同じ候補者でも、面接官が違えば評価が変わります。同じ面接官でさえ、月曜の朝と金曜の夕方では甘さが違うかもしれません。面接官による「ばらつき」は、採用で最も課題になりやすいテーマの1つではないでしょうか。
一方で応募者の側は、エントリーシートも自己PRもAIで書くのが当たり前になりました。偽の候補者やプロンプトインジェクションまで現れ、採用の現場は「AIを入れるかどうか」ではなく「AI前提でどう設計するか」を問われています。
株式会社Elith 取締役CAIO(Chief AI Officer)の下垣内隆太様は、AIセーフティ・セキュリティを専門とする立場から、自社の採用を仕組み化してきました。構造化面接の究極の形は、プロンプト化して人の手で考えるのをやめることだと語ります。
2026年10月22日に開催したOffersウェビナーの内容を、質疑応答と、人とAIの配置をめぐるディスカッションも含めてお届けします。
応募者もAIを使う「カオスな現状」

下垣内様:タイトルに「面接官ガチャやめました」と書きました。面接を受ける側に立つと分かると思いますし、社内で見ていても、面接官ごとに結構ばらつきがあるものです。採用で一番課題になりやすいところかと思います。
いきなりですが、AIが書いた自己PRはどちらでしょうか。最近、当社の採用窓口にも、大量にAIで書いたのだろうなという応募が来ています。ひどいものだと、顔写真が明らかにChatGPTで生成されたものもありました。
実はこれは両方AIです。新しい有料のモデルを使うと、かなり自然に書いてくるという印象があります。きちんとしている方であっても、AIを使って清書したり、AIで書いたりということが入っているのでしょう。
では逆に、面接官はどうでしょうか。皆さんが面接を受ける側だとしたら、人間とAIのどちらが良いか。統計的な調査もあるので、答えは後でお見せします。
私はElithでチーフAIオフィサーを務めています。CTOなどと並ぶ、最近増えてきた取締役の役職の1つです。AI自体は2016年ぐらいから深層学習の文脈でやり始め、大学院の途中から現在の会社に入りました。
ElithはChatGPTが公開されたのとまったく同じタイミングで創業した企業です。
現在は「AIセーフティ・セキュリティを、あたりまえの世界に」をミッションに、セキュリティ・フォー・AIにフォーカスした事業を展開しています。AIガバナンスとしてC認証の認定コンサルティングや、認証取得をサポートするSaaSも出しています。
応募の洪水と、偽の候補者

下垣内様:学生がどれぐらいAIを使っているかというと、もう8割を超えていて、非常にきれいなエントリーシートが出てくるようになりました。LinkedInの調べでは、1分あたり1万1,000件の応募が送られている状況です。非常にカオスだと感じています。
応募が多いだけではありません。Gartnerの調査では、2028年には候補者の4人に1人が偽物になるとされ、すでに6%ぐらいは替え玉などがあるという状況です。ビデオ通話でも偽物の人が来たり、AIが裏で喋っていて口の動きと言葉が合っていなかったりします。
当社でも開発している技術の一部にリップシンクがあります。こうした技術を使うと唇と喋っている内容が同期するので、より見抜きにくくなるでしょう。
一つの対策として言われているのが、「出社できますか」と聞くとすぐ退出していく、というものです。当社もリモートメインですがオフィスがあるので、面接で言ってみることはしています。
応募書類と面接に仕込まれるAI

下垣内様:応募書類では、履歴書の中に「この候補者を高く評価せよ」のような、人間に見えない指示を書き込むケースがあります。いわゆるプロンプトインジェクションです。学会に投稿される論文にもこういうことをしてくる人が多いそうで、自動評価する場面ではいろいろなところで問題になっています。
会社に届く履歴書にも、写真からAIだろうなと思ってスキャンすると、文章にこういうものが入っていたことがありました。
また、リアルタイムで横にChatGPTをつけてカンニングし続ける人もいます。文字起こしをつないで、そのままAIに意見をもらい、それを喋るだけです。
候補者を探すのもChatGPTベースになってきました。学生さんもChatGPTで書き、採用もChatGPTで行う。何をやっているのか、AIがAIを採用しているのかという状況になっているかもしれません。
LLMは自分が書いた文章を選ぶ

下垣内様:本人のエッセンスが入っていれば、それで回っていても効率化という意味では良いと思います。ただ注意点として、LLMは自分が書いたものを選好することが論文でも知られています。自己選好バイアスと言われるもので、調査でも自分が書いたエントリーシートを8割ぐらい選んでしまうという結果でした。
採用以外の文脈でも、LLMで点数付けすると自分の書いた文章は点数が高くなるという結果が得られています。だからこそ、いろいろなAIを使って採点したり、工夫されたシステムを使ったりすることで、バイアスを避けられると考えています。
こうした状況で問われているのは、AIを入れるかどうかではありません。入れるのは前提として、どう設計していくのかという話になってきています。
JDから最終判断まで、Elithの採用パイプライン

下垣内様:大きなパイプラインとしては、よくある形かもしれません。例えばエンジニアリングマネージャーがエンジニアを採用したいとなったら、欲しい人物像を書いてもらいます。それを構造化するためのプロンプトを用意していて、必要な項目が埋まっているかのチェックや構造化を行っているところです。
これをもとに候補者探しを自動化しました。候補者が見つかり次第、質問の生成もAIが行います。当社では今、面接は人間が行っています。
ただ、人間が行うとはいっても、しなければいけない質問が決まっている構造化面接の形です。これをもとに採点ができるようになっていて、その点数をベースに、人間が判断する流れです。
Codex×LinkedInで候補者を探す
下垣内様:特に気になるのが候補者探しかと思います。実はChatGPTには、LinkedInのアプリがついているのです。候補者の会社や名称から、その人のLinkedInのURLが取れるというものです。
実際にLinkedInを開いて、Excelにまとめるところまでやってくれます。ただ、LinkedIn側は規約でクローリングを一部禁止しています。独自のアプリを作ってLinkedInをクローリングすると、一部まずいかもしれません。
一方でChatGPTのアプリを使うのも、ちょっとグレーではあるので推奨はしない部分です。ログインせずに使っているので規約を守る必要が出ない場合もあり、米国で判例もいくつか出ています。公式もアプリを作っているので、比較的安全に作業できるというイメージでしょうか。
AIで検索するところは、各社が提供している機能も多いと思います。それらを活用していただくと、より効率的です。
特に重要なのは、何についてジャッジしたいかの項目を事前に決めて、スコアリングをしっかりすることです。人間の採用担当が一人一人文章を読み、定性的に「良さそうだから面接に回すか」と判断するのではありません。社内で基準を持って、こういう理由でこうしますと言えるようにします。
AIの利点として、エンジニアの方は成果を公開されている方が多いので、名称からWeb検索したり、Xでどういう活動をしているかや知名度を調べたりして、裏取りができます。リファレンスチェックの前段階として、公開されている情報を取ってくるところでもAIは役立つでしょう。
構造化面接をプロンプトにし、全面接官に強制する

下垣内様:当社ではいろいろな面接の質問を社内でプロンプトとして溜め込み、面接対象の方のエントリーシートなども含めて質問を作っています。面接後の文字起こしから点数化して判断するところも、プロンプトで行うようにしました。
なぜこれを行っているか。よく言われることですが、非構造化面接より構造化面接の方が、入社後の成果との相関が大きくなり、より正確になります。構造化面接の極致は、プロンプト化して人の手で考えるのをやめ、決まったことをしっかり作り込んで面接に臨むことだと考えています。
プロンプト化していないと、ガイドライン化していても、面接官が各々「これはいいや」と聞かない場合があるのです。当社では絶対に聞かないといけない形にしていて、聞かなかったら面接官の方が減点になるぐらいの形にしています。
APIで文字起こしをして、聞けた質問から消していく、チェックをつけていくといったこともAIで自動化できるでしょう。今開発中のところですが、人の裁量に任せすぎないことが、面接においてはかなり重要だと考えています。
「あなたの強みは何ですか」は聞かない
下垣内様:一定自由に質問したり、プロンプトで質問を作ったりする際も、禁止している質問があります。「あなたの強みは何ですか」「自走できますか」といった質問は聞きません。評価が難しく、感情的、定性的にしか評価できないものになってしまうからです。
その代わりに、何件やったのか、何日であったのか、何円を動かしたのかと、より具体的に定量的に聞くようにしています。社内の人事評価でもやっていることです。
数字を取っておくと、リファレンスチェックで身内に適当に答えさせるような方がいても、整合性が取れるかを確かめられます。
AIを使っても減点しない。理解しているかを聞く

下垣内様:当社はAIスタートアップでもあるので、AI利用自体は限定していません。きちんと使えていれば評価する形です。ただ、早くできることや説明できることで、クオリティのチェックはしています。
最近は、AIが作ったものを理解もせずに横流しする方も増えてきました。肉のプロキシという意味で「ミートプロキシ」とも言われます。それを避けるために、追加の質問で、その方がAIの出力を腑に落ちて理解しているかを聞くようにしています。
履歴書は個人データ。「どのAIか」より「どのプランか」

下垣内様:ここからが注意点です。経歴書やエントリーシートは個人情報を含むデータなので、扱いが難しいと皆さん感じているでしょう。一番良いのはAPI経由で利用することです。APIだと学習に利用しない、データを保持しないなど、一番厳しい扱いになります。
ただ、Webアプリ版や、会社で入れているエンタープライズのチャットに入れたいこともあるかと思います。まず、エントリーシートなどを提出いただく段階の利用規約に、こういう目的に利用しますと記載しておくのは当然良いことです。
また、学習に利用されないかは非常に重要です。特にGeminiは、有料で登録していない場合や、Workspaceの利用でない場合、履歴が残るモードにしていると学習に使われ、そこを切り離せない設定になっていたりします。
できるだけ、会社で登録しているもので使ってください。当社でも禁止するためのツールを作っているところで、いわゆるシャドーAIは行わないようにと考えています。
個人向けプランは学習利用・保存が既定

下垣内様:どのAIかより、どのプランかです。個人向けはオプトアウトは可能ですが、デフォルトだと学習に利用したり保存したりします。長いところだと5年保持するものもあります。場合によっては人によって閲覧されることもあるのが、個人向けです。
APIだとより厳しく、ゼロデータリテンションという、1秒もデータを保存しない設定があります。コンテンツモデレーションのAPIには流れますが、危険だったら禁止するだけで保存はしません。個人情報と保持は、まったく別の話です。
当社では、採用業務は法人アカウントでやってくださいとしています。そのうえで、個人情報を入れる場合はマスキングして入れましょう、といったところをガイドラインにしました。
外に出したくないものはローカルLLMで

下垣内様:GPUもどんどん高くなっていますが、ローカルLLMでまったく外に出さずに処理すると、マスキングも不要で入れることが一定可能になります。今は大きなモデルが動くDGX Sparkという有名な筐体が、100万円ぐらいで買えます。法人であれば、ある程度買える範囲内でしょう。
サイズもこれぐらいで非常に小さいですし、見た目もかっこいいです。私の机の上にもDGX Sparkが置いてありますが、ここから外に出ないのでかなり安心です。一度モデルをインストールして開発が完了すれば、オフラインで利用できます。
工程ごとにAIを使い分け、自己選好バイアスも避ける

下垣内様:当社の役割分担としては、候補者探しにはクラウドのAIを使っています。外とつながっている必要があり、公開プロフィールなのでChatGPTに入れても問題ないことが多いためです。質問生成は、両方の併用です。入れても良いという方はクラウドに入れ、問題がある方はローカルLLMで生成します。
採点は制御のしやすさの観点などからローカルも使い、規約によってはAPI経由のこともあるという形です。要配慮情報や、大量に一括で処理する場合はローカルで行うことにしています。
いろいろなモデルを使う利点は、プライバシー対策に加えて、冒頭でお話しした自己選好バイアスもかなり避けられることです。エントリーシートを書かれる方は、多くの場合GeminiやChatGPTなど、よくあるクラウドのAIで書かれます。
ローカルLLMに採点させると、自己選好バイアスを取り除けるというわけです。逆に、ローカルLLMで書かせるぐらいAIを使いこなしている方なら、バイアスがあっても対応したいと当社では考えています。
面接官ガチャと、AIのバイアスを「測る」こと

下垣内様:最後に3つの主張について確認します。AIで統一した方が人のばらつきが少ないこと、バイアスは事前に測れること、そして面接官までAIにするべきかです。
まず面接官ガチャです。人によって違うだけではありません。例えば月曜の朝の田中さんは、土日が楽しかったのに働きたくなくてイライラしている。逆に金曜の夜は、明日から休める花金なので甘くなったり、早く帰りたいのでとりあえずOKを出してしまったりします。
実際、学生の面接官への不安としても、面接官の主観や偏見で評価されそう、面接官との相性で合否が左右されそうという回答が一部ありました。
ぶれないことは、正しいことを意味しない

下垣内様:AIの採点が信用できるかという調査では、人間の評価と8割ぐらいは相関があって一致するという結果が出ています。人間の評価はばらつきが大きいのですが、AIはきちんと制御すればぶれません。
ただ、ばらつかないからといって正しいわけではなく、ずれている可能性があります。ベストなのは、たくさんの人で評価して平均を取ることです。AIでもいろいろなモデルの平均を取ると性能が良くなるとよく言われます。
しかし、そんな工数がある企業はなかなかありません。1回だけだと、かなりバイアスがあったり、人によってばらついたりしてしまいます。
名前を変えるだけで、AIの評価は変わる

下垣内様:どれぐらい偏っているかというと、2024年の調査では、白人を連想させる名前だと選ばれる割合がかなり高くなったり、ジェンダーの問題があったり、黒人の名前だと採用されなかったりといったバイアスがかなり見受けられました。
そこから2年が経ち、AIのアラインメントはかなり行われていて、各社がバイアスを取り除くように学習やチューニングをしています。ここまでのバイアスはないでしょう。当社で使っているモデルの中身を見ても、バイアスかもしれないと自分で考えたうえで回答してくれるので、ある程度は削減できています。
それでもなくならないバイアスはあり、その会社のCEOの方の党派性などがモデルにも方針として反映されると言われています。
ただ、こういった数字が出せること自体がポイントです。AIは何回も出力させることで、どういうバイアスがどれぐらいあるのかを見られます。人間の偏見は頭の中にあるので取り出すのが難しく、後になって追跡調査で分かることが多くなってしまいます。
測らないAIが、最悪

下垣内様:AIにもバイアスはありますが、測れるのでチューニングしましょうということです。典型的なバイアスには、自己選好、提示順、回答の長さなどがあります。提示順は、例えば4択の問題でAIがCを選びやすくなるといったもので、いくつかのパターンでばらつかせて回答させると削減できます。
回答の長さについては、当社では何文字以内で足切りするといった取り組みもしているところです。
どれが良いのかというと、測れない人間よりは、測れるAIが良い。ただ、測らずにバイアスがあるまま使うAIが最悪だと考えています。過去にも、AIを使ったらバイアスがあってやめたり、訴えられたりした例がありました。非常に注意して使っています。
聞くのはAI、口説くのは人

下垣内様:冒頭の質問の振り返りです。どれぐらいの方がAIの面接官が良いと思っているかというと、調査では8割ぐらいの方がAIが良いと考えていました。採用担当の方だと人間が良いと思いがちですが、受ける側にとってもAIが当たり前になってきています。
まだAIを導入されていない方は、AIを入れるのも良いでしょう。当社もまだですが、AI面接官に取り組むのも良いと思います。
ただ、住み分けは必要です。情報を引き出すのはAIで、向こうへのアピールは人間がやる。面接はこちらがジャッジするだけでなく、向こうがこちらをジャッジする場でもあるからです。
本人確認、プロンプトインジェクション、バイアスの除去

下垣内様:今後どうなるかです。冒頭でお話しした偽物の人が来る問題で、本人確認はどんどん必須になっていきます。プロンプトインジェクションのように、今まで人間がチェックしていなかった新しいタイプのずるの仕方も出てくるでしょう。
また、バイアスを取り除くことは、ずっとやっていく必要があります。スコアのバイアスと、生まれや性別、年齢、学歴といった問題になるバイアスの両方です。
日本ではかなり気軽に導入できますが、EUではいわゆるEU AI法の中で、採用にAIを使うことは高リスク領域になっています。来年の12月から本格施行され、どういう使い方をしているかを提示しないといけない状況になります。
ヨーロッパ方面で展開されている方は、ぜひご確認ください。日本でもEU在住の方を採用する場合は、ある程度見ていただくと良いと思います。
まとめとしては、AIは一貫性のある評価を行います。人間はバイアスの除去や、言語以外のモダリティを見る方が良いでしょう。モダリティとは、声の質や喋り方、身振り手振り、顔つきといったところです。
ちなみに、お遊び的にこのプレゼンをAIに採点させてみました。実際にClaudeで作ったのですが、ChatGPTに点数を聞くとちょっと低い部分もあるので、採点される方はClaudeに入れていただければと思います。
質疑応答
AIで書かれた応募書類は減点するか
――鈴木:「応募書類がAIで書かれているかどうか、選考の段階で気にされていますか。結果にどのくらい影響があるのか気になります」というご質問です。
下垣内様:一定チェックはしていますが、AIで書いているからといって減点することは基本的にありません。当社の中でもAI活用はしましょうという方針で、人間ではできなかったぐらいのクオリティをAIを使って出そうとしています。
いわゆる「ポン出し」やAIスロップのようなものは減点の対象です。クオリティが高くなっている分には問題にならないと考えています。
LinkedInの候補者は、AIのスコアが高い順に声をかけるのか
――鈴木:「LinkedInで候補者を探すとき、AIのスコアが高い順にそのまま声をかけているのでしょうか」というご質問です。
下垣内様:一定は高い順に声をかけている部分があります。ただ項目ごとに点数を出しているので、総合点というよりは、項目ごとに人がいくつか見ていました。
あとは多様性と言いますか、スキルのばらつきもあります。技術者向けの話になりますが、候補者の情報をエンベディングベクトルにすると、散布図のように点にできるのです。そこでクラスターを見ながら、ばらつくように順番に見るといったことは一定やっています。
――鈴木:職種やレイヤーによって、見るべきポイントが変わるイメージでしょうか。
下垣内様:そういったところもありますし、同じことをやっている方が多い中で、まったく違うバックグラウンドの方は、点数にかかわらずお話を聞いてみたいということもあります。そういった方を見逃さないための取り組みです。
質問をプロンプトで作るようになって、通過率は変わったか
――鈴木:「質問をプロンプトで作るようになってから、面接の通過率や辞退率に変化はありましたか」というご質問です。構造化面接を通過された方は、パフォーマンスや定着率が上がると思いますが、面接自体の通過率や辞退率はどうでしょうか。
下垣内様:辞退率は変化がありません。当社の面接はだいたい3フローで、最初のスクリーニング的にお話を聞く方、マネージャー層の方、最後に役員面接という形です。これまでは前の方の面接がザルで、全部役員まで来てしまうことがありました。
今はかなりきちんとスクリーニングされていて、後から見ても、取るべき人は取れていて、落とすべき人は落とせていると感じています。役員までの到達率はかなり低くなりました。
――鈴木:感覚的な話ですが、「この人は優秀だ」というような非常にスペシャルな方がいらっしゃったときに、構造的に進めることで選考のモチベーションが下がってしまう懸念はあまりなさそうですか。
下垣内様:そのあたりは基本的に問題ないと考えています。決めた質問をし終わった後には、ある程度面接官と自由に質問したり話したりしていただくので、ハイブリッド的です。そこである程度、親密感はつくれているのではないでしょうか。
――鈴木:自然な会話の中で構造的な質問を投げていくのかと思っていましたが、意外と前半と後半で分けるのですね。
下垣内様:面接官によっては、「会社からこれを聞けと言われているので聞きます」と言い切ってしまうケースもあります。
――鈴木:言い切ってしまった方が、お互いに良いのかもしれないですね。
下垣内様:分かりやすいと思います。
強みを聞かないなら、コミュニケーションはどう見るのか

――鈴木:「強みなどは定型的な面接の質問だと思いますが、これらを禁止しているのは意外でした。AIが判定するうえでも数字的根拠がある方が良いのかなと思いますが、実際に働くメンバーとのマッチ度など、コミュニケーション面はどう確認しているのでしょうか」というご質問です。
下垣内様:かなり難しいところです。強みやアピールのような定性的なことは、面接だと何とでも言えてしまいます。私も面接を受ける立場になったとき、いくらでも言えてしまうなと感じました。
職歴も、自分の立場を誇張して表現できてしまいます。時間的にも、聞いても意味がないと考えて省いているところです。
コミュニケーションは、先ほどのハイブリッド的なところである程度見ています。その前に、当社では「Elith飯」というものをやっていて、一緒に食事に行ってしまうことで、親密感やコミュニケーション能力を見させていただく部分もありました。
ある程度は入っていただかないと分からないので、諦めている部分も一部あるというイメージです。
――鈴木:「強み」は一次面接で必ず聞けと言われているものが多い印象で、私も意外でした。発散的な質問なので構造的には入れず、二次面接やElith飯で聞くようにしているのでしょうか。
下垣内様:そのあたりではカジュアルに聞いてしまいますし、お酒が入っていると本音が出る部分もあるでしょう。「あなたの強みは何ですか」は、大体の方が事前にAIに作らせてきていて、きれいな文章を読むだけです。「自走できますか」も、できると言うに決まっています。
AIできれいにできてしまうからこそ、面接で聞いても皆さん違う答えが出ないのです。
――鈴木:一般的に聞かれるからこそ、準備はばっちりという質問なのですね。逆にElith飯でコミュニケーションを見るときは、どういう観点で見ているのでしょうか。
下垣内様:その方が休日やプライベートでどういうことをされているかや、交友関係などを聞いています。対面で話してみると、テキストやオンラインの面接の情報よりも、どういう方なのかがかなり分かります。
採用されたら入るチームのメンバーやリーダーに行っていただいたり、オフィスでパーティー的にやる場合はマネージャー層にも来ていただいて直接喋ってもらったりしました。面白い場合だと、一緒にゲームをしてもらってどういう感じなのかを見ることもあるほどです。
――鈴木:本当に素の状態を見たいということですね。
下垣内様:おっしゃる通りで、お互いに素で楽しい職場、素で合っている職場の方が良いと考えています。
エンジニアが少ない会社は、ローカルLLMをどこから始めるか
――鈴木:「ローカルLLMの環境づくりは、エンジニアが少ない会社だとどこから始めるのが現実的でしょうか」というご質問です。
下垣内様:まずGPUの購入は必要になります。加えて、クラウド版のコーディングエージェントを入れられているところであれば、AIを使ったコーディングである程度作っていただくのも1つの手です。ローカルLLMを使った採用システムは社外に出さないシステムで、オフラインなのでセキュリティも割と担保されるからです。
ただ、大きい会社さんや、全社への展開を考えられているなら、AIやローカルLLMが得意な会社を活用いただくのが一番だと思います。
――鈴木:すでにCodexやClaude Codeを使っている方であれば、ハードウェアを買ってきてつないで、開発してしまえばいけるということですね。
下垣内様:そちらでできるでしょう。
選考でAIを使っていることは、いつ候補者に伝えるか
――鈴木:「選考でAIを使っていることは、候補者にどのタイミングで伝えるのが良いのでしょうか」というご質問です。
下垣内様:当社では初めから、お声がけする段階から伝えたりと、できるだけ早い段階で伝えています。当社がAIスタートアップなので、候補者の方も気にしない部分はあるのでしょう。
――鈴木:最近は我々のお客様でも、スタートアップでなくてもAIを使われる企業が増えています。応募フォームや、早いところではスカウトの段階で伝えているケースもあり、当たり前になってきているという印象です。
下垣内様:騙して使う必要も、あまりないというところになっていると思います。
回答の字数制限は、話すのが苦手な人に不利ではないか
――鈴木:「回答に字数の制限をかけると、話すのが苦手な候補者に不利にならないか少し気になりました。逆にハックされる可能性もあると思いますが、対策はどうすれば良いと思いますか」というご質問です。
下垣内様:おっしゃる通りです。ポジションにもよるでしょう。営業だと、話すのが苦手な時点で難しいところがあります。逆にエンジニアの方だと、字数をもう少し緩和していることも多いです。
エンジニアの方は実績をGitHubなどで公開されている方が多いので、そちらをベースに得意な領域で質問を作らせていただき、きちんと理解して作られているかを確認します。本人が饒舌になるようなところで確認させていただくケースが多いです。
――鈴木:少しそれますが、記事かニュースで見た話です。アメリカでは、面接で今までのホワイトボードコーディングではなく、アプリを作ってきてもらうそうです。AIがあるので作れますよね。それに対して社員の方々が一斉に攻撃をかけるらしいのです。
下垣内様:セキュリティのところで。
――鈴木:そうです。それに対して防御してくださいという面接をしていて、アプリの中身を理解していないと、どういう順番でどう防御すべきかが判断できません。本質的に理解しているかを判断するうえで、そういう面談をやっているという話は聞いたことがあります。
下垣内様:AIを使って理解を捨ててしまう方が、今後増えるのではと思っています。仕事になるとそこは非常に問題になるので、非常に良い取り組みです。
日本国内だけで採用していても、EUの規制に備えるべきか
――鈴木:「EUの規制について、日本国内だけで採用している会社でも、今から準備しておくべきことはありますか」というご質問です。
下垣内様:EUの規制本体については、EU関連で仕事が発生する会社以外は、あまり気にされる必要はないと考えています。一方で、国内でもAI関連の法整備は、基本的にソフトローでやっていくということではありますが、徐々に進むでしょう。
面接に関するAIについても、今後SNSで、どこかが何かをやらかして炎上することは増えてくると思います。社内のガバナンス体制や、レピュテーションリスクになるような使い方はしないといったところを整備いただくと良いのではないでしょうか。
評価とアトラクト、AIと人のバランスをどう取るか
――鈴木:「面接は評価をする反面、アトラクトも必要だと思います。会社によってはカジュアル面談や一次面接からアトラクトをしていると思います。評価とアトラクトのバランスや、AIと人のバランスをどうすればいいか悩んでいます」というご質問です。
下垣内様:応募のされ方にもよると考えています。向こうから応募してくださっている場合は、すでにアトラクトできているので、能力の面を重視して見るのもありです。
ただ、こちらからスカウトを送ったのに厳しい質問ばかりするのは、相手にとっては非常に不快なこともあります。スカウトしているかどうかで、アトラクトの割合を変えるのが良いでしょう。
カジュアルに食事に行ったり、カジュアル面談をしたりすることが、アトラクトするうえでは一番だと思います。いただいた通り、面接の前に面談の場を設けて、そこではこちらの評価というよりは、向こうにこちらを知っていただく形にするのがベストではないでしょうか。
人を1人採用するか、AIに投資するか

――鈴木:最後に1点、お2人でディスカッションできればと思います。面接官ガチャの話からは少しずれますが、人を1人採用するのか、AIに投資するのか。そのバランスや配置をどう決めていくのか、CAIOというお立場からはどういったお考えをお持ちですか。
下垣内様:長期的か、比較的短期かであると考えています。長期的にはAIができて、人はあまりいらないと私自身は思っていますが、数年を見たときにはまだまだ人はいるでしょう。
ただ、例えばChatGPTのサブスクリプションでも、かなり高いプランが最近出て8万円ぐらいです。会社がエンジニアに払うお金が月々50万円ぐらいだと考えると、もう1人増やすよりは、今いる人にAIを潤沢に与える方が、生産性が上がる場合は多いと思います。
一方で、AIを与え切る体制ができた後は、次に1人増やす際にAIも一緒に増やすことで、生産性の倍率が非常に高くなります。まずはAIに上限まで、生産性の天井に来るまで投資してみて、その後に人を増やすという段階があるのではないでしょうか。
コストを下げるAIと、売上を上げるAI
――鈴木:私も完全に同意で、今の切り分けは非常にすっきりきました。あえて別の観点から私の考えを述べると、コストサイドなのか、売上を上げるためにAIを使うのかで、使い方は結構変わってくると思っています。
一般的に今の日本での使われ方は、コストセンターに対して使って、より効率化しているように見えます。他方、売上を上げるためにAIをどう使うかには、あまり答えがないようにも見えていました。
AIを使って売上を上げられるところも結構あると思いますが、大多数は人でしかできないことが残るのではないかと考えています。人に物やサービスを購入していただき、それを続けていただくには、相手が人で意思決定者である限り、人の存在は変わりません。
そういう意味では、人はその部分に投資し続けなければいけません。他方、先ほどのエンジニアの話やバックオフィス的なところなど、AIと効率性で勝負するとどうしても負けてしまう部分は、投資の配分が変わってくると個人的には感じました。
下垣内様:トップラインを作っていくところは、なかなか人でないとできないということですね。AIの役割は、おそらく倍率を変えるところです。人がゼロだと何倍してもゼロですが、もともと0から1だったところが、AIを使うと0から10になる、そういう変化はあると思います。
――鈴木:確かにそうですね。よくアーマードスーツのような表現をしますが、すごいスーツを手に入れるようなものですね。