人材紹介で採用した人が、半年もたたずに辞めてしまう。高い手数料を払った直後だけに、社内で「紹介経由は定着しない」という声が出やすい場面です。
ただ、この問いは印象で語る必要がありません。有料職業紹介の会社は、自社の紹介で入社した人のうち6か月以内に辞めた人数を、国の定めに沿って毎年公開しています。
厚生労働省の全国の集計では、紹介会社の事業所の7割で早期離職がゼロでした。ところが、ソフトウェア開発を扱う東京の紹介会社に絞って公開データを集め直すと、ゼロは4社に1社ほどにとどまり、辞めたかどうか分からない人が離職者と同じくらいの規模で残っていました。全国の集計は事業所ごと・職種ごと、東京の集計は事業主ごとの全職種の合算で、単位が違うため傾向の違いとして読んでください。
平均値には読み方の癖があります。紹介会社を選ぶときは、各社の実数と母数、そして「辞めたか分からない人」の数まで見るのが近道です。
人材紹介経由の離職率は「6か月以内・無期雇用」で測る
紹介経由の離職率は、紹介会社が職業安定法施行規則にもとづいて公開する数字で測れます。分母は紹介で無期雇用として入社した人数、分子はそのうち入社から6か月以内に辞めた人数です。
一般的な離職率と違い、期間は入社後の6か月に限られます。解雇による離職は分子に含めません。
紹介会社が公開する5つの項目
有料職業紹介の会社は、職業安定法施行規則第24条の8第3項により、インターネットで次の情報を提供する義務を負います。就職者と離職者の数は、前年度を含む5年度分です。
公開する項目 | 中身 |
|---|
就職者の数 | 紹介で就職した人数と、そのうち期間の定めのない雇用(無期雇用)で就職した人数 |
6か月以内の離職者の数 | 無期雇用の就職者のうち、就職から6か月以内に辞めた人数(解雇を除く) |
離職したか分からない人の数 | 無期雇用の就職者のうち、6か月以内に辞めたかどうか確認できなかった人数 |
手数料 | 取扱職種ごとの常用就職1件あたりの平均手数料率の実績 |
返戻金制度 | 早期に辞めた場合に手数料を返す制度の有無と内容 |
出所:e-Gov 法令検索「職業安定法施行規則」第24条の8(2026年9月26日確認)。
無期雇用の就職者数と離職者数の公開は、職業安定法施行規則の附則により平成30年度の実績から始まりました。紹介会社は、6か月以内に辞めたかを確かめるために、入社先の企業へ調査をかけることになっています。
企業側にも調査への協力が求められる
紹介会社から「入社した方は在籍していますか」と問い合わせが来ることがあります。制度にもとづく確認なので、企業側にも協力が求められるものです。
厚生労働省のパンフレット「職業紹介事業者を利用する際の主なポイント(求人者の皆さまへ)」は、6か月以内に離職したかの調査依頼があれば求人者も協力する必要があると明記しています。回答が返らなければ、その人は「分からない」側に数えられ、紹介会社の数字の精度が落ちることになります。企業の回答も数字の一部です。
厚労省の集計では全職種の平均が7.9%、7割がゼロ
紹介会社が報告した6か月以内の離職率は、全職種の平均で7.9%でした。集計対象は全職種で9,730件あり、そのうち72.1%は離職率が0.0%です。
この数字は、厚生労働省「職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について」が令和5年度の事業報告(令和4年度に無期雇用で就職した人の実績)をもとに算出したものです。
職種ごとの6か月以内の離職率
職種による差ははっきりしています。医療・介護・保育の3職種は平均が10%を超え、事務職やIT職は2〜5%台にとどまりました。
主な取扱職種 | 平均離職率 | 離職率0.0%の割合 | 離職率40.1%以上の割合 |
|---|
全職種 | 7.9% | 72.1% | 3.5% |
介護 | 15.3% | 69.1% | 5.4% |
保育 | 12.2% | 58.0% | 4.3% |
看護 | 10.5% | 64.1% | 5.3% |
営業の職業 | 5.4% | 78.8% | 4.0% |
法人・団体管理職員 | 4.9% | 83.2% | 2.6% |
一般事務・秘書・受付の職業 | 4.4% | 83.5% | 4.2% |
医師 | 3.0% | 74.7% | 2.4% |
情報処理・通信技術者 | 2.9% | 85.2% | 1.5% |
経営・金融・保険の専門的職業 | 2.0% | 87.7% | 0.8% |
出所:厚生労働省「職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について」(令和5年度事業報告にもとづく算出・全職種で9,730件)。
エンジニア採用で使う区分は「情報処理・通信技術者」です。平均は2.9%で、85.2%が離職ゼロでした。IT職の紹介で6か月以内の離職が1割を超える紹介会社は、この分布の中では少数側です。
同資料は、紹介経由以外の経路で入社した人との比較をしていません。医療・介護・保育が高く出ていても、それが紹介という経路によるものかどうかは、この数字だけでは判断できません。職種をそろえずに紹介会社どうしを並べると、得意分野の違いがそのまま離職率の差に見えてしまう点にも注意が要ります。
平均7.9%は紹介で入った人の離職割合ではない
7.9%は、紹介で入社した人全体のうち辞めた人の割合ではありません。厚生労働省の資料が注記しているとおり、事業所ごとの離職率を単純に平均した値で、就職件数による重みづけをしていません。
母数の小さい紹介会社が平均を動かす
年に数人しか紹介しない事業所では、1人が辞めるだけで離職率が20%や50%に跳ね上がります。逆に、数人全員が残れば0.0%です。
0.0%が7割を超え、40.1%以上も全職種で3.5%あるのは、こうした小さな母数の事業所が両端に散らばっているためと読めます。平均値だけを見て「紹介会社の平均より良いか悪いか」を判断すると、母数の違いを見落とします。
分子に入らない離職がある
公開される離職者数には、次の3つの離職が含まれません。
- 解雇による離職
- 入社から6か月を過ぎてからの離職
- 辞めたかどうかを確認できなかった人(別の欄に数える)
さらに施行規則は、入社先への調査の代わりに、返戻金の対象になった件数で離職者を数える方法も認めています。どの方法で数えたかは紹介会社によって違いうるため、離職者数は返戻金の条件とあわせて見るのが安全です。
雇用動向調査の離職率とは並べられない
世間で語られる離職率は、1年間に辞めた人の割合です。厚生労働省の「令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況」(令和8年8月31日公表)では、一般労働者の離職率は11.4%でした。
こちらは入社経路を問わず、在籍期間も区切らない数字です。6か月以内に限った紹介経由の離職率とは定義が違うので、数字の大小を直接比べて「紹介経由のほうが定着する」とは言えません。離職率そのものの計算式と比べ方は、離職率とは?令和7年は13.7%、3指標で読む方法で整理しています。
手数料率が高い紹介会社ほど定着するわけではない
手数料率が高いほど良い人を紹介してくれて定着もする、とは言えません。同資料は医師・看護・保育・介護の4職種について、事業所ごとの手数料率と離職率を分布図に描き、手数料率の高低で離職率に大きな差は見られなかったとしています。分布図の対象は看護で319事業所、介護で453事業所などです。
職種を横に並べると、見え方は逆になります。手数料率の高い職種ほど、平均離職率は低めです。
主な取扱職種 | 平均手数料率実績(令和6年度) | 平均離職率(令和4年度就職) |
|---|
全職種 | 24.0% | 7.9% |
経営・金融・保険の専門的職業 | 34.6% | 2.0% |
法人・団体管理職員 | 33.9% | 4.9% |
営業の職業 | 31.2% | 5.4% |
情報処理・通信技術者 | 31.2%(ソフトウェア開発)/30.0%(それ以外) | 2.9% |
医師 | 22.0% | 3.0% |
看護 | 21.6% | 10.5% |
介護 | 20.2% | 15.3% |
出所:厚生労働省「職業紹介事業における職種別手数料、離職状況について」(令和7年10月末時点の掲載分・令和5年度事業報告)。
手数料率は情報処理・通信技術者を「ソフトウェア開発」とそれ以外に分けて集計していますが、離職率は両者を合わせた1区分です。年度も手数料率が令和6年度、離職率が令和4年度の就職と異なります。
職種の間で逆向きに見えるのは、職種ごとの性質の違いを映したもので、料率を上げれば定着するという因果は読み取れません。医師・看護・保育・介護の4職種では同じ職種の中で料率と離職率に大きな差が見られなかった以上、料率の交渉と定着の見極めは別々に進めるのが現実的です。職種ごとの費用の実額は人材紹介の費用、職種別の1件あたり実額と課金モデルにまとめています。
ソフトウェア開発を扱う東京の紹介会社114事業主の実績
全国の平均ではなく、エンジニア採用で実際に候補になる紹介会社の数字はどう並ぶのか。Offersでは人材サービス総合サイトで、東京都の有料職業紹介のうち「情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発)」の手数料実績を載せる事業所を検索し、詳細情報を集計しました。
検索で出たのは152事業所で、同じ会社の支店・拠点をまとめると114事業主です。就職者と離職者の数は、サイトの表示どおり事業主ごとの全職種の合計になります。つまり以下は「ソフトウェア開発を扱う紹介会社」の実績で、ソフトウェア開発の職種だけの離職率ではありません。
指標(令和6年度) | 値 |
|---|
無期雇用の就職者数と離職者数がそろう事業主 | 92事業主 |
6か月以内離職率の単純平均 | 4.2% |
就職者数で重みづけした離職率 | 4.8% |
離職率の中央値 | 2.6% |
離職ゼロの事業主 | 22事業主 |
離職率20%以上の事業主 | 4事業主 |
「離職が判明せず」がある事業主 | 16事業主(計4,734人) |
出所:厚生労働省「人材サービス総合サイト」の公開データ(2026年9月26日取得・東京都・114事業主)をもとにOffersが集計。
残る22事業主は、無期雇用の就職者が0人か未記入、または離職者数が未記入だったため、率を計算できませんでした。
母数が大きい会社ほど離職ゼロは出にくい
全国の集計では7割がゼロでしたが、この92事業主で離職ゼロは22でした。無期雇用の就職者が100人以上の59事業主ではゼロは4つだけで、100人未満の33事業主では18がゼロです。
全国の「7割がゼロ」は、母数の小さい事業所が多いことの表れと読めます。ゼロという数字は、紹介の質よりも紹介した人数の少なさを映していることがあります。
平均と中央値で1.6ポイント開く
中央値は2.6%で、単純平均の4.2%より低く出ました。92事業主のうち85事業主は10%以下に収まり、一部の高い会社が平均を押し上げている形です。重みづけした4.8%は、紹介で入った人全体のうち辞めた人の割合に近い数字にあたります。
20%以上の4事業主を見ると、1つは無期雇用の就職者が4人で、1人辞めただけで25%になっていました。残る3つは30人、113人、2,467人と母数があり、偶然では説明しにくい水準です。とくに2,467人の事業主は離職率26.1%で、しかも「判明せず」が1,142人あり、母数の小ささでは説明できません。母数が数十人を超えて10%を上回る会社は、面談で理由を聞く価値があります。
「判明せず」が離職者数に迫る
目を引くのは「離職が判明せず」の多さです。16事業主で合計4,734人あり、92事業主の離職者数の合計5,934人に迫る規模でした。無期雇用の就職者全員が「判明せず」になっている事業主も1つありました(154人)。
ただし偏りは大きく、上位3事業主(1,377人・1,184人・1,142人)で計3,703人と、全体の8割近くを占めます。この3事業主を除くと、残る13事業主の「判明せず」は計1,031人でした。
「判明せず」が多い会社では、公開された離職率が実態より低く見えている可能性があります。離職率の低さだけで選ぶ前に、この欄を必ず確かめてください。
早期離職のリスクは採用枠・契約・受け入れで下げる
紹介会社をどれだけ厳選しても、早期離職をゼロにはできません。備えは紹介会社の選び方だけで完結せず、紹介に頼る割合を見直し、契約で損失を小さくし、受け入れの側で辞める理由を減らす、の3本立てになります。
紹介に頼る採用枠を減らす
紹介に頼る割合が高いほど、早期離職のたびに手数料と採用のやり直しが重なるのが実情です。紹介に頼る採用枠そのものを減らしたい職種は、候補者の発見から継続的なアプローチまでを外に任せるAI RPOのような形も検討材料になります。
返戻金は損失を小さくする仕組み
返戻金制度は、紹介で入社した人が早期に辞めたとき、手数料の一部を企業へ返す仕組みです。今回集計した114事業主のうち106事業主が、詳細情報で返戻金制度を「有」としていました。返す割合や対象期間は各社の契約で決まります。
返戻金は費用の一部を取り戻すもので、辞めること自体は防げません。契約書で見るべき点は人材紹介とは?企業側の手数料・契約と会社の選び方で整理しています。
受け入れ側で辞める理由を減らす
6か月以内の離職は、入社前の説明と入社後の実態のずれから起きやすいものです。中途入社者が前職を辞めた理由の実数は中途採用の離職率|辞めた理由を実数で読む、入社後の受け入れの組み方はオンボーディング設計の5段階と定着・育成の組み方にまとめています。
紹介会社には、辞めた人の理由を共有してもらうよう契約時に頼んでおくと、次の紹介の精度を上げる材料になるはずです。
紹介会社ごとの数字は人材サービス総合サイトで確かめる
個別の紹介会社の数字は、厚生労働省が運営する人材サービス総合サイトで誰でも見られます。今回の集計で使った手順は次のとおりです。
- トップページの「検索を行う場合」から「職業紹介事業」を選ぶ
- 都道府県と「有料職業紹介事業」にチェックを入れ、「詳細な検索条件」で取扱業務の職種(例:009 情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発))を指定する
- 一覧で就職者数・離職者数・手数料実績率を確かめ、許可番号のリンクから詳細情報を開く
詳細情報には、年度ごとの就職者数と6か月以内の離職者数、「離職が判明せず」の人数、職種別の手数料実績、返戻金制度の有無が並びます。一覧の数字は最新年度のもので、今回は令和7年度の離職者数が「-」(未記入)の事業主が31ありました。離職を見るときは1つ前の年度を使うと、空欄に惑わされません。
見比べるときに見る5つの欄
契約を検討している紹介会社があれば、商談の前に次の欄を確かめておくと、面談で聞くべきことが絞れます。
見る欄 | 見方 |
|---|
無期雇用の就職者数 | 分母です。数人しかいなければ、離職率の高低はほとんど意味を持ちません |
6か月以内の離職者数 | 率ではなく人数で見ます。分母と並べて自分で割ると、母数の感覚がつかめます |
離職が判明せず | 多い会社は、公開された離職率が実態より低く見えている可能性があります |
年度ごとの推移 | 1年だけ高い・低いより、毎年の傾向を見ます |
取扱職種と手数料実績 | 自社が採用したい職種を扱っているか、その職種の料率はいくらかを確かめます |
同じ職種を扱う会社の中で、その会社がどこにいるかを意識すると、読み誤りは減るはずです。ソフトウェア開発を扱う東京の紹介会社なら、上の集計(全職種合計)の中央値2.6%が並べるときの物差しになります。
面談では数字の背景を聞く
公開情報で気になった点は、紹介会社との面談で確かめます。聞いておきたいのは次の3点です。
- 離職した人は、どの段階でのミスマッチだったと見ているか
- 「離職が判明せず」の人について、入社先へどう確認しているか
- 返戻金の対象期間と返金割合、離職者の数え方との関係
数字が良い会社でも、自社の職種や規模で同じ結果が出るとは限りません。逆に数字が悪くても、理由を具体的に説明できる会社は、ミスマッチの原因を把握していると判断できます。
紹介経由の離職は平均ではなく実数で見る
人材紹介経由の離職は、紹介会社ごとに公開されている「無期雇用で入社した人の数」と「そのうち6か月以内に離職した人の数」の実数で見比べるのが確実です。厚生労働省の職種別集計(令和5年度事業報告・全職種9,730件)では平均離職率が7.9%でも、離職率0%の事業所が72.1%を占めており、平均値だけでは紹介会社ごとの差が見えません。
- 紹介経由の離職率は、無期雇用で入社した人のうち6か月以内に辞めた人の割合で、紹介会社が毎年公開しています
- 全国の集計では平均7.9%、7割がゼロでした。ソフトウェア開発を扱う東京の紹介会社92事業主(全職種合計)では中央値2.6%、ゼロは22にとどまり、「離職が判明せず」が離職者数に迫る規模で残っていました
- 医師・看護・保育・介護の4職種では、手数料率の高低で離職率に大きな差は見られませんでした。紹介会社は人材サービス総合サイトで職種をそろえて見比べ、面談で数字の背景を確かめるのが確実です