人材紹介の費用を調べると、どのページでも理論年収に対する料率に行き着きます。中心は35%前後で、下は30%、上は50%までと書き方はまちまちです。ところが、その数字を自社の予算に置き換えようとした瞬間に手が止まります。どの職種の、年収いくらの人を、何人採用するのかが決まっていなければ、料率だけでは1円も見積もれないからです。
実際に企業が支払った金額なら、職種ごとに毎年公表されています。この記事は、その集計を職種別に開いて、1件あたりいくらが動いているのかを確かめます。人材紹介の仕組みそのものや契約の条件は人材紹介の仕組みと手数料の制度、契約と返戻金にまとめてあるので、ここで扱うのは金額の話だけです。
人材紹介の費用は料率ではなく、料率と年収の積で決まる
人材紹介の費用は、採用が決まったときにだけ支払う成功報酬が中心で、金額は「料率 × 想定年収」で決まります。ところが料率のほうには公開された公式の統計が無く、上位の解説記事も会社ごとの目安を示すにとどまります。実際に支払われた金額なら職種別の集計があり、厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)から本稿で算出すると、常用就職1件あたりの手数料は製造技術者で約116.1万円、法人・団体管理職員で約288.3万円となり、開きは約2.5倍にのぼります(本稿で算出)。
つまり、料率を1ポイント値切る交渉より、どの職種を人材紹介で採用するかの判断のほうが、支払総額を大きく動かします。同じ会社に依頼していても、営業を1人採用するのとエンジニアを1人採用するのとでは、請求書の金額が変わります。
予算を立てる側から見ると、必要なのは料率の相場ではなく、自社が採用したい職種の1件あたりの実額です。ここから先は、その実額を職種別に見ていきます。
1件あたりの実額は毎年公表されている
人材紹介で実際に支払われた金額は、厚生労働省が毎年公表しています。有料職業紹介の事業者には職業安定法にもとづく事業報告の義務があり、その集計が「職業紹介事業報告書の集計結果」です。企業への聞き取り調査ではなく、事業者が実際に受け取った手数料の集計である点が、相場の記事に出てくる数字との最大の違いになります。
同省の「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)によれば、令和6年度の常用就職1件あたりの手数料は約103万円で、前年度から10.9%増えました。手数料収入は約9,835億円(対前年度比17.6%増)、うち常用就職に係る手数料が約9,136億円(16.8%増)です。
この約103万円が何を測った金額なのか、含まれていない費目は何か、徴収された手数料の内訳がどうなっているかは、採用単価の定義と、公的統計でわかる1件あたりの実額で扱っています。本記事が扱うのはその先です。約103万円はすべての職種を均した平均値なので、自社が採用したい職種の予算にはそのままでは使えません。同じ集計は職種別の表も持っているので、そちらを開きます。
職種別の1件あたり手数料は116万円から288万円まで開く
職種別の1件あたり手数料は、技術職で116万円から165万円、営業と企画・人事で142万円から183万円、管理職と経営・金融の専門職では270万円を超えます。下の表は、厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)の職種別「手数料合計」を、同じ職種の「常用就職件数(有料)」で割って本稿で算出したものです。
職種 | 1件あたり(本稿で算出) | 常用就職件数 | 手数料合計 |
|---|
法人・団体管理職員 | 約288.3万円 | 16,007件 | 46,153,285千円 |
経営・金融・保険の専門的職業 | 約270.0万円 | 11,346件 | 30,633,183千円 |
研究者 | 約188.1万円 | 3,167件 | 5,956,584千円 |
総務・人事・企画事務の職業 | 約182.8万円 | 25,716件 | 47,006,275千円 |
開発技術者 | 約165.0万円 | 19,339件 | 31,905,124千円 |
情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発を除く) | 約164.1万円 | 26,882件 | 44,105,211千円 |
情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発) | 約150.5万円 | 39,780件 | 59,879,286千円 |
営業の職業 | 約141.9万円 | 89,563件 | 127,122,718千円 |
建築・土木・測量技術者 | 約138.9万円 | 26,230件 | 36,440,187千円 |
製造技術者 | 約116.1万円 | 19,304件 | 22,408,126千円 |
(参考)全職種を同じ方法で割った値 | 約110.6万円 | 888,993件 | 983,454,157千円 |
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)の「3.就職状況(1)常用就職件数(有料)」と「4.手数料徴収状況(1)令和6年度」。1件あたりの金額は本稿で算出した派生値で、原典には印字されていません。
読み方の勘所は3つあります。第一に、エンジニア(情報処理・通信技術者)の1件あたりは約150万円から164万円で、全職種の水準より3割から5割高い位置にあります。第二に、最も低い製造技術者と最も高い法人・団体管理職員の差は約2.5倍です。第三に、同じ「技術者」でも製造技術者は約116.1万円で、ソフトウェア開発より約34万円低いところにあります。職種をひとくくりにした相場は、この差を全部ならしてしまいます。
算出の方法と、この数字が上振れする理由
この表の金額は、原典に載っている値ではなく、2つの表を割って本稿で算出した派生値です。そのため、実際に企業が支払っている1件あたりよりは高めに出る数字です。理由を先に書いておきます。
分子の「手数料合計」には、常用就職に係る手数料だけでなく、臨時日雇の紹介で受け取った手数料も含まれています。一方、分母の「常用就職件数」は常用就職だけを数えた件数です。つまり、臨時日雇の紹介が多い職種ほど、分子だけが膨らんで1件あたりが大きく出ます。
上振れの幅は測れます。厚生労働省の同じ集計で、全職種を本稿と同じ方法で割ると約110.6万円になりますが、同省が公表している常用就職1件あたりの手数料は約103万円です。差は約7%で、この方法は実額を1割弱ほど高めに見せることになります。表の数字は、上限に近い目安として読むのが正しい使い方です。
臨時日雇の混入が無視できない職種は、表から外しました。混入の度合いは、同集計の「(4)臨時日雇就職延数(有料)」を同じ職種の常用就職件数で割れば測れます。この比が大きいほど、分子だけが膨らんだ数字になります。荷役・運搬作業員は7,551,706人日を1,080件で割って常用就職1件あたり6,992人日、家政婦(夫)は66.35人日、看護師・准看護師は12.22人日、一般事務・秘書・受付の職業は5.81人日でした(いずれも本稿で算出)。荷役・運搬作業員を同じ方法で割ると1件あたり1,273万円という、実態とかけ離れた数字になります。表に残した10職種はこの比が0.40人日以下に収まり、最も高い開発技術者で0.40人日、最も低い経営・金融・保険の専門的職業で0.09人日です。なお表は全職種を尽くしたものではありません。企業が中途採用で人材紹介を使う代表的な職種に絞ってあります。
紹介件数の伸びは技術職と管理部門に集中している
人材紹介を通じた就職件数は全体で年5.3%増えていますが、その内訳は職種によって正反対を向いています。厚生労働省が公表した令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報・2026年3月31日)の「3.就職状況(1)常用就職件数(有料)」で令和5年度と令和6年度を比べたものが下の表です。
職種 | 令和5年度 | 令和6年度 | 対前年度増減率 |
|---|
総務・人事・企画事務の職業 | 18,957件 | 25,716件 | 35.7% |
製造技術者 | 14,467件 | 19,304件 | 33.4% |
建築・土木・測量技術者 | 19,743件 | 26,230件 | 32.9% |
開発技術者 | 15,372件 | 19,339件 | 25.8% |
営業の職業 | 77,586件 | 89,563件 | 15.4% |
一般事務・秘書・受付の職業 | 55,609件 | 63,152件 | 13.6% |
情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発) | 35,709件 | 39,780件 | 11.4% |
看護師、准看護師 | 88,561件 | 79,412件 | △10.3% |
医師 | 23,553件 | 19,324件 | △18.0% |
有料計 | 843,950件 | 888,993件 | 5.3% |
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)の「3.就職状況(1)常用就職件数(有料)」。増減率は同表に印字された値です。
全体の5.3%という伸びは、技術職・管理部門の2桁増と、医療系の減少を打ち消し合った後の数字です。事業会社が人材紹介で競っている職種に限れば、体感はこの数字よりずっと速く動いています。同じ職種の紹介がこれだけ増えているということは、紹介会社の側から見れば供給が追いつかない領域が続いているということでもあり、料率を下げる方向の交渉は通りにくくなります。
エンジニアは手数料の総額で2番目に大きい職種になっている
人材紹介会社が最も多くの手数料を受け取っている職種は営業で、次がソフトウェア開発のエンジニアです。厚生労働省が2026年3月31日に公表した令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)の「4.手数料徴収状況」によると、令和6年度の手数料合計は営業の職業が127,122,718千円、情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発)が59,879,286千円で、看護師・准看護師の59,824,318千円をわずかに上回りました。全職種の合計983,454,157千円に対して、ソフトウェア開発1職種で6.1%を占めます(本稿で算出)。
件数の側でも、ソフトウェア開発の常用就職は39,780件で、営業89,563件、看護師・准看護師79,412件、一般事務・秘書・受付63,152件に次ぐ規模です。件数の順位(4位)より金額の順位(2位)が高いのは、1件あたりが高いからにほかなりません。
この構図は、エンジニア採用の予算を組む立場から見ると重い意味を持ちます。市場全体で見て、人材紹介の費用が最も集中している領域のひとつに自社も入っている、ということです。同じ職種を毎年複数名採用する計画であれば、1件あたり約150万円が採用予定人数ぶん、毎年そのまま積み上がります。職種を絞った会社選びはエンジニア採用エージェントの費用相場と選び方をご覧ください。自社の採用計画でこの金額が何年ぶん積み上がるのかを一緒に見立てたい場合は、OffersのAI RPOから相談できます。
課金モデルは3つあるが、動いている金額はほぼ1つに寄る
人材紹介の課金モデルは、大きく3つに分かれます。採用が決まったときだけ支払う成功報酬型、契約時に着手金を支払い成否によらず費用が発生するリテーナー型、そして法令が料率の上限を定めている上限制手数料です。実務で企業が向き合うのは、ほぼ成功報酬型の1つだけになります。
厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第6 手数料(令和8年7月31日適用)が定める上限制手数料の最高額は、支払われた賃金額の100分の11(免税事業者は10.3)です。ただしこれには例外があり、期間の定めのない雇用契約で同一の人が引き続き6か月を超えて雇用された場合は、6か月間の賃金額の100分の11と、臨時に支払われる賃金および3か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除いた額の100分の14.8(免税事業者は13.9)のうち、大きいほうまで認められます。正社員の中途採用はこの類型に当たるため、上限制でも天井は11.0%で止まりません。一方の届出制手数料について同要領が定めているのは、厚生労働大臣に届け出た手数料表の額を徴収できるところまでです。成功報酬型として運用されているのはこの届出制の側で、料率の天井は法令には無く、契約で決まります。制度の詳細と、どちらの方式が自社の契約に適用されるのかは人材紹介の仕組みと手数料の制度、契約と返戻金で整理しています。
職種の単位で見ても、この偏りは変わりません。同じ集計結果(厚生労働省・2026年3月31日公表)の「4.手数料徴収状況」によれば、情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発)で徴収された手数料59,879,286千円のうち、届出制手数料は59,664,959千円で99.6%を占めます(本稿で算出)。同じ職種の求人受付手数料は0千円でした。
エンジニア採用に限れば、依頼の入り口で企業から徴収されている手数料は、集計上ゼロだということです。同要領は求人受付手数料を1件につき710円(免税事業者は660円)まで認めていますが、この職種では実際には徴収されていません。着手金や掲載料の交渉余地を探すより、成功報酬の条件そのものを詰めたほうが実になります。リテーナー型の各論はヘッドハンティングの仕組みと費用にまとめました。
実額から料率を割り戻すと、想定年収の水準が見えてくる
1件あたりの実額と料率の相場が両方そろうと、その職種で人材紹介が扱っている年収帯を逆算できます。ソフトウェア開発の1件あたり約150.5万円を料率30%で割り戻すと想定年収は約502万円、35%なら約430万円です(いずれも本稿で算出した逆算値)。
下の表は、想定年収と料率から支払額を単純に掛け合わせたものです(本稿で算出)。自社の求人票に書いている年収帯を当てはめて、先ほどの職種別の実額と見比べてください。
想定年収 | 料率30%のとき | 料率35%のとき |
|---|
400万円 | 120万円 | 140万円 |
500万円 | 150万円 | 175万円 |
600万円 | 180万円 | 210万円 |
700万円 | 210万円 | 245万円 |
900万円 | 270万円 | 315万円 |
ソフトウェア開発の1件あたり約150.5万円は、この表では年収500万円に料率30%を掛けた位置にほぼ重なります。全国のすべての事業者と年収帯を均した平均なので、ハイクラス層を狙う求人ではここから上に外れると考えたほうが実態に合います。
自社が採用したいエンジニアの想定年収がこの水準より高いなら、支払額は表の金額より上に出るはずです。年収700万円で料率35%なら1件245万円で、これは表の管理職の水準に届きます。逆算はあくまで目安ですが、料率の相場という情報だけを持って予算を立てるより、はるかに事前の見積もりの役に立つはずです。
この読み方には、もうひとつの含意があります。人材紹介の費用は、採用がうまくいくほど増える構造だということです。良い候補者に出会って年収を引き上げて提示すれば、手数料もその分だけ上がります。費用を抑える動機と、採用を成功させる動機が、支払額の上では逆を向きます。
1件あたりを下げる手段は料率交渉ではない
同じ職種を毎年採用し続ける会社にとって、1件あたりの費用を下げる現実的な手段は、料率の交渉ではなく、候補者と出会う経路を自社側に持つことです。人材紹介の手数料は入社ごとに発生するため、来年も再来年も同じ金額がかかります。一方、自社で母集団を持てば、費用は件数ではなく運用の工数に紐づく形へ変わります。
ただし、置き換えはただでは進みません。Offers(株式会社overflow)調べ・n=31,000・2025年3月〜2026年2月に送信した正社員求人のスカウト(候補者×企業ペア・送信から6か月以上の熟成期間を確保)で、開封は59.7%、返信・メッセージ開始は6.2%、面談は2.9%でした。面談1件を作るのに必要なスカウトは約35通という計算になります。同じ集計では、返信が取れた候補者の46.1%が面談まで進んでいます。詰まっているのは返信の1点で、開封されないことが原因ではありません。
言い換えると、自社採用への切り替えで消えるのは費用そのものではなく、費用の形です。人材紹介では手数料という形で外に出ていたものが、スカウトの作成と返信対応という工数の形で社内に移ります。この工数を人手で受け止めきれなければ、結局は紹介に戻ることになります。
工数の側を仕組みで埋めながら候補者との接点を自社に残したい場合は、OffersのAI RPOで自社の進め方を相談してみてください。
人材紹介の費用を見積もるときの要点
人材紹介の費用は成功報酬が中心で、金額は料率と想定年収の積で決まります。料率には公開された公式の統計がありませんが、実際に支払われた1件あたりの金額は職種別に毎年公表されており、職種によって約2.5倍ひらきます。予算を立てるときに見るべきは、相場の料率ではなく、自社が採用したい職種の実額です。
実務では、次の順番で考えると迷いにくくなります。
- 採用したい職種を先に決めてから金額を見る。全職種平均の約103万円は、技術職と管理職と医療職を同じ袋に入れた数字なので、そのままでは予算に使えない
- 職種別の実額に、自社の想定年収を重ねる。1件あたりの実額を料率30〜35%で割り戻せば、その職種で人材紹介が扱っている年収帯の見当がつく
- 交渉の的を入り口ではなく成功報酬の条件に置く。エンジニア職では求人受付手数料の徴収額が0円で、動いている金額の99.6%は届出制の成功報酬にある
- 同じ職種を毎年採用する計画なら、費用の形を変える選択肢まで並べて比べる。人材紹介は入社ごとに発生し、自社採用は工数として社内に残る
人材紹介は、費用が高いから避けるべき手段ではありません。1件あたりいくらかかるのかを職種の単位で押さえたうえで、毎年その金額を払い続ける計画なのかを決めることが、予算の議論の出発点になります。