採用でいうリテーナー契約は、紹介会社やサーチ会社に依頼した時点で着手金(リテーナーフィー)を払い、採用が決まらなくても戻らない費用を先に負う契約を指します。
CTO や VPoE のように転職市場に出てこない層を探すときに選ばれやすい契約で、外部に払う総額の差は「採用できたとき」より「採用できなかったとき」に開くのが特徴です。
成功報酬型の人材紹介・リテーナー型・月額固定の採用代行(RPO)は、払うタイミングと、決まらなかったときに残る金額で並べると比べやすくなるはずです。リテーナーフィーを受け取れる条件は法令で決まっており、紹介会社の手数料表で契約前に確かめられます。
リテーナー契約は着手金を先に払う人材紹介の契約
採用のリテーナー契約は、人材紹介会社やヘッドハンティング会社に候補者探しを依頼するとき、採用の成否にかかわらず着手金を払う形の契約です。着手金はリテーナーフィーとも呼ばれます。
成功報酬型が「入社が決まったら払う」のに対して、リテーナー型は「探してもらうこと」に先に払う仕組みです。事業者はその費用を元手に、転職を考えていない層まで含めて候補者を1人ずつ探し、口説く工数をかけます。
リテーナーという語は、一般には弁護士や PR 会社、M&A のアドバイザーに継続して業務を頼むための前払いの報酬の意味でも使われます。2026年10月22日に google.co.jp で「リテーナー 契約」と検索すると、上位9本のうち採用の文脈は3本で、残りは PR 会社や M&A の顧問契約の解説でした。人材紹介のリテーナー契約は、この考え方を候補者探しに当てはめたものといえます。
厚生労働省の委託調査でも、職業紹介の形態に「サーチ型(いわゆるスカウト型の職業紹介)」を挙げた事業者は24.5%で、「登録型」の86.8%より少数でした(厚生労働省「採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査 報告書」・職業紹介事業者 n=621・2022年3月)。この調査はリテーナー契約の有無を尋ねていませんが、候補者を探しに行くサーチ型は、着手金を伴う契約と結びつけて語られることがあります。
3方式は払う時点と決まらなかったときの費用が違う
成功報酬型・リテーナー型・月額固定の採用代行の違いは、費用が発生する時点と、採用に至らなかったときに出ていった金額に表れます。
比べる点 | 成功報酬型の人材紹介 | リテーナー型の人材紹介 | 月額固定の採用代行(RPO) |
|---|
費用が発生する時点 | 入社が決まったとき | 依頼したとき(着手金)と、決まったとき(残額) | 契約期間中の毎月 |
採用できなかったときの費用 | 原則として発生しない | 着手金は原則として戻らない | 契約した期間分は発生する |
金額の決まり方 | 想定年収 × 料率 | 想定年収 × 料率を、着手金と残額に分ける例が多い | 月額 × 期間(年収に連動しない) |
事業者の立場 | 有料職業紹介事業 | 有料職業紹介事業 | 業務の委託(紹介を伴うなら許可が要る) |
向くポジション | 候補者が市場に一定数いる職種 | 候補者が少ない、非公開で探したい職種 | 応募者対応やスカウト配信など件数の多い作業 |
成功報酬型は決まらなければ費用がかからない一方、事業者は決まりやすい案件から手をかけるのが自然です。候補者が少ないポジションでは推薦が来ないまま時間が過ぎることがあり、それがリテーナー型を選ぶ理由になります。
月額固定の採用代行は年収に連動しないので、高年収のポジションほど成功報酬型より割安に見えるはずです。ただし業務が求職者のあっせんに当たると職業紹介になり、許可が要ります。委託できる範囲は採用代行(RPO)の仕組みと委託範囲、法律の線引きで扱っています。
総額を同じと置くと採用できなかった場合に差が開く
リテーナー型の手数料総額を成功報酬型と同じと置いた本記事の試算では、年収1,000万円の CTO を採用できた場合、成功報酬型とリテーナー型の総額はどちらも350万円、月額固定の採用代行は300万円です。差が開くのは採用できなかった場合で、成功報酬型は0円、リテーナー型は着手金の約117万円、採用代行は300万円が出ていきます。
方式 | 年収1,000万円・採用できた | 年収1,000万円・採用できなかった | 年収1,500万円・採用できた | 年収1,500万円・採用できなかった |
|---|
成功報酬型の人材紹介 | 350万円 | 0円 | 525万円 | 0円 |
リテーナー型の人材紹介 | 350万円(うち着手金 約117万円) | 約117万円 | 525万円(うち着手金175万円) | 175万円 |
月額固定の採用代行 | 300万円 | 300万円 | 300万円 | 300万円 |
試算の前提は本記事が置いた値で、人材紹介の料率は35%としました。リテーナー型は手数料の総額を成功報酬型と同じとし、その3分の1を着手金として依頼時に払う置き方です。
採用代行は月額50万円で6か月と置きました。参考値として、BOXIL(スマートキャンプ株式会社)の調査ページには、採用代行の月額費用の中央値が40万円〜60万円未満(n=325)、委託期間の中央値が6か月と記載されています(BOXIL「採用代行サービス(RPO)の費用調査」・2025年11〜12月)。
年収が1,500万円に上がると、成功報酬型とリテーナー型は料率の分だけ総額が増え、採用代行は変わりません。採用できたときの差は、成功報酬型と採用代行の間で225万円に広がります。一方で採用代行は、6か月で採用に至らなければ300万円がそのまま戻らない費用です。
実際の着手金の比率や料率は事業者ごとに違い、後の節で見るように届け出た手数料表で決まります。手元の見積もりの数字を同じ表に入れ直せば、自社が「決まらなかったときに失う額」がいくらかが見えてくるでしょう。
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技術職の紹介手数料率は30%以上40%未満が最多
紹介会社が求人企業から受け取る手数料率は、技術職や経営管理者では「30%以上40%未満」が最も多い帯です。同じ委託調査では、研究職・技術職・専門職を扱う事業者の66.9%(n=124)と、経営管理者を扱う事業者の71.8%(n=85)がこの帯と答えました。
料率は紹介した人の1年間の賃金に対する割合で尋ねたもので、上の試算の35%はこの帯の中ほどに当たります。この料率は職業紹介全般のもので、リテーナー型に限った値ではありません。
求人企業から受け取る手数料を「届出制手数料」で定めている事業者は65.7%、法令の上限の範囲で受け取る「上限制手数料」は16.6%でした(n=621)。調査の時点は2021年4月1日です。
人材紹介の手数料は金額の99.7%が届出制
金額で見ると、人材紹介の手数料はほぼすべてが届出制です。厚生労働省の令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)では、手数料収入の合計983,454,157千円のうち、届出制手数料が980,821,781千円を占め、割合は99.7%でした。
区分(令和6年度) | 上限制手数料 | 届出制手数料 | 手数料合計 |
|---|
全職種 | 1,804,568千円 | 980,821,781千円 | 983,454,157千円 |
情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発) | 214,327千円 | 59,664,959千円 | 59,879,286千円 |
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)。届出制の割合はOffersが算出。
手数料合計には求人受付・求職受付・求職者紹介の手数料も含まれるため、全職種の行は上限制と届出制の和と一致しません。
同じ報告書の概要では、常用就職1件あたりの手数料は約103万円で、前年度より10.9%増えています。ソフトウェア開発の技術者に絞り、手数料合計を常用就職件数39,780件で割ると、1件あたりは約150.5万円です。常用以外の就職に係る手数料も含むため、この値は実際より高めに出ます。
年収1,000万円を超える CTO では、料率が同じでも1件あたりはこの平均を大きく上回ります。職種別の1件あたりの手数料は人材紹介の費用、職種別の1件あたり実額と課金モデルにまとめました。
リテーナーフィーは手数料表への届出が条件
紹介会社がリテーナーフィーを受け取れるのは、厚生労働大臣に届け出た手数料表にその手数料が載っている場合です。厚生労働省の「職業紹介事業の業務運営要領」(第6 手数料)は、法令で認められた手数料のほかに、職業紹介に関して「いかなる名義でも」手数料や報酬を受けてはならないと定めています。
届出制手数料は、求人の申込みを受理した時以降に、届け出た手数料表に基づいて受け取れる手数料です。依頼の時点で着手金を払う形は、この届出制の枠組みの中で組まれることになります。
上限制手数料は、支払われた賃金額の11%(免税事業者は10.3%)などを最高額とする、賃金に連動した手数料です。上限制と組み合わせて前もって受け取れるのは求人1件につき710円を限度とする求人受付手数料で、これと届出制手数料の組み合わせは想定されていません。
届出をせずに届出制手数料を受け取った者は、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処せられる場合がある、と業務運営要領は定めています。紹介会社には、求人の申込みを受けたあと速やかに、手数料と返戻金制度に関する事項を書面や電子メールなどで示す義務も課されています。紹介会社から届く書面に、着手金の扱いが書かれているかを見るのが最初の確認点です。
手数料表と返戻金制度は、厚生労働省の人材サービス総合サイトで事業者ごとに公開されています。契約を結ぶ前に、着手金がどの名目で手数料表に載っているかを見ておけば、契約書の金額と届出の内容の食い違いに気づけます。
返戻金制度は早期離職のときの補償
人材紹介の返戻金制度は、紹介した人が一定期間内に辞めたときに、手数料の一部または全部を返す仕組みです。委託調査では、「紹介手数料の一部又は全部を返還する制度がある」と答えた事業者が59.4%、「特に補償を行う制度はない」が34.8%でした(n=618)。
補償の期間は「4〜6カ月」が44.4%で最も多く、「3カ月」の42.9%が続きます(n=394)。どちらも入社した人が辞めた場合の扱いで、採用に至らなかったときに着手金を返すかどうかは、この制度とは別に契約と手数料表で決まります。
リテーナー契約では、返戻金制度の対象に着手金を含むのか、成功報酬の部分だけなのかを契約前に確かめておくと安心です。早期離職のときに戻る金額を見誤らずに済みます。
リテーナー契約は非公開で探すポジションに向く
リテーナー契約が向くのは、候補者が転職市場にほとんど出てこないうえ、社内外に募集を知られたくないポジションです。CTO の交代、新規事業の責任者、AI エンジニアのリードなどが典型です。
着手金を払うことで、事業者はその案件に担当者の時間を割き、候補者のリストを作り、転職を考えていない人にも声をかけます。依頼側は同じ案件で他の紹介会社を使わない独占の条件を求められる例があり、その場合は1社の進め方に結果が左右される点には注意が要ります。
反対に、候補者が市場に一定数いる職種や、同じ職種を何人も採用したい場合は、成功報酬型の人材紹介やダイレクトリクルーティングのほうが費用を抑えやすい選択です。サーチ型の進め方そのものはヘッドハンティングとは?仕組み・費用と会社の選び方で扱っています。
未消化分を返す予算消化型の契約もある
リテーナー型の「決まらなくても着手金が戻らない」という弱点を避ける形として、上限の予算を先に決め、成果に応じて消化し、使わなかった分を返す予算消化型の契約もあります。
Offers の予算型リテーナーは、使った分だけを課金し、未消化分を全額返金する形です。標準のプランは18か月で、最初の3か月を進め方の検証期間として活動します。エンジニア全般に加え、CTO・VPoE・EM(エンジニアリングマネージャー)、AI エンジニア、PdM などの希少ポジションに強みを持つとしています。
予算消化型を比べるときも、何に対して消化するのか(面談か、採用か)と、期間の終わりにいつ返金されるのかを契約書で確かめてください。料金と条件はプランと年収帯で変わるため、見積もりを上の試算の表に入れ直すと、成功報酬型や採用代行と同じ物差しで比べられます。
予算型リテーナーの進め方と対象の職種は、Offers の予算型リテーナー採用で確かめられます。
リテーナー契約のよくある質問
リテーナー契約について、採用担当者からよく挙がる4つの論点をまとめました。
リテーナーフィーと着手金の関係
リテーナーフィーは着手金とほぼ同じ意味で使われる言葉です。依頼の時点で払う費用で、採用が決まったときに払う成功報酬とは別に扱われます。
採用できなかった場合の費用
着手金は原則として戻らず、成功報酬の部分は採用に至らなければ発生しません。予算消化型のように未消化分を返す契約もあるので、返金の条件は契約書と手数料表で確かめておくのが確実です。
契約期間の決め方
期間は事業者と案件で異なり、法令で一律には決まっていません。探す相手が限られるポジションほど探索に時間がかかるため、期間内に採用に至らなかったときの延長の条件と、追加の費用の有無を先に決めておくと安心です。
紹介会社の許可の確かめ方
リテーナー型でも、求職者をあっせんする事業は有料職業紹介事業で、厚生労働大臣の許可が要ります。許可の有無と届け出た手数料表は、人材サービス総合サイトで事業者名から検索できます。
リテーナー契約を選ぶ前に確かめる3点
リテーナー契約は、採用できなかったときに着手金が残る代わりに、候補者が少ないポジションに事業者の時間を確保できる契約です。選ぶ前に確かめたいのは次の3点です。
- 採用できた場合とできなかった場合の総額を、成功報酬型・採用代行と同じ表で比べる
- 着手金が、届け出た手数料表のどの手数料として載っているかを人材サービス総合サイトで見る
- 返戻金制度の対象に着手金が入るか、期間が終わったときの延長と返金の条件を契約書で確かめる
採用代行の料金体系や月額の分布は、採用代行(RPO)の費用相場・料金体系・選び方の基本で比べられます。