人事評価にKPIを組み込む、というとき、多くの企業はまず指標の名前を決めようとします。離職率、育成人数、受注件数。しかし実際につまずくのは指標の選び方より、目標をどう立て、届かなかったときにどう説明するかという運用の場面です。
KPIの定義を確認したうえで、人事評価に組み込む設計手順と、崩れやすい3つの落とし穴を整理します。国家公務員の苦情相談の内訳を見ると、目標の立て方より評価そのものへの不満のほうが多く集まっていました。その数字も後半で扱います。
KPI人事評価の定義と適用範囲
KPI(重要業績評価指標、Key Performance Indicator)を人事評価に使うとは、期首に合意した数値目標への到達度を、評価の判断材料の一部にする運用を指します。
人事評価は業績・能力・情意の3項目で構成されることが多く、KPIが直接あてはまるのは主に業績(成果)の項目です。能力や行動の評価は数値では測りにくいため、別の基準を置くのが一般的で、KPIをそのまま流用しません。
業績評価に使う具体的な指標の候補は、人事KPI一覧に36指標の算出式とともにまとめました。人事評価という制度全体の位置づけは、人事評価とはで確認できます。
KPIとKGI・KSFのつながり
KPIはKGI(重要目標達成指標)とKSF(重要成功要因)の組みで設計します。KGIは組織が最終的に達成したい目標、KSFはその達成に必要な要因、KPIはKSFの進み具合を数値で示す指標です。
人事評価でこの3層を確認する理由は、個人やチームのKPIが組織のKGIとどうつながっているかを、評価者と被評価者の双方が説明できるようにするためです。KPIだけを単独で見ると、達成しても事業への貢献が読み取れない目標になります。
KPI評価とMBO・OKR・コンピテンシー評価の違い
KPIは指標であって、評価の手法そのものではありません。人事評価の現場では、期首に合意した目標への達成度で評価する目標管理制度(MBO)に、数値のKPIを組み込む運用がもっとも一般的です。
OKR(Objectives and Key Results)は達成率をそのまま評価点に反映しない設計が前提のため、処遇と直結させるKPI評価とは相性がよくありません。挑戦的な目標を置いても、未達成が評価を下げないという条件が崩れると、目標自体が保守的になります。
コンピテンシー評価は行動特性の発揮度を見る手法で、KPIのような数値目標とは測る対象が違います。両者は競合するものではなく、成果はKPIで測り、行動はコンピテンシーで測るという役割分担で併用するのが一般的です。評価手法全体の比較は人事評価とはを参照してください。
人事評価にKPIを組み込む3つの設計手順
KPIを人事評価の制度に組み込む手順は、次の3つに整理できます。
- KGIからKPIへ落とし込む:組織のKGIを確認し、KSFを経由して個人・チームのKPIに分解する
- 成果と行動のウェイトを配分する:業績(KPI)と能力・情意の配点比率を先に決め、期中に変えない
- 評価者間で基準をすり合わせる:目標の難易度と評価の付け方を、評価者どうしで期首に共有する
3つのうちどれか1つでも欠けると、KPIの達成率だけが評価を左右する制度になりがちです。特にウェイト配分を期中に変えると、被評価者から見て評価の基準が動いたと映ります。
KPI評価で崩れやすい3つの落とし穴
KPIを人事評価に組み込むと、崩れる原因の多くは指標そのものではなく、運用の設計不足です。代表的な3つを順に見ます。
目標のすり替えが起きやすくなる
達成しやすい目標を選ぶ動きは、KPIを評価に直結させるほど強まります。原因は指標そのものの悪さではなく、未達成が処遇に直接響く設計そのものです。目標の難易度をそろえる工程を、評価期間の開始前に必ず置く必要があります。
採用人数のように外部要因の影響を受けやすい指標をKPIに置く場合は、目標を決める前に自社の採用力を確認しておくと、難易度をそろえやすくなります。エンジニア採用力チェックは、採用ページ・テックブログ・公開リポジトリ等の公開情報をもとに、技術ブランド発信力・技術環境の透明性・採用情報の充実度・雇用条件の競争力・採用活動の積極性の5指標24項目で自社の採用力を採点できるツールです。
未達成の理由を問わず一律に減点してしまう
KPIが未達成でも、外部要因による未達と、取り組み不足による未達では評価の意味が違います。理由を問わずに一律で減点すると、外部要因の影響を受けやすい部署ほど評価が下がりやすくなります。
未達成の理由を記録し、評価者が確認する工程を、評価制度の中に置いておくことが欠かせません。理由の記録が無いと、翌期の目標を見直す根拠も残りません。
定量化できない業務が評価から漏れる
KPIに置きやすい業務は、もともと数値化しやすい業務に偏ります。育成、調整、トラブル対応など数値化しにくい業務がKPIから漏れると、担当者はKPIに乗る業務だけを優先するようになりかねません。
定性的な貢献を扱う評価項目を、KPIとは別枠で必ず残しておく必要があります。KPIだけで評価表を埋めると、数値に表れない仕事が見えなくなります。
苦情相談の内訳に見る目標設定の位置づけ
人事院が令和6年1月23日にまとめた資料によると、国家公務員の人事評価に対する苦情相談102事案(令和2〜4年度・重複計上あり)のうち、目標設定に関する不満は18件で、個別に分類された理由の中では「人事評価が低い」(56件)、「評価結果の開示・理由説明等への不満」(36件)に次いで3番目に多い件数でした。
出所:人事院『第5回人事行政諮問会議 事務局説明資料』(令和6年1月23日)、n=102(重複計上あり)。
苦情相談の内容(原典の9区分) | 件数(102事案中) |
|---|
人事評価が低い | 56 |
評価結果の開示・理由説明等への不満 | 36 |
目標設定に関する不満 | 18 |
評価者・調整者等の適格性への不満 | 16 |
各省における苦情処理への不満 | 15 |
面談がない、実施時期が遅い | 12 |
評価結果の活用関係 | 11 |
改善措置関係 | 3 |
その他 | 33 |
この調査は国家公務員を対象にした集計で、民間企業の実態をそのまま示すものではありません。それでも、評価結果そのものへの不満に次いで目標の立て方が苦情の対象になりうるという構図は、KPIを人事評価に使う企業にも参考になります。
目標の難易度をそろえる工程や、目標を合意した記録を残す工程は、どのKPIを選ぶかという作業と同じくらい、評価制度の設計に含めておくことが欠かせません。実際に企業が目標を動かした理由の書き方は、人事KPIの事例で読めます。
KPI人事評価を機能させる判断基準
KPIを人事評価に使えるかどうかは、指標の名前では決まりません。判断基準は3つです。目標の難易度をそろえる工程、未達成の理由を確認する工程、定量化できない業務を別枠で評価する仕組みの3つです。
この3点を制度に組み込めているかどうかで、KPI人事評価が機能するかが分かれます。指標を選ぶ前に、この3つの工程が今の評価制度にあるかを確認しておくと、組み込んだあとの運用でつまずきにくくなります。