人事計画は「来期に何人を採用するか」を決める表だと受け取られがちですが、採用の人数だけを決めても計画は回りません。
採用した人を誰が育てるのか、どの部署に置くのか、昇給を含めた人件費が事業計画に収まるのか。これらが決まっていなければ、期の途中で食い違いが表に出てきます。
人事計画の中身は、要員・採用・配置と異動・育成・評価と報酬・人件費の6つの計画です。6つを別々に作ると、それぞれの中では整っていても、計画どうしのつなぎ目で数字が合わなくなることがあります。
人事計画の定義と、人事戦略・要員計画・採用計画との違い
人事計画とは、経営計画・事業計画を達成するために必要な人材の数と質を見積もり、その人材をどう確保し、どこに配置し、どう育て、どう処遇するかを、人件費の見通しとあわせて期間を区切って決める計画です。期間は、連動させる事業計画の期間(年度・中期)に合わせます。
似た語とは、何を決める計画かで区別するのが分かりやすい方法です。人事戦略は人材面の方向を決め、人事計画はその方向を数・時期・費用に落とし込み、要員計画と採用計画は人事計画の一部を受け持ちます。
語 | 決めること | 人事計画との関係 |
|---|
人事戦略(人材戦略) | 経営戦略を実現するために、どんな人材をどう確保・育成・活用するかの方向 | 人事計画の上位にあり、計画の前提になる |
人事計画 | 必要な人材の数と質、確保・配置・育成・処遇の方法、人件費 | 下の要員計画・採用計画を含む |
要員計画 | 部署・職種・時期ごとに必要な人数 | 人事計画のうち、人数を決める部分 |
採用計画 | 外部から迎える人数・要件・時期・手段・費用 | 要員計画の不足を外部採用で埋める部分 |
表は編集部の整理です。
人事戦略を経営戦略とつなげる手順は人事戦略とは?経営と連動させる立て方と開示制度で、採用計画の立て方は採用計画の立て方と必要採用数の出し方で扱っています。
人事計画は6つの計画で構成される
人事計画を構成するのは、要員計画、採用計画、配置・異動計画、育成計画、評価・報酬計画、人件費計画の6つです。6つは別々の担当者が作ることもありますが、ある計画の出力が次の計画の入力になるため、1つの計画書の中で数字を突き合わせて初めて人事計画として機能します。
計画 | 決めること | 主な入力 | 出力の渡し先 |
|---|
要員計画 | 部署・職種・時期ごとの必要人数 | 事業計画の売上・案件数、業務量 | 採用計画、配置・異動計画、人件費計画 |
採用計画 | 外部採用の人数・要件・時期・手段・予算 | 要員計画の不足数、離職の見込み | 育成計画、人件費計画 |
配置・異動計画 | 誰をどの部署・役割に置くか、異動の時期 | 要員計画、評価の結果、本人の希望 | 採用計画(社内で埋まらない分)、育成計画 |
育成計画 | 誰に何をいつまでに身につけてもらうか、育成の担当者 | 配置・異動計画、採用計画の入社者 | 評価・報酬計画 |
評価・報酬計画 | 評価の時期と基準、昇給・賞与・等級の方針 | 評価制度、育成の到達度 | 人件費計画 |
人件費計画 | 給与・賞与・法定福利費・採用費・教育費の総額と内訳 | 上の5つの計画 | 事業計画の予算 |
表は編集部の整理です。
育成計画は職業能力開発促進法に名前がある計画
6つのうち育成計画にあたるのが、職業能力開発促進法第11条に定めがある事業内職業能力開発計画です。厚生労働省の能力開発基本調査の用語の説明によると、職業能力開発促進法第11条に規定された事業内職業能力開発計画は、事業主が、雇用する労働者の職業能力の開発と向上が段階的かつ体系的に行われることを促すために作成する計画を指します。
厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査 調査結果の概要(2026年7月31日公表・p.8)では、事業内職業能力開発計画を「すべての事業所において作成している」企業は14.6%、「一部の事業所においては作成している」企業は5.6%で、「いずれの事業所においても作成していない」企業が79.8%でした。
企業規模別に「すべての事業所において作成している」割合を見ると、30〜49人の企業で12.0%、1,000人以上の企業で29.9%です。
事業内職業能力開発計画として育成計画を文書にしている企業は、一部の事業所での作成を含めても約2割です。育成計画が無いと、採用計画で迎えた人をいつまでに戦力にするかが決まらず、要員計画の人数が実質的に満たされる時期も見積もれません。
人事計画の目的は、必要な人材を時期どおりにそろえること
人事計画の目的は、事業計画の達成に必要な人材を、必要な時期までに、事業計画の人件費の枠内でそろえることです。採用・配置・育成のどれで人材を確保するかを先に決めておくと、欠員が出てから採用を始めるより、選考や育成にかかる時間を見込んだ手配ができます。
上場企業では、人事計画の中身が社外への説明にもつながります。2023年1月31日に公布された改正開示府令(金融庁「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」)で、有価証券報告書のサステナビリティ情報の「戦略」と「指標及び目標」に、人材の多様性の確保を含む人材育成の方針、社内環境整備の方針、それらの方針に関する指標の内容等の記載が求められるようになりました。
2026年2月20日に公布された改正(金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令等の公布及びパブリックコメントの結果について」)では、「従業員の状況」で、連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略、それを踏まえた従業員給与等の決定方針、提出会社の従業員の平均給与の対前年比増減率の開示が求められるようになりました。適用は2026年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書からです。
人事計画のうち育成計画は人材育成の方針の、評価・報酬計画と人件費計画は従業員給与等の決定方針の裏付けになります。開示の書き方を知りたい場合は人的資本とは|2026年の改正と初年度有報で変わった点を参照してください。
人事計画は5つの手順で立てる
人事計画は、経営計画から必要な人材を書き出す、現状と期中の減少を見込む、ギャップの埋め方を決める、人件費で検算する、実績と照合して見直す、の5つの手順で立てます。手順1と手順4で2回経営計画と突き合わせるのは、人数の積み上げと費用の枠のどちらか一方だけで決めると、もう一方が後から合わなくなるためです。
手順 | やること | 主に関わる計画 |
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1 | 経営計画から必要な人材の数と質を書き出す | 要員計画 |
2 | 現状の人員と、期中の減少を見込む | 要員計画 |
3 | ギャップを異動・育成・採用のどれで埋めるか決める | 配置・異動計画、育成計画、採用計画 |
4 | 人件費に換算して予算に収まるか検算する | 評価・報酬計画、人件費計画 |
5 | 月次・四半期で実績と照合して見直す | 6つすべて |
手順1は経営計画から必要な人材の数と質を書き出すこと
最初に、事業計画の売上・案件数・新規事業の予定から、部署・職種ごとに必要な人数と、求めるスキルや経験を書き出します。いまいる人材から考え始めると、新しい事業に要る職種が計画から抜けやすいためです。
経済産業省の人材版伊藤レポート2.0(2022年5月・PDF p.20)は、現時点の人材やスキルを前提とせず、経営戦略の実現という将来の目標からバックキャストする形で必要な人材の要件を定義し、採用・配置・育成を戦略的に進める必要があるとしています。
手順2は現状の人員と期中の減少を見込むこと
次に、部署ごとの現在の人数と、期中に減る人数を見込みます。減少に数えるのは、退職のほか異動・休職・定年です。退職の見込みは自社の過去の実績から置き、実績の件数が少ない部署では公的統計を仮置きに使います。
厚生労働省の令和7年雇用動向調査結果の概況(p.1)では、年初の常用労働者数に対する離職者の割合である離職率は13.7%、パートタイム労働者を除く一般労働者では11.4%でした。
同調査の産業別の集計(表4-2)で一般労働者の離職率を見ると、情報通信業は10.0%、宿泊業,飲食サービス業は21.5%で、業種によって2倍以上の開きがあります。
一般労働者100人の部署に11.4%を当てはめると、1年で約11人が減る前提です。期末に100人を保つだけでも約11人の補充が要り、増員の計画はその上に積みます。離職率の計算のしかたと、自社の数字を統計と比べるときの条件は離職率とは?令和7年13.7%と業種・規模・年齢別で扱っています。
手順3はギャップを異動・育成・採用のどれで埋めるか決めること
必要な人数から現在の人数を引き、期中の減少見込みを足したものが、期中に埋める人数です。埋め方は社内の異動、育成による役割の拡大、外部からの採用の3つで、どれを選ぶかによって埋まる時期と費用が変わります。
社内の異動は採用費がかからない代わりに、異動元の部署に新たな欠員を生みます。育成は採用費を抑えられる一方、戦力になるまでの時間が読みにくい方法です。外部採用には採用費と選考の期間がかかります。
手順3では、職種ごとに3つのどれで埋めるかと、いつまでに埋めるかを決めます。外部採用に回した人数を採用計画に落とす手順は採用計画の立て方と必要採用数の出し方を参照してください。
手順4は人件費に換算して予算に収まるか検算すること
手順3までで決めた人数を人件費に換算し、事業計画の予算に収まるかを確かめます。人件費に含めるのは、給与と賞与のほか、法定福利費、採用費、教育費です。
業務量から積み上げた人数(ボトムアップ)と、売上高人件費率や労働分配率から逆算した人数(トップダウン)を並べ、差が大きい部署から理由を確かめます。積み上げのほうが多ければ業務の見直しか予算の配分の変更を、逆算のほうが多ければ業務量の見積もりに漏れがないかを確認します。採用費の見積もり方は採用予算はどれくらいが適切?で解説しました。
手順5は月次・四半期で実績と照合して見直すこと
人事計画は年度の初めに作って終わりではなく、月次または四半期ごとに、計画人員と実績人員、採用の進み具合、離職の実績を照合して見直します。照合に使う指標の算出式をまとめたのが人事KPI一覧|36指標の算出式と目標値の置き方です。
採用が計画より遅れている職種は、採用の手段を増やすか、配置・異動や育成での補完に切り替えるかを、この照合の場で決めます。離職が見込みを上回った部署で置き直すのは、手順2の前提値です。
6つの計画のつなぎ目で数字が合わなくなる
人事計画を6つの計画に分けて作ると、それぞれの計画の中では整っていても、計画どうしのつなぎ目で数字が合わなくなることがあります。計画書を締める前に確かめるのは、次の5つのつなぎ目です。
つなぎ目 | 起きやすい食い違い | 確かめること |
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要員計画と採用計画 | 退職・異動による減少を見込まず、増員分だけを採用する | 期中の減少見込みを採用数に足したか |
採用計画と育成計画 | 入社者の人数に対して、受け入れて育てる担当者が足りない | 入社者ごとに育成の担当者と期間を割り当てたか |
配置・異動計画と要員計画 | 異動で埋めた部署の代わりに、異動元に欠員が出る | 異動元の欠員を要員計画に戻したか |
評価・報酬計画と人件費計画 | 昇給・賞与の方針が人件費の見通しに入っていない | 昇給の見込みと採用時の提示年収を人件費に入れたか |
採用計画と人件費計画 | 入社の時期がずれ、人件費の発生月と予算の月が合わない | 入社月ごとに人件費を置いたか |
表は編集部の整理です。
採用計画の人数は採用できる人数とは限らない
採用計画に置いた人数は事業計画から見た必要な人数であり、期中に採用できる人数とは限りません。採用が遅れたときの手当て(社内の異動、育成での補完、入社時期の後ろ倒しと人件費の組み替え)を手順3の段階で職種ごとに決めておけば、期中に計画が崩れても対応を一から考えずに済みます。
採用計画の人数が実現できるかは、候補者から見える自社の採用情報の状態にも左右されます。エンジニア採用力チェックは、企業URLから公開情報を5指標24項目で採点し、原則1営業日以内にレポートが届く無料の診断です。社内の人事計画や選考の通過率は採点の対象外なので、計画の数字とは分けて、募集を始める前の確認に使えます。
育成の担当者の数が採用計画の上限になる
採用の人数を増やすほど、入社者を受け入れて育てる担当者の時間が要ります。厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査 調査結果の概要(p.24)では、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は80.1%でした。
問題点の内訳は「指導する人材が不足している」が59.5%で最も高く、「人材を育成しても辞めてしまう」が51.6%、「人材育成を行う時間がない」が45.5%と続きます。
採用計画の人数を決める前に、配置・異動計画の中で入社者ごとに受け入れの担当者を割り当てておくと、育成の担い手が足りないことが採用の前に分かります。エンジニアの育成計画の立て方についてはエンジニアの人材育成|計画の立て方と手法で解説しました。
人事計画書に書く9つの項目
人事計画書には、対象期間と前提にした事業計画の数値、部署・職種ごとの現員と計画人員、期中の減少見込み、ギャップの埋め方、採用の人数と時期、育成の施策と担当者、評価と報酬の方針、人件費の総額と内訳、見直しの時期と責任者の9つを書きます。
項目 | 書く内容 | 対応する計画 |
|---|
対象期間と前提 | 年度・中期の区分、前提にした売上・案件数・新規事業 | 全体 |
現員と計画人員 | 部署・職種・等級ごとの現在の人数と期末の人数 | 要員計画 |
期中の減少見込み | 退職・異動・休職・定年の見込みと、置いた前提値 | 要員計画 |
ギャップの埋め方 | 職種ごとに異動・育成・採用のどれで埋めるか | 配置・異動計画 |
採用の人数と時期 | 職種・要件・入社月・採用手段・採用費 | 採用計画 |
育成の施策と担当者 | 対象者・身につける内容・期限・担当者 | 育成計画 |
評価と報酬の方針 | 評価の時期、昇給・賞与・等級の見直し | 評価・報酬計画 |
人件費の総額と内訳 | 給与・賞与・法定福利費・採用費・教育費の月別の見通し | 人件費計画 |
見直しの時期と責任者 | 照合の頻度、前提値を更新する担当者 | 全体 |
書式に決まりはありません。表計算ソフトの1つのファイルで6つの計画の数字を参照し合う形にすると、つなぎ目の食い違いを数式で見つけられます。人事データを一元管理するシステムを使う場合も、離職率・昇給率・採用費の単価といった前提値を誰がいつ更新するかを決めておきます。
人事計画で失敗しやすい3つの点
人事計画で失敗しやすいのは、前提値を書かずに人数だけを決めること、年度の初めに作った計画を見直さないこと、現場からの積み上げだけで人件費の枠を確かめないことの3つです。
1つ目の前提値は、離職率・昇給率・採用にかかる期間のように、計画の人数や費用を左右する値です。計画書に前提値を書いておかないと、期中に実績がずれたとき、前提の置き方が外れたのか、施策が進まなかったのかを分けられません。
2つ目の見直しは、手順5の照合を定例の場にすることで防げます。事業計画が期中に変わったときは、人事計画も同じタイミングで改めます。
3つ目の積み上げは、各部署の責任者が見込む人数を足し合わせるだけでは、全体の人件費が予算に収まるかを確かめられないという点です。手順4のトップダウンの逆算と並べると、どの部署の積み上げを見直すかが決まります。
小さな会社の人事計画は1枚の表から始める
専任の人事担当者がいない小さな会社では、6つの計画を1枚の表にまとめる形で人事計画を始めるのが現実的です。行を部署・職種、列を「現員・期中の減少見込み・期末の計画人員・埋め方・時期・担当者・人件費」にすれば、6つの計画の最小限の中身が1枚に収まります。
最初の年の前提値は公的統計で仮置きし、1年分の実績がたまった時点で自社の値に置き換える形で十分です。置き換えを繰り返すほど、人事計画の前提値は自社の実態に近づいていきます。