FDE研修は、自社のエンジニアや顧客と接する技術職を、顧客の現場で実装から定着までを担うFDE(Forward Deployed Engineer)に育てる研修です。検索で目に入るのは研修会社の案内ですが、企画する人事が迷いやすいのは別の点にある。
どこまでを研修の場で教え、どこからを顧客の現場で経験させるか。この線引きは費用の見積もりにも響きます。FDEの仕事の中心にある顧客先での同行は、人材開発支援助成金の職場外訓練(職場を離れて行う訓練、OFF-JT)として扱われないためです。
FDE研修の定義と受講者
FDE研修は、顧客の業務課題をつかむ力、AIなどの技術で実装する力、顧客の現場に定着させる力の3つを、1人が一続きで担えるように育てる研修を指します。FDEの役割と採用の基本は「FDEとは?役割・年収・採用方法を採用担当向けに解説」にまとめました。
受講者は、出発点によって2通りに分かれる。1つは実装の経験があるソフトウェアエンジニアで、顧客と話す力と業務を読む力を足します。もう1つは、顧客と接する機会の多い技術職やプロジェクトのリーダーで、実装の力を足す形です。
どちらから育てるかで、研修の比重が変わります。前者は顧客の現場での経験に、後者は技術の演習に時間を多く割くことになる。
受講者の候補がいなければ採用と並べて考える
FDE研修は、実装の経験か顧客と向き合う経験のどちらかを持つ社員を土台にする研修です。どちらの経験を持つ社員も見当たらない場合は、研修と並べて経験者の採用を検討します。
採用で確かめる要件と面接の観点は、研修で教える中身と同じ領域で整理できる。求人票の書き方とスカウトの組み立ては、先に挙げたFDEの解説記事に載せた。
FDEを含むエンジニアの採用を始める前に、自社の採用の発信が候補者からどう見えるかを確かめたい場合は、エンジニア採用力チェックが使えます。企業のURLから公開情報をAIが解析して5指標24項目で採点し、レポートは原則1営業日以内にメールで届く。
顧客側のエンジニアへの引き継ぎは社内のFDE研修と分けて考える
FDEが顧客側のエンジニアに技術を引き継ぎ、顧客が自分で運用できる状態にする取り組みは、自社の社員をFDEに育てる研修とは分けて考えます。AWSは2026年6月に新設を公表した自社のFDE組織を、顧客が自走できるように設計したと説明している。
案件が進むにつれて、顧客側のエンジニアは見る側から一緒に作る側、そして自分で運用する側へ移るという(Amazon「AWS invests $1 billion to embed AI forward deployed engineers with customers」)。
この記事が扱うのは、自社の社員をFDEに育てる研修です。外部のFDEを受け入れて自社に引き継ぐ側の設計は「FDEの事例11件と組み方、偽装請負を避ける受け入れ方」で扱いました。
FDE研修の中身は5つのスキルを目安に決める
FDE研修で教える中身は、SalesforceがFDEに必要なスキルとして挙げる5つ(問題解決・技術・コミュニケーション・ビジネスの理解・学び続ける姿勢)を目安にすると漏れが出にくくなります。同社は2026年3月27日のブログで、FDEには技術に加えて、顧客の話を聞き、事業の仕組みを理解し、技術に詳しくない人にも分かる言葉で解決策を示す力が要ると書いている。
スキル | Salesforceの説明の要旨 | 研修での身につけ方の目安 |
|---|
問題解決 | 何が分からないかを顧客自身も分かっていない場で、技術の責任者として答えを見つける | 実案件に近い課題を使った演習 |
技術 | エージェントへの指示の作成、プロンプトの試行、難しい連携、現場で分かったことを製品チームと機能に反映する作業まで幅広く担う | 座学と実装の演習 |
コミュニケーション | 技術用語が通じない事業側・経営層の関係者と話す | 顧客との打ち合わせへの同席 |
ビジネスの理解 | 依頼の核心と理由を突き止め、求められた解決策ではなく正しい解決策を出す | 顧客の業務を題材にした演習と同席 |
学び続ける姿勢 | 技術の変化が速く、現場で学び続ける | 研修の後も続く学習の機会 |
出所:Salesforce「Today’s Hottest Role: Forward Deployed Engineer」(2026年3月27日)をもとにOffers編集部作成。
表の右の列は編集部の整理です。座学と演習で教えやすいのは主に技術と問題解決で、コミュニケーションとビジネスの理解は顧客と向き合う場数に頼る部分が大きい。採用のときに見る要件と研修で教える中身をそろえておくと、採用した人と育てた人を同じ物差しで評価できます。
社内のFDE研修は座学・顧客の現場・仕上げの課題で組む
社内でFDEを育てる研修は、技術の座学と演習、顧客の現場での実務、仕上げの課題の3つを組み合わせる形が基本になります。SalesforceはFDEチームに新しく入る社員向けに、6週間のオンボーディング研修「Ready in Six」を設けている。中身は技術研修・現場での実務(field work)・仕上げの課題(capstone project)だと紹介している。
この研修には2週間の対面の集中期間があり、テクニカルアーキテクトからFDEチームへ移った社員が修了した例も同じブログに載っています。FDEチームに新しく入る社員を対象に、現場の実務まで研修の期間に入れている点が参考になる。
研修会社のFDE研修は、時間も形式も幅があります。2026年10月10日に「FDE 研修」で検索上位に出た研修サービスの案内ページから4件を並べました。
形式 | 時間・期間 |
|---|
FDE向けの2時間のセッションを4回(通常は週1回) | 計8時間 |
動画の講座と週ごとの演習を組み合わせたオンライン講座 | 4週間 |
演習中心のコース(段階別に4コース) | 1コース10時間以上が基本 |
eラーニングとオンライン面談 | 120時間・3か月 |
(Offers(株式会社overflow)調べ・「FDE 研修」の検索上位の研修サービスの案内ページ n=4・2026年10月10日時点)
外部の研修で補いやすいのは、座学と演習の部分です。顧客と向き合う場数は、自社の案件の中で積ませる設計が別に要ります。
顧客先での同行は指導役と期間を先に決める
顧客先での同行は、指導役のFDEと組ませる期間と、受講者が自分で顧客を担当し始める時点を研修の前に決めておくと、現場任せになりにくい。同行の期間が決まっていないと、受講者は指導役の補助のまま固定され、自分で課題をつかむ経験が積めません。
FDEと事業側の担当が組んで顧客に入る体制や、チームで顧客を担当する体制の実例は、先に挙げたFDEの事例の記事に整理しています。指導役と受講者の組み方を決めるときの参考になる。
FDE研修の費用は人材開発支援助成金のコースで助成率が変わる
FDE研修の費用に人材開発支援助成金を使う場合、どのコースで申請するかで助成率が変わります。DX化や新規事業に伴う訓練を対象にした事業展開等リスキリング支援コースは、中小企業で経費の75%(中小企業以外は60%)を助成し、令和8年度末までの時限措置です。
次の表の()内は中小企業以外の率で、人材育成支援コースの率は正規雇用労働者等の場合を載せた。
コース | 対象の訓練 | 経費助成率 | 賃金助成(1人1時間) |
|---|
事業展開等リスキリング支援コース | 事業展開、DX・GX化、人事・人材育成の計画に基づき今後就く職務に必要な訓練(OFF-JT・10時間以上) | 75%(60%) | 1,000円(500円) |
人材育成支援コース(人材育成訓練) | 10時間以上のOFF-JT | 45%(30%)、賃金要件等を満たすと60%(45%) | 800円(400円)、賃金要件等を満たすと1,000円(500円) |
出所:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」令和8年度版(令和8年8月3日版)。
経費助成には1人1訓練あたりの限度額があります。事業展開等リスキリング支援コースでは、実訓練時間数が10時間以上100時間未満なら中小企業30万円・中小企業以外20万円で、200時間以上の50万円・30万円まで時間に応じて上がる。eラーニングと通信制の訓練は中小企業15万円・大企業10万円が上限で、経費助成だけが対象です。
検索上位の研修サービスの案内でも、助成を最大45%と書くものと、経費の最大75%と書くものがありました。助成率はコースと企業規模で決まるため、見積もりを比べるときは、どのコースで申請する前提の数字かを研修会社に確かめる。
外部の研修と社内の研修の実質負担の比べ方は「人事研修の比較|業務範囲・形式・実質負担で選ぶ」に、研修費の事例は「DX研修の費用は1人9万〜100万円、厚労省9事例」にまとめています。
FDE型の支援を始めることが事業展開に当たるかは労働局に確かめる
事業展開等リスキリング支援コースでいう事業展開には、新しい商品やサービスの提供で新たな分野に進むことに加え、既存事業の中で商品やサービスの提供方法を変えることも含まれます。受託開発やSaaSの会社が、顧客の現場に入り込むFDE型の支援を新たに始める場合は、この定義に当たるかどうかが申請の入口になる。
同じ案内は、訓練の内容などによって事案ごとに判断が要る場合があるとし、相談先に管轄の労働局またはハローワークを挙げています。事業展開を理由にする訓練は、訓練開始日から3年以内に実施する予定の事業展開か、6か月前までに実施した事業展開に限られる点も確認しておきます。
FDE研修の同行と製品説明は職場外訓練の助成の対象外
FDE研修の中でも、顧客先に同行して実務をこなす部分と、自社製品の使い方を教える部分は、人材開発支援助成金の職場外訓練として助成されません。事業展開等リスキリング支援コースの案内は、取引先を含む就労の場で行われる訓練と、現場実習や営業同行トレーニングのように通常の生産活動と区別できない訓練を、対象とならない実施方法に挙げている。
FDE研修でよくある中身 | 助成の扱い | 案内の該当箇所 |
|---|
顧客先への同行、実案件での実務 | 対象外 | 対象とならない実施方法:就労の場(取引先を含む)で行われるもの、通常の生産活動と区別できないもの(現場実習、営業同行トレーニングなど) |
自社製品の導入手順や機能の説明 | 対象外 | 対象とならない実施目的:自社製品及び自社が扱う製品やサービス等の説明 |
コンサルタントによる指導の時間 | 対象外 | 既存のアプリやシステムを購入して操作方法を習得する場合や、コンサルタントによる指導は対象外 |
特定の業務に当てはめない汎用的なプロンプトの作り方 | 対象外(令和8年8月3日以降の計画届) | DX化の訓練でも、職務に間接的に必要な内容や職業人に共通の内容は対象外 |
職務に直結する生成AIの活用の演習 | 要件を満たせば対象 | 生成AIを活用して商品提案書の構成案作成などを学ぶ営業担当者向けの訓練は対象の例 |
出所:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」令和8年度版と「令和8年8月3日からの変更点について」をもとにOffers編集部作成。
対象外の中身がカリキュラムの一部に含まれる場合も、その時間は実訓練時間数から除き、除いたあとで10時間以上が必要です。2時間のセッションを4回行う研修なら計8時間で、それだけではこの10時間に届かない。
顧客先での同行はFDE研修の中心にあたる部分なので、助成を見込んで予算を組むときは、座学と演習の時間と、同行の時間を分けて見積もります。同行の期間の人件費は、助成なしの自社負担として計画に入れておくのが安全です。
計画届は訓練開始日の1か月前までに出す
人材開発支援助成金を使うなら、訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に、計画届を労働局に出す必要があります。研修会社を決めてから届け出るまでの期間を見込み、開始日から逆算して準備する。
令和8年8月3日以降に出す計画届では、事業展開等リスキリング支援コースのeラーニングによる訓練は、同じ労働者について1つの年度で1回までになりました。改正の案内は、訓練内容に沿って対象労働者を選んでいるかも確認の観点に挙げている。受講者は、研修のあとFDEとして顧客に入る予定の社員に絞ると、要件と研修の目的がそろいます。
FDE研修は中身・現場・助成の3点で設計する
FDE研修を企画するときは、教える中身、顧客の現場での経験、助成金の対象範囲の3点を分けて設計すると、研修の目的と予算がぶれにくくなります。
- 中身:SalesforceがFDEに必要とする5つのスキルを目安に、座学と演習で教えられる部分を決める
- 現場:顧客先への同行は指導役と期間を先に決め、研修の期間に組み込む
- 助成:申請するコースで助成率が変わり、顧客先での同行と自社製品の説明は職場外訓練の助成の対象外になる。計画届は訓練開始日の1か月前までに出す
社内に土台となる経験を持つ社員がいない場合は、研修と採用を並べて、どちらで必要な人数をそろえるかを決める。