KPI研修は、組織の目標を日々追える数字に分け、その数字で仕事を進める方法を学ぶ研修です。研修会社の案内はカリキュラムと受講者の声が中心で、企画する人事が社内で説明を求められる点までは書かれていないことが多くあります。
誰に受けさせるか、人事評価とどうつなぐか、助成金を見込めるか。この3つは、研修会社を選ぶ前に社内で決めておく事柄です。とくに助成金は、研修の時間の長さと、演習の中身の両方で対象かどうかが分かれます。
KPI研修の定義と学ぶ内容
KPI研修は、組織の最終目標を示すKGI(重要目標達成指標)から、達成を左右する要因であるKSF(重要成功要因)またはCSF(主要成功要因)を特定し、日々の行動で追うKPI(重要業績評価指標)を置いて運用するまでを学ぶ研修です。部門目標を持つ管理職やリーダーを主な受講者とし、指標の立て方と、立てた指標で進捗を管理する方法の2つが研修の中身です。
用語 | 意味 | 採用部門での例 |
|---|
KGI(Key Goal Indicator) | 期限までに達成したい最終目標の指標 | 今期のエンジニアの採用人数 |
KSF/CSF(Key Success Factor/Critical Success Factor) | KGIの達成を左右する要因 | 応募者の母集団の質、面接から内定までの速さ |
KPI(Key Performance Indicator) | KSFが進んでいるかを測る中間の指標 | 書類選考の通過率、面接から合否連絡までの日数 |
研修の組み立ては、全社や部門のKGIを確かめ、KSFを特定し、KPIを置き、運用の仕組みを決める順で進みます。運用の仕組みとは、誰がいつ数字を見て、目標から外れたら何をするかの取り決めのことです。
指標を立てる演習だけで終わると、職場に戻ってから数字を見る場がなく、指標が形だけ残ります。運用の取り決めまで研修の範囲に入っているかは、カリキュラムを比べるときに確かめたい点です。
KPI研修を受けさせる層は管理職と管理職手前のリーダー
KPI研修の主な受講者は、部門やチームの目標に責任を持つ管理職と、これから管理職になるリーダー層です。部長・事業責任者は全社の目標から部門のKGIを決める立場、課長やリーダーは部門の目標をチームのKPIに置き換えて運用する立場にあたります。
厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」(2026年7月31日公表)の事業所調査では、職場を離れて行う研修(Off-the-Job Training、以下OFF-JT)として実施した内容のうち、「マネジメント(管理・監督能力を高める内容など)」が46.9%で3番目に高い割合でした。今後実施したい内容では、同じ項目が35.5%で最も高い割合です。
同じ調査で、管理職を除く正社員に企業が最も重要と考える能力は、50歳以上では「マネジメント能力・リーダーシップ」が57.0%で最も高く、50歳未満でも34.9%で2番目でした(厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査 調査結果の概要」)。管理職になる前の層も、目標を指標で組み立てる力を期待される対象です。
受講者 | 研修で重点を置く内容 |
|---|
部長・事業責任者 | 全社の目標から部門のKGIとKSFを決める |
課長・新任管理職 | 部門のKSFからチームのKPIを置き、進捗会議で運用する |
リーダー・中堅社員 | 自分の担当のKPIを日々の行動計画に落とす |
KPI研修と人事評価は分けて設計する
KPI研修で学ぶのは目標を指標に分けて進捗を管理する方法で、その指標を個人の評価や処遇にどう反映するかは人事評価制度の側で決めることです。研修の場で「このKPIの達成度で評価が決まる」と受け取られると、達成しやすい数字を選ぶ方向に指標が寄っていきます。
研修を企画する段階で、評価に反映するかどうかと反映の方法を人事が先に決め、研修ではその前提を受講者に伝えておくと、指標の立て方がぶれません。
KPIを評価制度に組み込む手順はKPI人事評価の定義と設計手順で、目標設定の面談が育成の実感を分ける点は目標設定の効果と限界で扱いました。人事部門自身が追う指標の例は、人事KPI一覧の記事を参考にしてください。
採用部門をKPI研修の題材にするときの指標の置き方
採用部門をKPI研修の演習の題材にする場合、応募数・書類選考の通過率・内定承諾率といった選考段階の指標を置くのが一般的な形です。エンジニアの採用では、応募の前の段階で、候補者が企業の採用ページや求人票などの公開情報を見て応募するかを決めているのが実情です。
KPIを置く前に、候補者の目に触れる公開情報の状態を把握しておくと、どの段階の数字から手を付けるかを決めやすくなります。採用の指標の一覧と目標値の置き方は、採用KPIとはの記事で扱っている内容です。
エンジニア採用力チェックは、企業URLから採用ページ・求人票・技術発信といった公開情報をAIが解析して5指標24項目で採点し、原則1営業日以内にレポートを届ける無料のサービスです。選考の通過率は対象外なので、選考段階のKPIは社内の数字で追います。
KPI研修が人材育成支援コースの助成対象になる条件
KPI研修を厚生労働省の人材開発支援助成金(人材育成支援コースの人材育成訓練)の対象にするには、雇用保険の被保険者である従業員に、職務に直接関連する職場外の訓練(OFF-JT)を実訓練時間数で10時間以上行うことが要件です。実訓練時間数は、食事を伴う休憩に加え、移動時間や助成対象にならないカリキュラムの時間を除いて数えます(厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内」・令和8年8月3日以降に提出された計画届が対象)。以下、この章のページ番号は同じご案内のものです。
半日や1日で終わるコースだけでは、10時間に届かないことがあります。助成金を見込むなら、研修会社に依頼する前に、休憩と対象外の時間を除いて10時間以上になるかの確認が先です。
時間のほかにも、申請の前に押さえる手続きがあります。
- 計画届を出す日までに、研修や人事の担当課長等を職業能力開発推進者として選任しておく
- 計画届を出す日までに、事業内職業能力開発計画を策定し、従業員に周知しておく
- 訓練開始日の6か月前から1か月前までに、計画届を労働局に出す
- 訓練期間中も受講者に賃金を適正に支払い、支給申請日までに訓練経費を全額負担する
- 所定労働時間外や休日に行った時間は、賃金助成の対象にならない
人材育成支援コースの人材育成訓練を正社員など正規雇用労働者が受講する場合の助成額・助成率は、次の表のとおりです(p.3・p.15)。
項目 | 中小企業 | 中小企業以外 |
|---|
経費助成率 | 45% | 30% |
経費助成率(賃金要件等を満たす場合) | 60% | 45% |
賃金助成(1人1時間あたり) | 800円 | 400円 |
賃金助成(賃金要件等を満たす場合) | 1,000円 | 500円 |
経費助成の限度額(1人1訓練・実訓練時間数10時間以上100時間未満) | 15万円 | 10万円 |
賃金要件等を満たす場合とは、訓練の修了後に受講者の賃金が5%以上上がった場合などです。eラーニング・通信制による訓練は経費助成のみで、賃金助成は対象外です(p.15)。
講師派遣でも自社が企画すれば事業内訓練になる
研修会社の講師を招く講師派遣型のKPI研修でも、自社が企画し主催したものは「事業内訓練」の区分です。自社が主催して事業内で集合形式で行う訓練が事業内訓練、教育訓練機関が企画し主催する訓練が事業外訓練で、部外講師の活用や社外の場所での訓練でも、自社が企画し主催すれば事業内訓練に当たります(p.32)。
事業内訓練と事業外訓練では支給要件が異なり、事業内訓練には講師の要件もかかります。研修会社の公開講座に社員を送るのか、研修会社の講師を自社に招くのかで、確かめる要件が変わる点に注意が必要です。
自部署のKPIを決める演習は対象外になり得る
職場外の訓練(OFF-JT)のうち「通常の事業活動として遂行されるもの」は助成の対象外で、例として自社の経営方針・部署事業の説明、業績報告会、販売戦略会議、コンサルタントによる経営改善の指導が挙がっています。カリキュラムの一部に含まれる場合も、その時間は実訓練時間数から除きます(p.39)。
ご案内の例では、自社の財務諸表を使って財務分析の手法を学ぶ訓練は対象で、分析結果に基づいて経営改善計画を作る場合は対象外です。自社の業務上の情報を、業務改善の指導や成果物づくりにつなげずに題材として取り上げるだけなら対象外に当たらない、という扱いも、事業外訓練の場合に限って書かれています。
KPI研修に当てはめると、研修会社が企画し主催する公開講座(事業外訓練)では、自社の数字を題材にKPIの立て方を学ぶ時間と、来期の部門KPIをその場で決める会議に近い時間とで、扱いが分かれる可能性があります。題材に取り上げるだけなら対象外に当たらないという扱いは事業外訓練に限った記述なので、社内研修や、自社が企画し主催する講師派遣(事業内訓練)で自社の数字を使う時間に、同じ線引きは当てはめられません。当てはめは編集部の読み方なので、個別の判断は計画届を出す前に管轄の労働局へ確かめてください。
KPI研修を外部に頼むか社内で行うかの分け方
KPI研修は、指標の考え方を体系立てて教える部分を外部の研修会社に、自社の目標や指標の実例に当てはめる部分を社内に任せると、両方の強みを使えます。令和7年度「能力開発基本調査」の事業所調査では、正社員に実施した職場外の研修(OFF-JT)の教育訓練機関は「自社」が76.4%で最も高く、「民間教育訓練機関(民間教育研修会社、民間企業主催のセミナー等)」が41.4%で続く結果でした。数値は厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査 調査結果の概要」によります。
観点 | 外部の研修会社 | 社内(人事・事業責任者が講師) |
|---|
向く内容 | KGI・KSF・KPIの考え方、他社の例を使った演習 | 自社の目標と指標の実例、進捗会議の進め方 |
講師 | 研修会社の講師 | 指標の運用経験がある管理職・経営者 |
助成金で確かめること | 研修会社が企画・主催する公開講座は事業外訓練、講師派遣は自社が企画・主催した場合に事業内訓練 | 事業内訓練の講師の要件と、自社の数字を使う時間や自社の計画づくりに当たる時間の扱い |
先に決めること | 演習の題材を自社の数字にするか | 講師の準備時間と、受講者の上司の関わり方 |
助成金を見込む場合、自社の数字を題材にする部分を社内研修や自社が企画・主催する講師派遣(事業内訓練)で行うときは、前の節の「題材に取り上げるだけなら対象外に当たらない」扱いが事業外訓練に限った記述である点に注意が必要です。その時間を助成対象に数えられるかは、計画届を出す前に管轄の労働局へ確かめてください。
社内講師の要件や助成の扱いは研修の内製化とはで、研修の形式と実質負担の比べ方は人事研修の比較で整理しました。
KPI研修の効果は職場での指標の運用で確かめる
KPI研修の効果は、受講直後のアンケートの満足度より、受講者が職場でKPIを置き、決めた周期で見直しているかで確かめると、研修の目的に沿った測り方になります。研修の数か月後に、受講者が置いたKPIの一覧と、進捗会議での見直しの記録を、受講者の上司と人事で突き合わせるのが具体的な手順です。
KPIが置かれていなければ研修の中身に、置かれていても見直されていなければ職場の運用の側に手直しが要る、と切り分けられます。次の期の研修で何を足すかも、この記録から決められます。