リファラル採用は「費用がかからない採用」と紹介されることもありますが、紹介した社員に払う報奨金は所得税の源泉徴収の対象で、支給の形によっては社会保険の手続きも必要です。
予算を組む段階でこれを見落とすと、支給のたびに給与計算の担当が扱いに迷い、会社が負担する保険料も見積もりから漏れます。
費用は、報奨金・運用費・社内工数の3つに分けて見積もると漏れが出にくくなります。報奨金の扱いは職業安定法・所得税法・厚生年金保険の手続きで決まり、自社で判断に迷う部分は年金事務所や税理士に確かめる、という順で進めるのが手戻りの少ない方法です。
リファラル採用の費用は報奨金・運用費・社内工数の3区分
リファラル採用にかかるコストは、紹介した社員に払う報奨金(会社が負担する社会保険料を含む)、紹介を回すための運用費、社員と人事が使う時間(社内工数)の3区分に分けて見積もるのが基本です。報奨金と運用費は採用活動をしなければ発生しない支出で、社内工数は給与としてすでに払っている費用の内訳にあたります。
区分 | 主な費目 | 支払う相手 | 新たな支出になるか |
|---|
報奨金 | 紹介報奨金、報奨金にかかる会社負担の社会保険料 | 紹介した社員、日本年金機構・健康保険の保険者 | なる |
運用費 | 候補者との会食・面談の飲食代、交通費、紹介管理ツールの利用料、社内告知の資料制作費 | 飲食店・交通機関・ツールの提供会社など | なる |
社内工数 | 社員の声かけと面談への同席、人事の日程調整・選考・報奨金の支給手続き | 社内 | ならない(給与として計上済み) |
報奨金の金額の相場と決め方はリファラル採用の報酬相場に、採用コスト全般の外部費用と内部費用の分け方は採用コストの内訳と費目の分け方にまとめています。
運用費は採用に至らなかった紹介の分も数える
候補者との会食や交通費は、紹介が採用に至らなかった場合にも発生する費用です。採用できた人数だけで割ると、1人あたりの費用はその分だけ高くなる点に注意が必要です。
紹介管理ツールの利用料は、紹介の件数にかかわらず契約期間ごとにかかります。採用人数が少ない年ほど、1人あたりに割り当てる額が大きくなります。
社内工数は1人あたりコストに足さず、時間で記録する
社員と人事が紹介に使った時間は、採用をやめても給与の額が変わらないため、減らしても支出は減りません。時間を別の仕事に回せるようになるだけです。
1人あたりのコストに金額として足すと、外部への支払いで計算されることが多い他の採用手段と比べにくくなります。面談の同席や日程調整にかかった時間は、時間数として別に記録しておくと、制度の負担を社内で説明するときに使えます。
公的調査で見る縁故採用の1件あたり平均コストは4.4万円
厚生労働省の委託調査では、知り合い・社員等からの紹介(縁故)による正社員採用1件あたりの平均コストは4.4万円でした。同じ調査で民間職業紹介事業者(紹介会社)は85.1万円、スカウトサービスは91.4万円、インターネットの求人情報サイトは28.5万円で、縁故はこれらを大きく下回ります。
採用手段 | 正社員1件あたりの平均採用コスト | 回答数 |
|---|
スカウトサービス | 91.4万円 | n=51 |
民間職業紹介事業者(紹介会社) | 85.1万円 | n=175 |
インターネットの求人情報サイト | 28.5万円 | n=254 |
求人情報誌・チラシ | 11.3万円 | n=113 |
知り合い・社員等からの紹介(縁故) | 4.4万円 | n=99 |
自社HP等からの直接応募 | 2.8万円 | n=150 |
出所:厚生労働省「採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査 報告書」(令和3年度委託調査・令和4年3月)図表IV-14(求人企業調査・正社員)。
縁故の回答のうち83.8%は「0万円」でした。調査票は1万円未満のコストを「0」と記入する形式なので、過去1年間に縁故を採用手段に使った企業の回答(n=99)の8割超が、1件あたり1万円未満と答えたことになります。
同じ調査で正社員の実際に採用した人数を見ると、この99件のうち37件(37.4%)は縁故で正社員を1人も採用していません。採用の実績が無い回答も含む平均なので、報奨金を設けて制度として回すリファラル採用では、この平均より高くなると見込んで予算を組むほうが安全です。
人材紹介の手数料には、より新しい公的統計もあります。厚生労働省の集計では、令和6年度の常用就職1件あたりの手数料は約103万円で、前年度より10.9%増えました(厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」・2026年3月31日公表)。委託調査の85.1万円は求人企業が答えた正社員1件あたりの平均で、こちらは手数料の総額を常用就職件数(4か月以上の有期雇用を含む)で割った値です。算出方法と対象が違うため、2つの数字は直接比べられません。
職種別の手数料は人材紹介の費用、職種別の1件あたり実額と課金モデルで扱っています。
調査の数字は自社の実績と並べて使う
調査の縁故には社員以外の知人からの紹介も含まれ、回答は2021年6月までの1年間の採用についてのもので、正社員の縁故の回答数は99件です。自社のリファラル採用が割安かどうかを判断するときは、次の節の式で自社の1人あたりコストを出し、同じ期間の他の採用手段の実績と並べて比べるのが確かです。
エンジニア・技術職を採用している企業が、リファラル以外の経路も含めて自社の求人や採用ページが候補者にどう見えているかを点検するなら、エンジニア採用力チェックを使えます。エンジニア・技術職の採用に特化した診断で、企業URLを入れると、AIが公開情報を5指標24項目で採点し、1営業日以内にレポートが届く仕組みです(無料・採用コストの集計は対象外)。
報奨金を賃金で払うと源泉徴収と社会保険料がかかる
社員に払う紹介報奨金は、職業安定法第40条の定めにより賃金・給料などとして支払う形にし、所得税法上は給与所得として会社が源泉徴収します。社会保険では、労働の対償として年3回以下で支給するものが賞与の届出の対象になるため、報奨金にも会社負担の保険料が生じる場合があります。予算に含めておくのが安全です。
職業安定法第40条が報奨金を賃金として払う根拠になる
職業安定法第40条は、労働者の募集を行う者が、募集に従事する被用者や募集受託者に対し、「賃金、給料その他これらに準ずるもの」を支払う場合と、第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除いて、報酬を与えてはならないと定めています(職業安定法第40条)。社員の紹介に払う報奨金は、この例外にあたる賃金として支払う形にします。
社員以外の人(取引先や退職した元社員など)に報酬を払って人材を探してもらう場合は、同法第36条の委託募集にあたり、厚生労働大臣の許可と、報酬の額についての認可が必要です。
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、臨時の賃金等の定めをする場合、その事項を就業規則に記載して届け出なければなりません(労働基準法第89条第4号)。規程の書き方はリファラル採用の事例と制度設計の要点にまとめています。
所得税は給与所得として源泉徴収する
所得税法第28条は賃金・賞与などを給与所得と定め、第183条は給与等を支払う者に、支払いの際に所得税を徴収し、徴収した月の翌月10日までに国へ納めるよう定めています(所得税法第28条・第183条)。
国税庁のタックスアンサー No.2523は、賞与の性質があるか明らかでない給与のうち「あらかじめ支給期の定めのないもの」は賞与に該当するとしています。紹介報奨金は入社が決まるまで支給の時期が決まらないため、この基準に当てはめると、賞与として源泉徴収する扱いになると考えられます。
賞与の源泉徴収税額は、前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額をもとに、原則として「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で税率を求めて計算する仕組みです。現金以外の品で渡すなど判断に迷う支給の形は、税理士か所轄の税務署に確かめてください。
社会保険は年3回以下の支給なら賞与支払届の対象になる
日本年金機構は、被保険者賞与支払届の対象を、名称を問わず労働者が労働の対償として受けるもののうち年3回以下の支給のもの、としています。対象になる報奨金を払った事業主の場合、賞与支払届の提出期限は支給日から5日以内です。
保険料は、支給額から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に、健康保険と厚生年金保険の保険料率をかけた額で、事業主と被保険者が折半で負担します。厚生年金保険料率は18.3%で固定されています(日本年金機構「従業員に賞与を支給したときの手続き」「保険料額表」)。
報奨金10万円を賞与として届け出る場合、厚生年金保険料は10万円×18.3%で1万8,300円になり、会社の負担はその半分の9,150円です(日本年金機構の保険料率をもとにOffers推計)。協会けんぽの場合は都道府県ごとに料率が異なる健康保険料が、これに加わります。
同機構は、労働の対償とみなされない結婚祝金等を賞与支払届の対象外としています。紹介報奨金を労働の対償として扱うかは規程の書き方にも関わるため、制度を作る段階で管轄の年金事務所か社会保険労務士に確かめておくと安心です。
社員の手取りは報奨金の額面より少なくなる
紹介した社員が受け取る手取りは、源泉徴収される所得税と本人負担の保険料の分だけ、報奨金の額面より少なくなります。社内告知で金額を示すときは、額面であることを書き添えるのが親切です。
1人あたりのコストは総費用を採用人数で割って出す
リファラル採用の1人あたりコストは、一定期間に払った報奨金・会社負担の保険料・運用費の合計を、同じ期間にリファラル経由で入社した人数で割って求めます。社内工数は分子に入れず、時間数として別に記録します。
前提をすべて仮に置いた試算は次のとおりです。報奨金は1人10万円、1年間に3人が入社し、紹介に伴う会食が10回あった場合を想定しています。
費目 | 前提(仮の数字) | 金額 |
|---|
報奨金 | 1人10万円×3人 | 300,000円 |
厚生年金保険料の会社負担 | 9,150円×3人 | 27,450円 |
会食・交通費 | 1回5,000円×10回(採用に至らなかった紹介を含む) | 50,000円 |
合計 | | 377,450円 |
1人あたり | 377,450円÷3人 | 約12.6万円 |
健康保険料の会社負担、子ども・子育て拠出金、紹介管理ツールの利用料は、この試算の対象外です。
仮の数字の試算でも、1人あたりのコストは報奨金の額面10万円を上回ります。採用に至らなかった紹介の会食費と、会社負担の保険料が上乗せされるためです。
他の採用手段と比べるときは、人材紹介の手数料(令和6年度の常用就職1件あたり約103万円・厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」)のように1件あたりで示された数字と、単位をそろえて並べます。採用単価の式と公的統計の実額は採用単価の定義と、公的統計でわかる1件あたりの実額で扱っています。
リファラル採用のコストが見積もりより膨らむ3つの場面
リファラル採用のコストが見積もりを超えやすいのは、紹介が採用に至らなかったときの会食費、入社後すぐに退職したときの報奨金、社会保険の届出の漏れの3つです。いずれも制度を作る段階の取り決めで抑えられます。
採用に至らなかった紹介の会食費は上限を決めておく
会食の費用を会社が持つ場合は、1回あたりの金額と、1人の候補者につき何回までかを規程に書いておきます。上限が無ければ、紹介の件数が増えた年ほど運用費が膨らむ計算です。
入社後すぐの退職に備えて、報奨金の支給条件を決めておく
報奨金の支給を入社から一定期間の在籍後にする条件は、早期退職のときに報奨金だけが出ていく事態を防ぎます。内定辞退や早期退職が起きたときの紹介者と報奨金の扱いは、リファラル採用の内定辞退と紹介者・報酬の扱いで扱っています。
報奨金は給与計算に載せて払う
報奨金を経費精算など給与計算とは別の経路で払うと、源泉徴収と賞与支払届から漏れやすい点が問題です。賞与支払届は支給日から5日以内に出すため、人事は支給の予定を給与計算の担当に前もって伝えておきます。
リファラル採用のコストで人事が押さえる要点
リファラル採用のコストは、報奨金の額面に、会社負担の社会保険料と運用費を足して見積もります。公的調査の縁故の平均4.4万円は縁故で正社員を1人も採用していない企業の回答も含むため、制度として回す場合の比べる基準は、自社の実績で出した1人あたりのコストです。
- 費用は報奨金(会社負担の保険料を含む)・運用費・社内工数の3区分で見積もり、社内工数は時間で別に記録する
- 厚生労働省の委託調査では、正社員1件あたりの平均採用コストは縁故4.4万円、紹介会社85.1万円、スカウトサービス91.4万円
- 報奨金は職業安定法第40条に沿って賃金として払い、所得税は源泉徴収、社会保険は年3回以下の支給なら賞与支払届の対象になる
- 報奨金10万円を賞与として届け出ると、厚生年金保険料の会社負担は9,150円で、健康保険料がこれに加わる
- 会食費の上限、在籍期間を条件にした支給、給与計算に載せた支払いの3つを規程で決めておくと、見積もりとのずれを抑えられる