管理職として中途入社した人の経路で最も多いのは、人材紹介ではなく社員や知人の紹介でした。厚生労働省の調査では、管理職の入社経路の3割強を縁故が占めています。
では、応募者を集めるのがうまい会社は、どの経路をどう組み合わせているのか。公的機関と Offers が公表した事例から17社を選び、採用経路と入社後の定着を並べました。
内訳は、厚生労働省の事例集の14社、中小企業白書の1社、Offers が公開する導入事例から2社です。事例集の14社のうちA社・B社・C社の3社は、厚生労働省の資料の段階で社名が伏せられています。
並べてみると、1つの手法に頼る会社より、職種ごとに経路を分けている会社が目立ちました。
母集団形成の定義や必要数の出し方は母集団形成とは?応募を待たない中途採用の設計で扱っています。この記事は、その続きとして事例だけを並べた内容です。
厚生労働省の事例集14社を採用経路と定着率で並べる
厚生労働省は2025年3月、「人材の確保・定着に成功した企業の取組事例集~採用活動のコツ~」を公表しました。中途採用の好事例として14社が載っています。そのうちA社・B社・C社の3社は、資料の段階で社名が伏せられています。各社の主な採用経路と成果を1つの表にしました。
企業 | 業種 | 母集団を作った主な経路 | 採用の充足 | 入社3年後の定着率 |
|---|
Q.ENESTでんき | 電気事業 | 人材紹介が多い。リファラルとダイレクトリクルーティングを推進 | 一部ポジションを除き充足 | 9割弱 |
冨田病院 | 病院 | ハローワークが主。応募数・採用数が多いのは人材紹介 | 欠員補充は充足 | 4割程度 |
A社 | 製造業 | 管理職は人材紹介、一般職はハローワークの個別説明会と地元の企業説明会 | 管理職は目標達成、一般職は年間数名不足 | 約70% |
KMユナイテッド | 建設業務のBPO | ハローワークが採用数の3〜4割。ハローワーク等で説明会 | 記載なし | 5〜6割程度 |
B社 | 製造業 | 人材紹介 | 採用計画を充足 | 85%程度 |
ちよだ鮨 | すし店の経営 | 特定の人材紹介会社のみ。パートからの登用が3〜4割 | 必要な人数をすべて採用 | 8割以上 |
さくら病院 | 病院 | 看護師は人材紹介、他の職種はハローワーク | 記載なし | 病院部門87%・介護部門66%(令和5年度) |
エーエスエル | 情報通信業 | 会社説明会で働き方の決め方を説明 | 期初の目標数を達成 | 約90% |
名阪食品 | 給食の提供 | 管理スタッフは人材紹介、栄養士職は求人メディア | ほぼ充足 | エリアマネージャーは9割程度 |
今治造船 | 造船 | 人材紹介がほとんど | 欠員補充は達成 | 9割以上 |
日本新薬 | 医薬品 | 人材紹介を得意領域で使い分け | 募集ポジションはいずれも充足 | 96〜97% |
レオパレス21 | 不動産 | 人材紹介と、専門職のダイレクトリクルーティング | 経営計画上の目標以上 | 94% |
三井化学 | 化学 | 人材紹介が採用数の7割ほど、リファラルが15〜20% | 採用目標の90%程度 | 約80% |
C社 | 運輸業 | 求人メディアが中心、専門職のみハイクラス向けスカウト | おおむね計画どおり | 9割以上 |
出所:厚生労働省「人材の確保・定着に成功した企業の取組事例集~採用活動のコツ~」(2025年3月・14社)。
さくら病院の定着率だけは、令和5年度時点の値です。
表から分かるのは、14社のうち人材紹介を主な経路の1つに挙げた会社が11社にのぼることです。ただし同じ調査の採用者側の回答を見ると、紹介会社だけでは届きにくい層があります。
企業が使う経路と、採用者が入ってきた経路は一致しない
事例集と同じ厚生労働省の調査は、企業2,417社と中途採用者2,079人に採用の経路を尋ねました。結果は厚生労働省の調査研究の結果報告書にまとまっています。
企業には「どの経路を使っているか」を、採用者には「どの経路で入社したか」を聞きました。回答者も母数も違うため同じ物差しの比率とは言えませんが、並べると経路ごとの手応えの差が見えてきます。企業の回答は複数回答で、1社がいくつもの経路を選んでいる点にも注意してください。
企業の4割が使う縁故は、管理職の入社経路で最多
企業が使っている経路(複数回答)を、採用する人材のタイプ別に見ると次のとおりです。
経路 | 管理職 | 総合職 | 高度専門職 | 現業職 |
|---|
ハローワーク | 30.5% | 53.8% | 49.6% | 73.9% |
求人広告 | 25.1% | 46.4% | 37.5% | 52.0% |
人材紹介会社・転職エージェント | 60.9% | 55.6% | 54.8% | 39.6% |
スカウトサービス | 23.3% | 32.0% | 28.5% | 23.9% |
自社のホームページやSNS | 26.0% | 46.5% | 41.9% | 41.2% |
知人・社員等の紹介(縁故) | 40.3% | 42.1% | 41.1% | 45.5% |
出所:厚生労働省「中途採用・経験者採用者が活躍する企業における情報公表その他取組に関する調査研究 結果報告書」(2025年3月・企業アンケート図23・複数回答)。
一方、採用された人がどの経路で入社したかの回答は次のとおりです。
経路 | 管理職(n=280) | 総合職(n=781) | 高度専門職(n=316) | 現業職(n=676) |
|---|
ハローワーク | 14.3% | 16.1% | 22.5% | 31.7% |
求人広告 | 9.6% | 14.2% | 12.7% | 16.4% |
人材紹介会社・転職エージェント | 25.0% | 34.3% | 32.3% | 20.9% |
スカウトサービス | 9.3% | 15.5% | 13.3% | 10.4% |
自社のホームページやSNS | 6.1% | 12.8% | 11.7% | 11.7% |
知人・社員等の紹介(縁故) | 31.8% | 19.8% | 26.3% | 25.7% |
出所:厚生労働省「中途採用・経験者採用者が活躍する企業における情報公表その他取組に関する調査研究 結果報告書」(2025年3月・労働者アンケート図51)。
管理職の採用で縁故を使う企業は40.3%で、人材紹介の60.9%を下回ります。ところが管理職として入社した人の経路は、縁故が31.8%で最も多く、人材紹介の25.0%を上回りました。
管理職の母集団を人材紹介だけで考えると、実際に入社が決まりやすい経路を見落とすおそれがあります。
高度専門職は人材紹介と縁故で6割近くを占める
高度専門職の入社経路は、人材紹介が32.3%、縁故が26.3%です。2つを足すと58.6%で、この合計は、原典の2つの値をOffersが足し上げたものです。スカウトサービス経由は13.3%でした。
現業職ではハローワークが31.7%で最も多く、職種によって入社が決まる経路ははっきり分かれます。事例集の14社も、この違いに合わせて経路を組み合わせていました。
リファラルとスカウトで母集団を広げた事例
調査で管理職の入社経路の最多だった縁故を、社員の紹介として仕組みにしている会社があります。自社から候補者に声をかけて母集団を広げた会社も含め、ここで扱うのは、厚生労働省の事例集の2社と、Offers が公開する2社の事例です。
リファラルが採用数の15〜20%を占める三井化学
三井化学は、採用数の7割ほどを人材紹介、次いで15〜20%をリファラル採用が占めます。力を入れている事業領域では、中途採用で入った社員の前職の関係者を紹介してもらうことが人材の確保につながっています(厚生労働省の事例集・2025年3月)。
東京都港区の電気事業者(Q.ENESTでんき株式会社)も、採用実績は人材紹介が多い一方で、リファラル採用とダイレクトリクルーティングを進めています。人柄や実績をよく知っている人に声をかけられる点が、同社の挙げるリファラルの利点です。社内制度の組み立て方はリファラル採用とは?仕組み・制度設計と社員紹介を回すコツにまとめています。
スカウトで接点を作ったOffersの導入事例2社
株式会社QuackShiftの事例では、リファラル中心だった採用体制に、継続して母集団を作れる経路を加えるところから始めました。導入から3ヶ月で入社が決まり、半年間で約45名と面談しています。
同社は、候補者への返信を早くし、選考も間を空けずに進めることを徹底しました。定例の打ち合わせでスカウト文面の改善や対象の選び直しを重ねたことも、成果につながったと述べています。
HapInS株式会社の事例では、2025年11月頃にスカウトを始め、約半年で正社員2名を採用しました。以前のサービスのテンプレートを流用していたスカウト文面を、受託開発ならではの魅力が伝わる内容に見直しています。
文面を見直した後、同社は40〜50名ほどと面談しました。転職を急いでいない人にも継続して声をかける機能を使い、すぐには動かない層とも接点を保っています。
2社とも、半年ほどのあいだに40名以上と面談しています。スカウトで母集団を作るなら、面談を数十件重ねる前提で工数を見積もるのが現実的です。Offers の導入事例の型と期間はRPO導入事例14社に見る成果の型と期間で詳しく扱っています。
2社が見直したのはスカウトの文面でした。その手前で、求人そのものが狙う層に届く条件になっているかは別に点検が必要です。エンジニアの求人であれば、エンジニア採用力チェックで自社の採用力を点検すると、見直す順番を決める材料になります。
14社の事例に共通する3つの型
人材紹介を使う11社の多くも、紹介会社に任せきりにはしていません。事例集は各社の採用活動を文章で紹介しており、型の分類は載っていません。そこで各社の取組を、経路の選び方・担当者との関係・応募者への見せ方の3点で分けると、次の3つの型になります。
型 | 当てはまる会社 |
|---|
職種ごとに経路を分ける | A社・さくら病院・名阪食品・レオパレス21・C社 |
紹介会社やハローワークに自社を理解してもらう | ちよだ鮨・日本新薬・KMユナイテッド |
社員を説明会に立て、見学で仕事を見せる | KMユナイテッド・冨田病院・A社 |
出所:前掲の厚生労働省の事例集(2025年3月)の各社の記述をもとにOffersが分類。
KMユナイテッドとA社は2つの型にまたがります。残る Q.ENESTでんきと三井化学は前の章で見たリファラル、B社・エーエスエル・今治造船は面接での情報の出し方が中心の事例でした。
職種ごとに経路を分けた5社
A社・さくら病院・名阪食品・レオパレス21・C社の5社は、職種によって母集団を作る経路を変えていました。
企業 | 経路を分けた軸 | 経路の組み合わせ |
|---|
A社 | 管理職と一般職 | 人材紹介 / ハローワークの個別説明会・地元の企業説明会 |
さくら病院 | 看護師と他の職種 | 人材紹介 / ハローワーク |
名阪食品 | 管理スタッフと栄養士職 | 人材紹介 / 業界特化の媒体から検索エンジンまでの求人メディア |
レオパレス21 | 一般の職種と専門職 | 人材紹介 / ダイレクトリクルーティング |
C社 | 現業系と専門職 | 求人メディア / ハイクラス向けスカウト |
出所:前掲の厚生労働省の事例集(2025年3月)。
さくら病院は、一定の能力と経験を持つ人を先に選別してもらえるため、看護師は人材紹介にしています。事務や介護の職種は、応募者を早く紹介してもらえるハローワークが中心です。
レオパレス21は人材紹介を基本にしつつ、専門職だけを自社から声をかける方式に切り替えています。中途採用の年間の採用数は、百数十名規模まで増えました。
C社も同じ考え方で、現業系は求人メディア、専門職だけをハイクラス向けのスカウトに分けています。同社の入社3年後の定着率は9割以上です。
紹介会社やハローワークに自社を理解してもらった会社
人材紹介やハローワークを使う会社の多くが、担当者に自社を理解してもらう手間をかけていました。紹介の質は、担当者が自社をどこまで説明できるかで変わるからです。
ちよだ鮨は特定の人材紹介会社だけを使い、キャリアアドバイザーに入社後の研修内容や店舗の業務を見てもらっています。店長に求める役割まで理解してもらったうえで、合う人を紹介してもらう形です。
同社は必要な人数をすべて採用でき、入社3年後の定着率は8割以上です。評価と昇給の基準も面接で説明し、業界に多い不安を先回りして打ち消しています。
日本新薬は人材紹介を中心に、得意領域に応じて紹介会社を使い分けています。書類選考の後にカジュアル面談を置き、配属予定先の部課長が働き方の話をほぼ済ませてから面接に進む流れです。募集ポジションはいずれも充足し、定着率は96〜97%でした。
KMユナイテッドは、ハローワークが採用数の3〜4割を占めます。窓口の担当者との距離が近く、自社の特徴を伝えやすいためです。担当者が求職者に自社を薦めてくれると信頼されやすい、と同社は述べています。
社員を説明会に立て、見学で仕事を見せた会社
応募の前後で仕事の中身を見せる工夫も、複数の会社に共通していました。母集団を増やすだけでなく、合わない応募者が選考に残らないようにする手当てです。
KMユナイテッドは、ハローワーク経由で入社した社員を企業説明会に登壇させ、質疑応答をしてもらっています。求人票だけでは分かりにくい業務を社員が噛み砕いて説明するため、質問が活発になったそうです。
冨田病院は面接の前に院内見学を提案しており、参加する応募者は9割以上です。すべての部署を30分から1時間ほどかけて案内し、手の空いた職員に日頃の業務を話してもらいます。
A社も面接前の職場見学を原則にしています。同社は企業説明会で聞き取りをし、工場見学を経て面接へ進む段取りが採用につながっていると評価していました。
事業の魅力で応募が集まった仁尾興産の事例
ここまでは、応募者をどの経路から集めたかの話でした。経路の手前にある会社の魅力を上げて、同じ経路からの応募を増やした例もあります。中小企業庁の2026年版 中小企業白書が事例2-3-1で紹介する、香川県三豊市の仁尾興産株式会社です。
同社は従業員60名の化学メーカーで、豆腐用にがりで国内トップシェアを持ちます。所在地は若い層が県外で就職しやすく、交通の便もよくないため、外から人が入りにくい地域でした。
同社はまず働きやすさを整えました。育児・介護休業制度や保育手当、時短勤務、2時間単位の有給休暇を入れ、遠くからバスで通う社員に合わせて勤務時間も調整しています。
その後、社員の発案でカフェ事業や消費者向けの新ブランドが生まれました。新規事業に魅力を感じた人から応募が集まり、移住を伴う入社が増えています。1名の募集に対し15名の応募が集まるケースも出てきました(中小企業白書2026・Ⅱ-158)。
同じ白書は、中小企業への入職者の約7割が転職者だと示しています(厚生労働省「雇用動向調査」令和5年調査をもとにした中小企業庁の集計)。中途で入る人に向けて、何を見せるかが母集団の大きさを左右します。
事例を自社の母集団形成に移すときの3つの手順
17社の事例を自社に当てはめるなら、次の3つの順で考えるのが実務的です。
- 採用する職種を管理職・専門職・現業職のように分け、職種ごとに主な経路を1つ決める(看護師とそれ以外で経路を分けたさくら病院の形)
- 使う経路の担当者に、仕事の中身と入社後の姿を説明する場を作る(ちよだ鮨がキャリアアドバイザーに店舗の業務を見てもらった形)
- 応募の前後で仕事を見せる機会を1つ置く(冨田病院の院内見学、日本新薬のカジュアル面談の形)
3つ目は母集団を減らすように見えますが、合わない応募者が面接まで進むのを防ぎます。事例集の14社のうち、入社3年後の定着率が9割以上と書かれた会社は、今治造船・日本新薬・レオパレス21・C社の4社でした。
入社後に人が残ったかどうかは、母集団の作り方を見直す材料になります。自社の定着率の測り方は中途採用の定着率とは?測り方と平均が使えない理由で整理しています。
17社の事例が示すのは、母集団の大きさが手法の数では決まらないことです。職種ごとにどの経路で探し、その経路の担当者に何を伝えるかの組み合わせで決まります。