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組織

DX研修とは?国の標準で決める中身と講座の選び方

DX研修とは?国の標準で決める中身と講座の選び方
鈴木 裕斗監修者

株式会社overflow / 代表取締役 CEO

鈴木 裕斗

株式会社サイバーエージェントに新卒入社。広告営業を経て、Amebaプラットフォームの管轄責任者に就任。その後、スタートアップ企業に入社、代表取締役就任を経て2ヶ月後に株式会社ディー・エヌ・エーにM&A、子会社化。子会社代表取締役とDeNA広告部長を兼任。2017年6月、株式会社overflowを創業。2018年から2020年9月末までエキサイト株式会社の社外取締役を兼任。

DX研修を探すと、研修会社のおすすめ講座と比較表が並びます。けれど、何を教えるかの物差しは国がすでに用意しています。経済産業省とIPA(情報処理推進機構)の「デジタルスキル標準」で、2026年4月に改訂されたばかりです。

講座の良し悪しも、国が講座を審査するときの基準で見分けられます。研修会社の比較表を開くのは、教える中身と候補の講座をこの2つの物差しで絞ってからで十分です。

人事が決めるのは、誰に何を教えるか、どの講座を残すか、受講後に何を任せるかの3つです。社内に教え手がいない役割を採用に回す分かれ目も、同じ材料から読めます。

DX研修は、社員がDXを担う知識・スキル・行動を学ぶ教育

DX研修とは、企業が社員に、データとデジタル技術を使って業務やビジネスモデルを変えるための知識・スキル・行動を身につけさせる教育です。ツールの操作研修と違い、変革に向けて自分で動けるようになることまでを目標に置きます。

何を教えるかの公的な基準は、経済産業省とIPAの「デジタルスキル標準(DSS)」です。全社員が身につける「DXリテラシー標準」と、DXを推進する人材の役割とスキルを定めた「DX推進スキル標準」の2つでできています。

標準

対象

中身

DXリテラシー標準(DSS-L)

全てのビジネスパーソン

Why・What・How・マインド・スタンスの4つ

DX推進スキル標準(DSS-P)

DXを推進する人材

6つの類型ごとの役割とスキル

出所:IPA『DXリテラシー標準(DSS-L)概要』とIPA『DX推進スキル標準(DSS-P)概要』をもとに作成。

DXそのものの定義とIT化との違いは、DXとIT化・デジタル化の違いを参照してください。

全社員向けの研修は、DXリテラシー標準の4項目で組む

全社員向けのDX研修は、DXリテラシー標準の4項目を一通り含むように組みます。この標準のねらいは、一人ひとりがDXを自分事ととらえ、変革に向けて行動できるようになることです。

項目

標準での位置づけ

研修で扱う例

Why

DXの背景

自社の市場と顧客の変化

What

DXで活用されるデータ・技術

データの種類、AI、クラウド

How

データ・技術の利活用

自部署の業務での使い方

マインド・スタンス

新たな価値を生み出すための土台

変化への向き合い方、試して学ぶ姿勢

出所:IPA『DXリテラシー標準(DSS-L)概要』の4項目をもとに作成(「研修で扱う例」は本稿の例示)。

生成AIの使い方や表計算の講座は、WhatとHowの一部にあたります。研修会社の講座を組み合わせるときは、4項目のうちどの講座も扱っていない項目が残っていないかを、表と照らして確かめます。

特にWhyは自社の市場と顧客の事情に寄せて語る項目なので、社外の汎用の講座だけでは埋まりにくい部分です。

推進人材向けの研修は、DX推進スキル標準の6類型から選ぶ

推進人材向けのDX研修は、育てたい役割をDX推進スキル標準の6類型から先に決め、その類型のスキルを扱う講座を選びます。類型ごとに求めるスキルが違うため、「DX推進者向け」とひとまとめにした講座だけでは、どの役割が育つのかが決まりません。

類型

役割(標準の定義の要約)

ビジネスアーキテクト

変革の目的を定義し、ビジネスモデルと業務プロセスを設計して、関係者を巻き込みながら成果まで導く

デザイナー

顧客・ユーザーの視点で、製品・サービスのありかたと開発の方針をデザインする

データサイエンティスト

データを活用した業務変革や新規ビジネスに向けて、データの解析やAIの仕組みの設計・実装・運用を担う

データマネジメント

データの安全性・信頼性を確保し、組織全体でデータを使える仕組みを設計・運用する

ソフトウェアエンジニア

デジタル技術を使った製品・サービスのシステムやソフトウェアを設計・実装・運用する

サイバーセキュリティ

デジタル環境のサイバーセキュリティリスクの影響を抑える対策を担う

出所:IPA『DX推進スキル標準(DSS-P)概要』の類型の定義を要約。

2026年4月の改訂(ver.2.0)で、データマネジメントのロールとスキルが加わり、AIの実装・運用やAIガバナンスのスキルも拡充されました(出所:IPA『デジタルスキル標準 ver.2.0(分冊版:DX推進スキル標準)』)。

改訂前の類型表をもとに作った研修体系では、データマネジメントの役割を誰に担わせるかが空いたままです。各類型の職種と必要なスキルは、DX人材とはで詳しく扱っています。

研修の到達目標は、共通スキルリストの重要度で書く

推進人材向けの研修の到達目標は、DX推進スキル標準の「共通スキルリスト」のスキル項目と重要度で書くと、講座の水準と突き合わせられます。共通スキルリストは全ての類型・ロールに共通するリストで、スキルを5つのカテゴリー(ビジネス変革・データ活用・テクノロジー・セキュリティ・パーソナルスキル)と13のサブカテゴリーで整理したものです。

ロールごとに、どのスキル項目をどの水準まで求めるかを示すのが、次の重要度です。

重要度

標準での定義

a

高い実践力と専門性が必要

b

一定の実践力と専門性が必要

c

知識として説明可能なレベルでの理解が必要

d

体系として全体の中での位置づけや他項目との関連の理解が必要

z(パーソナルスキル)

役割や状況に応じた実践力が必要

出所:IPA『デジタルスキル標準 ver.2.0(分冊版:DX推進スキル標準)』の重要度の定義。

研修の目標を「データ活用のこのスキル項目を、重要度cまで」のように書けば、研修会社に何を求めるかがはっきりします。目安として、講義中心の講座で届きやすいのはcとdで、aとbに届かせるには演習や実務での実践が欠かせません。

DX研修が求められる背景は、学びの奨励と支援の差

DX研修が企業の課題になっている背景には、学ぶことを奨励していても、学びを支える仕組みと処遇が追いついていない実態があります。IPAの『DX動向2026』で企業文化・風土の状況を尋ねた設問の、「できている」の回答率は次のとおりです。

設問(労働環境・人材育成)

「できている」の回答率

新しいスキル等を習得することが奨励される

54.0%

学習を支援する制度やプログラムが充実している

35.1%

高いスキルを持っていることが報酬に反映される

32.3%

出所:IPA『DX動向2026』図表2-13(企業の経営層またはICT関連事業部門が回答・2026年7月公表)。

奨励と支援の差は約19ポイントです。学べと言われても、学ぶための研修や制度が用意されていない会社が少なくありません。DX研修は、この差を埋める手段の1つになります。

人材育成の問題の1位は、指導する人材の不足

社内でDX研修を組もうとすると、教える人がいないことが最初の壁になります。厚生労働省の『令和7年度 能力開発基本調査』では、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとした事業所が80.1%で、問題点の1位は「指導する人材が不足している」でした。

人材育成の問題点(複数回答)

割合

指導する人材が不足している

59.5%

人材を育成しても辞めてしまう

51.6%

人材育成を行う時間がない

45.5%

人材育成の方法がわからない

10.0%

適切な教育訓練機関がない

9.5%

出所:厚生労働省『令和7年度 能力開発基本調査』調査結果の概要図36(問題があるとした事業所が回答)。

この調査は、DXに限らない人材育成全般の結果です。それでも、デジタルの分野は社内に詳しい人が少ない会社ほど教え手が足りなくなり、外部の講座に頼る場面が増えるはずです。外部の講座に頼るなら、研修の質は講座の選び方で決まります。

DX研修の種類は、対象の層と提供の形で分かれる

DX研修の種類は、誰に教えるか(全社員か推進人材か)と、どう提供するか(社内で開くか、社外の講座を使うか)の2つの軸で分かれます。研修会社の案内は講座名で並んでいるので、まずこの2軸のどこに当たるかで仕分けるのが、比べる近道です。

提供の形

全社員向け(リテラシー)

推進人材向け(類型ごとの実践)

社内講師で開く

自社の事例を交えた導入研修

社内に経験者がいる類型に限られる

外部講師を社内に招く

部署ごとの集合研修

自社の課題を持ち込む演習

社外の講座に通う

選抜者の受講

類型ごとの専門講座

eラーニング

全員に配る基礎講座

実習の前の予習

全社員向けは人数が多いので、eラーニングや集合研修で配る形が中心です。推進人材向けは類型ごとに必要なスキルが違うため、人数を絞って社外の専門講座や演習型の研修を当てます。

層ごとに何人を育てるかは、IPAが聞き取った企業の事例をDX研修の事例は人数で読むで比べています。受講料と、助成金でいくら戻るかの試算は、DX研修の費用を参照してください。

社内に教え手がいない役割は、採用と並べて考える

DX推進スキル標準の6類型のうち、社内に経験者が1人もいない役割は、研修だけで最初の担い手を揃えるより、経験者の中途採用と並べて比べるほうが現実的な場合があります。能力開発基本調査で人材育成の問題点の1位が「指導する人材が不足している」(59.5%)だったように、教え手のいない分野では、研修を受けた社員が職場で相談できる相手もいないからです。

特に、ソフトウェアエンジニアやデータサイエンティストのように、システムやデータの仕組みを設計・実装・運用する類型は、実務の経験がものを言います。経験者を1人採用して社内の教え手に据え、その人を中心に研修とOJT(職場で仕事を通じて行う訓練)を組み立てる順番も選択肢の1つです。

経験者の採用に動く前に、自社の採用の見え方を確かめておくと、求人の打ち出し方を決めやすくなります。エンジニア採用力チェックは、企業のURLから公開情報を5指標24項目で採点し、原則1営業日以内にレポートが届くサービスです。

講座の選び方は、国が講座を審査する基準を物差しにする

DX研修の講座を選ぶときは、国が講座を審査する2つの仕組みの基準を借りると、研修会社をまたいで同じ物差しで比べられます。1つはIPAのポータルサイト「マナビDX」の掲載審査、もう1つは経済産業省の「第四次産業革命スキル習得講座(Reスキル講座)認定制度」です。

仕組み

審査する側

審査を通った講座の扱い

マナビDX

経済産業省・IPA

デジタルスキル標準などへの対応が審査され、合格した講座だけが掲載される

Reスキル講座認定制度

経済産業省

専門的・実践的な講座として経済産業大臣が認定する

出所:IPA『マナビDX』と経済産業省『第四次産業革命スキル習得講座認定制度』をもとに作成。

マナビDXは、デジタルリテラシー講座と実践講座を分けて探せるポータルサイトです。リテラシー講座はWhy・What・How・マインド・スタンスの項目から、実践講座は学習できるスキル(ビジネス変革・データ活用・テクノロジー・セキュリティ)や目指すロールから探せます。受講料が無料の講座や初学者向けの講座も載っていて、全社員向けの研修の候補を探す入口に向いています。

Reスキル講座は、基礎・初級のITスキルを対象から外した、専門的な講座の認定制度です。認定は年2回で、有効期間は3年間です。2026年4月から5月に受け付けた第18回では、34事業者の75講座が認定を受けました。第18回の申請から、マナビDXの技術要件審査の合格が前提になっています。

推進人材向けの講座を探すときは、Reスキル講座の一覧が候補の入口です。どちらの仕組みも一覧を公開しているので、研修会社の案内を受け取ったら、その講座が載っているかを先に確かめます。

認定の要件から、研修会社に聞く5つの項目を引く

Reスキル講座の講座要件は、認定を受けていない講座を比べるときにも確認項目として使えます。研修会社に見積もりを頼む際は、次の5つを聞くのが近道です。

認定の講座要件

研修会社に聞くこと

対象とする職業の種類と、身に付く能力を公開している

この講座で、どの類型のどのスキルが身につくか

必要な実務知識・技術・技能を習得できる

受講後に担える業務は何か

実習・実技・演習・発表がカリキュラムの半分以上

講義と演習の時間の割合はどれくらいか

審査や試験で訓練の成果を評価している

修了の判定を何で行うか

事後評価の仕組みがある

受講後の追跡やアンケートの結果を見せてもらえるか

出所:経済産業省『第四次産業革命スキル習得講座認定制度』の講座の要件をもとに作成(「研修会社に聞くこと」は本稿の例示)。

5項目に答えられない講座では、何が身につくかが曖昧なまま費用を払うことになります。反対に、類型とスキルを名指しで答え、演習の割合と修了の判定を示せる講座なら、受講後に任せる業務を決めやすいはずです。

Reスキル講座の認定制度は、7割超の企業が知らない

Reスキル講座の認定制度は、企業の間でまだ十分に知られていません。IPAの『DX動向2026』で政府系の施策の認知度を尋ねた設問では、この認定制度と、実践型の学習プログラム「マナビDX Quest」について、「知らない」の回答率が7割を超えました(出所:IPA『DX動向2026』図表5-1)。

担当者が制度を知らないと、認定や掲載の審査を通った講座を候補に入れないまま、研修会社のおすすめ順に比較を始めることになります。比較表を見る前にマナビDXとReスキル講座の一覧を一度開いておくのが、候補を広げる最初の一手です。

研修を実務につなげるには、受講後の役割と評価を先に決める

DX研修を実務につなげるには、受講者が研修のあとに担う業務と、身につけたスキルを評価や処遇にどう反映するかを、研修を始める前に決めておきます。前に挙げたIPAの調査では、スキルの習得を奨励できている会社が54.0%だったのに対し、高いスキルが報酬に反映されている会社は32.3%でした。

学んだスキルを使う業務がなく、評価にも表れなければ、受講者にとって研修は受けただけで終わります。研修を企画する段階で決めておきたいのは、次の3つです。

  1. 受講後の担当:受講者が研修のあとにどの業務やプロジェクトを担うかを、上司と合意しておく
  2. 評価への反映:DX推進スキル標準の類型とスキルを、評価項目や等級の要件に入れるかを決める
  3. 学ぶ時間:受講を業務時間内に入れるか、その間の業務を誰が引き受けるかを決める

3つ目の時間は、能力開発基本調査で「人材育成を行う時間がない」が45.5%だったとおり、多くの事業所がつまずく点です。受講者の上司を巻き込み、研修の時間を業務の計画に入れておくことが前提になります。

DX研修の準備は、標準で中身を決め、審査基準で講座を絞る

DX研修の準備は、デジタルスキル標準で教える中身を決め、公的な審査の基準で講座を絞り、受講後の役割と評価を決めてから研修会社を比べる順に進めます。講座を選ぶ起点が、研修会社のおすすめ順ではなく自社の必要に変わる点が、この順番の利点です。

  1. 対象者を、全社員(DXリテラシー標準)と推進人材(DX推進スキル標準)に振り分ける
  2. 推進人材は、育てる類型を6つから決める
  3. マナビDXとReスキル講座の一覧から、候補の講座を拾う
  4. 研修会社に、認定の要件から引いた5項目を聞く
  5. 社内に教え手がいない類型は、採用と並べて比べる
  6. 受講後の担当・評価への反映・学ぶ時間を、研修の前に決める

研修の費用と助成金はDX研修の費用で、層ごとの育成人数の決め方はDX研修の事例で、続きを確かめられます。

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