HRBPに資格が義務づけられていない理由と、資格が役立つ場面
HRBPは法律で定められた職業ではなく、企業が組織の中に置く役割の呼び名なので、資格の有無で名乗れるかどうかは変わりません。登録しないと名乗れない「名称独占」のキャリアコンサルタントとは、扱いの前提が異なります(厚生労働省「キャリアコンサルタントになりたい方へ」)。
HRBPの定義や従来の人事との違いは「HRBPの役割とは?従来の人事との違いと企業事例を解説」で扱っています。ここからは資格の話に絞ります。
義務ではない一方で、資格が仕事の助けになる場面は3つです。
- 事業部門長との対話で根拠を示すとき。労働時間や配置転換の相談に、法令や統計の裏づけを持って答えられる
- 担当範囲を社内に示すとき。「キャリア面談はこのHRBPに相談できる」と、事業部門の社員に役割が伝わる
- 経験の薄い領域を短期間で学ぶとき。採用出身のHRBPが労務を、労務出身のHRBPがデータ分析を、試験の範囲に沿って体系的に押さえられる
どれも、資格そのものより「資格で身につけた知識を担当部門で使うこと」に価値があります。次の一覧は、HRBPの業務ごとにどの資格が対応するかを並べたものです。
HRBPの業務別に見た8つの資格の一覧
HRBPの業務と結びつく資格は、国家資格2つ、公的・民間の検定3つ、HRBPの名を持つ資格1つ、海外のHR資格2つの計8つに分けると選びやすくなります。受験料と直近の結果は、各実施団体の公式サイトと厚生労働省の公表資料で2026年10月31日に確かめた値です。
資格 | 種類 | 実施・認定 | 受験料(税込) | 直近の結果・合格基準 | 対応するHRBPの業務 |
|---|
キャリアコンサルタント | 国家資格(登録制・5年ごとに更新) | キャリアコンサルティング協議会/日本キャリア開発協会 | 学科8,900円・実技29,900円 | 第32回(2026年7月)学科54.8%・実技61.7% | キャリア面談、異動・配置の相談 |
社会保険労務士 | 国家資格 | 厚生労働大臣(試験は全国社会保険労務士会連合会 試験センターが運営) | 15,000円 | 第58回(2026年8月)合格率9.3% | 就業規則、労働時間、組織再編時の労務 |
ビジネス・キャリア検定(人事・人材開発・労務管理) | 公的検定(厚生労働省後援) | 中央職業能力開発協会 | 1級12,100円・2級8,800円・3級7,920円 | 職業能力評価基準に準拠 | 人事制度の設計・運用の基礎 |
メンタルヘルス・マネジメント検定 | 民間検定 | 大阪商工会議所・施行商工会議所 | Ⅰ種11,550円・Ⅱ種7,480円・Ⅲ種5,280円 | 受験資格の制限なし | 管理職の部下対応の支援、職場の健康施策 |
統計検定(2級) | 民間検定(日本統計学会が認定) | 統計質保証推進協会 | 7,000円 | 100点満点で60点以上 | 人事データの分析と事業部門への提案 |
GHR-HRBP | 民間資格(講座の受講と試験) | 一般社団法人 人事資格認定機構(HRAI) | 受講料222,000円 | 正解率80%以上で合格・永年有効 | HRBPの役割全般、グローバル人事 |
SHRM-CP/SHRM-SCP | 海外の民間資格 | SHRM(Society for Human Resource Management) | 会員399ドル・非会員499ドル(2026年10月31日時点の標準料金) | 3年ごとに再認定 | 外資系企業・海外拠点の人事 |
PHRi/SPHRi/GPHR | 海外の民間資格 | HRCI(HR Certification Institute) | 公式サイトで案内 | 区分ごとに対象者を設定 | 米国外の拠点、多国籍組織の人事 |
選ぶ順番は、担当する事業部門でいちばん相談が多い業務から決めます。開発部門(エンジニア組織)を担当し、評価や異動の面談が多いならキャリアコンサルタント、成長中の事業で就業規則の見直しや労働時間の相談が多いなら社会保険労務士です。表の右端の列から逆に引くと、候補を1つに絞れます。
人事全般の資格を広く比べたいときは「人事労務におすすめの資格とは?キャリアアップに役立つ資格一覧」に一覧があります。
人と労務の土台になる2つの国家資格
国家資格の2つは、HRBPが事業部門の社員と管理職の両方から相談を受けるときの土台です。キャリアコンサルタントは社員一人ひとりのキャリアの相談、社会保険労務士は労働法と社会保険の判断を受け持ち、補う領域がはっきり分かれています。
キャリアコンサルタント
キャリアコンサルタントは、厚生労働大臣が認定する講習の課程を修了するか、職業の選択や能力開発に関する相談の経験が3年以上あると受験でき、合格後にキャリアコンサルタント名簿へ登録して名乗れるようになる国家資格です。登録には登録手数料8,000円と登録免許税9,000円がかかり、登録は5年ごとに更新講習を受けて更新します。
試験はキャリアコンサルティング協議会と日本キャリア開発協会の2団体が行い、学科試験は両団体で同じ日・同じ問題です。キャリアコンサルティング協議会の受験概要では、受験料は学科8,900円、実技29,900円とされています。
厚生労働省の「第32回キャリアコンサルタント試験結果の概要」によると、2026年7月の第32回の学科は受験者3,804人、合格者2,086人で、合格率は54.8%でした。実技の合格率は61.7%(受験者4,434人・合格者2,736人)、学科と実技を同時に受けた人の合格率は45.8%です。
同じ回の学科の受験者3,804人のうち3,425人が養成講習の修了者で、実務経験で受けた人は378人でした。受験者の多くは、認定講習を修了して受験資格を得ています。
HRBPの仕事では、1on1や評価面談で社員が口にする異動希望・退職の兆しを、キャリアの相談として受け止める場面で使えます。
社会保険労務士
社会保険労務士は労働・社会保険に関する専門家で、合格後に労働社会保険諸法令の事務に2年以上従事するか、厚生労働大臣が指定した講習を修了し、全国社会保険労務士会連合会の名簿に登録して名乗る資格です。
厚生労働省の「第58回社会保険労務士試験の合格者発表」では、2026年8月23日に行われた第58回試験は受験申込者52,842人、受験者42,510人、合格者3,961人で、合格率は9.3%でした(前年は5.5%)。登録者数は47,407人(2026年8月31日現在)です。
試験センターの「試験の概要」によると、受験手数料は15,000円で、試験は選択式8科目・択一式7科目で行われます。申し込みの期間は、毎年4月中旬の官報公示から5月31日までです。
HRBPが社会保険労務士の知識を持つと、事業の立ち上げや組織再編のときに、就業規則・労働時間・雇用契約の論点を事業部門長と同じ打ち合わせの中で整理できます。合格率は第57回5.5%・第58回9.3%で、会社が支援するなら受験料だけでなく学習時間の確保まで含めて決めておくのが現実的です。
制度・メンタルヘルス・データは検定で体系的に補える
検定の3つは、受験料が5,280〜12,100円の範囲に収まり、HRBPが経験の薄い領域を体系的に補う手段として使いやすい資格です。人事制度の全体像はビジネス・キャリア検定、管理職の支援はメンタルヘルス・マネジメント検定、データ分析は統計検定が受け持ちます。
ビジネス・キャリア検定(人事・人材開発・労務管理)
ビジネス・キャリア検定は中央職業能力開発協会が行う8分野40試験の検定で、厚生労働省が定める職業能力評価基準に準拠し、厚生労働省が後援しています(中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験のご案内」)。
等級は1級・2級・3級です。学生や入社して間もない方向けの級(BASIC級)があるのは、生産管理とロジスティクスの2分野です。受験対象者の目安は1級が実務経験10年以上(部長・ディレクター相当職を目指す方)、2級が5年程度(課長・マネージャー相当職)、3級が3年程度(係長・リーダー相当職)で、受験料は1級12,100円、2級8,800円、3級7,920円となっています。
中央職業能力開発協会の「試験分野・試験区分」では、人事の分野は1級が「人事・人材開発・労務管理」の1区分、2級と3級が「人事・人材開発」と「労務管理」の2区分に分かれています。2026年度は前期試験が10月4日に行われ、後期試験は2027年2月14日で、後期の合格発表は1級を除く級が対象とされています(中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験」)。
事業部門を担当し始めたばかりのHRBPなら、課長相当の2級で、得意でない側の区分(採用出身なら労務管理、労務出身なら人事・人材開発)から受けると、制度の相談に答えられる範囲が広がります。
メンタルヘルス・マネジメント検定
メンタルヘルス・マネジメント検定は、大阪商工会議所と施行商工会議所が主催する検定です(大阪商工会議所「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」)。Ⅰ種(マスターコース)、Ⅱ種(ラインケアコース)、Ⅲ種(セルフケアコース)の3つのコースがあります。
大阪商工会議所の受験案内では、受験料はⅠ種11,550円、Ⅱ種7,480円、Ⅲ種5,280円で、学歴・年齢・性別・国籍による受験資格の制限はありません。2026年度は第41回が2026年11月1日にⅠ〜Ⅲ種、第42回が2027年3月21日にⅡ種とⅢ種で行われ、Ⅰ種を受けられるのは11月の回だけです。
HRBPは事業部門の管理職が部下の不調に気づいたときの相談相手になるので、管理職の対応を扱うⅡ種(ラインケアコース)の範囲が日々の業務に近い位置にあります。全社の施策を企画する立場になったらⅠ種まで進む、という順番が組みやすいでしょう。
働く人の相談を受ける資格には、一般社団法人 日本産業カウンセラー協会の産業カウンセラーもあります。協会は産業カウンセラーを、ハラスメントやメンタル不調、職場の人間関係の問題を働く人や組織が自ら解決できるよう心理的な手法で支援するカウンセラーと説明しており、2級の受検には協会の養成講座の修了や相談の実務経験などの受検資格が定められています(日本産業カウンセラー協会「産業カウンセラー試験」「2級試験 実施概要」)。
管理職の部下対応を学ぶメンタルヘルス・マネジメント検定とは異なり、社員本人の相談を聞いて支援する技能を身につける資格です。
統計検定
統計検定は日本統計学会が公式に認定する全国統一の試験で、一般財団法人統計質保証推進協会が実施し、4級から1級までに調査士系・データサイエンス系を加えた計10種類があります(統計質保証推進協会「統計検定とは」)。
HRBPの業務に合わせやすいのは2級です。コンピュータで受けるCBT(Computer Based Testing)方式で、35問程度・試験時間90分、100点満点で60点以上が合格水準、受験料は一般7,000円とされています(統計質保証推進協会「統計検定2級」)。
事業部門長に離職率の推移やエンゲージメント調査の結果を示すとき、平均の差が偶然の範囲かどうかを説明できると、提案の説得力が変わります。採用の応募から入社までの歩留まりを部門ごとに比べるときにも、同じ考え方が役に立つはずです。
歩留まりを部門ごとに並べて見るときは、Offers のお役立ち資料にある「採用KPI管理テンプレート」で、応募から入社までの各段階の数値を1枚にまとめられます。
GHR-HRBPと海外のHR資格で役割を名前で示す
HRBPという役割そのものを資格の名前で示したいときは、GHR-HRBPか、海外のHR資格が候補です。いずれも、発行する団体の基準で知識を認定する民間資格です。
GHR-HRBP(グローバルHRBP資格)
GHR-HRBPは、一般社団法人 人事資格認定機構(HRAI)が提供するHRビジネスパートナーの専門職資格で、日本では2025年9月に講座が始まりました(HRAI「GHR-HRBP 資格認定講座 いよいよ9月日本開講」・2025年8月13日)。
HRAIの講座ページでは、講座はオンラインで、2日間の集中コースか4回のコースを選びます。受講最終日に30分のオンラインテスト(4択)を受け、正解率80%以上で合格です。受講料は222,000円(税金・教材・資格認定料・GHR-CONNECTION会費初年度込み)とされています。
資格の有効期限は永年で、更新の要件は定められておらず、資格証はデジタルバッジで発行されます。対象者には、中級のグローバル人事プロフェッショナルや、海外事業を担う組織の人事担当者・人事責任者が挙げられています(HRAI「GHR-HRBP 資格について」)。
受講料は表の検定の受験料より一桁以上大きいので、会社が費用を持つなら、受講後に担当事業部門への提案を1本まとめてもらうなど、学んだ内容を業務に戻す条件を先に決めておくと投資の判断がしやすくなります。
SHRM-CP/SHRM-SCPとHRCIの資格
SHRM(Society for Human Resource Management)の主な資格は、日々の人事業務を担う人向けのSHRM-CP(Certified Professional)と、戦略を担う上級職向けのSHRM-SCP(Senior Certified Professional)の2つです。どちらも認定から3年ごとに、研修の単位(PDC)を集めるか試験を受け直して再認定を受けます(SHRM「SHRM HR Certification」)。
HRCI(HR Certification Institute)は米国外で働く人向けの区分を持っています。
PHRi(Professional in Human Resources – International)は米国外の人事実務者、SPHRi(Senior Professional in Human Resources – International)は米国外で人事戦略を担うリーダー、GPHR(Global Professional in Human Resources)は多国籍の責任を持つ人事リーダーが対象です(HRCI「Compare HR Certifications」)。
外資系企業や海外拠点を持つ企業のHRBPは、本社の人事と同じ枠組みで話せることが評価につながるため、海外の資格が役立ちます。国内の事業部門だけを担当するなら、先に国内の国家資格や検定で労務と制度を固めるほうが、日々の相談に直結するはずです。
経営の知識を補う手段にはMBA(経営学修士)もあります。MBAは大学院の課程を修了して得る学位なので、社内で扱うなら資格の支援とは分けて、大学院への派遣や通学の支援として決めるのが筋です。
企業がHRBPを採用・育成するときの資格の扱い方
企業がHRBPを採用するときは、資格を必須要件に置かず、担ってほしい業務の経験を必須にして、資格は歓迎要件か入社後の育成計画に置くのが実務に合います。HRBPの成果は担当部門の組織課題をどう動かしたかで決まり、資格の有無はその一部の知識を示すにとどまるからです。
求人票では資格を歓迎要件に置く
HRBPの求人票は、必須要件に「事業部門と組んで人事施策を進めた経験」のような業務の経験を書き、資格は歓迎要件に回します。資格を必須にすると、事業部門と組んだ経験は豊富でも資格を持たない候補者が応募を見送り、母集団が細ってしまうためです。
項目 | 書き方の例(開発部門を担当するHRBPの場合) |
|---|
必須要件 | 事業部門の責任者と組んで、採用計画・評価・配置のいずれかを進めた経験 |
必須要件 | 人事制度か労務の実務経験3年以上 |
歓迎要件 | キャリアコンサルタント、社会保険労務士、ビジネス・キャリア検定2級(人事・人材開発 または 労務管理)のいずれか |
歓迎要件 | エンジニア組織の評価制度や採用に関わった経験 |
候補者の側から見たHRBPのなり方と経験の積み方は「HRBPになるには?企業が求めるスキルと役割を解説」、提示年収を決めるときの目安は「HRBPの年収はどれくらい?必要なスキルと転職成功のポイント」が参考になります。
資格取得を育成計画に組み込む
社内でHRBPを育てるときの手順は、担当する事業部門の課題から資格を逆算し、受験の時期と費用の扱いを育成計画に書き込む5つです。
- 担当部門で相談の多い業務を3つ挙げる。開発部門なら「評価面談」「異動の希望」「採用の人員計画」など
- 業務に対応する資格を一覧表から1つ選ぶ。評価面談と異動ならキャリアコンサルタント、人員計画の数字を扱うなら統計検定2級
- 試験日から逆算して学習期間を決める。メンタルヘルス・マネジメント検定のⅠ種と社会保険労務士は年1回なので、受け損ねると次の機会は1年後になる
- 費用の扱いを決める。受験料1万円前後までの検定は会社負担、講座の受講料が20万円を超える資格は合格後の精算や業務への還元の条件をつける
- 取得後に担当部門で使う場面を決めておく。統計検定なら、次の四半期の離職率の報告を部門長向けに作る、のように成果物で確かめる
HRBPが事業部門と一緒に人員計画や報酬水準を見直すときは、Offers のお役立ち資料にある「採用計画テンプレート」と「エンジニア年収レポート2026」を、部門長との打ち合わせのたたき台に使えます。
評価は担当部門での成果で見る
HRBPの評価は、資格を取った後に担当部門の課題をどれだけ動かしたかで見るのが基本です。資格手当を出す企業でも、評価の項目は「離職の兆しを早く拾えたか」「部門長の人員計画の相談に数字で答えられたか」のように業務の成果で書くと、資格の学習が日々の仕事に結びつきます。
HRBPの資格選びの要点
HRBPの資格選びは、担当する事業部門で相談の多い業務を先に決め、そこに対応する資格を1つずつ足していく順番が確実です。
- 名乗るための必須の資格はなく、資格は業務の知識を補う手段として選ぶ
- 人と労務の土台は国家資格のキャリアコンサルタントと社会保険労務士、制度・メンタルヘルス・データは受験料1万円前後までの検定で補える
- HRBPの役割を名前で示すならGHR-HRBP、外資系や海外拠点ならSHRMやHRCIの資格が候補になる
- 企業は資格を求人の歓迎要件と育成計画に置き、評価は担当部門での成果で見る
まずは担当部門で今いちばん多い相談を1つ書き出し、一覧表の右端の列から対応する資格を引くところから始めてください。