タレントマネジメントシステムの定義と人事システムとの違い
タレントマネジメントシステムは、従業員のスキル・経歴・評価・キャリア希望といった情報を一か所に集め、配置・育成・後継者の選定に使うための仕組みです。給与計算や勤怠管理を正確に処理することが目的の人事システムに対し、人材をどう活用するかの判断を支える点が異なります。
機能は製品によって異なりますが、中心になるのは次の5つです。
機能 | 内容 | 使う場面 |
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人材データベース | スキル・経歴・資格・研修履歴を従業員ごとに管理する | 必要なスキルを持つ人材の検索 |
スキル管理 | 保有スキルと、職種や役割に求めるスキルの差を見る | 育成計画・採用要件の整理 |
評価の連携 | 人事評価の結果を人材データに反映する | 昇進・昇給・配置の判断材料 |
異動シミュレーション | 異動後の組織構成を試算する | 配置換え・組織改編の検討 |
組織分析 | 部署別の人員構成やスキルの分布を集計する | 組織課題の把握・人材戦略の立案 |
人事システムは月次の給与や勤怠を処理するために情報を持ち、タレントマネジメントシステムは数年先の配置や育成を決めるために情報を持ちます。両者のデータは重なるため、後述する連携先の確認が比較の軸の1つになります。
比較は出力するデータ・載せる情報・連携先・費用の4軸で行う
比較の軸は、出力するデータ、載せる情報の範囲、連携先、費用の内訳の4つです。機能が揃っているかどうかではなく、自社がシステムから何を取り出し、何を預け、何とつなぎ、いくら支払うかを問う形にすると、候補に同じ質問を投げて答えを並べられます。
軸 | 候補に確かめること | 確かめる方法 |
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出力するデータ | 制度で公表・記載する項目を、同じ従業員データから集計して出せるか | 自社データの一部を入れたデモ |
載せる情報の範囲 | 健康情報など取扱いに配慮が要る項目を、閲覧できる人を分けて持てるか | 権限設定の画面・仕様書 |
連携先 | 人事評価・勤怠給与・採用管理から必要な項目を取り込めるか | 連携仕様書・連携項目の一覧 |
費用の内訳 | 初期費用・月額・オプション・運用工数を同じ条件で出せるか | 同じ質問票に基づく見積 |
機能一覧の○×表は、4軸で候補を絞ったあとの最終確認の材料です。
出力するデータは法令が求める公表項目から逆算する
システムが出力できるべきデータは、制度が公表や記載を求める項目から逆算できます。有価証券報告書の人的資本の記載は2023年3月31日以後に終了する事業年度から始まり、2026年3月31日以後に終了する事業年度から人材戦略と給与の決定方針が加わりました。女性活躍推進法では、2026年4月1日から男女間賃金差異と女性管理職比率の公表義務が従業員101人以上の企業に広がっています。
金融庁が2023年1月31日に公布・施行した開示府令等の改正は、人材の多様性の確保を含む人材育成の方針と社内環境整備の方針、およびその方針に関する指標を必須の記載事項にしました。女性活躍推進法などに基づいて「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を公表する場合は、有価証券報告書にも記載します。同じ公表資料は、連結グループの会社ごとの指標に加えて、連結ベースの開示に努めるべきとも述べています。
2026年2月20日に公布・施行された改正では、連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略、それを踏まえた従業員給与等の決定方針、提出会社の従業員の平均給与の対前年比増減率が新たに加わりました。
厚生労働省の女性活躍推進法の改正資料(令和8年2月18日改定版)によると、男女間賃金差異の公表義務は従業員301人以上の企業から101人以上に拡大し、女性管理職比率も101人以上の企業に新たに義務付けられました。従業員100人以下は努力義務の対象です。
301人以上の企業は、この2項目に加えて、女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供の実績7項目と、職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備の実績7項目から、それぞれ1項目以上を選んで公表します。101〜300人の企業は、この14項目から1項目以上を選びます。
制度の項目を、システムの側で集計に必要な元データに置き換えると次の表のとおりです。
公表・記載する指標 | 根拠 | 集計に要る元データ |
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男女間賃金差異 | 女性活躍推進法(101人以上の企業) | 性別・雇用区分・賃金 |
女性管理職比率 | 女性活躍推進法(101人以上の企業)・有価証券報告書 | 性別・役職 |
男性の育児休業取得率 | 有価証券報告書 | 性別・育児休業の取得記録 |
男女別の育児休業取得率 | 女性活躍推進法の選択項目 | 性別・育児休業の取得記録 |
労働者の一月当たりの平均残業時間 | 女性活躍推進法の選択項目 | 勤怠の残業時間 |
有給休暇取得率 | 女性活躍推進法の選択項目 | 有給休暇の付与日数と取得日数 |
採用した労働者に占める女性労働者の割合 | 女性活躍推進法の選択項目 | 採用者数と性別 |
従業員の平均給与の対前年比増減率 | 有価証券報告書(2026年3月31日以後に終了する事業年度から) | 賃金(事業年度別) |
元データは性別・役職・賃金・勤怠・育児休業・採用の6種類です。これを同じ従業員番号にひも付けて持てるかが、出力軸の最初の確認項目になります。
候補ごとに、自社データの一部を入れたデモで次の4点を確かめます。
- 事業年度などの期間を指定して、男女間賃金差異と女性管理職比率を集計して出力できるか
- 会社ごとの集計と、連結子会社を含む集計を切り替えられるか
- 賃金と勤怠のデータを、給与・勤怠のシステムから取り込めるか
- 部署・職種別に、スキルの保有人数を集計できるか。人材戦略の記述で、必要な人材の姿と現状の差を数字で示すために使います
制度の適用範囲や初年度の開示の実態は、人的資本とは|2026年の改正と初年度有報で変わった点を参照してください。
載せる情報の範囲は健康情報の取扱いを先に決めて比べる
健康診断の結果や病歴などの健康情報は、個人情報保護委員会が掲載する留意事項で、要配慮個人情報に該当する場合が多いとされています。人材データに載せる項目と閲覧できる人を先に決めておくと、権限設定の確認が具体的になります。
個人情報保護委員会の留意事項の要点は次の4つです。
- 定義:雇用管理分野の健康情報は、健康診断の結果、病歴、その他の健康に関するもの。ストレスチェックの結果や、労働者が欠勤の際に提出した疾病に関する情報も例に含まれる。要配慮個人情報に該当しない健康情報も、要配慮個人情報に準じた取扱いが望ましい
- 取得と利用:要配慮個人情報に該当する健康情報は、法令に基づく場合などを除き、取得にあらかじめ本人の同意が要る。利用目的はできる限り具体的に特定し、原則として本人の同意なく、その目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはならない
- ストレスチェックの結果:実施者は労働者の同意を得ないで事業者に提供してはならない。提供への同意を得ていない場合は、解雇・昇進・異動に直接の権限を持つ監督的地位の者に取り扱わせてはならない
- 取扱規程:取り扱う者とその権限、取り扱う健康情報の範囲、利用目的と利用方法、安全管理体制などを事業場内の規程として定め、労働者に周知することが望ましい。規程を定めるときは、衛生委員会等で審議したうえで労働組合等に通知し、必要に応じて協議することが望ましい
システムの権限設定は、この規程と同じ内容で組めるかどうかで比べます。確認項目は次の表にまとめました。
確認項目 | 候補に聞くこと |
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項目ごとの閲覧権限 | 健康情報に該当する項目を、評価者や上長から見えない設定にできるか |
閲覧できる人の絞り込み | 人事担当者のなかでも、見られる人を個別に絞れるか |
利用目的の記録 | 項目ごとに利用目的を記録し、運用規程の内容と合わせて管理できるか |
取り込みの選択 | ストレスチェックの結果を、人材データに取り込まない運用にできるか |
閲覧と変更の履歴 | 誰がいつ見て変更したかを、期間を指定して取り出せるか |
どの項目を人材データに載せるかは、産業医や衛生委員会との相談が前提です。
連携先は人事評価・勤怠給与・採用管理の3系統で確認する
連携先は、人事評価、勤怠・給与、採用管理(ATS)の3系統に分けて確認します。人材データには他のシステムで入力された情報の写しになる項目があり、連携できない項目は人手による二重入力になります。
連携元 | 取り込む項目の例 | 候補に確かめること |
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人事評価 | 評価結果・目標・等級 | 評価期ごとに自動で取り込めるか。評価シートの様式を変えたとき、連携の再設定が要るか |
勤怠・給与 | 所属・役職・賃金・残業時間・有給休暇の取得 | 前節の表の公表項目の集計元と一致するか。発令日付つきの履歴で残せるか |
採用管理(ATS) | 応募時の経歴・選考の評価・入社日 | 入社後に従業員データへ引き継ぐ範囲を、項目単位で選べるか |
人事評価システムの選び方は人事評価システム導入のメリットと選び方を解説、採用管理システムの選定基準はATS(採用管理システム)とは?法令上の義務と選定基準を参照してください。
スキルの現状が見えたら育成と採用のどちらで埋めるかを決める
システムの比較は、あるべき人材の姿と現状の差を数字で見て、埋める手段を決めるための準備です。人的資本可視化指針(改訂版)は、自社のあるべき組織・人材の姿と現在の姿を比較したうえで、そのギャップを埋めるために求められるアクションや人事施策を検討・整理する手順を示しています。
同指針は、人的資本を確保するために企業が行う「必要となる人的資本投資」として、人材採用、人材育成、適切な賃金水準の設定、従業員の福利への投資、従業員エンゲージメントへの取組を含む職場環境整備などを挙げています。労働市場に向けた情報開示で明確にする対象と目的の例は、人材ポートフォリオの充足を目的とした採用拡大と、従業員を対象としたエンゲージメントの向上などです。
スキル別の保有人数と必要人数の差が、育成や配置転換で埋まる範囲を超えたときに、採用が選択肢に入ります。システムで不足の大きいスキルが特定できていれば、採用要件は「このスキルを持つ人を何人」という形で書けます。社内に候補がいない職種(CTO・テックリード・AIエンジニアなど)を補う場合は、候補者探しから接点づくりまでを外部に任せる方法も選択肢です。
OffersのAI RPOは、CTO・テックリード・AIエンジニアをAIが見つけ、タイミングを合わせて継続的にアプローチする採用代行です。
費用は内訳を揃えて3年総額で比べる
費用の比較は、候補ごとの見積を初期費用、月額、オプション、契約条件、運用工数の5つの内訳に分け、同じ契約年数の総額に直して並べます。月額だけを並べると、連携や分析を追加したときの総額が見えません。
3年で比べる場合の総額は、初期費用+月額×36か月+オプション費用+運用工数×人件費単価です。
内訳 | 候補に聞くこと |
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初期費用 | データ移行、初期設定、管理者向けの説明が含まれるか |
月額 | 課金の単位が従業員数か、利用者数か、機能ごとか。人数が増減したときの扱い |
オプション | 他システムとの連携、分析ダッシュボード、サーベイの追加費用 |
契約条件 | 最低契約期間、途中での解約、プラン変更の条件 |
運用工数 | 導入後の更新、権限管理、問い合わせ対応にかかる時間と、ベンダーと自社の分担 |
同じ質問票を全候補に送り、空欄になった項目は「別途見積」として総額に足して比べます。
運用工数は入力する人と更新の頻度から見積もる
運用工数は、人材データを入力する人と更新の頻度から見積もります。入力を人事部門だけが担う構成だと、更新の仕事が人事に集まる形です。
厚生労働省が2026年7月31日に公表した令和7年度の能力開発基本調査によると、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所は80.1%でした。問題点の内訳は、指導する人材が不足している59.5%、人材を育成しても辞めてしまう51.6%、人材育成を行う時間がない45.5%です。人も時間も足りないと答える事業所が多い前提で、更新の分担を比較の段階で決めておきます。
更新する情報 | 入力する人の例 | 更新の頻度の例 | 比較で確かめること |
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スキル・経験の自己申告 | 従業員本人 | 評価期ごと | 本人が短時間で更新できる画面か |
評価結果・目標 | 評価システムから取り込み | 評価期ごと | 取り込み後に、人事が手で直す作業が残らないか |
異動・昇格・賃金 | 給与システムから取り込み | 発令のたび | 発令日付つきの履歴で残せるか |
研修・資格 | 研修担当または本人 | 実施のたび | 外部研修の修了を一括で登録できるか |
デモでは、従業員役の人に自分のスキル情報を更新してもらい、操作にかかる時間を測ってください。更新に時間がかかる画面は、運用の負担になります。
タレントマネジメントの定義や導入の進め方は、タレントマネジメントの基本から実践方法まで。エンジニアを育成する手法を身に付けようを参照してください。
候補は重み付きの評価シートで絞り込む
候補は、4つの軸に重みを付けた評価シートで採点して絞り込みます。重みは導入の目的で変わり、制度への対応が最優先なら、出力するデータの配点を最も大きくするのが基本です。
評価軸 | 重みの例(合計100) | 候補A | 候補B | 候補C |
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出力するデータ | 30 | | | |
載せる情報の管理 | 20 | | | |
連携先 | 20 | | | |
費用と運用工数(3年総額) | 30 | | | |
各行は、本記事の確認項目を候補ごとに1〜5点で採点し、重みを掛けて合計します。軸ごとの差が大きい候補は、その軸の弱点が導入後の運用に響くため、先に確かめます。
進め方は次の5ステップです。
- 目的と、出力したいデータの項目を書き出す
- 同じ質問票を候補に送り、見積と仕様書を同じ条件で揃える
- 自社データの一部を入れたデモで、出力・権限・取り込みを確かめる
- 評価シートで採点し、差の大きい軸をベンダーに再質問する
- 更新の分担と運用の担当者を決めて、稟議に出す