採用時に反社チェックを行う理由と根拠
採用時に反社チェックを行う根拠は、2007年6月に犯罪対策閣僚会議幹事会が申し合わせた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」です。指針は、反社会的勢力とは取引関係を含めて一切の関係をもたないこと、相手方が反社会的勢力かどうかに常に通常必要と思われる注意を払うことを企業に求めています。
政府指針が企業に求める関係遮断
政府指針は、反社会的勢力を「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と位置づけています。関係を持ってしまった場合に、反社会的勢力と判明した時点や疑いが生じた時点で速やかに関係を解消することも、指針が定める対応です。
指針の前文は、反社会的勢力が企業で働く従業員を標的に不当要求を行ったり、企業そのものを乗っ取ろうとしたりすると述べています。採用は、こうした相手を社内に迎え入れる入口にもなり得ます。取引先の審査と並んで、応募者も確認の対象です。
出典:犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(2007年6月19日)
暴力団排除条例と「暴力団員を雇用している者」
東京都暴力団排除条例は、事業者に契約の相手方の確認と、契約書への暴力団排除の特約条項の記載を求めています。確認の対象は暴力団の活動を助長するなどの疑いがある契約で(第18条第1項)、特約条項は書面で結ぶ契約が対象です(同条第2項)。どちらも努力義務とされています。
採用の担当者が押さえておきたいのは、条例上の「暴力団関係者」の範囲です。警視庁のQ&Aは、「暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者」の例に「暴力団員を雇用している者」を挙げ、暴力団関係者に該当すると、都や暴力団排除に取り組む事業者との契約で排除の対象となる場合があるとしています。
従業員の中に暴力団員がいると、自社が取引先から排除される側に回るおそれがあります。採用時の確認は、自社の取引を守るための手続きでもあるのです。
出典:警視庁「東京都暴力団排除条例Q&A」
暴力団構成員等の数と見えにくさ
警察白書によると、暴力団構成員と準構成員等の総数は2024年末で18,800人で、2015年末の46,900人から半分以下に減りました。
年末 | 総数 | 構成員 | 準構成員等 |
|---|
2015年(平成27年) | 46,900人 | 20,100人 | 26,800人 |
2019年(令和元年) | 28,200人 | 14,400人 | 13,800人 |
2024年(令和6年) | 18,800人 | 9,900人 | 8,900人 |
出典:警察庁「令和7年版 警察白書」図表4-5(各年末現在)
数が減っても、確認の手間が減るわけではありません。政府指針の前文は、暴力団が組織の実態を隠し、企業活動を装うなど不透明化を進めていると指摘しています。氏名を名簿やデータベースと突き合わせるだけでは見つからない相手がいる前提で、本人の表明確約と、判明したときの取り決めを組み合わせます。
応募者の情報を集めるときの法令上の線引き
応募者について集めてよいのは、採用の目的の達成に必要な範囲の情報で、本人から直接、または本人の同意の下で集めるのが原則です。職業安定法第5条の5と同法に基づく指針(平成11年労働省告示第141号)がこの原則を定め、個人情報保護法は犯罪の経歴などの要配慮個人情報の取得に、原則として本人の同意を求めています。
法令・指針 | 定めていること | 採用時の反社チェックでの扱い |
|---|
職業安定法第5条の5・指針 | 目的を明らかにし、必要な範囲で収集する。人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地、思想・信条、労働組合への加入状況は原則として収集しない | 確認の目的を応募者に示し、反社会的勢力との関係に絞って調べる |
職業安定法の指針 | 本人から直接、本人の同意の下で本人以外から、または本人が公開している情報から、適法かつ公正な手段で収集する | 調査会社への依頼や第三者への照会は、本人の同意を得てから行う |
個人情報保護法第20条第2項 | 要配慮個人情報(犯罪の経歴などを含む)は、原則としてあらかじめ本人の同意を得て取得する | 犯罪の経歴に該当する情報を記録に残すなら、事前の同意を取る |
個人情報保護法第21条第1項 | 取得した個人情報の利用目的を、公表していなければ本人に通知するか公表する | 応募時の同意書や個人情報の取扱いの案内に、反社会的勢力との関係の確認を利用目的として書く |
出典:厚生労働省「採用選考自主点検資料(令和8年度版)」、個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
職業安定法の指針が定める収集の原則
職業安定法の指針は、応募者の個人情報を本人から直接、本人の同意の下で本人以外の者から、または本人が公開している情報から、適法かつ公正な手段で集めるよう定めています。集めた情報の保管と使用も、収集の目的の範囲に限るのが指針の定めです。
違反すると、職業安定法に基づく行政指導や改善命令の対象となる場合があり、改善命令に違反すると6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される場合があります。反社チェックの名目で集めた情報を、配属や評価など別の目的に使い回さない運用も、同じ原則から導かれるものです。
厚生労働省が身元調査を避けるよう求める理由
厚生労働省の「公正な採用選考をめざして」は、身元調査を「就職差別につながるおそれがある14事項」の1つに挙げています。採用選考自主点検資料の解説によると、身元調査は近所や関係者への聞き込みなどで本人や家族の情報を広く集めることになり、集めた情報には真偽が不明のものや風評・偏見が入り込むことも少なくないためです。
この記事では、反社チェックを反社会的勢力との関係の有無に目的を絞った確認として扱います。身元調査との区別は、厚生労働省の身元調査の解説をもとにした本記事の整理です。家族の職業や本籍、居住地域の様子まで調べる身元調査に広げると、確認の目的を超えて就職差別のおそれがある情報を集めることになります。調査会社に依頼する場合も、調査の範囲を契約書で反社チェックの項目に限っておくのが、身元調査に広げないための手当てです。
面接で何を聞いてよいかの線引きは、面接官の役割と質問の線引きで扱っています。
個人情報保護法の要配慮個人情報と利用目的の通知
個人情報保護法では、犯罪の経歴(前科)や、本人を被疑者として逮捕などの刑事手続が行われた事実は要配慮個人情報に該当し、取得には原則としてあらかじめ本人の同意が必要です。個人情報保護委員会のガイドラインは、本人の同意なく、法第20条第2項第7号などが定める者以外がインターネット上で公開している情報から犯罪歴などを取得し、自社のデータベースに登録することを、違反の事例に挙げています。同号などが定める者は、本人や国の機関のほか、放送機関・新聞社・通信社その他の報道機関などです。
応募の時点で、反社チェックを利用目的に含めた同意書を取っておくと、確認と記録の両方を同意の範囲で行えます。
採用時の反社チェックの具体的な方法
採用時の反社チェックの基本の組み方は、応募者本人の表明確約、公開情報やデータベースとの照合、疑いが残るときの警察・暴力追放運動推進センターへの相談の3つの工程です。前の工程で確認できたことを次の工程の判断材料にし、どの工程も本人の同意の範囲で行います。
工程 | 行うこと | 主な根拠・窓口 |
|---|
1. 表明確約 | 反社会的勢力でないこと・関係がないことの表明と、虚偽だった場合の取り扱いへの同意を書面で取る | 政府指針(契約書への暴力団排除条項) |
2. 照合 | 氏名で新聞記事データベースやウェブの報道を検索し、契約している調査会社やデータベースと照合する | 職業安定法の指針(適法かつ公正な手段) |
3. 相談 | 疑いが残るときは、警察署や暴力追放運動推進センターに相談する | 政府指針(外部専門機関との連携)、警視庁Q&A |
応募者本人から表明確約書を取る
表明確約書(誓約書)は、応募者が自分は反社会的勢力ではなく、関係も持っていないことを表明し、事実と違った場合は内定の取消しや解雇の事由になることに同意する書面です。政府指針が取引の契約書に求める暴力団排除条項を、雇用の場面に当てはめた形になります。
警視庁のQ&Aが可能な限り契約書面に特約条項を盛り込むよう求めているのも、契約の締結後に相手方が暴力団関係者と分かった場合に、催告なく解除するなどの対処をするためです。採用でも、内定通知や入社時の書類に同じ趣旨の条項を入れておくと、判明したときの対応の根拠になります。
公開情報とデータベースで照合する
照合では、応募者の氏名で新聞記事データベースやウェブの報道を検索し、反社チェックの専用ツールや調査会社を使う場合はそのデータベースとも突き合わせます。反社会的勢力の情報を集約したデータベースを構築し、暴力追放運動推進センターや他企業などの情報で更新することは、政府指針が求める取り組みの1つです。
照合の結果は、同姓同名の別人である可能性を残したまま扱うのが原則です。氏名が一致しただけで不採用を決めず、生年月日や経歴と照らし合わせ、判断がつかなければ次の工程の相談に進みます。前職での働きぶりや経歴の確認は、本人の同意を得て行うリファレンスチェックの役割で、反社チェックとは目的が別です。
疑いが残るときは警察や暴追センターに相談する
照合で疑いが残ったときは、最寄りの警察署や暴力追放運動推進センターに相談します。警視庁のQ&Aは、暴力団排除に取り組む事業者に対して、相手が暴力団関係者かどうかなどの情報を個々の事案に応じて可能な限り提供するとしています。
相談の際に用意するよう案内されているのは、相手の氏名・生年月日・住所が分かる資料、暴力団排除の特約を定めた契約関係の資料、暴力団関係者の疑いがあると判断した理由の資料です。採用では、応募書類と表明確約書、照合で見つかった記事の控えがこれに該当します。
採用選考で反社チェックを行う時期
反社チェックは、応募の受付時に同意と表明確約を取り、最終面接の後から内定を出す前までに照合を終えるのが基本の流れです。内定を出した後に分かった事実で内定を取り消すと、解雇と同じ扱いで有効性が問われるためです。
時期 | 行うこと |
|---|
応募の受付時 | 個人情報の利用目的(反社会的勢力との関係の確認を含む)を示し、同意を取る |
最終面接の前後 | 表明確約書を受け取り、公開情報やデータベースと照合する |
内定を出す前 | 照合の結果を確認し、疑いが残れば警察や暴追センターに相談してから判断する |
入社時 | 就業規則の反社会的勢力の排除の条項と、誓約書の内容を本人に説明する |
内定を出す前に照合を終える理由
厚生労働省の解説では、採用内定は解約権を留保した労働契約と解され、内定の取消しは労働契約を一方的に解除するものとして解雇の扱いになります。
大日本印刷採用内定取消事件の最高裁判決(1979年7月20日)は、内定を取り消せる場合を限っています。理由が内定の時点で知ることができず、知ることも期待できない事実であり、その取消しが、解約権を留保した趣旨や目的からみて客観的に合理的で、社会通念上も相当といえる場合です。内定の前に照合すれば分かった事実は、「内定当時知ることが期待できない事実」に該当しないと判断されるおそれがあります。
出典:厚生労働省「確かめよう労働条件 裁判例 採用内定の取消」「面接での虚偽回答は、内定取消の理由になりますか?」
内定の法的な性質や内々定との違いは、内定とは何か?採用や内々定との違いと内定後の手続きで扱っています。
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入社後の確認は就業規則と誓約書で行う
入社後は、就業規則に反社会的勢力との関係を禁じる規定と懲戒の事由を置き、誓約書の内容と結び付けておきます。在籍中の従業員を定期的に調べ直す場合も、採用時と同じく目的を示して同意を取り、調べる範囲を採用時と同じ項目に限るのが原則です。
反社会的勢力との関係が分かったときの対応
反社会的勢力との関係が分かったときの対応は、内定の前か後かで変わります。内定前なら採用を見送る判断ができ、内定後や入社後は、内定の取消しや解雇として客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が問われるため、弁護士や警察に相談してから進めます。
内定前・内定後・入社後で変わる判断の基準
内定の前なら、企業の採用の自由(厚生労働省の解説は憲法22条1項・29条を挙げています)の範囲で、採用を見送る判断が可能です。警視庁のQ&Aは、警察から暴力団関係者に該当するとの情報提供を受けて契約の締結を拒む場面について、拒絶する理由を相手方に説明する義務はないとしています。
内定の後は、前の節の大日本印刷事件の基準で取消しの有効性が判断されます。入社後の解雇は、労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は無効です。表明確約書で虚偽を申告していた事実や、就業規則の懲戒の事由に該当する事実を、記録で示せるかが分かれ目になります。
時点 | 取り得る対応 | 判断の基準 |
|---|
内定の前 | 採用を見送る | 採用の自由の範囲 |
内定の後 | 内定の取消し | 大日本印刷事件の基準(内定当時知ることが期待できない事実か・客観的に合理的で社会通念上相当か) |
入社の後 | 解雇・懲戒 | 労働契約法第16条(客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性) |
出典:厚生労働省「労働契約法のあらまし」
相談先と記録の残し方
政府指針は、警察、暴力追放運動推進センター、弁護士を外部の専門機関と位置づけ、平素から連携しておくよう求めています。関係が分かった時点で、照合の結果、表明確約書、相談の記録を時系列で残し、本人への伝え方と手続きを弁護士と決めてから動きます。
情報を共有する範囲は、判断に関わる担当者と経営層までです。個人情報保護委員会のガイドラインは、事業者間で暴力団などの反社会的勢力情報を共有する場合を、本人の同意を得ることが困難なときの例外の事例に挙げていますが、社内で誰に伝えるかは別に絞り込みます。
採用時の反社チェックを社内の手順にする要点
採用時の反社チェックを社内の手順にするときは、確認の目的を関係遮断に限り、同意を取る時期、照合の方法、相談先、判明したときの判断者を決めて文書にしておきます。手順は応募者全員に同じものを当て、特定の応募者だけを調べる運用にはしません。
- 応募時の同意書と個人情報の取扱いの案内に、反社会的勢力との関係の確認を利用目的として書く
- 表明確約書の書式を決め、虚偽だった場合の取り扱いを明記する
- 照合に使う手段(新聞記事データベース・専用ツール・調査会社)と、調べない項目(家族・本籍・居住地域)を決める
- 疑いが残ったときの相談先(警察署・暴追センター・顧問弁護士)と連絡の担当者を決める
- 内定を出す前に照合を終える工程を、選考のスケジュールに組み込む