人材紹介のKPIは、売上を決定数と決定単価の2つに割るところから組み立てます。決定単価が確定しないと必要な決定数が決まらず、その手前の面談数もスカウト数も置きようがないからです。
ところが実務では、この入口の単価も、途中の通過率も、どこから来た数字なのか説明できないまま置かれていることがあります。数字の出どころが曖昧なツリーは、未達のときに誰も判断を変えられません。
この記事では、KPIツリーの入口に置く決定単価と、業界全体の決定率を公的統計の実数で示します。そのうえで扱うのは、公表値で外枠を置ける指標と自社で測るしかない指標の分け方、そしてKPIが動かないときに見る箇所です。
人材紹介のKPIは売上を決定数と決定単価に割って組む
KGI(最終目標)に売上を置くと、その1段下は決定数と決定単価の2つになります。人材紹介の売上は成約1件ごとの手数料の積み上がりで決まるので、この2つの積が売上そのものです。
決定数と決定単価は、動かし方がまったく違います。決定数を動かすのは行動量と通過率です。決定単価は扱う職種と年収帯、そして料率で決まります。
片方だけを追うと、決定数は増えたのに売上が伸びない月が出てしまいかねません。逆に単価の高い案件に寄せた結果、決定数が落ちて着地が下がることもあります。ツリーの1段目を2本に割るのは、この取り違えを起こさないためです。
KGIとKPIの線引きは、期中に動かせるかどうかで引く
KGIは期末に確定して、後からは動かせない数字です。KPIは期中に見て、翌週の行動を変えられる数字を指します。
「四半期の売上」はKGI、「今週の面談設定数」はKPIです。この線引きを曖昧にしたまま指標を並べると、追いかけても手の打ちようがない数字がボードに残ります。
決定単価を先に置くと、必要な決定数が決まる
月の売上目標を平均決定単価で割った値が、必要な決定数です。ここが全体の起点になるので、平均決定単価の置き方を間違えると、以降の段がすべてずれます。
平均決定単価は、直近12か月の手数料収入を同じ期間の決定件数で割って出します。案件ごとの見込み額の平均ではなく、実際に入金された額から計算した値です。
KPIツリーの入口になる決定単価には、公的統計の実額がある
厚生労働省は、職業紹介事業者から提出された事業報告書を毎年集計して公表しています。令和6年度の常用就職1件あたりの手数料は約103万円で、前年度から10.9%増えました。手数料収入の総額は約9,835億円(前年度比17.6%増)、うち常用就職に係る分が約9,136億円(同16.8%増)です。
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(令和8年3月31日公表)。
この約103万円は全職種をならした値です。職種によって金額は大きく変わるので、自社が扱う職種の実額は別に確かめます。職種ごとの1件あたり手数料は人材紹介の費用で扱っているので、ここでは金額の内訳には立ち入りません。
売上の9割以上は入社の成立に紐づく
手数料収入の約9,835億円のうち、常用就職に係る分の約9,136億円は92.9%にあたります。
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」をもとにOffers推計。
常用就職とは、4か月以上の期間を定めて雇用されるものか、期間の定めなく雇用されるものの就職です。売上の9割以上が入社の成立に紐づくので、KPIは決まるまでの過程を細かく測る形になります。
求職申込からの決定率は、掲載8職種で3.6〜6.4%
自社の決定率が高いのか低いのかは、外枠となる数字が無いと判断できません。職業紹介事業報告書は職種ごとに新規求職申込件数と常用就職件数の両方を持っているので、この2つを割れば職種ごとの比率が出ます。
本記事ではこの比率を「求職申込からの決定率」と呼ぶことにします。社内で決定率と呼ぶときの分母は推薦数であることが多く、両者は桁が違う数字です。
この比率は職種によって大きく開きます。下の表はホワイトカラーの8職種に絞ったもので、この範囲がそのまま全職種を代表するわけではありません。
職種(有料職業紹介) | 新規求職申込件数(令和6年度) | 常用就職件数(令和6年度) | 求職申込からの決定率(令和5年度) | 求職申込からの決定率(令和6年度) |
|---|
製造技術者 | 302,781件 | 19,304件 | 8.3% | 6.4% |
法人・団体管理職員 | 277,601件 | 16,007件 | 7.4% | 5.8% |
建築・土木・測量技術者 | 461,135件 | 26,230件 | 6.3% | 5.7% |
開発技術者 | 351,912件 | 19,339件 | 6.0% | 5.5% |
情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発を除く) | 525,923件 | 26,882件 | 5.7% | 5.1% |
情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発) | 891,060件 | 39,780件 | 5.2% | 4.5% |
営業の職業 | 2,086,578件 | 89,563件 | 5.1% | 4.3% |
総務・人事・企画事務の職業 | 713,457件 | 25,716件 | 5.0% | 3.6% |
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」をもとにOffers推計。
8職種すべてでこの比率が前年度から下がっています。下げ幅が最も大きいのは製造技術者で、8.3%から6.4%へ1.9ポイント落ちました。
この統計には読み方の前提が2つあります。1つめは重複計上です。報告書は「求人者及び求職者は複数の職業紹介事業者を利用する場合があるため、新規求職申込件数及び求人数は重複計上がある」と明記しています。同じ求職者が3社に登録していれば、この分母では3件です。求職者1人あたりで見た就職の確率は、申込件数を分母にしたこの表の値より高くなります。1社ごとの比率がどうなるかは、この集計からは分かりません。
もう1つは分母と分子の範囲の違いです。分母の新規求職申込件数には臨時日雇の求人を希望する者が含まれ、分子の常用就職件数は4か月以上の雇用に限られます。
自社の値と比べるときは、絶対水準ではなく前年からの向きを見ます。表の8職種がそろって下を向いている年に自社が横ばいなら、それは実質的な改善です。
求職申込と求人は4割増えたが、決定は5.3%しか増えていない
求職申込からの決定率が下がった理由は、分母と分子の伸び方が違うところにあります。令和6年度の有料職業紹介では、新規求職申込件数が55,250,115件(前年度比43.1%増)、常用求人数が前年度比41.8%増でした。これに対して常用就職件数は888,993件で、伸びは5.3%にとどまります。
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(令和8年3月31日公表)。
この43.1%と41.8%は、いずれも重複計上を含む延べの件数です。同じ求職者や同じ求人が複数の事業者に持ち込まれた分も数えられているので、実需がそのまま4割増えたとは読めません。
それでも、扱った件数に対して決まった件数の比率が落ちたことは変わりません。分母の伸びに分子が追いついていない状態が、職種をまたいで同時に起きています。
事業所の側を見ても同じことが起きています。令和6年度に事業報告を提出した有料職業紹介事業所30,561のうち、就職実績のあった事業所は13,946で45.6%でした。半数以上の事業所は、年間で1件も決めていません。
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」をもとにOffers推計。
実績のあった13,946事業所で888,993件を割ると、1事業所あたりの年間決定数は63.7件になります。コンサルタントが10名いる会社なら、1人あたり月0.5件という水準です。
この分子は常用就職だけなので、臨時日雇を含めた実際の件数はこれより多くなります。
集客側の指標だけでKPIを組まない
この構図から言えるのは、母集団を増やす指標だけを並べても、求職申込からの決定率が下がる年には売上に届かないということです。増えた分がそのまま実需だと決めることは、重複計上を含む統計からはできません。
処理能力を測る指標は、1人あたりの処理件数と、工程ごとの滞留時間です。スカウト送信数のような行動量は増やせますが、1人が同時に持てる候補者数には上限があります。
どの工程に時間が集中しているかを洗い出し、そこから手を入れる進め方を扱っているのがOffers AXです。工程の切り分け方だけでも、自社のKPI設計の見直しに使えます。
追うKPIは、5つの工程に沿って並べる
指標を思いつく順に並べると、同じことを二重に測る項目が混ざります。工程を先に定義してから、工程ごとに1〜2個ずつ割り当てると重複が出ません。
工程 | 何をする工程か | 主なKPI | 計算式 |
|---|
求人開拓 | 法人の新規開拓と既存深耕、求人要件の確定 | 有効求人率 | 推薦可能な求人数 ÷ 保有求人数 |
ソーシング | 候補者の集客と対象リストの作成 | 新規登録数 | 期間内に登録した候補者の実数 |
目利き | 候補者スキルの評価と求人要件との適合判断 | 推薦可能率 | 推薦した候補者数 ÷ 面談した候補者数 |
スカウト・面談 | スカウト送信、返信対応、キャリア面談 | 面談設定率 | 面談実施数 ÷ スカウト送信数 |
推薦・クロージング | 推薦、選考進行、条件交渉、入社 | 決定率 | 決定数 ÷ 推薦数 |
工程のうち職種によって中身が変わるのは目利きの1つだけです。前後の4工程は扱う領域を問わず同じ形になるので、複数領域を持つ会社でも同じKPIの枠で管理できます。
行動量のKPIは、必ず質のKPIと対で置く
スカウト送信数だけを目標に置くと、返信率が落ちた月でも目標は達成できてしまう構図です。送信数と返信率、面談数と推薦率のように、量と質を対で置くと片方だけが伸びる動きを止められます。
対で置けないなら、その指標はボードから外します。片方だけで運用される行動量のKPIは、達成しても売上につながりません。
KPIツリーは、決定数から4段で逆算する
売上目標から決定数を出したら、工程をさかのぼって必要数を置きます。月商1,000万円、平均決定単価100万円の会社を例にすると、4段の並びは次のとおりです。
段 | 指標 | 通過率の置き方 | 必要数 |
|---|
1 | 決定数 | 売上目標 ÷ 平均決定単価 | 10件 |
2 | 推薦数 | 決定率(自社実測) | 10件 ÷ 決定率 |
3 | 面談数 | 推薦可能率(自社実測) | 推薦数 ÷ 推薦可能率 |
4 | スカウト送信数 | 面談設定率(自社実測) | 面談数 ÷ 面談設定率 |
2段目から4段目の通過率は、すべて自社の実測値を入れます。ここに業界の目安を入れると、出てきた必要数はそのまま架空の目標です。
逆算した必要数が現実的でないときは、目標を下げるのではなく、どの段の通過率を上げれば届くかを先に確かめます。4段のうち1段でも通過率が2倍になれば、その上流の必要数は半分で済む計算です。
公表値で外枠を置ける指標と、自社で測るしかない指標を分ける
KPIには、公的統計で外枠を確認できるものと、自社で測るしかないものがあります。この2つを混ぜると、目安の数字をそのまま自社の基準として使ってしまいかねません。
指標 | 公的統計での確認 | 置き方 |
|---|
平均決定単価 | 可能(職業紹介事業報告書) | 自社実測を基本にし、統計値を外枠として使う |
求職申込からの決定率 | 可能(同上・職種別) | 前年からの向きを比較材料にする |
求人の充足率 | 可能(同上・職種別) | 扱う職種の需給の締まり方を読む |
書類選考通過率 | 不可 | 自社実測のみ |
面接通過率 | 不可 | 自社実測のみ |
内定承諾率 | 不可 | 自社実測のみ |
選考段階の通過率のほうは、公的統計に載っていない指標です。流通している目安の数値は、特定の会社の実績値や通説として書かれたものが多く、調査名と母数までは示されません。自社の実測に置き換えるまでの仮置きとして扱います。
段階別の通過率をどう定義し、どこに基準を置くかを扱ったのが採用の歩留まりです。承諾率のように分母の取り方で値が大きく変わる指標は、承諾率とはで定義から確認できます。
求人の充足率も、同じ統計から計算できる
同じ統計から、常用就職件数を常用求人数で割ると求人1件あたりの充足率が出ます。情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発)は令和5年度の4.7%から令和6年度は3.1%へ下がりました。営業の職業も同じ3.1%です。
出所:厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」をもとにOffers推計。
ただしこの分母も重複計上を含みます。1件の求人が預けられた事業者数が増えただけでも比率は下がるので、低下の理由を求人側の埋まりにくさだけに帰す読み方はできません。
保有求人数そのものをKPIに置くと、この曖昧さをそのまま自社の指標に持ち込むことになります。求人開拓の指標としては、保有求人数ではなく有効求人率のほうが適切です。
KPIが動かないときに見る3つの箇所
KPIを置いたのに数字が変わらないときは、指標そのものより運用側に原因があることが多くあります。見る箇所は3つです。
分母が人によって違っていないか
推薦数を「企業に送った候補者の延べ数」で数える人と、「候補者の実数」で数える人が混在すると、決定率が比較できません。定義を1行で書き、どのシステムのどの項目から取るかまで固定します。
分母がそろっていない状態で低い数字が出ても、改善したのか定義が違うのかを切り分けられません。まず定義をそろえてから、3か月分を取り直します。
更新の間隔が行動の周期より長くないか
月次でしか更新しないKPIは、月末に未達が判明します。判明した時点では打つ手が残っていません。
週次で更新すると、残り3週間で手を打てます。工程の滞留時間のように日々動く指標は、日次で見る対象です。
未達の原因を個人の頑張りに寄せていないか
KPIの目的は、どの工程が詰まっているかを特定することです。未達の会話が「もっと送ろう」で終わるなら、指標が工程に紐づいていません。
面談設定率が落ちているなら対象の選び方かスカウト文面、推薦可能率が落ちているなら求人要件の確定精度というように、指標と打ち手を1対1で対応させます。対応表がないKPIは、数字を見ても次の行動が変わりません。
人材紹介のKPIを設計するときの要点
人材紹介のKPI設計は、売上を決定数と決定単価に割り、決定単価を自社の実績から確定させるところから始めます。公表されている常用就職1件あたり約103万円は、自社の単価が業界のどのあたりにあるかを確かめるための外枠です。
掲載した8職種の求職申込からの決定率は令和6年度で3.6〜6.4%、いずれも前年度から下がっています。求職申込と求人が4割増える一方で、決定の伸びは5.3%にとどまりました。この4割は重複計上を含む延べ件数なので実需が4割増えたとは読めませんが、扱った件数に対して決まった件数の比率が落ちたことは変わりません。
選考段階の通過率は公的統計に無いので、自社の実測に置き換えるまでは仮置きとして扱います。数字が動きはじめるのは、指標と打ち手を1対1で対応させ、週次で更新する運用に載せたところからです。
人材紹介の仕組みそのものを企業側の視点から確かめたい場合は人材紹介とはを、工程ごとの詰まりを洗い出して処理能力側から手を入れる進め方はOffers AXをご覧ください。