所得税その他法令で定めるものを控除する。
3. 支給日に紹介者が在籍していない場合は支給しない。
第6条(支給しない場合)
次の場合は社員紹介手当を支給しない。
(1) 候補者が内定を辞退した場合、または第5条第1項の期間内に退職した場合
(2) 第4条第3項に該当する場合
(3) 紹介者が第7条に違反した場合
第7条(禁止事項)
紹介者は、次の行為をしてはならない。
(1) 社員以外の者に謝礼を約束して、候補者を探させること
(2) 候補者から、紹介に関して名目を問わず金品を受け取ること
(3) 人事部の確認を経ずに、給与・役職その他の労働条件を候補者に約束すること
第8条(個人情報の取扱い)
紹介受付フォームで得た候補者の個人情報は、採用選考とその連絡のためにだけ使い、選考の終了後は当社の個人情報取扱規程に従って管理する。
第9条(改廃)
この規程の改廃は、労働者の過半数で組織する労働組合(無い場合は労働者の過半数を代表する者)の意見を聴いたうえで行う。
附則
この規程は、〇〇〇〇年〇月〇日から施行する。
規程の条文と職業安定法・労働基準法の対応
規程の第5条・第7条・第9条が、職業安定法と労働基準法のどの規定に対応するかは下の表のとおりです。社員が会社の制度に沿って友人に声をかける形は、厚生労働省の募集・求人業務取扱要領(令和7年6月)が定義する「直接募集」に当たり、原則として自由に行えます。同要領は、募集主の被用者が募集主の指示で直接働きかけて応募を勧誘することを直接募集に含めています。
規程の条文 | 入れる理由 | 根拠の条文 |
|---|---|---|
第5条第2項(賃金として給与と併せて支給) | 募集に関わった社員に与えてよい報酬は、賃金・給料その他これらに準ずるものに限られる | 職業安定法第40条 |
第5条第2項(所得税等の控除) | 賃金として払う手当は、俸給・給料・賃金などに係る所得である給与所得に当たる | 所得税法第28条第1項 |
第7条(1)(社員以外に謝礼を約束させない) | 社員以外の人に報酬を与えて募集に従事させるには、厚生労働大臣の許可と報酬額の認可が要る | 職業安定法第36条第1項・第2項 |
第7条(2)(候補者から金品を受け取らない) | 募集を行う者と募集受託者は、応募者からいかなる名義でも報酬を受けてはならない。募集・求人業務取扱要領は、募集従事者が受け取った場合も罰則の対象に挙げる | 職業安定法第39条・第65条第6号 |
第9条(改廃時の意見聴取) | 就業規則の作成・変更には、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴く | 労働基準法第90条第1項 |
出所:職業安定法・労働基準法・所得税法(e-Gov法令検索・2026年10月5日時点の現行条文)、厚生労働省職業安定局「募集・求人業務取扱要領」(令和7年6月)。
職業安定法第39条・第40条に違反した場合の罰則は、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(同法第65条第6号)。第7条(1)は、社員が受け取る手当を原資に社外の人へ謝礼を約束すると、会社が許可なく社外の人に募集をさせた形に近づくため、予防として置く条項です。手当の金額そのものの目安は、2,073社の調査をもとにしたリファラル採用の報酬相場|平均121,806円のデータにまとめました。
就業規則に載せる手順と届出
常時10人以上の労働者を使用する事業場は、紹介手当の定めを就業規則の手続きに乗せます。人数は会社全体ではなく、事務所・店舗などの拠点(事業場)ごとに数えます。労働基準法第89条が就業規則に書く事項として挙げるのは、賃金の決定・計算・支払の方法(第2号)と、臨時の賃金等の定めをする場合のその事項(第4号)で、作成・変更したときは労働基準監督署への届出も必要です。
手続きは次の3段階です。
- 就業規則の本則に「社員紹介手当は、社員紹介制度規程の定めるところによる」と1条を加え、上の規程を別規程として定める
- 過半数労働組合(無ければ過半数代表者)の意見を聴き、意見書を添えて所轄の労働基準監督署に届け出る(同法第89条・第90条)
- 規程を社内ポータルに掲示するなどして、全社員が見られる状態にする(同法第106条の周知)
紹介手当を第2号と第4号のどちらの事項として書くかは、支給の条件の決め方によって判断が分かれることがあります。自社の就業規則のどこに置くかは、顧問の社会保険労務士か所轄の労働基準監督署に確認してから届け出ると確実です。第3段階の周知は、後述の社内告知文に規程の掲載場所のURLを入れておけば、制度の案内と同時に済ませられます。
賃金規程に1条だけ足す簡易版
手当の条件が1種類だけで、別規程を作るほどでない会社は、既存の賃金規程に1条を足す形でも制度を始められます。簡易版でも、賃金として支給すること・支給の条件・支給しない場合の3点は省かずに書いてください。
第〇条(社員紹介手当)
1. 会社は、社員の紹介により採用された者が入社日から〇か月を経過した日に在籍している場合、紹介した社員に社員紹介手当として〇〇円を、その翌月の給与と併せて支給する。
2. 紹介された者が内定を辞退した場合、前項の期間内に退職した場合、または紹介した社員が支給日に在籍していない場合は支給しない。
3. 紹介の手続きその他の運用は、人事部が別に定める社員紹介制度の運用要領による。
簡易版で運用要領に回した部分(対象者の除外・禁止事項・個人情報の扱い)は、社内告知文と紹介受付フォームの注意書きで必ず社員に示してください。









