「うちの承諾率は低い」という会話は、採用の現場でよく交わされます。ところが同じ会議で、ある人はスカウトへの返事の割合を、別の人は内定を出した後の割合を思い浮かべていることがあります。数字は一つでも、分母が違えば別の指標です。
この記事が扱うのは、承諾率の定義と分母の置き方、基準値の決め方、自社の数字の読み方の4点です。辞退を防ぐ打ち手そのものは扱いません。
承諾率の定義と、この記事で扱う範囲
承諾率とは、こちらから打診した件数のうち、相手が承諾した件数の割合です。式は「承諾した件数 ÷ 打診した件数 × 100」で、ここまではどの解説も一致します。
意味が割れるのは、分子ではなく分母のほうです。何をもって「打診した」と数えるかが決まっていないと、率そのものを比較できません。
この記事で扱うのは次の3点です。
- 承諾率の分母がどこで割れるか
- 段階ごとの基準値をどう置くか
- 自社の数字をどう読むか
辞退が起きる理由と、それを防ぐ打ち手は内定辞退防止の記事にまとめてあります。内定を出した後の面談の進め方は、内定者面談の記事を参照してください。本記事では重複させません。
分母の置き方で承諾率は3つに分かれる
中途採用の現場で「承諾率」と呼ばれている数字は、少なくとも3つあります。分子は「承諾した件数」で揃うことが多いのですが、分母が段階ごとに違います。下の表は、その3つを分母の順に並べたものです。
呼ばれ方 | 分子 | 分母 | 何を測っているか |
|---|
スカウト(オファー)承諾率 | スカウトに応じた候補者数 | スカウト送付数 | 母集団づくりの入口の反応 |
面談・選考の承諾率 | 次の選考へ進んだ候補者数 | 打診した候補者数 | 選考過程の離脱の少なさ |
内定承諾率 | 内定を承諾した人数 | 内定を出した人数 | 出口での選ばれやすさ |
この3つは水準が数倍から数十倍まで違います。入口に近いほど分母が大きく、率は小さく出ます。逆に出口へ近づくほど分母は小さくなり、率は大きくなるのが普通です。
だから「承諾率70%」という数字だけでは、良し悪しを判断できません。どの段階の話かを先に確認する必要があります。段階ごとの数字をつなげて見る方法は、採用の歩留まりの記事を参照してください。
国の統計も、同じ分子から2つの率を出している
分母で率が変わることは、国の統計そのものが示しています。厚生労働省の職業安定業務統計は、同じ就職件数を分子に置きながら、分母を変えた2つの率を公表しています。令和8年7月分の第1表(新規学卒者を除きパートタイムを含む)の全数は、次のとおりです。
項目 | 値 |
|---|
就職件数(分子) | 87,409件 |
新規求職申込件数 | 369,159件 |
新規求人数 | 826,561人 |
就職率(就職件数 ÷ 新規求職申込件数) | 23.7% |
充足率(就職件数 ÷ 新規求人数) | 10.6% |
出所:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」(令和8年8月28日公表)第1表。
分子はどちらも同じ87,409件です。それでも、求職者側を分母に置けば23.7%、求人側を分母に置けば10.6%になります。同じ現象を測っているのに、開きは2.2倍です。
用語の定義も、同じ統計のページに公表されています。就職率は就職件数を新規求職申込件数で除して算出し、充足率は全国計では就職件数を新規求人数で除して算出します。どちらも定義どおりに算出された正しい数字です。
さらに充足率には、集計の単位による分子の違いもあります。全国計は就職件数を使い、都道府県別は充足数を使うと定義に明記されています。同じ名前の率でも、集計の単位が変われば中身が変わるということです。
分母に何が混ざっているかで率は動く
分母を決めても、そこに何が入っているかで率は動きます。厚生労働省は、自らの統計にその注記を付けています。第2表(雇用形態別常用職業紹介状況)の注は、正社員の有効求人倍率について「厳密な意味での正社員有効求人倍率より低い値となる」と断っているのです。
理由は、分母である求職者数に、派遣や契約社員を希望する人が含まれているためです。分母に対象外の人が混ざれば、率は実態より低く出ます。国の統計でさえ、そのずれを注記したうえで公表しています。
より示唆的なのは、第2表の正社員区分に就職率の行が存在しないことです。就職率と充足率のうち、載っているのは充足率だけになります。
第2表 正社員区分(令和8年7月・抜粋) | 値 |
|---|
新規求人数 | 411,725人 |
就職件数 | 33,950件 |
充足率(就職件数 ÷ 新規求人数) | 8.2% |
就職率 | 掲載なし |
出所:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」第2表。
正社員を希望する求職者だけを切り出した分母が取れないため、率を出していないと読めます。分母が定義できないときは率を出さない、という判断です。
自社の承諾率でも、同じことが起こります。分母に何を含め、何を除くかを決められないなら、その率は出さないほうが安全です。
オファー承諾率は業界で12.3%から22.9%に分かれる
入口に近い承諾率が実際にどの水準になるかを、自社のデータで示します。Offers では、企業から候補者へ送るスカウトを「オファー」と呼んでいます。その承諾率を業界カテゴリごとに集計したものが、下の表です。
業界カテゴリ | 企業数 | 平均オファー承諾率 |
|---|
AI / LLM | 15社 | 22.9% |
エンターテインメント・ゲーム・コンテンツ | 45社 | 21.8% |
ソフトウェアサービス事業会社(広域) | 39社 | 19.4% |
サイバーセキュリティ | 15社 | 18.4% |
医療・ヘルスケア・MedTech | 76社 | 17.2% |
EC・小売 | 39社 | 16.2% |
EdTech・教育 | 17社 | 14.8% |
通信・インフラ | 12社 | 13.8% |
アパレル・ファッション | 30社 | 12.3% |
出所:Offers 採用事例レポート(株式会社overflow・Offers 事例DB・n=288・2025年1月26日時点)。
分布は12.3%から22.9%までで、9業界の中央値は17.2%です(Offers 調べ・n=288・2025年1月時点)。分母がスカウト送付数なので、10件送って1件から2件が受けるという水準になります。
一方、内定を分母に置いた承諾率は、まるで違う水準になります。マイナビ「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」(調査時期2025年12月)の内定辞退率は15.0%です。裏返せば、内定を分母に置いた承諾率は85.0%になります。前年の辞退率は9.3%でした。
同じ「承諾率」という語で、12.3%と85.0%が並びます。分母が違うので、この2つを並べて優劣は論じられません。スカウトの承諾率をどう上げるかは、スカウト代行の記事で扱っています。
基準値は外部平均ではなく自社の定義で置く
自社の承諾率をどの水準と並べるかは、悩みどころです。外部の平均値は分母の定義が公開されていないことが多く、そのままでは比較の相手になりません。基準値は、次の順で置くほうが確実です。
- 自社の分母の定義を文章で確定する
- 直近3か月から6か月の自社の実績を集計して起点にする
- 起点からの変化を見て、次の目標値を決める
外部の平均値は、分母の定義が一致していると確認できたときだけ使います。確認できないなら、参考として脇に置くにとどめます。
自社の採用プロセスのどこに弱さがあるかを先に把握したい場合は、エンジニア採用力チェックで各段階を採点してみてください。承諾率の分母を決める前の、現在地の確認に使えます。
母数が小さいと承諾率は1件で大きく動く
中途採用では、1か月に出す内定が数件ということも珍しくありません。母数が小さいと、承諾率は1件の増減で大きく振れます。下の表は、分母の大きさごとに1件が動かす幅を並べたものです。
分母(打診した件数) | 承諾が1件増減したときに動く幅 |
|---|
5件 | 20.0ポイント |
10件 | 10.0ポイント |
20件 | 5.0ポイント |
40件 | 2.5ポイント |
100件 | 1.0ポイント |
分母が10件なら、承諾が1人減るだけで率は10ポイント下がります。前月比で10ポイントの悪化は深刻に見えますが、実体は1人の判断です。
だから母数の小さい月は、率ではなく件数で見るほうが実態に近くなります。率で語るのは、分母が一定の規模にたまってからにします。目安として、分母が20件を下回る期間は単月で評価せず、四半期などで束ねて見てください。
束ねても20件に届かない段階の採用では、率よりも個別の辞退理由を追うほうが情報量は多くなります。なお母数が小さいときの振れは、率が高いか低いかとは関係なく起こります。良い方向に振れた月を実力と読むと、翌月に理由のない悪化を追いかけることになるはずです。
承諾率を記録する前に決める4項目
承諾率を継続して見るなら、集計を始める前に定義を確定させます。決めるのは次の4つです。
決める項目 | 具体例 |
|---|
分子の範囲 | 口頭の内諾を含めるか、書面の承諾のみか |
分母の範囲 | 出した内定の全件か、辞退が確定した件を除くか |
計上する時点 | 内定を出した月か、承諾の返事があった月か |
除外する対象 | 条件が折り合わず取り下げた内定を分母から外すか |
とくに計上時点は、後から揺れやすい項目です。内定を6月に出し、承諾が7月に届いた場合、どちらの月に数えるかで両月の率が変わります。
決めた定義は文章で残し、集計する人が変わっても同じ数字が出る状態にします。定義が残っていない率は、翌年には比較できません。
承諾率を扱うときの3つの順序
承諾率は、分母の置き方によって指す中身が変わる語です。国の統計も、同じ就職件数から就職率23.7%と充足率10.6%という2つの率を出しています。
自社で見るときは、分母の定義を先に確定し、自社の実績を起点に基準を置きます。そして母数が小さい月は、件数のほうを見てください。
この順序を踏めば、「承諾率が低い」という会話が、どの段階の何件の話なのかまで具体的になります。