アルムナイ制度とアルムナイ採用の意味と範囲
アルムナイ制度は、退職者と会社の関係を退職後も保ち、希望する人が再入社できる窓口を用意する仕組みです。アルムナイ(alumni)は「卒業生」を意味する言葉で、採用では自社を離れた元社員を指します。元社員を再び社員として迎える採用が、アルムナイ採用です。
カムバック採用・出戻り採用は、同じ「一度離れた人が戻る」採用の別の呼び名です。制度は、次の2つの部品でできています。
- 関係を保つ部品:退職者に近況や求人を届ける連絡手段と、交流の場(アルムナイネットワーク)
- 再入社の窓口:応募の受け口、選考の進め方、再入社後の処遇を決めた基準
どちらから整えるかは組織によって分かれます。富士フイルム和光純薬は2026年7月10日、退職者向けのアルムナイサイトを開設し、自社ニュースや求人情報を定期的に案内する制度を始めたと公表しました。東京都は、退職した職員を対象にした再採用の選考を、随時募集で行っています。前者は退職者への連絡手段の整備、後者は選考の窓口の整備が中心の例です。
リファラル採用は在籍中の社員が知人を紹介する採用で、アルムナイ採用は対象が自社で働いた経験のある人です。互いの仕事ぶりをすでに知っている点が違います。紹介の仕組みを整える方法は、リファラル採用とは?仕組み・制度設計と社員紹介を回すコツにまとめています。
制度のある企業は8.6%、再入社の75.7%は非公式ルート
パーソル総合研究所の調査では、離職後に再入社できる公式な制度を設けている企業は8.6%で、従業員5,000人以上の企業でも20.2%でした。再入社した人の75.7%は、制度ではなく人づて・縁故などの非公式なルートで戻っています。
調査の対象は、全国の正社員で5年以内に離職した2,000人と、5年以内に再入社した300人です。主な割合は次の表のとおりです。
指標 | 割合 |
|---|
再入社制度を設けている企業(全体) | 8.6% |
再入社制度を設けている企業(従業員5,000人以上) | 20.2% |
離職した企業にもう一度入社したい人(「そう思う」の計) | 8.3% |
実際の出戻り入社率(過去5年以内の経験率) | 2.1% |
再入社者のうち、公式な再入社制度を利用した人 | 4.0% |
再入社者のうち、人づて・縁故などの非公式なルートで戻った人 | 75.7% |
(パーソル総合研究所「コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査」・2019年12月調査)
離職した企業にもう一度入社したいかを尋ねた設問では、「そう思う」の計が8.3%でした。実際の出戻り入社率は2.1%で、過去5年以内の経験率を、正社員労働人口の性年代別比率にウェイトバックした数値です。
制度化の価値は、すでに人づてで起きている再入社を、窓口と基準のある採用に変えることにあります。元上司や元同僚を頼った出戻りは制度が無くても起きているので、最初の仕事は新しい出戻りを生み出すことより、起きている出戻りを採用として把握できる状態にすることです。
従業員300人の企業が5年間で再入社したい人は13人前後
従業員300人の企業では、個人的理由で退職する人が5年間で約150人、そのうち再入社したい人が約13人と試算できます。従業員100人の企業なら5年間で約4人、1,000人の企業なら約40人です。
従業員数 | 個人的理由の退職者(年間) | 5年間の累計 | 再入社したい人(8.3%) |
|---|
100人 | 約10人 | 約50人 | 約4人 |
300人 | 約30人 | 約150人 | 約13人 |
1,000人 | 約100人 | 約500人 | 約40人 |
(厚生労働省「令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況」とパーソル総合研究所の調査(2019年12月)をもとにOffers推計)
年間の退職者は、従業員数に令和7年の個人的理由の離職率10.2%を掛けて求めました。令和7年の離職率は13.7%で、そのうち「結婚」「出産・育児」「介護・看護」「その他の個人的理由」の合計が10.2%、「経営上の都合」などの事業所側の理由が0.9%です。5年間の累計は年間の5倍、再入社したい人は累計に8.3%を掛けています。パーソル総合研究所の8.3%は、過去5年以内に正社員から離職した人への設問の結果で、個人的理由の退職者に当てはめた目安です。
業種別・規模別・年齢別の離職率は、離職率とは?令和7年13.7%と業種・規模・年齢別で確かめられます。
試算が示すのは、再入社したい人の人数で見ても、制度を作って採用計画の中心にはなりにくい規模感です。300人の企業で5年間に13人前後、1,000人の企業でも40人ほどなので、最初から専任の担当者や大きなシステムを置く規模ではありません。退職者の連絡先を本人の登録で集める仕組みと、再入社の応募窓口と基準を文書にする作業から始められます。
採用計画に必要な人数がこの試算を上回る分は、外部の母集団形成の役割です。
手法の選び方と進め方をまとめた資料は、Offers のお役立ち資料から選べます。
制度に決める項目は対象者・窓口と選考・処遇・関係維持の4つ
制度に決めておく項目は、対象者、窓口と選考、再入社後の処遇、退職後の関係維持の4つです。東京都、パナソニックグループ、富士フイルム和光純薬の公開ページでは、この4項目の決め方が組織ごとに異なります。
項目 | 決めること | 公開されている例 |
|---|
対象者 | 退職理由、在職期間、退職後の年数、職種のどこで対象を区切るか | 東京都は、かつて都職員として1年以上在職し、応募する職の属する職種と同一の職種で、その職と同等以上の職に任用されていた人。パナソニックの社員再就職制度は、出産・育児・介護・配偶者転勤で退職し、退職時の勤続が3年以上の人で、退職後3年以内(配偶者転勤は5年以内)。富士フイルム和光純薬は、在籍時期や退職後の年数を問わない |
窓口と選考 | 募集の出し方、応募の受け口、選考の基準 | 東京都は随時募集で、書類選考と面接。パナソニックは募集中の求人から選んで応募し、通常のキャリア採用と同様の選考プロセス |
再入社後の処遇 | 職位・年収・勤続年数の扱い | 東京都は、かつて任用されていた職種・職級以下で任用 |
退職後の関係維持 | 連絡手段、情報を届ける頻度、交流の場 | パナソニックはアルムナイコミュニティ(参加は任意、オンライン交流と対面の交流会、年に数回のイベント)。富士フイルム和光純薬は、ご案内を受け取った本人が無料で登録するアルムナイサイトで、自社ニュースと求人情報を定期的に案内 |
(東京都総務局人事部人事課「都庁版アルムナイ採用制度」・2024年2月6日更新、パナソニックグループ採用情報「アルムナイ」・2026年11月5日確認、富士フイルム和光純薬株式会社「アルムナイ(退職者の再入社)制度を開始しました。」・2026年7月10日公表)
対象者の決め方は、東京都が職種と職位、パナソニックの社員再就職制度が勤続と退職後の年限、富士フイルム和光純薬が年数を問わない形と、3つに分かれます。対象者を区切る前に、自社で再入社を想定する職種を決めておくのが先です。
窓口と選考では、通常の中途採用と同じ選考にするか、在籍時の評価を使って短くするかが分かれ目です。表の例では、東京都が書類選考と面接、パナソニックが通常のキャリア採用と同様の選考プロセスを置いています。
再入社者のメリットは業務の立ち上がり、注意点は再入社後の処遇
再入社者のメリットは、仕事内容を事前にイメージでき、社内のキーパーソンを理解している点で、注意点は再入社後の処遇の決め方です。パーソル総合研究所の調査では、再入社者の約4割が「仕事内容が事前にイメージできた」、3割台が「組織内のキーパーソンが理解できている」を再入社のメリットに挙げました。
同じ調査の分析では、アルムナイとの良好な関係がもたらす利点として、再入社による社外の人脈・知見の獲得と採用コストの削減、ポジティブな評判の獲得、取引先や購入者となる可能性が挙げられています。
再入社後の満足度は、全体では離職時より高まっています。給与・報酬・評価への満足度だけは離職時より微減し、従業員1,000人以上の企業では、離職時と比べて再入社後に年収が下がった人が32.9%、職位が下がった人が17.7%でした。
処遇の基準は、再入社の窓口と同時に文書にしておきます。戻る人の年収と職位をどの水準で受け入れるか、在籍し続けた社員の処遇との差をどう説明するかを、あらかじめ決めておくためです。東京都のように、かつて任用されていた職種・職級以下で任用すると決めておく方法もあります。競合他社を経て戻る人は、前職で得た秘密情報の扱いも法務への確認事項です。
関係を保つ運用は退職時・退職後・再入社の相談時の3局面で組む
運用は、退職時、退職後、再入社の相談を受けた時の3局面に分け、各局面で自社が決めることを担当者に割り当てて組みます。パーソル総合研究所の調査では、退職時の面談の影響力が大きく、上司が退職の意思を尊重するだけでは離職者の心理にネガティブな影響を与えており、「思いの引き出し」が必須という結果でした。
局面 | 打ち手 | 公開データ・例 |
|---|
退職時 | 面談で退職の意思を尊重するだけでなく、退職を決めた思いを引き出す。再入社の窓口があることと、連絡を受け取る登録の方法を伝える | パーソル総合研究所の調査は、上司面談で「思いの引き出し」が必須と指摘 |
退職後 | 本人が登録した連絡先へ、自社ニュースと求人情報を定期的に届け、交流の機会を設ける | 富士フイルム和光純薬は本人登録のアルムナイサイトで案内。パナソニックはオンライン交流と対面の交流会、年に数回のイベント |
再入社の相談時 | 募集中の求人から応募してもらい、選考と処遇を、文書にした基準に沿って進める | パナソニックは通常のキャリア採用と同様の選考プロセス。東京都は書類選考と面接 |
連絡先は、退職者本人が登録する形にすると、連絡を受け取る意思を確かめたうえで案内を送れます。配信の頻度は、再入社の見込みに合わせるのが基本です。従業員300人の企業は5年間で再入社したい人が13人前後と見込まれるので、人事担当者が配信と窓口を兼ねる運用で足ります。
アルムナイだけで足りない人数は外部の母集団形成で補う
従業員300人の企業で再入社したい人は5年間で13人前後なので、採用計画の人数がこれを上回る分は、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用などの外部の母集団形成で補います。アルムナイ採用は、仕事ぶりをすでに知っている人を迎える採用チャネルで、母集団形成の手法の1つです。
ダイレクトリクルーティングは、企業から候補者に声をかける手法です。費用と使い分けはダイレクトリクルーティングとは?利用率37.3%と費用に、応募を待たない母集団の作り方は母集団形成とは?応募を待たない中途採用の設計にまとめました。
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