AIで採用業務の工数が空いたとして、その時間で何を生むのでしょうか。
効率化それ自体は、もう多くの企業が着手しています。問われているのは、空いた時間の使い道です。
2026年8月28日、Offersのウェビナーに株式会社MIXIから2名をお迎えしました。人事本部 組織戦略部 部長の山本陽司氏と、同部 横断HRBPグループMGRの卯木源一氏です。
MIXIは2025年4月、中途採用グループをそのままHRBP組織に変えました。HRBPの経験者は1人もいない状態からのスタートです。弊社代表 鈴木裕斗の進行で、その1年半をうかがいました。
HRBPだった人は1人もいなかった

山本様:組織戦略部は、いわゆるHRBPと呼ばれる役割の人たちが集まっている部です。2025年4月に設立しました。
実はHRBPの組織ですとお伝えはしましたが、HRBPだった人は1人もいない状況で挑戦を始めております。2025年4月以前は中途採用グループだったメンバーに、4月から「皆さんHRBPです」というメッセージを出して、強制的に役割を変えました。
採用だけをやってきた人が、中途採用を継続しながら、育成、評価、チームビルディング策を一緒に考えて実行する。配置にも関わります。本部内の配置替えはもちろん、いまは本部をまたぐ配置もHRBP連携で始まりました。
1つの領域だったところから、我々は7つの領域に広げると言っています。7倍の期待を持ってやっている状態です。
「量から質」に振り切った直後の組織だった
山本様:この変革がかなり大変でした。採用組織はちょうど事業拡大のタイミングで、採用が量から質に変わった直後だったんです。1候補者に対してじっくり向き合う、とにかくコストをかける動き方が染みついていたんです。
採用だけでも1人月ある中で役割を広げるのは、コンフリクトが起きやすい変革でした。それでもAIを活用して余白を作り、そこに負荷を乗せていく。そういう挑戦をしてきた1年です。
卯木様:割とウェットに、現場の方とも候補者の方とも密なコミュニケーションを取って、採用の質にこだわってきました。ですからコンフリクトはあるだろうと身構えていたんです。
ただ、僕が中途採用のマネージャーを2年務める中で、採用計画にも変化が起き始めていたんです。数百名採っていたところから、徐々に200名になり、150名になりという流れがありました。採用だけをやっていたら価値が相対的に減る、という感覚は僕にもあったんです。
マネージャーとして「採用以外もやっていくぞ」とは語っていたものの、変化を作りきれてはいませんでした。ですから2025年の組織戦略部の発足は、僕自身はポジティブな変化になるだろうと見ていました。
オペレーションを80%から20%へ

山本様:人員計画を作る、チームビルディングをする、配置、従業員向き合い、育成、評価。この7つの領域を、部署ごとの最適で進めていきましょうと。各部が1年後、2年後に目指す状態のために、どの領域へ重点的に打つべきかも考えます。
ただ、その過程で2つの課題が出ます。作業が7倍になることと、中途採用しかやってこなかったメンバーがHRBP業務でどう価値を発揮するのか、という点です。
AI活用で目指す姿としては、オペレーション的なものを80%から20%に減らして、より付加価値が出る領域に時間を使いましょうと定めて進めてきました。
採用業務のAI化で空けた2000時間

卯木様:直前まで中途採用グループでしたので、中途採用の業務が最初に変革すべきところでした。優先度を高く動いています。
大きな考え方としては、今まで手動で動いていたものを、いかにAIで自動的に動かすかです。
求人を作るところは、過去の内容やミーティングの議事録をAIに読み込ませることで、8割から9割の精度のものが作れるようになりました。スカウト文章も同じくらいの水準です。
面接には我々が同席するスタイルをここ数年取ってきました。同席することで候補者さんの機微を感じながら記録を取り、次の面接への申し送りに時間をかけて、いい面接をする。そこにかなりの時間を使っていたんです。
ここもATSのHERPのAI機能を存分に使いました。人を介さなくても高精度で文字起こしと要約ができて、ステータスを変えると自動で申し送りが生成される仕組みにしています。
申し送りの場そのものは、口頭でニュアンスを含めて会話することが大事だと思います。ただ準備は自動でどんどん進む設計になりました。
組織全体で計算していくと、2000時間ほどの削減につながっています。これだけが要因ではありませんが、採用業務以外にトライできるリソースが、こうした変革を経て作れました。
空いた時間で何を生んだか

卯木様:空いたリソースで付加価値をどう出すかが、次の課題でした。中途採用のケーパビリティしかない中で、どうAIを活用して他の価値を出すか。実際にメンバーが各部門と話しながら生み出した例をご紹介します。
組織サーベイから研修を設計する
卯木様:あるメンバーは、サーベイなどのデータから組織のコンディションを見て、部門のトップと「どうしていきたいんだっけ」というAs is / To beの会話をしました。その上で、研修やワークショップという施策を提案しています。
そこからゼロから研修企画の内容を作り、当日のファシリテーションをして、振り返りまで行いました。エンゲージメントにどう効いたかはまだ途中です。ただ、採用担当だった人がAIを活用しながら変化を作っているという事実があります。
スキルの可視化から配置を組み替える
卯木様:各部門のタレントマネジメントでは、従業員のスキルやケーパビリティが可視化されたものが意外とありませんでした。そこで過去の評価データや職務経歴をAIでうまく生成しながら、スキルを可視化しています。
可視化できれば、各部門の状況を見ながら、ジョブローテーションや配置の組み替えを提案できます。
山本様:可視化を進めた結果、HRBP同士で「実際この5人ってどうですかね」という会話ができるようになりました。以前は「そういう人います?」「いや、ないっすね」で終わっていて、まったく進まなかったところです。
ちょうど昨日今日の話ですが、私が関わった案件で兼務でのアサイン開始の合意ができました。HRBP連携でこんなことはできなかったので、発展途上ではありますが目覚ましい変化だと思っています。
次世代の部長づくりに伴走する
卯木様:組織作りでは、キーマンや役職者をいかに輩出するかが重要なポイントです。ただMIXIには、そこにカチッとした仕組みが実はありませんでした。部門の部長や本部長が任命はしてきたものの、継続的に出すための育成の設計は意外となかったんです。
HRBPをしているとその課題が見えてきました。あるメンバーは本部長や部長と、次世代の部長をどう作るかのプランを立てて、伴走しながら進めています。
山本様:未経験の領域にもかかわらず、AIがうまく使えるとスピード感は非常に上がります。評価者向け研修のケーススタディを、私が5年前に作ったときは、評価事務局のプロと会話しながら確定まで3〜4週間かかっていました。
今回、採用メインでこの1年HRBPをやってきた人が、AIを活用して1日2日で作ったんです。評価事務局から「これいいじゃん」「むしろ我々が使いたい」と言われるような、良い問いになっていました。
次の2年で目指すこと

卯木様:これから1年2年という期間の中では、いま進んでいるHRBP活動の高度化をさらに進めたいと思っています。
弊社では人事データ、従業員データがいろんなSaaSに散っています。1つのSaaSに全部の情報があるわけではなく、評価をするならこれが最適だよね、という形でそれぞれに分かれているんです。
そこで開発本部と連携しながら、人事情報データを1つのデータベースに集めて、使いたい用途で使いたい人が活用できるようにダッシュボードを作っていく。そんな取り組みを人事本部として進めています。
そういう活動を通して見えてくる各本部の課題は、場合によっては複数本部で共通のものとして出てくるはずなんです。
そこからステップ2に移ります。共通の課題を全社課題として抽象化させて、それを解消するための全社人事施策を組織戦略部が立案すると。こうした全社施策は隣の人事戦略部が基本的に担っているのですが、我々が部署起点の課題解決として立案し、経営合意しながら推進していく。
部署がより事業に専念できる状態にしていく。そういうバリューも出せるようになると、人事本部全体の価値発揮としても大きくなっていくのではないかと思っています。
「AIがあったから広げた」のではない

――鈴木:エンジニアだけやっていてはダメで、プロダクトマネージャーもできるようにならなければいけない。逆にプロダクトマネージャーがエンジニアリングもできる世界になってきています。よく職種の壁が溶けると言っていますが、人事もそうなんだなという印象を受けました。
採用から7つのポジションへの拡大は、AIで時間が増えたから自然にそうなったのでしょうか。それとも意図的でしょうか。
山本様:意図的の方が狙いとしては合っていますね。私の原体験としても、採用にフルコミットしていると部署との会話が多くなりますし、管理職の方の悩みや組織の課題を耳にすることも増えます。
どうしても、採用だけやっていても部署に貢献しきれないというもどかしさを強く感じていました。
加えて事業の多角化があり、職種領域も価値観も多様な社員が多い。一律の施策は効果が高まりづらいんです。営業人材が8割の組織なら刺さしやすいかもしれませんが、そうではありません。
個別最適でやっていくしかない。ではどうやるのかという時に、たまたまAIがうまくあったので、その変革が実現できたという形です。AIで手が空いたから広げるかということよりも、そういう状態になりたい時にAIがあったのでうまく乗り切れた、という感覚に近いですね。
効果が出なかったAI活用もある

――鈴木:あまり効果が出なかったAIの使い方と、想定以上に効果があった使い方を教えてください。
卯木様:僕も山本さんもAIマスターではまったくないので、あえて効果が出なかった話をしたいと思います。
部の運用の中で、AIを使ってリッチな情報基盤のようなものを作りました。これを運用すれば情報にアクセスできて、いろんなものが活性化していくだろうと考えたんです。これは効果が出ていません。
人間が使う導線をちゃんと設計したり、空気を作ったりしないと、「AI使ってけよ」と言ってすぐ使うものでもないと思います。個人にとってのインセンティブを感じさせる設計ができないと、リッチなサイトができて「めっちゃ良さそうじゃん」と思うけれど、実際は活用されない。
アウトプットがかっこよくても、運用性がない、インセンティブが働かない文化になっているとすると意味がありません。そこはすごく学びで、いまはそれを踏まえた設計をし直しています。
――鈴木:非常に本質的な部分ですね。AIスロップと言われるゴミがたくさん生成されるという側面もあります。本当に使われるところを見極めて作るのは、かなり大事です。
質疑応答

――鈴木:スカウトの自動生成を禁止しているサービスがあります。その場合は引き続き手作業で配信しているのでしょうか。
卯木様:ある程度のフォーマットの精度をAIで裏側に作っておければ、各スカウトサービスで使えるものにはなると思っています。
残りの10%は、返信をいただく、興味を持っていただくために送っているので、見えない思いを一定は載せるべきだという主義です。ゼロから全媒体で作るのではなく、文字数制限に合わせて事前に準備をしておいて、残りの10%、20%に魂を込めるという進め方をしています。
現場の職域を経験していなくても、連携はできるのか
――鈴木:各部門でのタレントマネジメント支援について、現場での職域の経験がない中で、どのように現場とコミュニケーションを取られましたか。協力を得るのは難しいのではないでしょうか。
卯木様:僕もエンジニア出身ではない中で、向き合っているのは開発組織です。最終的に完全に言語を一致させることは難しいと思っています。
ただ育成に関して言うと、紐解いていくと抽象的なところに共通化されるんです。なぜこの人が評価されているかは、この言語でこれができるからではなく、このプロジェクトで推進できていることが付加価値として高い、という説明になる。人事でも営業でも言えることに共通化されてくるんです。
そうなると、技術が云々よりも「ここが解決できればいいよね」という合意は、現場のマネージャーと取りやすい。共通言語で話せるところが重要で、合意さえ取れれば、そこが障壁になる感覚はあまりありません。
ただ合意を取るまでに、評価データから分析したり、過去の面接で何を評価していたのかを深掘りしたりする必要があります。浅瀬で止まると、分からない状態で現場と遠い感じになってしまう。そこに入り込む勇気かなと、原体験としては思います。
山本様:我々は幸運にも、中途採用担当をしていた組織がそのままHRBP担当になるという立ち上げ方ができました。部署の管理職の方が、採用を共に戦ってきたバディなんです。
ですから採用以外の領域の会話でも、まず会話が成り立つ状態から始められました。それがあったので、この部の立ち上げは成功するだろうと思ったところもあります。
全社最適と部署最適は、人事部の中でぶつかる
――鈴木:制度を運用している担当が別にいると思うのですが、施策の浸透においてそこの連携はどのようにされたのでしょうか。
山本様:組織戦略部の隣に人事戦略部があり、今回の制度改定は人事戦略部がメインでリードしました。この連携は本当に難しいところで、人事部内で全社最適と部署最適がまさにぶつかるということが起きています。
制度は4月に施行され、9月から最初の評価が始まります。4月5月は、制度運用側がやりたいことと、「この新しい制度は現場もまだ理解できていないから、HRBP起点ではこうやりたい」ということが、すごくずれたんです。
最初はこれが人事戦略部と組織戦略部の関係性かと思ったのですが、そうではありませんでした。目的ややりたいことが、構造的・立場的にそもそも噛み合わないんです。
ですから組織戦略部として、こういうことをやっていきたいという企画を自分たちでしっかり作って、ぶつけていかないと前に進まないと考えました。まず浸透の実行フェーズは組織戦略部がリードさせてほしいと、人事戦略部側と会話をしています。
ただ我々は採用をメインでやってきた人材なので、制度を作った経験も運用した経験も少ない。人事戦略部側のプロの目線を入れてもらいながら、いま部署が困っていることベースで企画の質を磨くという関係性に変えました。
――鈴木:これはすごく重要な話だと思って聞いていました。Offers AXという事業で企業のAIトランスフォーメーションを支援していますが、技術的な課題は実はそれほどありません。導入するだけで済む話も多いんです。
ハードルになるのは、人事の方針がどうなのか、情報システム部門とのあいだで個人情報をどこまで入れていいのか、法務としてのAI活用方針をどうするか。それを差配されるのが人事の皆さんなんです。この交通整理と合意形成こそ、実はAI活用で最も速度を上げるポイントでしょう。
可視化はできた。ただしレベル感はまだ見えない
――鈴木:研修やタレントマネジメントの施策を企画する際に、具体的にどのようなデータをどう管理して使っているのでしょうか。それっぽいアウトプットで微妙、ということがAIではよく起きると思います。
卯木様:タレントマネジメントの中の配置をする際には、人の情報の可視化とポジションの可視化の両方が必要になります。人の可視化には、過去の評価データや職務経歴を使っています。
山本様:発展途上の代表的な要素を挙げると、レベル感がパッと見では分かりません。いまは0か1か、そのスキルを持っているかいないかで可視化しています。ですから「中途採用経験あり」と出ても、10年選手と1年選手が同じように見えてしまうんです。
ここは1つクリアしなければいけません。スキルベースで配置案や兼務案を考えても、最後はウィルのところでぶつかることもあります。どういう項目を可視化すればスムーズに議論できるのかは、まだまだ発展途上です。
ミッションは増える。だからソフトランディングさせた

――鈴木:採用からHRBPに移行する中で、個々のメンバーが持つミッションもHRBP領域に変更されたのでしょうか。その場合、採用の目標が変わらない限りミッションは増えることになると思います。
山本様:答えとしては、この増加が起きました。皆さん採用担当だった人が「HRBPです」となり、採用を含めたHRBPをやっていくと。そこは気持ちの部分もあります。
ただ、ある業務だけやっていても部署の悩みや課題に答えられない、というもどかしさをみんなが持っていたので、「HRBPやるぞ」に対して「やりたい」が多かったのも事実です。やらされているというよりは、やりたいがあった。
ただ何をやったらいいのかは分からない、というところはありました。そこは昨年度、卯木さんに橋渡しになってもらって、混乱している部分を具体にしてもらいながら会話を進めています。
卯木様:7つの領域を1から7倍に綺麗にミッションを増やす、ということはしていません。入り口としては、担当する組織の戦略を実現するためにスコープを広げるぞ、という置き方です。
やれる範囲もありますし、現場の方からすれば「僕らHRBPになりましたので」と言われてもギャップがあるのは事実です。ですからソフトランディングで、採用だけではない目標をうまく作りながら拡張していきました。
1年ほど経つと、気づくと中途採用のミッションが目標の8割を占めていたところから2〜3割になって、それ以外のスコープが自然と増えている。最初はもう少しソフトランディングな感じだった記憶です。
おわりに
卯木様:中途採用からHRBPという形で、第1歩目、第2歩目をまだ歩き出したばかりです。AIも含めて脱皮できるタイミングでは間違いなくありますし、脱皮することでポジティブな変化を僕自身もメンバー自身も感じています。同じようなお悩みがある方に、少しでも気づきになっていたら嬉しいです。
山本様:ご質問の内容を見ても、今日ご参加の方々は私と卯木が挑戦していることと同じことをされている方が多かったのではないかと思います。AI時代の組織作りをどうしていくのかという難しい問題に挑戦されているのだろうと。
今後も機会がありましたら、ご参加いただいた方とディスカッションをしながら、一緒にHRBPという役割を高めていければと思います。