中途採用の成果は、何人を採用したかではなく、その人たちが何人残ったかで決まります。ところが「うちの中途入社者の定着率は妥当なのか」を確かめようとすると、比べる先が見つかりません。
本記事は、中途入社者に絞って定着率をどう測るか、そして測った数字をどこと比べれば判断できるのかを、厚生労働省の一次資料までさかのぼって整理します。定着率という指標そのものの定義と、離職率から引き算できない理由は定着率の計算式と、離職率から引き算できない理由で扱っているため、ここでは繰り返しません。
中途入社者の定着率は入社時期で束ねた集団で測る
答えを先に書きます。中途入社者の定着率は、同じ時期に中途入社した人を分母に固定し、一定の月数が経った時点で何人が在籍しているかを数えた割合です。分母は起点で決めたら動かさず、あとから入社した人を足しません。
式にすると次のとおりです。
中途入社者の◯年定着率(%)= ◯年後の在籍者数 ÷ 起点となる期間に中途入社した人数 × 100
計算例で確かめます。2023年に中途入社した正社員が40人いて、2026年時点で28人が在籍していたとします。3年定着率は28÷40×100で70.0%です。ここに2024年と2025年の入社者を足すと数字は動きます。仮に3年間の中途入社が合計100人で、そのうち83人が在籍していれば83.0%になります。同じ会社の同じ日付でも、束ね方を変えれば13ポイント違う数字が出るわけです。
直近の採用が多い会社ほど、後者の数え方は高く出ます。入社してまだ日が浅い人は、まだ辞めるだけの時間が経っていないからです。分母を起点で固定するのは、この見かけ上の底上げを避けるためです。
出回る「中途採用の平均定着率」は割れている
自社の数字が出たら、次は「これは高いのか低いのか」を知りたくなります。ここで検索すると、平均値らしきものが見つかります。ただし、その値は一致しません。
本記事の執筆にあたり、この語の検索結果から9本を取得して全文を確認しました。中途採用に限った平均値を数値で示していたのは3本で、内容は次のとおりです。
ページが示す値 | 定着率に換算すると | ページが挙げる根拠 |
|---|
中途採用者の平均離職率は30%超 | 70%未満 | 出典の記載なし(「と言われています」) |
中途採用の定着率は50〜60%ほど | 50〜60% | 35〜49歳の転職経験者への調査(前職在籍3年未満が39%)からの逆算 |
中途の正社員定着率は企業規模を問わず70%近く | 70%近く | 中小企業庁『中小企業白書 2015年版』 |
3つの値は20ポイント近く離れています。しかも根拠の性質がそれぞれ違います。1つ目は出典を持ちません。2つ目は転職した個人に前職の在籍年数を尋ねた調査からの逆算で、母集団は「転職した人」であって「ある会社に入社した人」ではありません。転職しなかった人は最初から調査に入っていないため、この数字は企業側から見た残存率とは別のものを測っています。3つ目は出典を持ちますが、参照している白書は2015年の公表で、11年前の数字です。
つまり、どれを持ってきても自社の数字の良し悪しは判定できません。では、より新しくて確かな平均はどこかにあるのでしょうか。
公的統計に中途入社者の定着率が無い理由
労働移動の全国統計としてよく引かれるのが、厚生労働省の雇用動向調査です。2026年8月31日に令和7(2025)年の結果が公表され、調査対象は14,840事業所、集計した入職者は57,896人、離職者は73,332人にのぼります。規模の大きい調査です。
この調査は「入職前1年間に就業経験のある者」を転職入職者と定義しており、令和7年の転職入職者数は5,061.8千人、転職入職率は9.9%でした。中途入社の全国的な規模を知るには十分な数字です。
ところが、この調査から中途入社者の定着率は算出できません。理由は調査の組み立てにあります。同調査は事業所調査を土台に、入職者調査と離職者調査という2つの調査を別々に走らせる構造です。入職者票は入職した人に配られ、離職者票は離職した人について集められます。2つは別々に抽出された標本であり、同じ人を年をまたいで追いかける設計になっていません。
入職者調査が尋ねるのは、入職経路や前職に関することです。前職の産業、職業、離職期間、前の勤め先を辞めた理由、転職による賃金変動状況。いずれも「入ってくるまで」の話であり、入社したその人が翌年も在籍しているかは尋ねません。
離職者調査は勤続期間を尋ねます。これは近いように見えますが、測っているものが違います。辞めた人が何年勤めていたかの分布であって、ある年に入社した集団のうち何人が残ったかの割合とは別物です。分母が「その年の離職者」だからです。
したがって、転職入職率9.9%は「1年間に入ってきた割合」であって「入った人が残った割合」ではありません。国の統計に中途入社者の定着率が載っていないのは、集計の手間の問題ではなく、そもそもそれを測る設計になっていないからです。今回確認した9本のうち、この構造に触れていたページはありませんでした。
外部の数字が使えるのは、全社の入れ替わりを見るときだけ
では外部の統計はまったく役に立たないのか。そうとも限りません。使いどころを一段ずらせば、雇用動向調査は中途採用の判断材料になります。
同調査の付属統計表2-2 は、産業別・就業形態別に入職率・転職入職率・離職率・入職超過率を並べています。一般労働者の主な数字は次のとおりです。
産業(一般労働者) | 入職率 | 転職入職率 | 離職率 | 入職超過率 |
|---|
産業計 | 12.0% | 8.5% | 11.4% | 0.6ポイント |
情報通信業 | 13.1% | 9.0% | 10.0% | 3.1ポイント |
金融業,保険業 | 8.6% | 4.3% | 6.3% | 2.3ポイント |
建設業 | 10.0% | 6.9% | 7.9% | 2.1ポイント |
製造業 | 8.8% | 6.0% | 9.2% | -0.4ポイント |
卸売業,小売業 | 8.9% | 6.0% | 8.5% | 0.4ポイント |
医療,福祉 | 13.1% | 9.3% | 13.6% | -0.5ポイント |
宿泊業,飲食サービス業 | 24.4% | 17.8% | 21.5% | 2.9ポイント |
出所:厚生労働省『令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況』付属統計表2-2
転職入職率は「常用労働者100人あたり、1年間に何人が中途入社で入ってくるか」を示します。情報通信業の一般労働者では9.0人です。同じ年に離職したのは10.0人でした。入れ替わりが速い産業では、中途採用は欠員補充と拡大の両方を同時に担っていることが読み取れます。
ここで注意が要ります。この表の離職率は分母が1月1日現在の常用労働者数で、全社員が対象です。中途入社者の定着率は分母が入社した集団なので、両者は別の母集団を測っています。離職率10.0%を100から引いて「情報通信業の中途採用の平均定着率は90.0%」と読んではいけません。産業計の11.4%を引いて88.6%と書くのも同じ誤りです。
外部の数字と正しく突き合わせられるのは、自社でも同じ定義の指標を作ったときだけです。自社の年間離職者数を1月1日現在の在籍者数で割れば、この表と同じ土俵の数字になります。それを産業の値と並べれば、自社の入れ替わりが同業より速いのか遅いのかがわかります。離職率の作り方は離職率の計算式と、令和7年の13.7%を参照してください。
整理すると、比較の使い分けは2本立てになります。全社の入れ替わりの速さは外部の産業別統計と比べる。中途入社者の定着率は、次に述べるとおり自社の内側と比べる。この2つを混ぜないことが、数字を判断に使うための前提です。
自社で測るときは、起点・母集団・観測点の3つを先に固定する
中途入社者の定着率を自社で作るときに決めるのは3つです。集計を始める前に決め、決めたら年をまたいでも変えません。
固定するもの | 決め方 | 動かすと起きること |
|---|
起点 | 入社月または入社年度。どちらでもよいが以後は統一する | 年度と暦年が混ざると前年と比べられない |
母集団 | 中途入社の正社員全員か、職種・部門で区切るか | 人数の多い部門の傾向に、見たい職種が埋もれる |
観測点 | 3か月・6か月・12か月・36か月から選び、複数なら全部併記する | 期間の異なる数字が同じ表に並び、比較にならない |
観測点は12か月を軸に置き、3か月と6か月も同時に出すことをおすすめします。最終的な残存率が同じでも、辞める時期が前寄りか後ろ寄りかで手を打つ場所が変わるからです。入社3か月以内に集中しているなら受け入れと初期の期待値調整、12か月を越えてから増えるなら処遇と役割の設計、というように切り分けられます。
母集団を区切るときは、人数が少なくなりすぎないよう気をつけてください。分母が10人を切ると、1人の退職で10ポイント以上動きます。少人数の職種なら、年をまたいで束ねるか、四半期ではなく年単位で見るほうが安定した数字です。
数字を出したら、必ず分母と期間を添えて社内に共有します。「中途入社者の12か月定着率85.0%(2025年入社・正社員・n=40)」のように書けば、半年後に別の人が見ても同じ意味で読めるはずです。
妥当かどうかは、前年の同じ集団との差で判断する
外部に比較できる平均が無い以上、妥当性の判断は自社の内側で作ります。作れる比較は3つです。
1つ目は時系列です。前年、前々年の同じ観測点の数字と並べます。同じ定義で作った数字どうしなので、差がそのまま変化を意味します。 2つ目は職種・部門別です。同じ年の同じ観測点で切り分ければ、どこで抜けているかが特定できます。 3つ目は募集経路別です。経路ごとに定着率が違うなら、採用の入口の設計に手がかりがあります。
「何%なら合格」という線は引けません。引けるのは方向と幅だけです。前年より5ポイント落ちたなら理由を探す、3年続けて同じ水準なら現状の設計が安定していると読む。この判断の粒度で十分に実務は回ります。
初回の集計では比較先がまだありません。その場合は過去にさかのぼって作ります。人事システムに入社日と退職日が残っていれば、過去3年分の12か月定着率は後から計算できます。最初の1年を待つ必要はありません。
入口の設計そのものに手を入れる段階では、自社の採用要件と提示条件が市場とどれだけ離れているかを見ておくと判断が速くなります。株式会社overflowが提供するエンジニア採用力チェックでは、募集条件を入力すると採用市場での位置づけを確認できます。
数字が落ちたときは、辞めた理由と入口の条件を突き合わせる
定着率が前年より落ちたときに、まず見るのは辞めた理由です。ここでも雇用動向調査が参照点になります。同調査の表5 は、転職入職者が前職を辞めた理由を年齢階級別に集計しています。
中途採用の中心になる年齢層を見てみましょう。男性の30〜34歳の行には、内訳をまとめた区分として「その他の個人的理由」13.7%と「その他の理由(出向等を含む)」11.8%が入っています。この2つを除いた順序は、「給料等収入が少なかった」13.4%、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」13.0%、「会社の将来が不安だった」10.0%、「仕事の内容に興味を持てなかった」9.0%でした。女性全体では「その他の個人的理由」23.8%を除くと「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.9%、「職場の人間関係が好ましくなかった」11.5%が上位です。
同じ調査の表6 によれば、転職入職者のうち前職と比べて賃金が「増加」した人は40.8%、「減少」は31.0%、「変わらない」は25.5%でした。1割以上の増加は28.2%です。転職で処遇が上がる人が4割を占める市場で、退職理由の上位に収入と労働条件が並んでいる。この2つを重ねると、定着率が落ちたときに最初に確かめるべき場所が見えてきます。入社時に提示した条件と、実際の処遇や働き方のあいだにどれだけ差があったかです。
自社の退職面談の記録を、この分類に合わせて集計してみてください。全国の分布と自社の分布がずれている項目が、その会社に固有の課題です。全国と同じ形なら、市場全体の動きの中にいるということなので、優先順位は下がります。
原因の類型と改善の具体策は中途採用の離職率が高くなる理由と改善策、入社後の受け入れ設計はオンボーディングの設計を参照してください。入口の条件そのものを見直す段階なら、エンジニア採用力チェックで募集要件の位置づけを確認しておくと、面談記録の読み方が定まります。
中途入社者の定着率を、判断に使える数字にするために
本記事の要点は4つです。
第一に、中途入社者の定着率は入社時期で束ねた集団を分母に固定して測ります。あとから入社した人を足すと、採用が増えているだけで数字が上がります。
第二に、公的統計に中途入社者の定着率はありません。雇用動向調査は入職者と離職者を別々の標本で調べており、同じ人を追う設計になっていないためです。世に出ている「中途採用の平均定着率」は、出典を持たないか、別の母集団の調査からの逆算か、10年以上前の資料に基づくものでした。
第三に、外部の統計と比べられるのは全社の離職率までです。産業別・就業形態別の入職率・転職入職率・離職率と自社の同じ定義の数字を並べれば、入れ替わりの速さは判断できます。ただし離職率を100から引いて中途の定着率に読み替えることはできません。
第四に、妥当性の判断は自社の時系列・職種別・経路別の3つで作ります。合格ラインは引けませんが、方向と幅がわかれば手を打つ場所は決まります。
比べる先が無いことを理由に測るのをやめると、採用の投資対効果は永久にわかりません。定義を固定して1年分積むところから始めれば、翌年には自社だけの基準ができます。