日立製作所の71.5%と、カプコンの54.7。どちらも2025年3月期の有価証券報告書に載った、エンゲージメントの数値です。
前者は4つの設問に肯定的に答えた人の割合で、後者は外部の調査会社が他社と比べて出した偏差値でした。同じ言葉で呼ばれていても、2つの数字は同じ物差しに乗っていません。
金融庁は、こうした開示の中から好事例を選んで1冊の資料にしています。そこに載る7社のエンゲージメントの数値を並べると、単位は5種類に分かれ、他社との比較を前提にした設計は、偏差値で示したカプコンと業種平均を並べたうるるの2社でした。
スコアが高い会社の施策を真似ても、自社のスコアが同じ物差しで上がったかは確かめられません。事例から借りるべきなのは水準ではなく、何と比べるために何を測るかという設計です。
エンゲージメントの事例を開示で読める資料は金融庁の好事例集
エンゲージメントの事例を企業自身の言葉で読める資料は、有価証券報告書です。人的資本の欄には、育成や職場環境の指標と目標を書く決まりがあります。
金融庁は2018年度から毎年度、有価証券報告書の開示の好事例集を公表してきました。2026年3月27日には『記述情報の開示の好事例集2025』の最終版を公表しています。人的資本を扱う部分の先行公表は、2025年12月25日です。出所:金融庁『記述情報の開示の好事例集2025』(2026年3月27日公表)。
資料の冒頭には、投資家・アナリスト・有識者が期待する開示のポイントが並びます。エンゲージメントについては、スコアの増減だけでなく、数値を構成する要素の変化と改善施策との関連を示すことが望ましいという整理です。
本記事で読む7社
金融庁はエンゲージメントの開示例として、次の7社を挙げています。うるるは売上高300億円以下の中堅中小上場企業の開示例として載り、数値は本文ではなく図の数値ラベルで示されています。
企業 | 指標の名前 | 単位 | 直近の実績 |
|---|
日立製作所 | 従業員エンゲージメントスコア | 肯定的回答率 | 71.5%(2024年度) |
NTTデータグループ | 社員エンゲージメント率 | 肯定的回答率 | 77%(2024年度) |
横浜フィナンシャルグループ | 会社の総合的魅力 | 5段階の平均 | 3.40(2024年度) |
丸井グループ | 独自のエンゲージメント指標 | 項目ごとの割合 | 期待81%ほか(2024年) |
イズミ | エンゲージメント4項目 | ポイント | 理念戦略63ほか(2024年度) |
カプコン | ワーク/エンプロイーエンゲージメント | 偏差値 | 54.7・53.1(2025年3月期) |
うるる | エンゲージメントサーベイ Wevoxスコア | 外部サーベイのスコア | 79.8(2024年4月〜2025年3月の平均) |
出所:金融庁 同好事例集 2.「人的資本、従業員の状況」の開示例(2026年3月27日公表)。
いずれも2025年2月期・3月期の有価証券報告書の抜粋で、本記事の各社の記述と数値はすべてこの資料から引きました。公表ページは、公表をもって各企業の開示内容に誤りが無いことを保証するものではないと注記しています。数値は、各社が自ら開示した値として読むのが正確です。
エンゲージメントの測り方は会社ごとに決める
7社の単位がそろわないのは、測り方を定めた共通の基準が国内に無いためです。有価証券報告書は、エンゲージメントという項目を名指しで求めていません。
内閣官房・金融庁・経済産業省の『人的資本可視化指針(改訂版)』付録②は、国内外の開示基準ごとの扱いを整理した資料です。海外の基準には、業種別の開示基準であるSASB(Sustainability Accounting Standards Board)も含みます。
開示基準 | エンゲージメントの扱い |
|---|
日本(有価証券報告書) | 人材育成方針・社内環境整備方針の指標として企業が選ぶ |
米国(SEC) | 該当する開示事項なし |
欧州(ESRS=欧州サステナビリティ報告基準・委任規則案) | 該当する開示事項なし |
SASB | 業種の例(4業種)で「従業員エンゲージメントの割合」 |
出所:内閣官房・金融庁・経済産業省『人的資本可視化指針(改訂版)付録② 人的資本に関する開示基準・開示事項例の整理』(2026年5月)。
SASBの項目が該当する業種の例として付録②が挙げるのは、電子商取引、プロフェッショナル・サービス及び商業サービス、インターネット・メディア及びサービス、ソフトウェア及びITサービスの4業種です。国内の有価証券報告書では、測り方も単位も各社の設計に委ねられています。
7社のエンゲージメント事例は単位が5種類
7社の開示を単位で分けると、割合、5段階の平均、ポイント、偏差値、外部サーベイのスコアの5種類になります。割合に入るのは、日立製作所など2社の肯定的回答率と、丸井グループの項目ごとの割合です。同じ「エンゲージメント」でも、数字の意味は会社ごとに異なるということです。
日立製作所は4つの設問の肯定的回答率
日立製作所は、従業員サーベイ「Hitachi Insights」を毎年グローバルに実施しています。経営層と各職場のマネージャーが自組織の結果をメンバーと共有し、対策を立てて実行する運用です。
スコアは4つの設問に対する肯定的回答率で、設問は自社で働くことへの誇り、働き甲斐のある職場か、仕事へのやりがい・達成感、当面自社で勤務する勤続意欲の4点でした。
2024中期経営計画では、2024年度までに71.0%とするストレッチ目標を置きました。2024年度の実績は71.5%で、目標を0.5ポイント上回っています。出所:同好事例集が掲載した日立製作所の有価証券報告書(2025年3月期)。
施策の選び方にも特徴があります。エンゲージメントと相関の高い項目をエンゲージメント・ドライバーと呼び、課題を特定する手段の一つにしています。
4つの設問に勤続意欲が入っている点は見落とせません。スコアの中に、定着の意向が最初から組み込まれている設計です。
NTTデータグループは1つの設問の肯定的回答率
NTTデータグループ(主要な構成会社は株式会社NTTデータなど)の社員エンゲージメント率は、自社で働くことを誇りに思うかを問う1つの設問への肯定的回答率です。人財戦略の各取り組みの総合結果として、この指標を置いています。
指標 | 目標(2024年度) | 実績(2024年度) | 目標(2025年度) |
|---|
社員エンゲージメント率 | 73% | 77% | 73% |
人財戦略3項目の向上率 | 10%以上 | 11% | 設定なし |
出所:同好事例集のNTTデータグループの抜粋(2025年3月期)。
2025年度の目標は、実績を上回った後も73%のまま据え置かれました。目標を達成した指標でも、維持していくことが重要なため同じ目標値を置いたと注記しています。
人財戦略3項目は、成長の機会、多様性の受容、カルチャー・風土の3つです。2022年度実績からの向上率で測り、2024年度までに目標を達成したため、2025年度の目標は設けていません。
1問の総合値は回答の負担が軽く、毎年の変化をすぐ読めます。ただし上下した理由は1問からは読めないため、3項目の向上率を添えて理由の側を補う組み立てです。
横浜フィナンシャルグループは5段階の平均
横浜フィナンシャルグループは、無記名の従業員意識調査を毎年実施しています。指標にしたのは「会社の総合的魅力」で、5段階評価(5が最高値)の平均です。
実績は2022年度が3.28、2023年度が3.41、2024年度が3.40でした。2027年度に3.40以上を目標に置いています。出所:横浜フィナンシャルグループ 有価証券報告書(2025年3月期)の同好事例集への掲載分。
この指標は、営業人員数や一人あたりの収益と同じ表に並びます。職場の状態を、事業の総合指標と同列の目標として扱っている例です。
集計の範囲は年度で変わっています。2022年度と2023年度は横浜銀行・東日本銀行の2行、2024年度は神奈川銀行を加えた3行の加重平均です。
丸井グループは項目ごとの割合を12年で比べる
丸井グループでは、手挙げによるグループ会社間の職種変更異動を、2025年3月期までに全グループ社員の約86%が経験しました。企業文化の変革を目指した8つの施策の一つで、同社はその結果をエンゲージメントの12年間の変化で示しています。
項目 | 2012年 | 2024年 |
|---|
仕事での「期待」 | 46% | 81% |
職場での「尊重」 | 28% | 69% |
自分の「強みを活かす」 | 38% | 58% |
出所:丸井グループの2025年3月期の有価証券報告書から、同好事例集が抜き出した記述。
1つの総合スコアではなく、3つの項目を個別に出しています。12年前の値と並べて示せるのは、独自に計測する指標を2012年の時点で持っていたからです。
3つのうち最も伸びたのは職場での「尊重」で、28%から69%へ上がりました。数字の高さより、比べられる過去の値を持っていること自体が、他社が後から用意できない資産になっています。
イズミは4項目をポイントで追う
イズミは2022年度からエンゲージメントサーベイを実施し、ビジョンの実現に特に重要な4項目を選びました。2022年度のスコアを基準に、推移をモニタリングしています。
項目 | 2022年度(基準) | 2023年度 | 2024年度 | 2025年度目標 | 2030年度目標 |
|---|
理念戦略 | 62 | 62 | 63 | 67 | 70 |
自己成長 | 62 | 62 | 64 | 67 | 70 |
健康 | 59 | 60 | 61 | 65 | 70 |
承認 | 63 | 64 | 65 | 65 | 70 |
出所:イズミの有価証券報告書(2025年2月期)が同好事例集に載せた抜粋。単位はポイント。
4項目はそれぞれ、ミッション・ビジョンへの共感、達成感や成長機会、仕事量・ストレス反応、成果・発言に対する承認と評価への納得感を表します。2030年度には、4項目とも70ポイントをそろえて目指す設計です。
エンゲージメントが下がった部署には、管掌役員が定期的に管理職と面談し、スコアを上げる施策を考えています。2024年度からはパートタイムで働くパートナー社員にも対象を広げました。表は推移を比べられるよう、正社員のスコアを載せています。
カプコンは外部サーベイの偏差値
7社のうち、エンゲージメントと離職率を同じ表に置いたのはカプコンだけです(うるるは同じ図の中に並べています)。その表でエンゲージメントの欄に並ぶのは、外部業者のサーベイの結果を他社と比べた偏差値でした。
指標は2本あります。仕事への自発性を表すワークエンゲージメントと、会社への愛着を表すエンプロイーエンゲージメントです。
指標(偏差値) | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 目標 |
|---|
ワークエンゲージメント | 52.6 | 51.8 | 54.4 | 54.1 | 54.7 | 55.0 |
エンプロイーエンゲージメント | - | - | 51.8 | 52.1 | 53.1 | 55.0 |
出所:同好事例集に掲載のカプコン 有価証券報告書(2025年3月期)抜粋。
偏差値は他社との相対的な位置を示す値なので、設問の中身は数字から読み取れません。同社はその点を、設問ごとの回答割合を添えることで補っています。
設問 | 「まあまあ当てはまる」以上 |
|---|
仕事では、自分なりの創意工夫を行っている | 89.3% |
今の仕事をしているときは、楽しいと感じる | 70.7% |
今の会社には、親しみや愛着を感じる | 79.9% |
今の会社で働くことができて本当に良かったと思う | 87.6% |
出所:同好事例集のカプコンの抜粋(2025年3月期)。
うるるは外部サーベイのスコアを業種平均と並べる
うるるは、外部のエンゲージメントサーベイ「Wevox」のスコアを、同じサーベイを使う企業群の平均と並べて開示しています。2024年4月〜2025年3月の平均で、うるるは79.8、業種平均は73、上位20%の企業群は82でした。出所:同好事例集に掲載のうるる 有価証券報告書(2025年3月期)抜粋の図。
比べる相手の業種平均は、インターネットサービスのうち業務支援Webサービス(B2B)で従業員201〜500名の企業群の平均で、上位20%はその企業群のうち上位20%の企業です。スコアは役員と間接雇用を含む全従業員の値で、目標値は今後必要に応じて設定するとしています。
同じ図には、うるるの正社員の離職率6.4%が、厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概要」の情報通信業平均12.4%と並びます。出所:同好事例集に掲載のうるる 有価証券報告書(2025年3月期)抜粋の図。金融庁は、離職率やエンゲージメントサーベイなどの独自指標を、視覚的に理解しやすく示した点を着目点に挙げました。
エンゲージメントは離職率と同じ表で見る
カプコンは、エンゲージメントの偏差値と離職率を同じ表で開示しています。職場の状態を表す数字と、人が辞めた結果の数字を並べる形です。
指標 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 目標 |
|---|
離職率(単体・%) | 3.9 | 5.4 | 3.5 | 2.9 | 2.8 | - |
うち自己都合(%) | 3.6 | 4.7 | 3.2 | 2.5 | 2.2 | 3.0程度 |
出所:同好事例集のカプコンの抜粋(2025年3月期)。集計は正社員。
同社は、自己都合の離職率2.2%が目標の3.0%程度を下回ったとしています。報酬制度の改定と働きやすい環境づくりが貢献したとの評価です。
離職率まで同じ表に置いたのは7社中カプコンだけですが、エンゲージメントを定着の結果と切り離さずに見る発想はほかの会社の開示にも表れています。日立製作所は勤続意欲を設問に含め、イズミは入社3年時の離職率を定着の管理指標として年次で評価しています。丸井グループは企業文化の変革の成果として、2025年3月期の退職率(定年退職者を除く)3.5%と入社3年以内の離職率約17%を示しました。出所:同好事例集の丸井グループ・イズミの抜粋。エンゲージメントは、定着という結果につながって初めて事業の数字に届きます。離職率の算出方法と読み方は、離職率とは?令和7年は13.7%、3指標で読む方法で扱いました。
定着の指標と並べて採用の現在地も測る
7社の開示に並ぶ指標は、いずれも今いる人に長く力を発揮してもらう側、つまり定着の設計です。人員計画にはもう一方の側として、必要な人をどれだけ迎えられるかという採用の現在地も要ります。
エンジニアのように採用の難度が高い職種では、定着の施策と採用の打ち手を分けて考えるために、採用のどの工程で詰まっているかを先に知っておくと判断が速くなります。
エンジニア採用力チェックは、企業の採用の状態を5指標24項目で採点し、結果を報告書で返す診断です。エンゲージメントや離職率と並べて、採用側の数字を同じ表に置く材料になります。
エンゲージメントの数値は会社をまたいで比べられない
7社の数字を並べると、どの会社が高いかを比べたくなります。ただし、次の3つの理由から、会社をまたいだ比較は成り立ちません。
- 単位が違う:割合、5段階の平均、ポイント、偏差値、外部サーベイのスコアは同じ物差しに乗らない
- 設問の数が違う:日立製作所は4問、NTTデータグループは1問で、同じ肯定的回答率でも中身が違う
- 集計の範囲が違う:同じ会社でも、対象を広げると値が動く
3つ目は、7社の開示の中に実例があります。NTTデータグループの社員エンゲージメント率は、主要3社の集計で77%、国内外の主要会社を加えると78%でした。横浜フィナンシャルグループは2024年度に集計対象を2行から3行へ広げ、イズミは表に載せるスコアを正社員に絞っています。
他社と比べる設計は偏差値と業種平均の並記の2つ
5種類の単位のうち、他社との比較を開示の中に組み込んでいるのは、開示に書かれた範囲ではカプコンの偏差値とうるるの業種平均との並記の2つです。カプコンは外部業者が他社と比べて算出した偏差値で、自社の位置を1つの数字で示します。うるるは同じサーベイを使う企業群の平均と上位20%の値を横に並べ、差を読み手に見せています。
残る割合・5段階の平均・ポイントは、自社の過去と比べるための物差しです。丸井グループの12年比較やイズミの基準年のように、同じ設問で測り続けることで意味を持ちます。
他社の事例から借りられるのは、スコアの水準ではなく設計です。自社のスコアを他社と比べたいのか、自社の過去と比べたいのかで、選ぶべき単位が変わります。エンゲージメントの定義や構成要素は、従業員エンゲージメントとは?高め方と組織業績への影響で扱いました。
7社の開示から借りられる設計は3つ
単位はばらばらでも、7社の開示には自社のサーベイ設計に移せる具体的な選択肢があります。目標の置き方、数字の組み合わせ方、スコアを受け取る人の決め方の3つです。
目標の置き方はストレッチ・据え置き・収束の3通り
目標値の置き方は、目標を開示した会社の中で3通りに分かれました。
置き方 | 例 | 向く場面 |
|---|
ストレッチ | 日立製作所:中期経営計画の終わりに71.0% | 経営計画の期間と連動させたいとき |
据え置き | NTTデータグループ:達成後も73%を維持 | 高い水準に届き、下げないことを重視するとき |
収束 | イズミ:2030年度に4項目とも70ポイント | 項目ごとのばらつきをそろえたいとき |
出所:金融庁 同好事例集に載る各社の抜粋をもとにOffers整理。
イズミの「承認」は2025年度目標が65ポイントで、2024年度の実績と同じ水準に置かれています。項目ごとに目標の上げ幅を変え、低い項目から先に引き上げる置き方です。
総合値と内訳を組にして出す
2つ目は、比べるための数字と、理由を読むための数字を組にする設計です。1つの総合値だけでは、上がった理由も下がった理由も分かりません。
NTTデータグループは1問の総合値に人財戦略3項目の向上率を添え、カプコンは偏差値に設問ごとの回答割合を添えました。イズミと丸井グループは、はじめから項目別・設問別の値だけを出しています。
金融庁が開示のポイントとして挙げた「数値を構成する要素の変化」は、この組み合わせがあって初めて示せます。
スコアを受け取る人を決めておく
3つ目は、サーベイの結果を誰が受け取り、誰が動くかを先に決めておく設計です。日立製作所では各職場のマネージャーが結果をメンバーと共有し、対策を立てます。
イズミは、スコアが下がった部署に対して、管掌役員が定期的に管理職と面談する仕組みを置きました。スコアの低下を、担当役員が現場の管理職と話す場に直結させた運用です。
結果を受け取る人が決まっていないと、スコアは集計されて報告されるだけで終わります。職場の単位まで結果を返すのか、役員が関与するのかは、サーベイを始める前に決めておく事項です。
自社のエンゲージメント事例を作る4つの手順
他社の事例を読んだ後は、自社の取組を同じ形式で書けるかが次の段階です。7社の開示の形式に沿うと、手順は4つになります。
- 比較の相手を決める:他社と比べるなら外部サーベイの偏差値か業種平均との並記、自社の過去と比べるなら同じ設問の割合かポイント
- 基準年と目標を置く:初年度の値を基準にし、ストレッチ・据え置き・収束のどれで目標を置くかを決める
- 内訳を残す:総合値に加えて、項目別か設問別の値を毎年残す
- 受け取る人を決める:スコアが下がった部署に誰が入るかを、イズミの管掌役員面談のように仕組みで決める
1つ目が最も後から変えにくい部分です。設問や集計範囲を途中で変えると、イズミの基準年や丸井グループの12年比較のような推移が示せなくなります。
比較の相手は数字の使い道で決める
比較の相手は、スコアを誰に何のために見せるかで決まります。施策の効果を社内で確かめるのが主な目的なら、自社の過去と比べる割合やポイントで十分です。
投資家や求職者に自社の水準を示したいなら、他社と同じ物差しに乗る外部サーベイの偏差値や業種平均との並記が候補になります。ただし偏差値は設問の中身を映さないため、カプコンのように設問ごとの回答割合を添えることが前提になります。
集計の範囲は注記で残す
対象者を広げるときに要るのは、値の変化が施策の結果か範囲の変化かを区別できる記録です。横浜フィナンシャルグループやNTTデータグループのように、集計の範囲を注記で明示しておくと後から読み違えません。
イズミのように、対象を広げた後も比較用に従来の範囲のスコアを並べて残す方法もあります。
開示の要件が人材戦略の書き方を変える
人材戦略を企業戦略と結びつけて書く要請は、2026年から強まりました。金融庁は2026年2月20日に開示府令の改正を公布・施行しています。
有価証券報告書で新たに求められるのは、連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略、それを踏まえた従業員給与等の決定方針、平均給与の対前年比増減率です。出所:金融庁『「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果について』(2026年2月20日公布)。
適用は2026年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書からです。改正はエンゲージメントの指標そのものには触れていません。
7社がエンゲージメントの指標を事業の目標や離職率と並べていたのは、人材戦略を事業と結びつけて示すという改正の向きと重なる書き方です。制度改正の全体像は人的資本とは?2026年の制度改正で何が変わったかにまとめました。
人事施策の事例を国の資料で読む方法は、人事戦略の事例、公表19社の偏りと再現条件でも扱っています。
設問を決めた日に比べられる相手が決まる
7社のエンゲージメントの数字は、単位が5種類に分かれ、設問の数も集計の範囲も違いました。71.5%と54.7のどちらが高いかを問うても、答えは出ません。
丸井グループの12年比較も、カプコンの偏差値も、最初に選んだ測り方の延長線上の結果です。サーベイの設問と単位を決めた時点で、数年後にその数字を何と比べられるかが決まります。事例を集める前に、自社は他社と比べたいのか、自社の過去と比べたいのかを先に決めておく必要があります。