人材紹介の事例を検索すると、紹介会社や、紹介会社の管理を代行するサービス会社が自社の実績として載せた成功例が多く並びます。利用企業の担当者の声を載せたものもありますが、どの事例を載せるかを選んだのは紹介会社・サービス会社の側です。
厚生労働省が2025年3月にまとめた中途採用の事例集は、紹介会社ではない立場から事業会社の採用の進め方を記録しています。人材紹介に触れた企業の記述を拾うと、どの職種に紹介会社を使い、何を伝え、面接で何を確かめ直したかがそれぞれ違っていました。以下では、その違いを採用の充足と入社後の定着とあわせて整理しました。
人材紹介の活用事例11社と入社3年後の定着率
厚生労働省「人材の確保・定着に成功した企業の取組事例集~採用活動のコツ~」(令和7年3月)は中途採用の好事例14社を載せており、そのうち11社が採用活動の欄で人材紹介会社の利用に触れています。入社3年後時点の定着率は、11社のうち10社が載せています。その値は4割程度から96〜97%まで開いていました。事例集の定着率は各社の中途採用者全体の値で、人材紹介経由で入社した人に絞った値ではありません。
事例集は各社の取組を並べた記録で、定着率の差がどこから来るかまでは分析していません。定着率が4割程度の冨田病院も、面接前の院内見学でミスマッチを防いでいると書かれており、そのうえで看護師・介護福祉士は入れ替わりが激しいという職種の事情を挙げています。各社が成功のポイントとして挙げているのは、求人票や職場見学、面接で何をどこまで伝えたかが中心です。
企業(業種・所在地) | 人材紹介の使い方 | 採用の充足 | 入社3年後の定着率 |
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Q.ENEST(キューエネス)でんき株式会社(電気・ガス・熱供給・水道業・東京都) | 採用実績は人材紹介が多い。リファラル採用とダイレクトリクルーティングも進める | 一部のポジションを除き充足 | 9割弱 |
医療法人木南舎 冨田病院(医療、福祉・愛知県) | ハローワークが主だが、応募数・採用数が多いのは人材紹介 | 欠員補充は充足 | 4割程度 |
A社(製造業・和歌山県) | 管理職は人材紹介。一般職はハローワークの個別説明会と地元の企業説明会 | 管理職は目標数を採用、一般職は年間数名が不足 | 約70% |
B社(製造業・埼玉県) | 費用はかかるが、求職者との調整を担ってくれる点を評価して活用 | 採用計画の要員を充足 | 85%程度 |
株式会社ちよだ鮨(卸売業、小売業・東京都) | 特定の人材紹介会社だけを利用 | 必要な人数はすべて採用 | 8割以上 |
医療法人江頭会さくら病院(医療、福祉・福岡県) | 看護師は人材紹介がほとんど。事務系・介護系はハローワークが多い | 記載なし | 病院部門87%・介護部門66%(令和5年度の定着率) |
名阪食品株式会社(宿泊業,飲食サービス業・大阪府) | エリアマネージャーと管理職は人材紹介、栄養士職は求人メディア | ほぼ充足 | エリアマネージャーで9割程度 |
今治造船株式会社(製造業・愛媛県) | 採用時は人材紹介を使う場合がほとんど | 欠員補充は達成 | 9割以上 |
日本新薬株式会社(製造業・京都府) | 人材紹介が中心で、得意領域に応じて事業者を使い分け | 募集ポジションはいずれも充足 | 96〜97% |
株式会社レオパレス21(不動産業、物品賃貸業・東京都) | 人材紹介を利用し、専門職はダイレクトリクルーティング | 中途採用は経営計画上の目標以上 | 94% |
三井化学株式会社(製造業・東京都) | 採用数の7割ほどが人材紹介、リファラル採用が15〜20% | 採用目標の90%程度 | 約80% |
出所:厚生労働省「人材の確保・定着に成功した企業の取組事例集~採用活動のコツ~」(2025年3月)をもとに編集部作成。
同じ事例集のコラムによると、厚生労働省の委託事業で行った企業アンケートでは、管理職の採用で最も多く使われるルートが人材紹介会社・転職エージェントなど(60.9%)でした。現業職ではハローワークが最も多く(73.9%)、企業は採用する人材のタイプで経路を使い分けています。
人材紹介の使い方は3つの型に分かれる
事例集の11社を、人材紹介が主な経路だと書かれているか、人材紹介を使う職種を決めているかで振り分けると、採用の中心に置く型(5社)、管理職や看護師など特定の職種に絞る型(3社)、人材紹介を主な経路とは書いていない型(3社)に分かれます。型の分け方は事例集の記述をもとにした編集部の分類で、事例集自体はこの区分を使っていません。ほかの経路も並行して使う会社は、事例集が人材紹介を主な経路として書いているかどうかで振り分けました。
採用の中心に置く型
今治造船株式会社は「採用時は、人材紹介会社を使う場合がほとんど」と書かれています。三井化学株式会社は採用数の7割ほどが人材紹介で、日本新薬株式会社も人材紹介による採用が中心です。株式会社ちよだ鮨は特定の紹介会社だけを使い、Q.ENEST(キューエネス)でんき株式会社も採用実績は人材紹介が多いと答えています。
このうち日本新薬は、得意領域に応じて紹介会社を使い分けていました。一方のちよだ鮨は、紹介会社を絞り込んで自社への理解を深めてもらう方を選んでいます。同じ「中心に置く型」でも、紹介会社の数の持ち方は逆でした。
中心に置く型でも、人材紹介だけで採用しているとは限りません。三井化学は人材紹介に次いでリファラル採用が15〜20%を占め、Q.ENESTでんきもリファラル採用とダイレクトリクルーティングの活用を進めています。
職種を絞る型
A社は管理職、名阪食品株式会社はエリアマネージャーと管理職、医療法人江頭会さくら病院は看護師と、人材紹介を使う職種を決めています。それ以外の職種は、ハローワークや地元の企業説明会、求人メディアで募集していました。
さくら病院は、一定の能力・経験を持つ求職者をあらかじめ選別してもらえることを、看護師に人材紹介を使う理由に挙げています。事務系や介護系の職種では、応募者を早く紹介してもらえるハローワークを使っていました。
人材紹介を主な経路とは書いていない型
事例集で主な経路が人材紹介以外だと書かれているか、どれが主かの記載がない3社がこの型です。医療法人木南舎 冨田病院はハローワークを主に使っていますが、応募数と採用数が結果として多いのは人材紹介会社でした。結果の数では人材紹介が上回っていても、事例集が主な経路として書いているのはハローワークです。株式会社レオパレス21は人材紹介を使いながら、専門職の採用にはダイレクトリクルーティングを使っています。B社は人材紹介会社を活用していると書かれていますが、ほかの経路や採用に占める割合の記載はありません。
人材紹介を使う理由を書いた3社が挙げた認知・調整・選別
事例集の11社のうち、人材紹介を使う理由を書いているのはQ.ENESTでんき株式会社・B社・医療法人江頭会さくら病院の3社で、挙げた理由は求職者に知られていない会社を紹介会社が勧めてくれること、求職者との調整の手間を担ってくれること、経験のある人を選んで紹介してくれることでした。株式会社ちよだ鮨が書いているのは、人材紹介を使う理由ではなく特定の紹介会社に絞る理由で、キャリアアドバイザーに研修と店舗の業務を見てもらって理解を深めてもらったうえで、自社に合う人を紹介してもらうためとしています。残る7社(A社・冨田病院・名阪食品・今治造船・日本新薬・レオパレス21・三井化学)には、人材紹介を使う理由の記載がありません。11社のうち人材紹介の費用に触れているのはB社だけで、同社は費用がかかる点を承知のうえで使っていました。
Q.ENESTでんき株式会社が利点に挙げたのは、求職者の間で自社の認知度が必ずしも高くないなかで、「知らない企業だろうけど、こういういいところがある」と紹介会社が求職者に勧めてくれる点でした。B社は「費用がかかるが、求職者との調整など手のかかる部分を担ってくれる利点が大きい」と答えています。
人材紹介の仕組みや手数料の決まり方そのものは、人材紹介とは?企業側の手数料・契約と会社の選び方で扱っています。
採用が充足した企業が求人票と紹介会社に伝えた情報
事例集で採用が充足したと書かれた企業のうち、Q.ENESTでんき株式会社・B社・株式会社ちよだ鮨の3社は、求職者が応募を判断するための情報を求人票や紹介会社への説明に書き込んでいました。ちよだ鮨は、紹介会社の担当者に研修と店舗の業務まで見てもらっています。
ちよだ鮨は、キャリアアドバイザーに入社後の研修内容と店舗の業務内容を見てもらい、店長に求められる役割とあわせて理解してもらったうえで紹介を受けています。分単位の労働時間管理など、同業出身者の不安に応える制度は紹介会社経由か面接で伝え、評価制度は面談で説明していました。
Q.ENESTでんき株式会社は、求職者が知りたいであろう業務内容・賃金・福利厚生をすべて求人票に入れ、入社後に求めるスキルや将来の期待まで手厚く書いています。B社も応募の判断に要る情報をなるべく求人票に記載し、求める人物像やポジション、期待する役割を書いていました。
紹介会社に渡す求人票の項目と書き方は、人材紹介の求人票|紹介会社に渡す項目と書き方にまとめています。
紹介された候補者との面接で確かめ直したことと伝えたこと
日本新薬株式会社は紹介会社から聞いた内容を面談で本人に確かめ直し、株式会社レオパレス21・名阪食品株式会社・今治造船株式会社は求職者に不利な情報も面接で伝えていました。4社とも、入社後のミスマッチを減らすための工程として事例集に記録されています。
日本新薬株式会社は、書類選考と1次面接の間にカジュアル面談を置いています。採用担当者と配属予定先の部課長が出て、事前に転職エージェントから聞いている内容を求職者に改めて確認していました。事例集は、こうしたプロセスの丁寧さが人材の確保と定着率につながっていると記しています。
レオパレス21は、1次面接の後半を過去の出来事(事例集の表現では「過去事象」)を含めた会社の状況の説明にあてていました。会社への理解を深めてもらい、短期離職を防ぐためです。名阪食品は、休日の電話対応や早朝の出勤といった本人に不利になる点を面接で説明しており、エリアマネージャーの定着につながっていると考えています。今治造船も、業務内容や残業時間、休日数などの労働環境と業務の大変さを面接で説明していました。
紹介会社に任せる仕事と人事が自分で持つ仕事の分け方は、人事が人材紹介で担う仕事|期待と不満から逆算で詳しく扱っています。
エンジニア採用で人材紹介とは別にスカウトの経路を持った事例
エンジニアの採用では、求人媒体や紹介会社の推薦を待つだけでなく、企業の側から候補者に声をかけるスカウトの経路を持つ会社もあります。株式会社overflowが運営するOffersの導入事例では、求人媒体やエージェントでは採用に至らなかった会社と、もともとスカウト採用に力を入れていた会社の2社が、この経路を持った例です。
ナイル株式会社は、自動車産業DX事業部でハイクラスなエンジニアの採用を強化するなかで、主要な求人媒体やエージェントも使っていましたが、採用には至っていませんでした。初期は運用をRPO(採用代行)として委託し、現在はスカウト運用を内製化しています。正社員1名の採用を実現したと事例ページに書かれています。
株式会社クリアは、即戦力エンジニアの正社員採用を強化するなかで、応募数をどれだけ増やせるかを最大の課題に挙げていた会社です。待ちの採用ではなくスカウト採用に力を入れており、導入から1年弱で正社員採用につながりました。同社は今後も複数の採用チャネルで応募数を増やす方針で、「人材紹介は採用単価が高くなりやすい」と述べています。
エンジニアの採用で、紹介会社の推薦と並行して候補者に接触する経路を持ちたい場合は、OffersのAI RPOという選択肢があります。スカウトの設計・送信・追跡・候補者フォローはOffers側が代行し、企業側の対応はディープインタビューへの回答、候補者リストの確認、候補者との面談・選考です。サービスページでは、既存のエージェントとの併用もできると案内しています。AI RPOのサービス内容を見る
公的統計で見る人材紹介の件数と1件あたりの手数料
厚生労働省の令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)(2026年3月31日公表)によると、有料職業紹介事業による常用就職件数は888,993件で、前年度より5.3%増えました。常用就職1件あたりの手数料は約103万円で、同10.9%増です。
同じ報告書の職業別の集計では、有料職業紹介による情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発)の常用就職件数が39,780件で、前年度から11.4%増えています。
報告書の注記によれば、事業報告を提出した有料職業紹介事業所30,561のうち、就職実績のあった事業所は13,946でした。割合にすると45.6%(編集部算出)で、報告を出した事業所の半数以上は、その年度の就職実績がありませんでした。
手数料率の水準は、厚生労働省の資料「職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について」(2025年12月25日公表)が示しています。人材サービス総合サイトの掲載分(令和6年度実績・令和7年10月末時点)で、平均手数料率実績は全職種で24.0%、情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発)で31.2%でした。この平均は事業所ごとの手数料率実績を平均したもので、各事業所の就職件数による重みづけはしていないと資料に断り書きがあります。成約1件あたりの業界平均とは別物です。職種別の1件あたりの金額は、人材紹介の費用、職種別の1件あたり実額と課金モデルで扱っています。
事例を自社に当てはめる前に紹介会社の実績を確かめる
紹介会社が自社サイトに載せる事例は、その会社が選んで掲載した成功例です。自社の採用に当てはめる前に、厚生労働省の人材サービス総合サイトで、その紹介会社の就職者数や6か月以内の離職者数、手数料を確かめておくと、事例ページの外側にある実績を紹介会社どうしで同じ項目で比べられます。
厚生労働省・都道府県労働局のパンフレット「職業紹介事業者を利用する際の主なポイント」は、人材サービス総合サイトで次の事項を確認できると案内しています。
- 紹介により就職した者の数
- そのうち6か月以内に離職した者の数
- 手数料に関する事項
- 返戻金制度(短期間で離職した場合に手数料を返金する制度)の有無や内容
- 得意とする分野など(紹介会社が任意で掲載)
同じパンフレットの注記によれば、早期離職者の数は職種や業界で事情が異なるため、参考情報の一つとして確認するものです。前出の厚生労働省資料(2025年12月25日公表)では、令和5年度事業報告に基づく平均離職率が全職種で7.9%、情報処理・通信技術者で2.9%でした。この離職率は、令和4年度に無期雇用で常用就職した人のうち就職後6か月以内に離職した人の割合を事業所ごとに出し、就職件数による重みづけをせずに平均した値です。離職者数の読み方は、人材紹介の離職率|6か月以内の公開データの読み方で詳しく扱っています。
人材紹介の事例を読むときの確認表
人材紹介の事例を読むときに確かめるのは、誰が載せた事例か、どの職種に使ったか、求人票と紹介会社を通じて何を伝えたか、面接で何を確かめ直したか、入社後に定着したか、紹介会社の実績の6点です。公的な事例集も採用に成功した企業を選んで載せた好事例集ですが、紹介会社の事例ページでは見えにくい、企業の側が求人票や面接で何を準備したかを確かめられます。
確かめること | 見る場所 | 事例集の11社で読み取れたこと |
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誰が載せた事例か | 掲載元(紹介会社・サービス会社・公的機関) | 厚生労働省の発行で、紹介会社の側の記録ではない |
人材紹介をどの職種に使ったか | 採用活動の記述 | 管理職・看護師に絞った会社と、採用の大半を任せた会社がある |
求人票と紹介会社を通じて何を伝えたか | 求人票・紹介会社への説明の記述 | 求人票に業務内容・賃金・福利厚生まで書いた会社と、紹介会社の担当者に研修と店舗の業務を見てもらった会社がある |
面接で何を確かめ直したか | 選考工程の記述 | 紹介会社から聞いた内容を、面談で本人に確かめ直した会社がある |
入社後に定着したか | 定着率・採用後の取組の記述 | 入社3年後の定着率(中途採用者全体の値で、人材紹介経由に限らない)は4割程度から96〜97%まで開く |
紹介会社の実績 | 人材サービス総合サイト | 就職者数・6か月以内の離職者数・手数料・返戻金制度を確認できる |
表の右列は、紹介会社を使うかどうかの判断より前に、自社で準備できることの一覧として使えます。求人票と面接の中身は、どの紹介会社と組んでも企業の側が持つ部分です。