求人を出しても応募が来ない。そう感じたときに検討に上がるのが、企業の側から候補者へ声をかける採用です。
ただ、そこには「スカウト」と「ヘッドハンティング」という2つの言葉が並んでいます。似た説明が多いわりに、見積書を取ると金額の桁が変わるのはなぜか。
この記事では、2つの違いを採用担当が選ぶための材料として整理しました。言葉の意味、費用の出方、どちらを選ぶかの判断手順、発注先に確かめる点までを順に扱います。
2つの違いは相手の状態と探す範囲に出る
スカウトは転職を考えて登録している人へ企業から声をかける手法です。ヘッドハンティングは、転職を考えていない在職者を名指しで探し出して口説きます。違いはこの2点に集約されます。
母集団の大きさ、かかる期間、費用の出方といった他の差は、すべてここから派生したものです。
比べる点 | スカウト | ヘッドハンティング |
|---|
相手の状態 | 転職を考えて登録している | 在職中で転職を考えていない場合もある |
探す範囲 | データベースの登録者 | 業界・企業を指定して市場全体 |
一度に会える人数 | 数十人から数百人へ同時に送れる | 1ポジションに数人 |
主な用途 | 現場の実務層から管理職まで | 経営幹部・後継者・希少な専門職 |
費用が発生する時点 | 利用料または入社時 | 依頼時から段階的に |
社内にかかる手間 | 文面作成と返信対応が続く | 要件のすり合わせが中心 |
見落とされやすいのは表の最後の行です。スカウトは費用が安く見えても、送る・返す・調整するという作業が社内に残ります。ヘッドハンティングは費用が高く見えても、探す作業そのものは外に出せます。
どちらが安いかは、金額だけを並べても決まりません。
スカウトという言葉が指す3つの採用手法
スカウトという1語は、実務では3つの別の手法を指します。見積もりの金額が食い違う原因は、送り手が誰なのかの違いにあります。
1つ目は、企業が自社の名前で送るスカウトです。求人データベースに登録した候補者を自社で検索し、文面も自社で作ります。ダイレクトリクルーティングとも呼ばれる形です。
2つ目は、人材紹介会社から届くスカウトになります。登録した求職者へ求人を案内するのは、紹介会社の担当者です。候補者から見れば同じ「スカウトメール」ですが、あいだに事業者が入る点が違います。
3つ目はスカウト代行です。1つ目の作業を外部へ委託する形で、検索も文面作成も送信も代行会社が担います。手法はダイレクトリクルーティングのままで、変わるのは手を動かす人だけです。
スカウト採用そのものの進め方はスカウト採用の記事に、委託する場合の料金の型はスカウト代行の記事にまとめてあります。
ヘッドハンティングには登録型とサーチ型の2つがある
ヘッドハンティングは、候補者をどう見つけるかで登録型とサーチ型に分かれます。
登録型は、ヘッドハンティング会社が持つハイクラス人材のデータベースから候補者を選ぶ形です。すでに転職の意思を示している人が中心なので、動き出しは速くなります。
サーチ型では、依頼を受けてから対象企業と対象ポジションを定め、その企業に在籍している人を調べて接触します。転職市場に出ていない人へ届くのはこちらです。着手から入社までは数か月単位です。
要件の詰め方や会社選びの観点はヘッドハンティングの記事で詳しく扱っています。ここでの主題は、スカウトと並べたときにどちらを選ぶかです。
費用は「いつ・何に対して払うか」で比べる
費用を比べるときは、料率ではなく支払いのタイミングで並べると差が見えます。同じ「成功報酬」という言葉でも、その前に払うものがあれば総額は変わるからです。
手法 | 依頼時 | 進行中 | 入社時 | 不成立のとき |
|---|
自社で送るスカウト | 利用料(月額・年額) | ― | サービスにより発生 | 利用料は戻らない |
人材紹介会社経由 | ― | ― | 紹介手数料 | 費用は発生しない |
ヘッドハンティング(登録型) | ― | ― | 成功報酬 | 費用は発生しない |
ヘッドハンティング(サーチ型) | 着手金 | 中間金 | 成功報酬 | 着手金・中間金は戻らない |
成立しなくても費用が残るのはサーチ型だけです。調査そのものに人手がかかるため、依頼した時点から作業が始まります。
自社で送るスカウトは、何人採用しても利用料が変わらない契約が中心です。採用人数が増えるほど、1人あたりの負担は下がっていきます。
人材紹介に払う費用の内訳と職種ごとの実額は人材紹介の費用の記事にまとめました。
法定の手数料上限は賃金の11%、実務の料率が超える理由
手数料を受け取って人を紹介する事業には、法律上の上限が定められています。それでも見積書に並ぶ料率がその上限を大きく超えるのは、上限のある枠組みとない枠組みが並んで存在しているからです。
前提として、人を紹介して報酬を受け取る行為は職業紹介にあたります。職業安定法第四条第一項は職業紹介を「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあつせんすること」と定めました。第三十条第一項は「有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない」と定めています。
出所:e-Gov 法令検索「職業安定法」(昭和二十二年法律第百四十一号)現行版・2026年9月14日確認。
人材紹介会社もヘッドハンティング会社も、この許可の下にある事業者です。
手数料の枠組みは上限制と届出制の2つに分かれる
その手数料には2つの枠組みがあります。
上限制手数料の最高額は、支払われた賃金額の100分の11(免税事業者は10.3)です。期間の定めのない雇用契約で同じ人が6箇月を超えて雇用された場合は、別の計算が加わります。6箇月間の賃金の100分の11と、臨時の賃金および3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金を除いた額の100分の14.8(免税事業者は13.9)のうち、大きい額まで徴収できます。
届出制手数料は、厚生労働大臣に届け出た手数料表の額を徴収する仕組みです。こちらには金額の上限が定められていません。変更を命じられるのは、手数料に関する事項が明確でなく著しく不当と認められるときと、特定の者へ不当な差別的取扱いをするときの2つに限られます。
出所:厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第6 手数料(令和8年7月31日適用)。
11%という数字は確かに存在します。ただし実務で使われている枠組みとは別のものです。
国の集計では手数料収入の99.7%が届出制から出ている
どちらが使われているかは、国の集計に表れています。
令和6年度の民営職業紹介事業所の手数料収入は約9,835億円で、対前年度比17.6%の増加でした。手数料徴収状況の合計行を見ると、内訳は次のようになります。
手数料の種類 | 金額(千円) | 構成比 |
|---|
届出制手数料 | 980,821,781 | 99.7% |
上限制手数料 | 1,804,568 | 0.2% |
受付手数料・求職者紹介手数料など | 827,808 | 0.1% |
合計 | 983,454,157 | 100% |
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(令和8年3月31日公表)・構成比は Offers 算出。
届出制が約9,808億円で、全体の99.7%を占めます。見積書に載る料率が11%を超えているのは、違法だからではありません。上限の定めがない枠組みを使っているからです。
料率の妥当性を判断する材料は、法定上限ではなく届け出られた手数料表そのものになります。
1件あたりの実額は約103万円
料率よりも金額のほうが比べやすくなります。
同じ集計では、常用就職に係る手数料が約9,136億円、常用就職1件あたりの手数料が約103万円(対前年度比10.9%増)でした。この割り算は厚生労働省が行っています。注記には「常用就職件数の合計値と常用就職に係る手数料の総額より算出しています」とあります。
ここでの常用とは、4か月以上の期間を定めて雇用されるものか、期間の定めなく雇用されるものです。
職種別に見ると、情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発)の手数料合計は59,879,286千円、約599億円にのぼりました。エンジニア採用に紹介経由で使われている金額の規模がここに表れています。
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(令和8年3月31日公表)・億円への丸めは Offers 算出。
103万円は全職種を通した平均です。管理職や専門職ではこれを上回ります。それでも、自社のスカウト運用にかかる年間の利用料と並べれば、どちらが割高かの見当は付きます。
自社の採用でこの比較をどう置くかは、ポジションの要件と現在の採用単価しだいです。Offers の AI RPOでは、手法の選定から実務の代行までを対象に相談を受け付けています。
候補者から紹介手数料を取れる職業は5つに限られる
候補者側が紹介の手数料を払うことは、原則としてありません。求職者手数料として法令が例外を認めているのは、5つの職業だけです。
求職者手数料を徴収できるのは「芸能家」「モデル」と、「経営管理者」「科学技術者」「熟練技能者」の職業になります。このうち後ろの3職業については、紹介で就職した職業の賃金の額が年収700万円またはこれに相当する額を超える場合に限られます。「芸能家」と「モデル」に年収の条件は付きません。
紹介手数料とは別に、求職の申し込みを受け付けた時点で取れる受付手数料もあります。こちらは経過措置として、芸能家・家政婦(夫)・配ぜん人・調理師・モデル・マネキンの6職業の求職者から、1件につき710円(免税事業者は660円)を限度に徴収できます。金額の桁が紹介手数料とは違うため、採用単価の比較に影響する性質のものではありません。
出所:厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第6 手数料(令和8年7月31日適用)。
年収要件の付く3職業では徴収実績が0円だった
条文が認めていることと、実際に行われていることは別です。国の集計を見ると、この例外はほとんど使われていません。
令和6年度の求職者紹介手数料104,712千円の内訳は、芸能家87,596千円とモデル17,116千円でした。年収の条件が付く経営管理者・科学技術者・熟練技能者は、3職業とも0円です。受付手数料のほうは、上の6職業から合計584,545千円が徴収されています。
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(令和8年3月31日公表)。
経営幹部や専門職を採用する場面は、まさにこの3職業に重なります。そこで候補者が手数料を負担した実績は無い、というのが国の集計から読める事実です。
スカウトでもヘッドハンティングでも、費用を負担するのは採用する企業の側と考えて差し支えありません。候補者へ声をかける文面で、費用負担への不安を解く説明を入れる必要もありません。
どちらを使うかは3つの問いで決まる
手法を先に選ばず、埋めたいポジションの条件から逆算します。次の3問に答えれば、どちらへ寄せるかが決まるはずです。
問い1 その人は今、転職を考えているか
考えている層で足りるなら、スカウトで届きます。登録者のデータベースは転職の意思を示した人の集まりなので、声をかけた相手が話を聞いてくれる確率は高めです。
考えていない層へ届く必要があるなら、選ぶのはサーチ型のヘッドハンティングになります。対象企業を指定して在籍者を調べる工程が入るため、データベースの検索では代わりになりません。
判断の分かれ目は、そのポジションの要件を満たす人が転職市場に何人いそうかという見立てです。心当たりが数人しかいない要件なら、市場全体を探す必要があります。
問い2 1ポジションに何人と会いたいか
複数人を比べて決めたいなら、向いているのはスカウトです。同時に多数へ送れるので、面談の母集団を作れます。
1人を口説き落とす形で構わないなら、ヘッドハンティングです。そもそも候補になる人が少ないポジションでは、比較検討という前提が成り立ちません。
会いたい人数の見込みは、要件の希少さから決まってきます。
問い3 社内に週何時間割けるか
自社で送るスカウトは、費用が固定される代わりに作業が社内へ残ります。候補者の検索、文面の作成、返信への対応、日程調整が毎週発生する形です。
この時間が取れないなら、スカウト代行か人材紹介へ寄せる判断になります。工数を見ずに利用料の安さだけで選んだ場合、送信数が伸びないまま契約期間が終わりかねません。
割ける時間が読めない場合は、どの工程に何時間かかっているかを先に測ると判断しやすくなります。自社の採用がどこで詰まっているかを含めて相談したいときは、Offers の AI RPOへお問い合わせください。運用の設計から実務の代行までを引き受けています。
発注先に確認する3点は許可・手数料表・返金規定
委託先を比べるときは、サービス名や実績の前に制度上の裏づけを確かめます。見るのは3点です。
1つ目は、有料職業紹介事業の許可の有無です。職業安定法第三十条第一項により、有料の職業紹介事業には厚生労働大臣の許可が必要です。許可番号は事業者のサイトに掲示されているので、契約前に確かめられます。
2つ目は手数料表の内容です。届出制手数料を選んだ事業者は、届け出た手数料表に基づいてしか徴収できません。料率だけでなく、算定の基礎になる賃金の範囲(賞与を含むか、想定年収か実支給額か)まで見ておくと、後から金額が食い違わずに済みます。
3つ目は返金規定です。入社後の早期離職でいくら戻るかは事業者ごとに違います。サーチ型では着手金と中間金の扱いも合わせて確認してください。
届出をせずに届出制手数料を徴収した者は、法第65条第2号に該当し、6箇月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処せられる場合があります。手数料表の提示を渋る相手には、この点を踏まえて臨んでください。
出所:厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第6 手数料(令和8年7月31日適用)。
スカウトの承諾率は文面の作り方で変わる
スカウトを選んだ場合、成果を左右するのは送信数よりも文面です。同じデータベースへ同じ数だけ送っても、承諾率は動きます。
Offers が提供する AI スカウト生成機能では、導入企業のスカウト承諾率が13.1%から31.7%へ、別の企業では19.0%から32.4%へ変化しました。スカウト文の作成工数は80%削減しています。
出所:株式会社overflow「AIスカウト生成機能」(PR TIMES・2024年10月31日発表・2024年10月時点 当社調べ)。
承諾率が2倍動くということは、同じ採用人数を同じ利用料で確保できるかどうかが文面の作り方で決まるということです。費用の比較でスカウトが有利に見えても、返信が来なければその前提は崩れます。
スカウトを選ぶ判断には「送る仕組みを社内で回せるか」という条件が付きます。回せないなら、費用の比較表の数字はそのままでは使えません。
最後に確かめること
スカウトとヘッドハンティングを分けるのは、相手が転職を考えているかと、探す範囲がデータベースか市場全体かの2点です。母集団の大きさ、期間、費用の出方は、そこから派生します。
費用は料率ではなく支払いのタイミングで比べてください。不成立でも着手金と中間金が残るのはサーチ型だけで、他の手法は入社時または利用料で発生します。
料率の水準を法定上限で判断することはできません。令和6年度の手数料収入約9,835億円のうち99.7%は、上限の定めがない届出制手数料から出ています。判断材料になるのは、届け出られた手数料表と1件あたり約103万円という国の集計値です。
どちらを選ぶかは、転職を考えていない層へ届く必要があるか、何人と会いたいか、社内に何時間割けるかの3問で決まります。発注前には、許可の有無・手数料表・返金規定の3点を確かめてください。