こんにちは。AI時代のエンジニア採用プラットフォーム「Offers」のOffers HR Magazine編集部です。
採用KPIで手が止まるのは、指標を選ぶ段ではありません。「書類選考通過率の目標を何%に置くか」を決める段です。指標の名前はいくらでも出てくるのに、そこへ入れる数字の出どころがありません。
この記事が出すのは2つです。ひとつは、工程ごとの指標と計算式を分母つきで並べること。もうひとつは、その目標値を平均ではなく分布として持つ方法です。平均を目標に置くと、同じ条件で動いている企業の6割以上が最初から未達になります。
採用KPIは、採用の各工程を数値で測る指標である
採用KPI(Key Performance Indicator・重要業績評価指標)は、採用活動の各工程で「何件が次へ進んだか」を測る指標です。応募数・書類選考通過率・内定承諾率のように、工程の入口と出口の比で置きます。
採用KPIが運用に乗らない原因は、指標の選定ではなく目標値の根拠にあります。根拠が無いと、未達のときに「目標が高すぎた」のか「施策が届かなかった」のかを切り分けられません。切り分けられない指標は、次の四半期には誰も見なくなります。
目標値の置き方は3つです。
置き方 | 使える場面 | 弱点 |
|---|
自社の過去実績から置く | 同じ職種・同じチャネルで1年以上の履歴がある | 立ち上げ期や新しい職種には履歴が無い |
公的統計から置く | 市場全体の水準と、自社が置かれた採用環境を知りたい | 自社の条件(職種・地域・規模)とは一致しない |
同じ条件の企業の分布から置く | 同じ候補者プールの中での自社の位置を知りたい | そのプラットフォームの外には当てはまらない |
3つとも、根拠として出どころを1行で書けます。「一般的には30%程度」と置いた目標値は、この3つのどれにも当てはまりません。
KPIとKGIは、測る時点が違う
KGI(Key Goal Indicator・重要目標達成指標)は最終的に達成したい結果で、KPIはそこへ至る途中の行動と反応の指標です。採用のKGIは多くの場合「期日までに何名を採用するか」に置かれます。
KGIを先に固定しないと、KPIの目標値は逆算できません。採用人数が決まって初めて、必要な内定数・面接数・応募数が順に決まるからです。逆算の手順はこの記事の後半で扱います。
採用KPIの指標は、工程ごとに6つに絞る
工程ごとに1つずつ置けば、採用KPIは6つで十分です。指標が増えるほど改善の対象は散らばるため、まず入口と出口の比だけを並べます。
指標 | 計算式 | 分母 | 何が分かるか |
|---|
応募数 | 期間内の応募件数 | ー | 母集団の規模 |
書類選考通過率 | 書類通過数 ÷ 応募数 | 応募した人 | 求人要件と応募者の重なり |
面接設定率 | 面接実施数 ÷ 書類通過数 | 書類を通過した人 | 連絡の速さと日程調整の負荷 |
面接通過率 | 次工程へ進んだ数 ÷ 面接実施数 | 面接を受けた人 | 見極めの基準と面接官の揃い方 |
内定承諾率 | 承諾数 ÷ 内定数 | 内定を出した人 | 条件と魅力づけの競争力 |
採用単価 | 採用にかかった費用 ÷ 入社数 | 入社した人 | チャネルごとの費用対効果 |
同じ名前の指標でも、分母をどこに置くかで数字は別物です。たとえば承諾率は、内定を分母にするか、面接を分母にするか、接触した候補者全体を分母にするかで3通りあります。分母の置き方は承諾率とは?分母の置き方で変わる3つの指標で整理しました。
工程をまたいだ通過率の計算式は採用の歩留まり|計算式と段階別の基準値の置き方が持っています。本稿が扱うのは、その通過率にどの数字を目標として入れるかだけです。
自社の採用がいま各工程でどの水準にあるかは、採用力チェックで指標ごとに確認できます。所要は5分です。
→ エンジニア採用力チェックで自社の採用状況を確認する
目標値は平均ではなく分布で置く
同じプラットフォーム上で、同じ候補者プールに対して動いている企業でも、指標の値の開きは3倍以上です。平均を1つ取り出して目標に据えると、その平均を下回る企業のほうが多数派になります。
Offers 上で 2025年9月から2026年8月までに50通以上のスカウトを送信した119社について、企業ごとの承諾率(各社の承諾数 ÷ 各社の送信数)を並べ直しました。
位置 | 承諾率 |
|---|
下位25%(第1四分位) | 3.6% |
中央値 | 5.8% |
上位25%(第3四分位) | 11.1% |
上位10%(第9十分位) | 19.4% |
119社の単純平均 | 8.5% |
出所:Offers 上のスカウト実測(株式会社overflow・n=119社・2025年9月〜2026年8月)。
119社のうち76社(63.9%)が単純平均の8.5%を下回ります。平均が中央値(5.8%)より高いのは、上位の数社が全体を引き上げているからです。平均を全社共通の目標に配ると、6割以上の現場が着手前から未達の状態で走り出します。
開封率(各社の開封数 ÷ 各社の送信数)でも同じ形になりました。
位置 | 開封率 |
|---|
下位25% | 54.8% |
中央値 | 64.9% |
上位25% | 75.3% |
出所:Offers 上のスカウト実測(株式会社overflow・n=119社・2025年9月〜2026年8月)。
分布で持つと、目標の置き方が具体的になります。いま中央値の近くにいるなら、次の四半期の目標は第3四分位です。下位25%にいるなら、まず中央値までを目標に置きます。「上位10%を目指す」を初期の目標にすると、達成の見込みが立たないまま数字だけが残ります。
この119社の送信は合計41,684通で、同期間の全送信42,838通の97.3%です。同期間にスカウトを送信した企業は全体で186社でした。50通未満の企業を外したのは、分母が小さいと1件の承諾で率が跳ねるためです。
分布を自社で作るときは、母数の下限を先に決める
自社のデータで同じ表を作るときは、職種・チャネル・期間を固定したうえで、1つの区分に最低でも数十件が入る粒度まで丸めます。区分を細かくするほど、率は偶然で動きます。
区分の切り方の基準は、改善の打ち手が分かれる単位です。職種ごとに求人票を書き分けているなら職種で切り、チャネルごとに費用を配分しているならチャネルで切ります。打ち手が同じ区分を分けても、次の行動は変わりません。
自社に実績が無いときは、公的統計で外枠を置く
立ち上げ期や新しい職種では、参照できる過去実績がありません。そのときに使えるのが、採用環境そのものを測った公的統計です。自社の目標値そのものにはなりませんが、目標を置く前提が今どうなっているかは分かります。
何を知りたいか | 参照する統計 | 直近の値 |
|---|
求人がどれだけ埋まっていないか | 雇用動向調査の欠員率 | 産業計 2.6%(情報通信業 1.8%) |
競合がどれだけ採用に動いているか | 労働経済動向調査の労働者過不足判断D.I. | 調査産業計 +47ポイント |
1件あたりの費用がどこまで許容されるか | 採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査 | 民間職業紹介事業者 85.1万円 |
欠員率は、未充足の求人数を「常用労働者数+未充足求人数」で割った割合です。2025年6月末日現在の産業計は2.6%で、前年同期の2.9%から0.3ポイント下がりました。産業別では宿泊業・飲食サービス業の4.8%が最も高く、情報通信業は1.8%です。
出所:厚生労働省『令和7年上半期雇用動向調査結果の概況』4 未充足求人の状況(2025年6月末日現在)。
労働者過不足判断D.I.は「不足」と答えた事業所の割合から「過剰」を引いた値です。令和8年5月1日現在の正社員等労働者は調査産業計で+47ポイント(不足49%・過剰2%)、情報通信業は+54ポイントでした。人材が不足している部門に何らかの対応をした事業所は令和8年1〜3月期実績で63%あり、対応内容で最も多かったのは「中途採用の開始・拡大・強化」の69%です。
出所:厚生労働省『労働経済動向調査(令和8年5月)の概況』(令和8年5月1日現在)。
つまり、応募数のKPIを前年と同じ水準で置いてよいかは、この2つで確かめられます。不足感が強く中途採用を強化する事業所が多い局面では、同じ求人・同じ予算で前年と同じ応募数は集まりません。
採用単価の外枠は、チャネル別の実額で置く
採用単価の目標を「100万円以下」のように総額で置くと、チャネルの構成が変わっただけで達成にも未達にもなります。チャネル別の1件あたりの実額を先に置き、構成比とかけ合わせて総額を出すほうが動かせます。
チャネル | 1件あたりの平均採用コスト(正社員) |
|---|
スカウトサービス | 91.4万円 |
民間職業紹介事業者 | 85.1万円 |
インターネットの求人情報サイト | 28.5万円 |
求人情報誌・チラシ | 11.3万円 |
知り合い・社員等からの紹介 | 4.4万円 |
出所:厚生労働省「令和3年度厚生労働省委託調査 採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査 報告書」図表IV-14。
より新しい水準を示すのが、職業紹介事業者に支払われた手数料の実績です。令和6年度の常用就職に係る手数料は約9,136億円で、常用就職1件あたりに直すと約103万円でした(前年度比+10.9%)。
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(令和8年3月31日公表)。
チャネル別の内訳と課金モデルの違いは採用単価の定義と、公的統計でわかる1件あたりの実額で扱っています。
目標人数からの逆算は、歩留まりの掛け算で行う
採用KPIの設定手順は4つです。KGIを決め、工程を並べ、各工程の通過率を置き、逆算して各工程の必要数を出します。
- KGI(採用人数と期日)を決める — 事業計画の増員計画と欠員補充から、職種ごとに人数と期日を確定します
- 工程を並べる — 応募・書類選考・面接・内定・入社のうち、書き出すのは自社に実在する工程だけです
- 各工程の通過率を置く — 過去実績があれば実績値、無ければ本記事の分布や公的統計を出発点にします
- 逆算して必要数を出す — 採用人数を通過率で順に割り戻します
エンジニアを3名採用する場合の例です。
工程 | 通過率 | 必要数 |
|---|
入社 | ー | 3名 |
内定 | 内定承諾率 60% | 5名 |
面接 | 面接から内定 20% | 25名 |
応募 | 書類選考通過率×面接設定率 30% | 84名 |
この表は「応募84名を集める」という行動目標に変換できます。年間の目標であれば月あたり7名、四半期であれば月あたり28名です。どのチャネルにいくら配分するかを決められるのは、ここまで割り戻してからです。
工程の並べ方と各工程の法令要件は採用フローとは?6工程の設計手順と法令要件、応募84名をどう集めるかは母集団形成とは?応募を待たない中途採用の設計が持っています。
逆算に使う通過率と工程ごとの目標値をそのまま表で管理したい場合は、採用計画からKPIの管理までを1つにまとめたExcelファイルを無料で配布しています。
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運用は週次の確認と月次の見直しで回す
KPIは設定した時点では機能しません。確認の頻度と、誰が数字を更新するかを決めて初めて運用に乗ります。
頻度 | 見るもの | 決めること |
|---|
週次 | 応募数・書類選考通過率・面接設定率 | 今週の連絡と日程調整の遅れをどう取り戻すか |
月次 | 全工程の通過率と採用単価 | チャネル配分の見直しと、求人票の書き換え |
四半期 | KGIの進捗とKPIそのものの妥当性 | 目標値を分布のどの位置に置き直すか |
週次で見るのは、その週のうちに手を打てる工程だけに絞ります。採用単価のように1か月かけないと動かない指標を毎週眺めても、次の行動が変わりません。
数値の更新を誰が担うかは、指標ごとに1人を決めます。更新が止まるのは、担当が決まっていない指標です。
つまずくのは、指標の数と分母の置き方である
採用KPIの運用でつまずく箇所は、経験上ほぼ3つに集まります。
1つ目は、指標を置きすぎることです。工程ごとに1つ、多くても6つまでに絞ります。指標が10を超えると、どれが動いたときに何をするのかが誰も答えられなくなります。
2つ目は、分母を揃えないことです。Offers 上の実測では、送信した42,838通を分母にすると承諾率は6.8%ですが、開かれた25,825通を分母にすると11.3%になります。同じ「承諾率」という言葉で、ほぼ倍の数字が並びます(Offers 調べ・n=42,838・2025年9月〜2026年8月)。会議で数字が食い違うときは、たいてい施策ではなく分母の話です。
3つ目は、数字だけを見て工程の中身を見ないことです。書類選考通過率が下がったとき、原因が応募者の変化なのか、選考基準の変更なのか、担当者の入れ替わりなのかは、数字の外にあります。KPIは詰まっている場所を指すところまでが役割で、原因は工程を開いて確かめます。
よくある質問
Q. 採用KPIはいくつ置くのが適切ですか。 工程ごとに1つ、合計6つまでを目安にします。指標を増やすほど改善の対象が散らばり、どれが動いたときに何をするのかが決まらなくなります。
Q. 目標値の根拠が社内に無いときは、何を参照すればよいですか。 順に3つあります。同じ条件の企業の分布、公的統計(欠員率・労働者過不足判断D.I.・チャネル別の採用コスト)、そして自社の直近の実測です。いずれも出どころを1行で書ける形で持ちます。
Q. KPIが未達のとき、最初にどこを見ますか。 分母です。母集団そのものが目標を下回っているのか、母集団はあるのに通過率が落ちているのかで、打ち手が変わります。応募数が足りないならチャネルと求人票、通過率が落ちているなら選考基準と連絡の速さを見ます。
Q. 採用単価はどこまで下げてよいですか。 下限は置かず、チャネル別の実額と入社後の在籍期間を並べて判断します。1件あたりが安いチャネルほど、採用に至る確率も低い傾向があります。
採用KPIは目標値の根拠を決める作業である
採用KPIは、指標を選ぶ作業ではなく目標値の根拠を決める作業です。工程ごとに6つまで指標を絞り、各工程の通過率にどの数字を入れるかを、出どころつきで決めます。
目標値は平均ではなく分布で持ちます。同じプラットフォーム上の119社でも、承諾率は下位25%が3.6%、中央値が5.8%、上位25%が11.1%まで開いており、単純平均の8.5%を下回る企業が76社(63.9%)ありました。平均を目標に配ると、6割以上の現場は着手前から目標に届きません。
自社に過去実績が無いときは、欠員率と労働者過不足判断D.I.で採用環境を測り、チャネル別の1件あたり採用コストで費用の外枠を置きます。そこから目標人数を通過率で割り戻せば、今週の行動まで落ちます。
自社の採用がいま各工程でどの水準にあるかを先に測るなら、採用力チェックが最短です。
→ エンジニア採用力チェックで自社の採用状況を確認する