社長の後任が社内にいない。新しい事業を任せられる役員がいない。経営を担う人を社外から迎えようと考えたとき、人材紹介は最初に思い浮かぶ手段の1つです。
ただ、経営者の紹介は、現場の社員を中途採用するときと同じ感覚で進めるとつまずきます。候補者の数が少なく、迎え方によって会社との契約の形が変わり、見極めに時間がかかるからです。紹介会社に依頼する前に、任せる課題と迎え方を社内で決めているかどうかで、面談の回数も手数料の払い方も変わってきます。
経営者を人材紹介で探す方式は登録型とサーチ型の2つ
経営者や役員を人材紹介で探す方式は、登録型とサーチ型の2つです。登録型は紹介会社に登録している候補者から紹介を受け、サーチ型は紹介会社が転職を考えていない人にも直接声をかけます。登録型は早く候補者に会える一方で、母集団は登録者に限られます。サーチ型は母集団を広げられる代わりに、依頼から紹介までに時間がかかり、費用の払い方も異なる方式です。
項目 | 登録型 | サーチ型(ヘッドハンティング) |
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候補者の母集団 | 紹介会社に転職の希望を登録した人 | 他社で活躍中の人を含め、紹介会社が探し出した人 |
費用の払い方 | 入社が決まったときに払う成功報酬が中心 | 着手金と成功報酬の組み合わせや、期間で払う形がある |
向いている場面 | 経営経験者を早く探したい、条件が比較的はっきりしている | 特定の業界・経歴の人に絞りたい、登録者に候補がいない |
経営者の紹介を専門にする会社には、両方の方式を扱うところもあります。依頼の段階で「まず登録者から当たり、候補がいなければサーチに切り替える」と順番を決めておけば、費用と時間の見通しが立つはずです。サーチ型の仕組みと費用の組み方は、ヘッドハンティングの仕組みと費用を解説した記事で詳しく扱っています。
役員の紹介は求人13,062人に対して就職1,392件
令和6年度に有料職業紹介で扱われた法人・団体役員の常用求人は13,062人で、前年度から50.1%増えました。同じ年度の常用就職件数は1,392件で、増加は17.5%にとどまります。役員を紹介で迎えたい企業は急に増えましたが、入社まで進んだ件数はその伸びに追いついていません。
令和6年度(有料職業紹介) | 法人・団体役員 | 法人・団体管理職員 |
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新規求職申込件数 | 34,598件(前年度比17.6%増) | 277,601件(同40.6%増) |
常用求人数 | 13,062人(同50.1%増) | 293,153人(同15.8%増) |
常用就職件数 | 1,392件(同17.5%増) | 16,007件(同10.0%増) |
求人数に対する就職件数 | 10.7% | 5.5% |
就職1件あたりの手数料 | 約436.5万円 | 約288.3万円 |
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(令和8年3月31日公表)をもとにOffers算出。
この統計の求人数と求職申込件数には、同じ求人や同じ人が複数の紹介会社に出した分が重なって数えられています。求人数に対する就職件数の比率は、実際の成約率より低く出る目安です。
役員の新規求職申込件数は34,598件で、求人数の約2.6倍でした。役員として転職したい人がいないわけではありません。経営を任せる人選では、経歴に加えて経営方針や価値観が合うかまで確かめるので、候補者の数が多くても入社まで進むのは一部です。
役員の手数料は、全額が紹介会社ごとに届け出た手数料表に基づく届出制手数料でした。1件あたりの額は管理職員の約1.5倍です。職種ごとの手数料の全体像は、人材紹介の費用を職種別の実額で整理した記事にまとめています。
社長を社外から迎える事業承継は2025年で7.6%
2025年に代表者が交代した企業のうち、社外の第三者を代表として迎えた「外部招聘」は7.6%でした。最も多いのは血縁によらない役員・社員を登用した内部昇格の36.1%で、同族承継の32.3%を上回っています。社長の後任を人材紹介で社外から探すのは、事業承継の中では少数の選び方です。
就任経緯(2025年・速報値) | 割合 |
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内部昇格 | 36.1% |
同族承継 | 32.3% |
M&Aほか | 20.6% |
外部招聘 | 7.6% |
創業者 | 3.4% |
出所:帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月21日発表・約27万社)。
同じ調査では、後継者が「いない」または「未定」の企業が50.1%ありました。2025年に就任した後任代表者の69.6%は、経営経験が3年未満です。社内から後継者を選ぶ場合でも、経営の経験を持つ人は多くありません。
社外から迎える経営者に求めるのは、社内では補えない経営の経験であることが多いはずです。一方で、社外の人は社内の事情や社員との関係を知りません。いきなり代表に据えるのではなく、取締役や事業の責任者として入ってもらい、一定の期間を経てから代表に就いてもらう段階を設ける会社もあります。
取締役として迎えるか、雇用で迎えるかで契約が変わる
取締役として迎える場合、会社との関係は雇用ではなく委任になります。会社法第330条が「株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う」と定めているためです。取締役は株主総会の決議で選任するので(会社法第329条)、人選が決まっても、就任には株主総会の手続きが要ります。
出所:e-Gov法令検索「会社法」第329条・第330条・第349条・第362条。
迎え方 | 会社との関係 | 決め方 | 事前に確かめること |
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取締役・代表取締役 | 委任(会社法第330条) | 取締役は株主総会の決議で選任。代表取締役は取締役会で選定(取締役会の無い会社は定款・取締役の互選・株主総会の決議) | 株主総会の時期、報酬の決め方、任期 |
執行役員・事業部長など | 会社ごとに決める(雇用契約とする会社と委任とする会社がある) | 社内の人事手続き | 労働条件の明示、職務と権限の範囲 |
まず社員として入り、後に取締役 | 入社時は雇用。取締役に就くと委任の関係が加わる | 入社時は社内手続き、就任時は株主総会 | 取締役就任の時期と条件の約束の仕方 |
会社法で「役員」と呼ぶのは取締役・会計参与・監査役で、執行役員は含まれません。執行役員の契約の形は会社ごとに決めるので、社内の規程を確かめておきます。
紹介会社と契約するときにも、取締役として迎えるか雇用で迎えるかの違いが関わります。職業安定法は職業紹介を「求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあつせんすること」と定めています(第4条)。取締役としての就任を紹介の成功とみなして手数料を払うのか、雇用契約の成立だけを対象にするのか。この点は契約書の成功報酬の条項で確かめます。社員として入社してから取締役に就く流れなら、どの時点の年収を手数料の基準にするかも書面で決めておくと安心です。
出所:e-Gov法令検索「職業安定法」第4条・第32条の13。
技術部門の経営幹部を正社員で迎える経路
CTOやVPoEなど、技術部門を率いる経営幹部を正社員として迎える場合は、エンジニアの採用に強い経路も持っておくと候補者の幅が広がります。経営者向けの紹介会社だけに頼らない形です。技術の経営幹部の候補には、転職の希望を紹介会社に登録していない人も含まれ、登録型の紹介だけでは出会えないことがあるからです。
経営者の紹介を専門にする会社は、技術の実務を評価する目を持っていないこともあります。技術の経営幹部を探すときは、候補者の技術的な実績を誰が見極めるのかを先に決めておくことが欠かせません。社内に評価できる人がいない場合は、外部の技術顧問に面接へ入ってもらう方法もあります。
CTOやテックリードなど技術の経営幹部を正社員で探しているなら、AI RPOに候補者の発見から声かけまでを任せる方法があります。転職市場に出る前の候補者にも、タイミングを合わせて継続して声をかける採用代行です。
経営者の人材紹介を依頼する前に決める3つのこと
経営者の紹介を依頼する前に、社内で決めておくのは、任せる経営課題、権限と報酬、見極めの期間の3つです。この3つが曖昧なまま依頼すると、紹介会社は経歴の条件だけで候補者を探すことになり、面談のたびに求める人物像が揺れます。
任せる経営課題を1つに絞る
最初に決めるのは、迎える人に何を任せるかです。「売上を伸ばしてほしい」では広すぎます。「既存事業の利益率を上げる」「新規事業を立ち上げる」「上場の準備を率いる」のように、就任後の数年で取り組む課題を1つに絞ります。課題が決まれば、必要な経験(業界・会社の規模・経営の局面)と、紹介会社に渡す条件が定まるからです。
権限と報酬を先に書き出す
次に決めるのは、任せる権限と報酬の範囲です。予算や人事の決裁をどこまで持つのか、報酬は固定か業績連動か、株式やストックオプションを渡すのかを、面談の前に社内で合わせておきます。候補者は権限と報酬を見て入社を判断します。面談の後半になって条件が変わると、それまでの選考の時間が無駄になりかねません。
見極めの期間と場を用意する
経営者の選考は、面接の回数を重ねるだけでは見極めきれません。会食や、経営会議への同席、既存の役員との面談など、人柄と経営の考え方を確かめる場を複数用意します。選考の期間は現場社員の採用より長くなる前提に立ち、代表交代や事業開始の時期から逆算して依頼の時期を決めるのが基本です。
紹介会社は許可・手数料表・返戻金の3点で選ぶ
経営者の紹介を依頼する紹介会社は、有料職業紹介事業の許可があるか、手数料表を明示しているか、早期退職時の返戻金の規定があるかの3点で確かめます。経営者の紹介は1件あたりの手数料が高く、条件の食い違いが起きたときの影響も大きいからです。
確かめること | 確かめ方 |
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有料職業紹介事業の許可 | 厚生労働省の人材サービス総合サイトで許可番号と事業所を検索する |
手数料表の明示 | 紹介会社は手数料に関する事項を求人者に明示する義務がある(職業安定法第32条の13)。成功報酬の基準(理論年収の範囲・役員報酬の扱い)を書面で受け取る |
返戻金の規定 | 入社後の早期退職・早期退任のときに手数料の一部が戻るか、期間と割合を契約書で確かめる |
取締役として迎える場合は、早期に退任したときの返戻金の扱いが雇用の場合と同じかも確かめます。委任の契約では「退職」という言葉が当てはまらないためです。人材紹介の契約全体の確かめ方は、人材紹介の契約と会社の選び方を解説した記事で扱っています。サーチ型と、自社から候補者に直接声をかけるスカウトとの使い分けは、スカウトとヘッドハンティングの違いを整理した記事を参考にしてください。
経営者を人材紹介で迎えるときの要点
経営者を人材紹介で迎えるときは、方式の選び方、役員の紹介の実態、契約の形、依頼前の準備の4点を押さえます。
- 方式は登録型とサーチ型の2つ。まず登録者から当たり、候補がいなければサーチに切り替えるなど順番を決めておく
- 令和6年度の法人・団体役員の常用求人は13,062人(前年度比50.1%増)、常用就職は1,392件(同17.5%増)。役員の手数料は就職1件あたり約436.5万円(厚生労働省の統計をもとにOffers算出)
- 2025年に代表が交代した企業のうち外部招聘は7.6%(帝国データバンク調べ)。取締役や事業責任者として入ってもらう段階を設ける会社もある
- 取締役として迎える場合、会社との関係は委任(会社法第330条)。成功報酬の対象に取締役就任を含むかを契約書で確かめる
- 依頼の前に、任せる経営課題・権限と報酬・見極めの期間を社内で決める
- 紹介会社は許可・手数料表・返戻金の3点で確かめる