人事向けの研修を探し始めると、研修会社の一覧がいくつも見つかります。特徴も料金も並んでいるのに、自社の担当者に合う1本を選ぶ段になると手が止まる。比べる順序が決まっていないからです。
人事の仕事は、採用と評価と労務で中身がまったく違います。同じ「人事研修」という名前でも、誰に受けさせるかで候補は入れ替わる。形式と助成金の条件を足すと、見た目の受講料と実際の負担もずれてきます。
この記事では比べる順序を3段に分け、それぞれの段で使える公的な物差しを置きました。担当業務の切り分けには中央職業能力開発協会の試験範囲を、費用の見積もりには厚生労働省の調査と助成制度を使っています。
人事研修は担当業務・形式・実質負担の3段で絞る
人事担当者向けの研修は、受講者が担う業務の系統を先に決め、次に社内・外部・eラーニングといった形式を選び、最後に人材開発支援助成金を差し引いた実質負担で並べる、という3段で絞ると候補が数本まで減ります。研修会社の一覧を開くのは、この3段が埋まってからで十分です。
段 | 決めること | 使う物差し |
|---|
1. 担当業務 | 受講者が人事・人材開発と労務管理のどちらを担うか | 中央職業能力開発協会の試験範囲 |
2. 形式 | 社内・民間の外部研修・公的団体・eラーニングのどれか | 助成の対象になるか、賃金助成が付くか |
3. 実質負担 | 受講料から助成を引いていくら残るか | 人材開発支援助成金の助成率と限度額 |
順序を逆にすると手戻りが起きる。安く見える研修を選んだあとで、担当業務に合わない、あるいは助成の対象外だったと分かるためです。
人事担当者の育成は、社内の育成全体の前提になる
人事担当者に研修を受けさせる理由は、本人のスキルだけではありません。厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」の結果では、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所が80.1%で、問題点の最多は「指導する人材が不足している」の59.5%でした。
社内研修を企画し、外部研修を選び、効果を確かめるのは人事の仕事です。人事担当者の知識が薄いままなら、社内の育成全体もその水準で止まります。
人事の担当業務は人事・人材開発と労務管理の2系統
人事の担当業務は、中央職業能力開発協会のビジネス・キャリア検定試験(ビジキャリ)が2級・3級で「人事・人材開発」と「労務管理」に分けているとおり、制度・採用・賃金・育成を扱う系統と、労働契約・労働時間・安全衛生を扱う系統の2つに分かれます。研修テーマもこの2系統で並べると、重複と抜けが見えてくるはずです。
ビジキャリは、厚生労働省が定める職業能力評価基準に準拠した検定です。その試験範囲は、人事の仕事を項目単位で書き出した一覧として使えるものでした。育成の項目には、職場内訓練(OJT)と職場外の訓練(OFF-JT)の計画も入っています。
系統 | 試験範囲の大項目 | 研修テーマの例 |
|---|
人事・人材開発 | 人事企画/雇用管理/賃金管理/人材開発 | 人事評価制度の設計、募集・採用、賃金制度、職場内訓練・職場外訓練の計画 |
労務管理 | 労使関係/就業管理/労働安全衛生・福利厚生 | 就業規則と労働契約、労働時間・休暇、ハラスメント対応、メンタルヘルス |
出所:中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験 試験範囲」(2級 人事・人材開発・令和2年4月/2級 労務管理・令和4年10月)。
一人の担当者が両方を担う会社では、どちらの系統を先に厚くするかを決めてから研修を探します。分業している会社なら、系統ごとに別の研修を並べる方が比べやすいはずです。
採用担当は雇用管理の募集・採用と配置で研修を選ぶ
採用担当者の研修は、人事・人材開発の系統のうち、雇用管理にある人員計画・募集・採用・配置を扱うものから選びます。面接の進め方と評価の付け方を揃える研修は別枠です。受講対象が現場のマネージャーまで広がるためで、比べ方は面接官研修の選び方で整理しました。
採用の研修を選ぶ前に、採用計画が人事戦略のどこから下りてきているかを押さえておくと、研修で身につける範囲が決まる。人事戦略の立て方は人事戦略とは?経営と連動させる立て方と開示制度にまとめています。
労務の法令知識は、採用担当にも共通の土台として置く
労務管理の試験範囲には、労働契約の成立、職業安定法による労働条件の明示義務、個人情報保護法、職場のハラスメントが入っています。採用担当者も求人の条件提示や選考で同じ法令に触れる。労務の基礎は、系統を問わず全員の共通の土台として扱う方が安全です。
研修の形式は社内・外部・公的団体・eラーニングの4つ
研修の形式は、自社で講師を立てる社内研修、民間の研修会社による公開講座や講師派遣、職業能力開発協会など公的団体の講座、eラーニングの4つに分けて比べます。厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査によると、正社員向けの職場外訓練(OFF-JT)を実施した事業所が使った機関は、自社が76.4%、民間教育訓練機関が41.4%、職業能力開発協会・労働基準協会・公益法人などが18.6%でした(複数回答)。
形式によって、向く場面と助成の扱いが変わります。
形式 | 向く場面 | 人材開発支援助成金の扱い |
|---|
社内研修(自社講師) | 自社の人事制度・規則を伝える | 社内制度・組織・人事規則の説明は対象外 |
民間の外部研修(公開講座・講師派遣) | 評価制度・採用手法など専門テーマを学ぶ | 10時間以上なら経費と賃金の両方が対象 |
公的団体の講座 | 労働法令・安全衛生など労務の基礎を学ぶ | 10時間以上なら経費と賃金の両方が対象(法令で事業主に実施が義務付けられた講習は対象外) |
eラーニング | 受講時間を分散させたい、人数が多い | 経費助成のみで、賃金助成は対象外 |
出所:厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内」(令和8年8月3日版)。
社内研修は費用が表に出にくい反面、講師役の人事担当者の時間を使います。外部研修は受講料が見えるぶん比べやすく、助成の対象にもなりやすい形式です。
検定は研修の到達点に使い、受験料は助成の対象外と見込む
ビジキャリの受験料(税込)は、1級12,100円、2級8,800円、3級7,920円です(中央職業能力開発協会「受験料改定のお知らせ」令和5年10月)。令和8年度後期の試験は令和9年2月14日で、人事・人材開発と労務管理の2級・3級が実施予定です。受験申請は令和8年10月5日から12月4日までと案内されています。
研修の到達点を検定の級に置くと、研修会社ごとの修了基準の違いに左右されずに成果を比べられます。ただし、講習を受けずに単独で受験できる資格試験は人材開発支援助成金の対象外でした。受験料は研修費とは別に見込みます。
人事のAI活用は操作の研修と業務への組み込みを分ける
人事業務への生成AIの活用は、ツールの操作や使い方を学ぶ研修と、自社の業務の流れにAIを組み込む実装支援とで、成果物も費用の性質も違います。関心は高く、同じ能力開発基本調査の事業所調査では、今後実施したい職場外訓練(OFF-JT)に「デジタル技術を利活用して技術革新や生産性向上の提案が出来る能力」を挙げた事業所が21.0%で、実施した事業所の10.3%の約2倍でした。
操作を学ぶ研修は、10時間以上の職場外訓練なら人材開発支援助成金の対象になりえます(自社の業務で使う機器・端末の操作説明に当たる内容は対象外)。事業展開等リスキリング支援コースは、DX化に伴う訓練の経費を75%(大企業は60%)助成する令和8年度末までの時限措置です。一方で、コンサルタントによる経営改善の指導は助成の対象外。業務への組み込みは、研修とは別の予算で見積もるものです。
研修を終えた人事担当者が、評価や採用の実務のどこにAIを組み込むかで手が止まる例は少なくありません。組み込みまで外部に任せる選択肢として、エンジニアが現場に入り実装から運用まで伴走する Offers AX のような支援があります。研修と比べるときは受講料ではなく、どの業務が何時間減るかで見積もりを揃えてください。
人事研修の費用は受講料と受講中の賃金で見積もる
人事研修の費用は、研修会社に払う受講料だけでなく、所定労働時間内に受講する時間の賃金も含めて見積もります。厚生労働省の同調査によれば、職場外訓練(OFF-JT)に費用を支出した企業の労働者1人当たり平均額は、令和6年度の1年間で2.0万円でした。前回の1.5万円から上がっています。
同じ調査で、職場外訓練を受講した正社員の平均延べ受講時間(推計)は年22.2時間です。人事担当者が専門テーマの外部研修を1本受けると、受講料だけで全社平均の1人当たり費用を超えることが多くなる。予算は全社の平均ではなく、担当業務ごとに1本単位で組む方が実態に合います。
助成を使う企業ほど、1人当たりの研修費が高い
同調査の特別集計では、人材開発支援助成金を受給したことがある企業の職場外訓練の1人当たり費用が2.4万円、受給したことがない企業は2.0万円でした。一方で、受給したことがある企業は15.3%にとどまり、「制度について知っていたが、受給したことはなかった」企業が51.9%あります。
助成金は知られていても、使われてはいません。申請の段取りを研修の比較表に最初から入れておくと、この差を埋めやすくなります。
助成金を引くと形式ごとの実質負担の順位が変わる
人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の人材育成訓練は、職務に関連した10時間以上の職場外訓練(OFF-JT)を対象に、中小企業で訓練経費の45%(大企業は30%)、所定労働時間内の受講1時間あたり800円(同400円)を助成します。eラーニングと通信制は経費助成だけで、賃金助成は付きません。この差が、受講料が同じ研修の実質負担を分けています。
項目 | 中小企業 | 中小企業以外 |
|---|
経費助成率 | 45% | 30% |
経費助成率(賃金要件等を満たす場合) | 60% | 45% |
賃金助成(1人1時間) | 800円 | 400円 |
経費助成の限度額(10時間以上100時間未満) | 15万円 | 10万円 |
出所:厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内」(令和8年8月3日版)。
賃金要件とは、訓練を終えた受講者の賃金を5%以上引き上げること、または資格等手当を支払って3%以上引き上げることです。人事担当者が評価制度や労務の研修を受けたあとに等級や手当を見直す予定があるなら、加算の対象になりえます。
受講料10万円・12時間の研修を形式ごとに比べた実質負担
受講料10万円・実訓練12時間の研修を、正社員1人が所定労働時間内に受講すると仮定しました。実質負担は形式によって次のように変わります。
形式と条件 | 中小企業の実質負担 | 中小企業以外の実質負担 |
|---|
外部研修(経費助成+賃金助成) | 45,400円 | 65,200円 |
eラーニング(経費助成のみ) | 55,000円 | 70,000円 |
9時間の講座(10時間に届かず対象外) | 100,000円 | 100,000円 |
外部研修で賃金要件等を満たした場合 | 28,000円 | ― |
出所:厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内」(令和8年8月3日版)の助成率をもとにOffers試算。
中小企業の外部研修では、経費助成45,000円と賃金助成9,600円の合計54,600円が戻ります。同じ受講料でも、eラーニングとは9,600円、9時間の講座とは54,600円の差が付く。受講料の安さで並べた順位が、助成を引くと入れ替わるのはこのためです。
計画届は受講開始の6か月前から1か月前までに出す
人材開発支援助成金を使うには、訓練開始日の6か月前から1か月前までに、職業訓練実施計画届を労働局へ提出します。あわせて、研修や人事の担当課長などを職業能力開発推進者に選任し、事業内職業能力開発計画を作って社内に周知しておく必要があります。
職業能力開発推進者には人事担当者自身が選ばれることが多く、人事向け研修の比較は申請の実務と地続きです。比較表には受講開始日と、そこから逆算した計画届の締め切りを入れておきましょう。
助成の対象外になる研修テーマを先に外す
同じ案内は、助成の対象外となる実施目的を表にしています。人事向けの研修で当たりやすいのは次の3つです。
- 接遇・マナー講習など、職種を問わず社会人として共通に必要なもの
- 社内制度・組織・人事規則に関する説明、コンサルタントによる経営改善の指導
- 意識改革研修・モラール向上研修など、知識・技能の習得を目的としないもの
候補の研修がこれらに当たるかは、カリキュラムの時間配分で判断されます。接遇・マナーの部分が実訓練時間の半分未満であれば対象になる扱いは、認定職業訓練のコースに限った話です。それ以外の研修では、マナーの時間を実訓練時間の算定から除きます。
比較表には業務系統から計画届まで6つの列を置く
人事研修の候補を並べる比較表には、受講者の業務系統、研修の到達点、形式、実訓練時間、助成を引いた実質負担、計画届の締め切りの6列を置きます。この6列が埋まれば、研修会社の知名度や一覧での順位に頼らずに候補を比べられるはずです。
列 | 書くこと | 確かめる先 |
|---|
業務系統 | 人事・人材開発/労務管理 | ビジキャリの試験範囲 |
到達点 | 検定の級、または研修後に任せる業務 | 研修会社のカリキュラム |
形式 | 外部研修/公的団体/eラーニング/社内 | 研修会社の案内 |
実訓練時間 | 10時間以上か | カリキュラムの時間配分 |
実質負担 | 受講料から経費助成と賃金助成を引いた額 | 人材開発支援助成金の案内 |
計画届の締め切り | 受講開始日の1か月前 | 労働局 |
表の列のうち、研修会社によって差が出るのは到達点と実訓練時間の2つです。問い合わせの際にこの2つをカリキュラムの時間配分つきで出してもらえば、助成の可否と実質負担がその場で計算できます。
研修を終えた後の配置や立ち上がりまで設計するなら、オンボーディング設計の5段階と定着・育成の組み方の考え方が、中途で人事に入った担当者の育成にも使えます。