「リファラル採用の定着率は35.9%」。この数字をそのまま社内資料に書くと、意味を取り違えます。35.9%は紹介で入社した人の在籍率ではなく、募集方法を比べて紹介経由が「一番残った」と答えた企業の割合です。
国内で確かめられるのは、紹介経路を定着の面で最も高く評価する企業が多い、という事実までです。商工中金の調査と厚生労働省の委託調査という2つの調査が、そろってこの方向を示しています。
一方で、紹介で入社した人が何年後に何割残ったかを測った公的統計は見当たりません。「紹介経由は本当に定着するのか」に答えられるのは自社の数字だけで、そのために必要なのは入社者1人1行の台帳です。
国内のデータは「紹介経由が最も定着した」と答えた企業の割合
国内でリファラル採用の定着を示す数字として、商工中金の「中小企業の人材確保に関する調査」があります。取引先の中小企業に、実施したことがある募集方法のうち「最も人材が定着した方法」を尋ねた調査です。
リファラル採用を実施したことがある企業は46.4%でした。そのうえで最も定着した方法を尋ねると、自社従業員からの紹介による採用(リファラル採用)が35.9%で最も高く、縁故採用の33.3%が続きます。下の表は上位7項目です。
募集方法 | 最も人材が定着した方法に挙げた割合 |
|---|
自社従業員からの紹介(リファラル採用) | 35.9% |
経営者・役員の家族や取引先からの紹介(縁故採用) | 33.3% |
ハローワーク | 27.6% |
就職情報サイト・就職情報誌 | 25.1% |
人材紹介エージェント | 23.3% |
学校からの紹介・学校への求人票提出 | 22.5% |
ヘッドハンティング等 | 20.5% |
出所:商工中金「中小企業の人材確保に関する調査(2024年1月)」(2024年5月公表)・本問の回答3,648社。
35.9%は紹介で入社した人の在籍率ではない
商工中金の調査にある35.9%の分母は、リファラル採用を実施したことがある企業です。そのうち35.9%が、自社の募集方法の中で紹介経由が最も定着したと答えた、という意味になります。
したがって「紹介で入社した人の35.9%が残った」とも、「人材紹介より12.6ポイント定着率が高い」とも読めません。何年後に何人が在籍していたかは、この調査では尋ねていないからです。
読み取れるのは、募集方法を比べたときに紹介経路を「一番残った」と評価する企業が多い、という傾向です。同じ調査で、最も人材の確保に役立った方法にリファラル採用を挙げた割合は24.3%でした。人を集める経路としてより、残る人が来る経路として評価されています。
厚労省の委託調査でも離職率の低さを挙げる割合は紹介が突出
別の角度からの数字もあります。厚生労働省の委託調査は、採用手段ごとに「その手段を使う理由」を主なもの3つまで尋ねました。選択肢の1つが「就職後の離職率が低い」です。
採用手段 | 「就職後の離職率が低い」を理由に挙げた割合 | 回答件数 |
|---|
知り合い・社員等からの紹介(縁故) | 44.8% | 125件 |
公共職業安定所(ハローワーク) | 5.1% | 351件 |
民間職業紹介事業者(紹介会社) | 4.1% | 197件 |
自社HP等からの直接応募 | 3.6% | 168件 |
インターネットの求人情報サイト | 0.7% | 297件 |
出所:厚生労働省「令和3年度厚生労働省委託調査 採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査 報告書」(令和4年3月)図表IV-16。
紹介を使う企業の半数近くが、辞めにくさを理由の1つに挙げています。同じ図表で回答が100件以上ある手段は、紹介を除くとどれも5%前後かそれ未満です。紹介の次に高いのはインターンからの就職(15件中3件)とその他(5件中1件)の20.0%ですが、どちらも回答が20件に届きません。
紹介の回答件数は125件で、他の手段より少なめです。件数が少ないほど割合は振れやすくなりますが、この表の差は40ポイント近くあります。件数の少なさだけで説明できる幅ではありません。
ただし、これも企業が利用理由として選んだ割合です。紹介で入社した人の離職率を集計した数字とは、性質の異なる数字です。
2つの調査がそろって示すのは「企業の実感」まで
商工中金の調査と厚生労働省の委託調査は、対象も尋ね方も違います。それでも、紹介経路を定着の面で評価する企業が多いという方向は一致しています。
一方で、紹介経由の入社者が何年後に何割残るかを示す公的統計は、国内に見当たりません。雇用動向調査は入職者と離職者を別々に数えており、入社した人を追いかける設計になっていないからです。この構造は中途採用の定着率の測り方で詳しく扱っています。
したがって「リファラル採用の定着率は本当に高いか」に、国内の調査データだけで答えることはできません。言えるのは「定着の面で最も評価されている経路」までで、自社で高いかどうかは自社の数字で確かめることになります。ただ、定着率の数字だけを追っても、どこで崩れているかまではわかりません。募集・選考・入社後の受け入れまでを通して点検すると、紹介経路の数字がどこに位置づくかが見えてきます。
自社の採用の進め方を項目ごとに採点するエンジニア採用力チェックは、その点検に使える道具のひとつです。
紹介経由の人が残りやすいと考えられる理由
紹介経路が定着の面で評価される理由として、よく挙げられるのは次の3つです。いずれも仕組みとしての説明で、自社に当てはまるかは後で述べる測り方で確かめます。
理由 | 起きていること |
|---|
入社前に職場の実像が伝わる | 紹介者が良い面も大変な面も話すので、入社後の「思っていたのと違う」が小さくなる |
紹介者が相手を選んでいる | 合わなければ気まずくなるため、社員は自社に合いそうな知人に声をかける |
入社初日から知っている人がいる | 相談できる相手がいるので、最初の数か月の孤立が起きにくい |
1つめは、入社前に仕事の実態を良い面も悪い面も伝えるRJP(Realistic Job Preview=現実的な仕事情報の事前開示)と同じ働きです。紹介者の話と面接の説明が食い違うと、この働きは逆向きになります。紹介時に求人票や仕事内容の資料を渡しておけば、説明のずれは小さくなります。
商工中金の調査に回答した企業の自由記載には、次のような声がありました。不動産業の企業は、店舗の店長が声をかけて入社した社員が全員定着し、役職候補としての成長も他の中途社員より早いと書いています。同じ企業は、同業他社から引き抜く形になるので慎重に進めないと敵を作る、とも書いていました。
自社のリファラル定着率は入社時期で束ねて経路別に測る
自社で測るときは、同じ時期に入社した人を採用経路で分け、一定の月数が経った時点で何人が在籍しているかを数えます。分母は入社した時点で固定し、あとから入社した人を足しません。
紹介経由のNか月定着率(%) = 起点期間に紹介経由で入社した人のうち、Nか月後も在籍している人数 ÷ 起点期間に紹介経由で入社した人数 × 100
紹介以外の経路も同じ式で数え、2つを並べます。次の表は式の使い方を示すための仮の数字で、実在の企業のデータではありません。
経路(仮の例) | 入社 | 1年後の在籍 | 1年定着率 |
|---|
紹介経由 | 8人 | 7人 | 87.5% |
紹介以外 | 32人 | 24人 | 75.0% |
この例では紹介経由が12.5ポイント高く見えますが、それだけで制度の成果とは言えません。理由は後の節で扱います。定着率そのものの定義と、離職率を100から引いて代わりにできない理由は、定着率の計算式を扱った記事にまとめました。
集計は1人1行の台帳から始める
集計の元になるのは、入社者を1人1行で並べた台帳です。人事システムから書き出せる項目がほとんどで、紹介者の欄だけを足せば始められます。
列 | 書くこと | 後で使う場面 |
|---|
入社日・採用経路 | 紹介/人材紹介/求人サイト/直接応募など | 経路別に分母を作る |
職種・部門 | 配属時の職種と部門 | 同じ職種の中で経路を比べる |
紹介者 | 氏名と、その時点の在籍 | 紹介者の退職後の動きを追う |
在籍(3か月・1年・3年) | 各時点で在籍していたか | 定着率の分子を数える |
退職日・退職理由 | 退職した場合のみ | 率が下がった年の原因を探す |
観測点は3か月・1年・3年の3つを決めておく
何か月後を見るかは、集計を始める前に決めて、年をまたいでも変えません。見るタイミングごとに、わかることが違うからです。
観測点 | わかること |
|---|
3か月 | 入社直後のミスマッチ。紹介時の説明のずれが出やすい |
1年 | 配属先や上司との相性まで含めた定着 |
3年 | 評価や処遇を経たうえでの定着。経路の差が残るかを見る |
比べるときは母数・職種・紹介者の3点で数字がぶれる
紹介経由の定着率を他の経路と比べるときは、数字がぶれる原因を先に押さえておいてください。原因は主に3つです。
ぶれの原因 | 何が起きるか | 対処 |
|---|
母数が小さい | 紹介経由が8人なら、1人の退職で12.5ポイント動く | 複数年度を足して見る。率と一緒に人数を必ず書く |
職種や入社時期が偏る | 紹介は特定の職種や部門に集まりやすく、職種の差が経路の差に見える | 同じ職種・同じ年度の中で経路を比べる |
紹介者が先に辞める | 紹介者の退職後に、被紹介者の在籍がどう動くかが見えない | 台帳の紹介者の欄で在籍を追う |
母数の影響は、先ほどの仮の例で確かめられます。紹介経由の退職が1人増えるだけで、87.5%は75.0%になり、紹介以外と並びます。率だけで「紹介経由は定着する」と判断するのは、人数が20人程度たまってからにしたほうが安全です。
職種の偏りは、エンジニアの紹介が多い企業で起きやすい問題です。職種ごとに定着率が違えば、経路を比べたつもりで職種を比べていることになります。
紹介者の退職は、紹介経由ならではの論点です。紹介者との関係が入社の決め手だった人ほど、紹介者の退職が自分の在籍を考え直すきっかけになりえます。自社の台帳を見ないと確かめられないので、紹介者の欄は入社時に必ず埋めておいてください。
測った定着率は紹介報酬の支給条件と観測点にそろえる
経路別の定着率を測り始めたら、紹介報酬の支給条件もそれに合わせると運用がそろいます。たとえば入社後3か月の在籍を支給条件にすれば、3か月定着率の観測点と同じ日付で在籍を確かめる形です。
同じ調査の自由記載には、社員の紹介で入社した人が定着した場合に報奨金を出している企業(道路貨物運送)もありました。支給のタイミングを観測点にそろえておけば、報酬を払った紹介のうち何割が1年後も残ったかを台帳からそのまま追えるようになるのが利点です。
報酬額や支給時期の決め方はリファラル採用の報酬の決め方で、制度全体の設計はリファラル採用の仕組みと制度設計で扱っています。
年1回、人事担当が台帳から原因を切り分ける
集計は年度末に1回、人事担当が台帳から経路別・職種別の1年定着率を出す運用で足ります。紹介経由の率が他の経路より低い職種が見つかったら、制度をやめる前に、退職した人の行を1件ずつ見てください。
台帳の列を突き合わせると、原因はおおむね次の3つに分かれます。
台帳で見える兆候 | 考えられる原因 | 次の打ち手 |
|---|
3か月以内の退職が多く、退職理由が「聞いていた話と違う」 | 紹介時の説明と面接の説明のずれ | 紹介時に求人票と仕事内容の資料を渡す |
特定の部門に退職が集まる | 配属先の受け入れ | 経路を問わず、その部門の受け入れを見直す |
紹介者の退職の後に被紹介者が辞めている | 紹介者との関係に在籍が支えられていた | 紹介者が辞めるときに被紹介者と面談する |
1年目は件数が少なく、表の形にならないこともあります。それでも台帳を続けていれば、3年分がたまった時点で、自社のリファラル採用の定着率が本当に高いのかを、数字で答えられる状態になっているはずです。
リファラル採用の定着率で人事が押さえる要点
紹介経路が本当に定着するかは、公表されている調査の数字を借りるより、自社の入社者を経路別に台帳で数えて確かめます。国内で引かれる数字は企業の評価の集計なので、自社の判断材料には台帳の在籍率を使います。
- 国内の調査にある35.9%(商工中金)や44.8%(厚生労働省の委託調査)は、企業が紹介経路を定着の面で評価した割合で、入社した人の在籍を数えた数字とは別物。定着の面で最も評価されている経路とまでは言える
- 自社の定着率は、1人1行の台帳から同じ時期の入社者を経路で分け、3か月・1年・3年の観測点で在籍を数える
- 比べるときは母数・職種・紹介者の3点でぶれるので、人数を添えて同じ職種・年度の中で比べ、年1回、台帳の列から原因を切り分ける