DXの費用を調べると、数十万円から数億円までの金額が並びます。幅が広い理由は、金額のほうではなく言葉のほうにあります。DXという一語が、紙の書類を電子化することも、基幹システムを入れ替えることも、同じ名前で呼んでいるためです。
だから金額そのものを探しても、自社が払うべき額は出てきません。
この記事では、金額のレンジを並べる代わりに、国の調査が示す「売上に対してどれだけ配っているか」を先に置きます。そのうえで扱うのは、費用として公的に認められる費目と、投じた費用が回収できたかどうかの実測です。読み終えると、自社の予算をどの水準から組むかと、稟議で何を示せば通るのかが決まります。
DX費用の水準は、金額ではなく売上に対する割合で置く
DX費用の実勢は、売上に対する割合で見るとはっきりします。国の調査では、DXに取組む企業の過半が売上の2%未満に収まっていました。
売上に占めるDX投資額・費用の割合 | 企業の割合 |
|---|
1%未満 | 27.8% |
1%以上〜2%未満 | 31.0% |
2%以上〜3%未満 | 9.7% |
3%以上〜4%未満 | 8.9% |
4%以上〜5%未満 | 1.6% |
5%以上 | 21.1% |
出所:IPA『DX動向2026』(2026年7月公表・n=641)。
1%未満と1%以上2%未満を合わせると58.8%です。一方で5%以上も21.1%あり、2%から5%の帯は薄くなっています。DX費用は「平均のあたりに集まる」形ではなく、軽い側と重い側に分かれる二山の形です。
自社の位置を決めるときは、この二山のどちらに立つのかを先に選びます。年商10億円の会社なら、2%未満で置けば年2,000万円未満、5%以上で置けば年5,000万円以上。同じ会社の同じ年でも、どちらの選択も実在する水準です。
なお、この設問は任意回答で、回答したのは641社です。同じ調査の他の設問(回答1,361社)の半分ほどなので、自社のDX支出を把握している企業に偏っている可能性があります。加えて3σを基準として33.0%以上の回答を外れ値として除いた集計です。
対象はDXそのものへの投資・費用です。AIツール単体の契約額は範囲が違うので、AI導入の費用で平均と中央値の開きとして分けて扱っています。この記事が対象にするのは、デジタル化の取組全体に配る費用です。
売上比が5%以上の企業は、従業員規模が小さいほど多い
同じ調査を従業員規模で割ると、重い側の区分で順序が直感と逆になります。売上比5%以上の企業の割合は、規模が小さいほど高いのです。
従業員規模 | 回答企業数 | 1%未満 | 1%以上〜2%未満 | 5%以上 |
|---|
100人以下 | 154 | 19.5% | 22.7% | 39.0% |
101人以上300人以下 | 183 | 28.4% | 34.4% | 21.9% |
301人以上1,000人以下 | 163 | 39.3% | 29.4% | 14.1% |
1,001人以上 | 140 | 22.9% | 37.9% | 8.6% |
出所:IPA『DX動向2026』(2026年7月公表・3σを基準に外れ値を除外)。
100人以下では5%以上が39.0%で最多です。1,001人以上では8.6%まで下がります。その差は4.5倍です。ただし逆転しているのは5%以上の区分だけで、2%以上4%未満の帯は1,001人以上のほうが厚くなっています。
理由は分母の側にあります。社内システムを1つ入れ替える費用は、従業員が50人でも5,000人でも同じようにはかかりません。しかし売上の規模は人数に近い形で違います。結果として、小さい会社では同じ1本の導入が売上比で重く出ます。
ここから読めるのは、規模の小さい会社が「売上の1%から2%」を目安に置くと、実際に必要な額に届かないことが多いという点です。逆に301人以上1,000人以下の層では1%未満が39.3%で最多なので、この規模で高い比率を前提にすると社内で浮きます。DXそのものの取組状況の全体像はDXとはにまとめました。
日本全体の情報化投資は、約78%がソフトウェアに向かう
費目の重心も統計から読めます。日本全体の情報化投資を見ると、支出はソフトウェアに強く偏っています。
2024年の日本の民間企業による情報化投資は25.7兆円(2020年価格・前年比1.9%増)と推計され、このうちソフトウェア(受託開発及びパッケージソフト)への投資が20.2兆円で全体の約78%を占めました。出所:総務省『令和8年版 情報通信白書(概要)』(2026年7月公表)。
つまり、情報化投資の8割近くは「つくる」か「買う」のどちらかに向かいます。機材を買う費目の比重は小さいままです。なお、この統計は設備投資として計上される分の集計なので、クラウドの利用料・コンサルティング費・研修費は含みません。
この構造が影響するのは、予算の立て方です。機材は買えば資産になり、一度で終わります。一方、ソフトウェアに向かう費用は、受託開発なら設計と実装の工数、パッケージやクラウドなら期間に応じた利用料です。どちらも「いつまで払い続けるのか」が金額を決めます。だから初期費用だけを比べた見積もりは、実際の負担を表しません。
補助制度が認める費目が、費用の内訳の下敷きになる
費用の内訳は、自分で費目を考える必要がありません。公的な補助制度が、DXの費用として認める費目を区分ごとに定めています。
区分 | 認められる経費 |
|---|
ソフトウェア(必須) | ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分) |
オプション | 機能拡張、データ連携ツール、セキュリティ |
役務 | 導入コンサルティング・活用コンサルティング、導入設定・マニュアル設定・導入研修、保守サポート |
出所:中小企業庁・中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026」通常枠。
補助率は1/2以内で、一定の要件を満たす場合は2/3以内になります。補助額は1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下です。
この区分をそのまま見積もりの割り方に使えます。ベンダーから出てきた一式の金額を、ソフトウェア本体・オプション・役務の3つに割り直してもらうと、何に払っているのかが見えます。
注目したいのは、役務の側に導入研修と活用コンサルティングが並んでいる点です。制度の側は、道具を買う費用と、使えるようにする費用を同じ事業の経費として扱っています。見積もりに研修の費目が無ければ、その分を払うのは自社の人の時間です。
クラウド利用料が最大2年分までという条件も、費用の考え方を示しています。3年目以降の利用料は自社の全額負担です。初年度の補助額で判断すると、3年で見た総額を読み違えます。
対象にする業務の数が増えると、金額の帯が切り替わる
DXの費用の帯を変えるのは、何を対象にするかです。公的な補助制度は、この切り替わりを対象業務の数で定義しています。
対象にする業務の数 | 補助額(交付される補助金の額) |
|---|
1プロセス以上 | 5万円以上150万円未満 |
4プロセス以上 | 150万円以上450万円以下 |
出所:中小企業庁・中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026」通常枠。
補助額の境目は150万円です。業務1つを対象にするなら補助額150万円未満、4つ以上に広げるなら150万円以上という区切りが、制度の側で引かれています。
これは受け取る補助金の額であって、支出そのものの上限ではありません。補助率1/2以内なら、補助額150万円に対応する経費は300万円です。それでも、対象業務を1つ増やすことが金額にどう跳ね返るかの目安にはなります。
初期とランニングの分かれ目は、費目の一覧には書かれていません。継続性が明示されているのはクラウド利用料(最大2年分)だけなので、残りは性質から分けます。
区分 | 該当する費目 |
|---|
買って終わるもの | ソフトウェア購入費、導入設定・マニュアル設定・導入研修、導入コンサルティング |
払い続けるもの | クラウド利用料、保守サポート、活用コンサルティング |
出所:同制度の補助対象経費をもとにOffersが分類。
一式の見積もりには、この2種類が混ざって出てきます。だから総額を見ても、来年いくら残るのかは分かりません。制度がクラウド利用料を最大2年分までに限っているのは、3年目以降が自社負担になることの裏返しです。
DX費用は、半数の企業で増えている
水準の次に見るのは方向です。DX費用は増える側に動いています。
2024年度から2025年度にかけての増減 | 企業の割合 |
|---|
大幅に増加している(およそ+20%以上) | 8.9% |
やや増加している(およそ+5%〜20%以下) | 42.8% |
ほぼ横ばい(+5%〜-5%程度) | 38.2% |
やや減少している | 1.3% |
大幅に減少している | 0.6% |
わからない | 8.2% |
出所:IPA『DX動向2026』(2026年7月公表・n=1,361)。
増加した企業は合計で51.7%です。減少した企業は合わせて1.9%しかありません。
ただし、ほぼ横ばいが38.2%あることも見ておきます。増額が多数派ではあるものの、半数近くは前年と同じ水準で回しています。社内で増額を提案するとき、「他社も増やしているから」という説明は多数派の事実に沿ってはいますが、据え置きの会社も4割近くあるため決定的な根拠にはなりません。
費用は増えても、人に配る分は増えていない
増えた費用がどこに配られているかを見ると、偏りがあります。同じ調査で、DXを推進する人材を育成する予算の増減を聞いた結果が次のとおりです。
DX人材の育成予算の増減 | 2025年度(n=1,357) | 2024年度(n=1,190) |
|---|
大幅に増やした | 2.9% | 3.5% |
やや増やした | 22.7% | 20.3% |
変わらない | 51.5% | 49.5% |
やや減らした | 1.6% | 1.0% |
大幅に減らした | 0.6% | 0.6% |
わからない | 20.6% | 25.1% |
出所:IPA『DX動向2026』(2026年7月公表)。
育成予算を増やした企業は2025年度で25.6%でした。DX投資額そのものを増やした企業は51.7%なので、その差は26.1ポイントです。変わらないが51.5%と過半を占めています。
費用は増えているのに、人に配る分は据え置かれている。この構図が、人事・採用の担当者にとって実務上の問題になります。道具の予算は通るのに、その道具を使えるようにする研修・採用・配置の予算は前年と同じまま、という状態が半数の会社で起きているためです。
対処の方向は2つに分かれます。1つは育成予算そのものを増やす提案で、DX費用の増額と同じ稟議に載せてしまうやり方です。補助制度の側が導入研修を経費として認めているので、「道具の費用の一部」として扱えば別枠を立てずに済みます。どういう人材を何人必要とするのかの整理はDX人材とはにまとめています。
もう1つは、社内の工数を増やさずに外へ移すやり方です。採用の業務そのものをDXの対象にするなら、工数を社外に出して件数で成果を測る形も選べます。エンジニア採用の工数をどこまで外に出せるかはAI RPOで相談を受けています。
投じた費用が効果で上回った企業は14.6%にとどまる
ここが費用の判断でもっとも重い数字です。DXに取組んでいる企業のうち、効果が費用を上回ったと答えた企業は少数でした。
DX投資・費用に対する投資対効果 | 企業の割合 |
|---|
投資・費用を大幅に上回る効果が出ている | 0.7% |
投資・費用を上回る効果が出ている | 13.9% |
投資・費用と効果が同程度である | 24.1% |
投資・費用に対して効果が不足している | 12.4% |
投資・費用に対して効果が大幅に不足している | 1.5% |
先行投入フェーズであり今後評価する | 24.2% |
投資対効果は測定・把握できていない | 23.2% |
出所:IPA『DX動向2026』(2026年7月公表・n=1,360)。
上回ったと答えた企業は合計14.6%です。同程度が24.1%、不足していると大幅に不足しているを合わせて13.9%。ここまでは評価が下されています。
問題は残りの47.4%です。先行投入フェーズが24.2%、測定・把握できていないが23.2%で、合わせて半数近くが効果を判定できていない状態にあります。
この分布は、費用の議論の順番を変えます。金額の妥当性を詰める前に確かめるべきなのは、投じた後に効果を判定できる仕組みがあるかどうかです。判定できなければ、その費用は翌年も同じ根拠で要求され、同じ根拠で削られます。導入の型と成果が出た条件はDX事例の読み方で整理しました。
成果指標を置いた企業は、効果が出たと答える割合が倍近く高い
判定できるかどうかの差は、成果指標の有無で説明が付きます。同じ設問を指標の設定状況で分けると、回答が明確に分かれました。
投資対効果 | 設定している(n=324) | 設定していない(n=900) |
|---|
投資・費用を大幅に上回る | 0.3% | 0.9% |
投資・費用を上回る | 23.1% | 10.6% |
同程度である | 24.1% | 25.0% |
効果が不足している | 9.6% | 13.9% |
効果が大幅に不足している | 0.9% | 1.9% |
先行投入フェーズ | 28.4% | 23.2% |
測定・把握できていない | 13.6% | 24.6% |
出所:IPA『DX動向2026』(2026年7月公表)。
効果が上回ったと答えた割合は、設定している企業で23.4%、設定していない企業で11.5%でした。差は11.9ポイントで、原典は10ポイント程度の差と記述しています。測定・把握できていないの側も13.6%対24.6%と開いています。
ところが、成果指標を設定している企業は23.9%しかありません。4社に1社にも届かない水準です。設定していない理由の最多は「評価指標の設定方法がわからない」で36.0%。2024年度の28.7%から約7ポイント上がっています。次に多いのが「評価指標はこれから定める」で33.4%です。
指標の設定は、費用を投じる前に済ませられます。そして指標の有無による投資対効果の回答の差は11.9ポイントです。費用の交渉に時間を使う前に、何をもって成果とするかを決めるほうが、結果に対する寄与は大きくなります。
回収の源はコスト削減に偏り、売上増は限られる
最後に見るのは、投じた費用がどこから戻ってくるのかです。DXで成果が出たと答えた企業に成果の内容を聞くと、返ってくる領域は偏っています。
DXによる経営面の成果内容 | 挙げた企業の割合 |
|---|
コスト(人件費・材料費等)削減 | 70.9% |
従業員満足度向上 | 42.4% |
製品・サービス等提供日数削減 | 34.3% |
利益増加 | 19.6% |
売上高増加 | 17.9% |
出所:IPA『DX動向2026』(2026年7月公表・成果が出ていると答えた企業が対象)。
コスト削減が70.9%で最も高く、売上高増加は17.9%です。その差は4倍近くあります。DXの成果が出ていると答えた企業でも、売上が増えたと答えるのは5社に1社に届きません。
成果指標の置き方もこれと揃っています。指標の対象は内向きの業務改革が80.0%、システム改革が55.4%で、外向きの業務改革は33.5%、経営改革は16.3%でした。
したがって、回収計画を売上増で立てると外れやすくなります。実勢に沿うのは、人件費と工数の削減幅で立てる置き方です。人事・採用の領域なら、1件あたりの工数・対応までの日数・担当者の残業時間のように、削減幅を数えられる指標のほうが回収の説明として通ります。
なお、DXに何らかの形で取組んでいる企業は75.7%、そのうち成果が出ていると答えたのは60.8%でした。取組そのものはすでに一般化しているので、費用の議論で問われるのは回収の測り方へ移っています。
予算として通すときに置く4つの数字
ここまでの実測を、稟議に載せる形へ整理したものが次の表です。
置くもの | 使う数字 | どこから取るか |
|---|
水準 | 自社の従業員規模に対応する売上比の分布 | IPA『DX動向2026』の規模別の行 |
費目 | ソフトウェア本体・オプション・役務の3区分 | デジタル化・AI導入補助金2026の補助対象経費 |
測り方 | 投じる前に決める成果指標 | 効果が上回った回答が11.9ポイント違う層別軸 |
回収源 | 人件費・工数・日数の削減幅 | 成果内容の実測(コスト削減70.9%対売上高増加17.9%) |
この4つが揃うと、金額の妥当性を主張しなくても予算の説明が成立します。逆に、金額のレンジだけでは、水準の根拠を問われた時点で先へ進めません。
順番も決まっています。測り方を決める、費目に割る、水準を当てる、回収源を書く。測り方を後回しにすると、効果を判定できない47.4%の側に入ります。
この記事の要点
DX費用について、国の調査から読める点を整理します。
- 水準は売上に対する割合で置く。2%未満が58.8%で、5%以上も21.1%ある二山の分布になっている
- 売上比5%以上の企業は従業員100人以下で39.0%(最多)、1,001人以上で8.6%。重い側の区分だけが規模と逆に動く
- 民間企業の情報化投資は約78%がソフトウェアに向かう(設備投資として計上される分の集計)。見積もりは補助制度の3区分(ソフトウェア本体・オプション・役務)で割り直す
- 費用を増やした企業は51.7%だが、人材の育成予算を増やしたのは25.6%にとどまる
- 効果が費用を上回ったと答えた企業は14.6%。半数近くは効果を判定できていない
- 成果指標を置いた企業は、効果が上回ったと答える割合が11.9ポイント高い
- 回収の源はコスト削減が70.9%で、売上高増加は17.9%。回収計画は削減幅で立てる