人材紹介会社から紹介された候補者の内定辞退が直接応募の辞退と違うのは、企業と候補者のあいだに紹介会社が入る点です。辞退の連絡は紹介会社の担当者から届き、手数料の有無は紹介会社との契約で決まり、代わりの候補者探しも紹介会社との相談から始まります。
法律上、候補者は内定を承諾した後でも辞退でき、企業がそれを止める手段はありません。企業の側で動かせるのは、契約の条件をあらかじめ読んでおくことと、辞退が起きにくい情報の渡し方を紹介会社と分け合うことです。候補者が辞退を伝える側の作法ではなく、求人を出している企業の人事担当者が判断する場面に絞って、手数料の決まり方から再募集までを順に追います。
人材紹介経由の内定辞退で企業が判断する3つの場面
人材紹介経由の内定辞退で企業が判断するのは、辞退の連絡をどの経路で受けて社内の誰に伝えるか、紹介手数料が発生するか、空いた枠を紹介会社の再推薦と自社の募集のどちらで埋めるか、の3つです。直接応募の辞退なら候補者とのやり取りだけで済みますが、紹介会社が入ると、3つとも紹介会社との契約と連絡の取り決めに左右されます。
場面 | 企業が確かめること | 手がかりになる資料 |
|---|
辞退の連絡 | 辞退が確定か、条件しだいで考え直す余地があるか | 紹介会社の担当者からのメール・書面 |
紹介手数料 | 手数料の発生条件と、入社前の辞退の扱い | 契約書と、求人の申込み後に紹介会社が示した手数料・返戻金制度の書面 |
空いた枠 | 再推薦の扱いと、次点の候補者の状況 | 契約の特約・覚書と、自社の選考記録 |
3つのうち、後から取り返しがつかないのは手数料の扱いです。契約書を開くのは辞退の連絡を受けた当日にし、請求が届いてから読む順番にしないことで、紹介会社との食い違いを防げます。
中途採用の内定辞退率は2025年実績で15.0%
マイナビ「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」によると、企業1社あたりの内定者数と採用者数の平均から計算した中途採用の内定辞退率は、2025年が15.0%でした(調査時期2025年12月17〜22日・2025年全体n=1,327)。2024年は9.3%だったので、1年で5.7ポイント上がっています。
同じ調査では、従業員51〜300名の企業が18.9%で規模別に最も高く、業種別では金融・保険・コンサルティングが24.3%でした(マイナビ「中途採用状況調査2026年版」・従業員51〜300名n=410、金融・保険・コンサルティングn=73)。ただし、この内定辞退率は採用手法を区別せずに計算した値で、人材紹介経由に限った辞退率は示されていません。人材紹介経由の内定辞退率を経路別に集計した公的な統計も、2026年10月時点の編集部の調べでは見つかりませんでした。
人材紹介会社は採用到達率が最も高い手法
同じ調査で、人材紹介会社を利用した企業のうち採用に繋がった企業の比率(採用到達率)は66.0%で、調査が並べた採用手法の中で最も高い値でした(マイナビ「中途採用状況調査2026年版」・人材紹介会社の利用者n=621)。人材紹介会社を使った企業の割合を、利用から採用までの段階で並べると次のとおりです。
人材紹介会社を使った段階 | 回答者全体に占める割合 |
|---|
利用した | 41.4% |
内定を出した | 28.5% |
採用に繋がった | 27.3% |
出所:マイナビ「中途採用状況調査2026年版(2025年実績)」(調査時期2025年12月17〜22日・企業の人事担当者n=1,500)。
内定を出した企業と採用に繋がった企業の差は1.2ポイント(本稿で算出)です。ただし、マイナビのこの集計は企業単位の複数回答で、1社の中で何人に内定を出し、何人が辞退したかは表れません。紹介経由の辞退がどれだけ起きているかは、自社の記録で数えるほかありません。数え方は後半の節で扱います。
紹介手数料がかかるかは契約の発生条件と手数料の方式で決まる
内定承諾後に辞退された場合に紹介手数料がかかるかどうかは、法律が一律に決めているのではなく、紹介会社との契約に書かれた手数料の発生条件で決まります。職業安定法と厚生労働省の業務運営要領が定めているのは、有料職業紹介事業者が受け取れる手数料の種類と、受け取りを始められる時点です。
厚生労働省・都道府県労働局「職業紹介事業者を利用する際の主なポイント」も、求人者が実際に支払う手数料の額は個別の契約で定めるものだと説明しています。業務運営要領 第6が手数料を上限制手数料と届出制手数料に分けて定める、徴収を始められる時点は次のとおりです。
方式 | 徴収を始められる時点 | 承諾後・入社前の辞退で確かめること |
|---|
上限制手数料 | 徴収の基礎となる賃金が支払われた日以降(必要な清算の措置を約する場合は求人の申込みの受理以降) | 賃金が一度も支払われていないか。先に受け取った分があれば清算の取り決め |
届出制手数料 | 求人の申込みを受理した時以降(額は厚生労働大臣に届け出た手数料表の額まで) | 契約書が手数料の発生を何に結びつけているか(入社日・内定承諾日など) |
出所:厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第6 手数料。
上限制手数料の最高額は、支払われた賃金額の100分の11(免税事業者は10.3)が基本で、6か月を超えて雇用された場合などは別の計算が定められています。入社前に辞退されて賃金が一度も支払われていなければ、この計算の基礎になる賃金がありません。自社の契約が上限制と届出制のどちらの方式かは、紹介会社が求人の申込みを受理した後に書面などで明示する手数料表で確かめます(業務運営要領 第6の3)。
一方の届出制手数料は、業務運営要領では求人を受け付けた時点から徴収できる仕組みです。内定承諾後の辞退で手数料が生じるかは、契約が手数料の発生を入社に置いているか、内定承諾に置いているか、入社前の辞退について別の定めを置いているかで決まります。契約書で読むのは、成功報酬の定義の条項と、返金・返戻金の条項の2か所です。
手数料と返戻金の条件は紹介会社が書面で示している
手数料と返戻金制度の条件は、紹介会社が求人の申込みを受理した後、速やかに書面や電子メールなどで企業に明示することになっています(職業安定法第32条の13、業務運営要領 第6の3)。明示の義務を負うのは紹介会社の側で、同じ内容は求職者にも示される決まりです。
辞退の連絡を受けたら、契約書とあわせて、この明示の書面も手元にそろえます。契約書と明示の書面で手数料の発生条件の書き方が食い違っているときは、請求が届く前に担当者へ書面で確かめておくと、後から請求の段階で揉めずに済みます。
返戻金制度は入社後の短期離職を主な対象とする仕組み
返戻金制度は、紹介で入社した人が早い時期に辞めたときなどに手数料の全部または一部を返す仕組みで、入社前の内定辞退が対象に入るかは紹介会社ごとの規定しだいです。職業安定法施行規則第24条の5は返戻金制度を、紹介で就職した人の早期離職と、これに準ずる事由があった場合に手数料を返す制度(これに準ずる制度を含む)と定めています。厚生労働省は求人者向けリーフレットで、返戻金制度を「短期間で離職した場合に手数料を返金する制度」と短く説明しています。
入社前の辞退で返金が問題になるのは、手数料を内定承諾の時点や求人の受理の時点など入社前に請求する契約になっていて、すでに請求や支払いが済んでいた場合です。上限制手数料を賃金の支払日より前に受け取るには、雇用関係が成立しなかった場合の精算の措置を約することが条件なので(職業安定法施行規則 別表)、その分が戻るかどうかは精算の取り決めで決まります。届出制手数料なら、返金されるかどうかは、契約の返戻金の規定が入社前の辞退まで含めているか、入社前の辞退について別の条項があるかで決まります。返戻金の規定が「入社後○か月以内の退職」としか書いていなければ、入社前の辞退はその規定の対象外と読むのが自然です。
紹介会社ごとの返戻金制度の有無と内容は、契約の前でも、厚生労働省の人材サービス総合サイトで確かめられます。同じサイトでは、手数料に関する事項と、紹介で就職した人の数・そのうち6か月以内に離職した人の数も公開の対象です(厚生労働省「職業紹介事業者を利用する際の主なポイント」)。返戻金の規定の読み方と、契約で確認したいほかの項目は人材紹介とは?企業側の手数料・契約と会社の選び方にまとめています。
辞退の連絡は紹介会社から受け、当日中に経緯を記録に残す
紹介経由の候補者の辞退を企業に伝えるのは、紹介会社の担当者です。企業は担当者から辞退の事実と、確定か考え直す余地があるかを確かめ、当日中に社内の面接官と承認者へ共有し、紹介会社には受け取った旨と次の進め方を、メールなど記録に残る形で返します。
返信で伝えるのは、辞退を受け止めたこと、再推薦を頼むかどうか、手数料の扱いで確かめたい点の3つです。電話で聞いた内容も、同じ日のうちにメールで要点を送り直しておきます。紹介会社への連絡文の型は人材紹介会社への連絡例文7場面にあります。
候補者は承諾後でも辞退でき、違約金は定められない
内定承諾後の辞退でも、企業が候補者に入社を強いることや、辞退を理由に違約金を取ることはできません。内定によって労働契約が成立していると扱われる場合でも、期間の定めのない雇用であれば、労働者はいつでも解約を申し入れることができ、申入れの日から2週間で雇用は終わります(民法第627条第1項)。
辞退に備えて違約金や賠償額を決めておくこともできません。労働基準法第16条は、使用者が労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定したりする契約を禁じています。内定承諾書に「辞退した場合は○○円を支払う」と書く運用は、この条文に反する書き方です。
引き止めを紹介会社に任せきりにするのも避けたいところです。条件を見直す余地があるなら、提示できる上限を社内で決めたうえで、企業から一度だけ紹介会社経由で示し、それでも辞退なら受け止めます。
辞退者の個人情報は選考の終了後に整理する
辞退で選考が終わった候補者の履歴書や面接記録は、扱いを決めて整理するところまでが辞退対応の一部です。厚生労働省の求人者向けリーフレットは、求人者が確認する項目として、選考が終わった後に求職者の個人情報を削除するなど適正に管理することを挙げています。
将来あらためて声をかけたい候補者がいる場合も、保管するかどうかは本人の同意と紹介会社との取り決めしだいです。面接官の手元のメモや共有フォルダの写しも、削除の対象に含めて確かめます。
空いた枠は再推薦と自社からの接触の2つの経路で埋める
辞退で空いた枠は、紹介会社に再推薦を頼む経路と、自社から候補者に接触する経路の2つを並行させて埋めます。登録型の紹介会社の推薦は登録者の中から選ばれるため、同じ要件で頼み直しても、次の候補者が出てくるまでの時間は紹介会社の登録状況しだいです。
再推薦を頼むときは、辞退の理由と、選考で評価した点・懸念した点を紹介会社に伝え、要件を見直すかどうかを決めます。次点の候補者がいれば、他社の選考状況を紹介会社経由で確かめ、早めに連絡するのが先です。契約に同じポジションへの追加推薦の特約があるかも、このときに確かめます。
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辞退を減らす分担は条件の一致・情報の届け方・回答期限の3つ
紹介経由の内定辞退を減らすうえで企業が持つ役割は、求人票と内定時の条件を一致させること、候補者に届く情報を紹介会社と分け合うこと、回答期限を紹介会社と合わせて決めることの3つです。候補者との日々の連絡は紹介会社が担っていても、条件と情報の中身を決めるのは企業の側になります。
役割 | 企業が持つこと | 紹介会社に頼むこと |
|---|
条件の一致 | 求人票と違う条件を出すときは、雇用契約の締結までに変更として明示する | 候補者に伝わっている条件と提示内容のずれを、内定前に知らせてもらう |
情報の届け方 | 面談・職場見学・配属先の社員と話す機会を用意する | 候補者の懸念と、他社の選考状況を共有してもらう |
回答期限 | 回答期限と、延長に応じる条件を決めて伝える | 期限内の意思確認と、迷っている理由の聞き取り |
紹介会社は候補者の本音を聞ける立場にありますが、聞いた懸念に答える材料を持っているのは企業です。紹介会社から懸念が届いたら、誰が何を候補者に返すかをその場で決めておきます。
条件を変えるときは雇用契約の締結までに明示する
紹介会社を通じて候補者に示した労働条件と違う条件で内定を出すときは、企業が雇用契約の締結までに、変更の内容を候補者に明示しなければなりません(職業安定法第5条の3第3項)。厚生労働省のリーフレットは、明示が要る場面として、当初の明示と異なる条件を示す場合、当初の範囲内で条件を特定する場合、当初示した条件を削除する場合、当初示していなかった条件を新たに示す場合の4つを挙げています。
求人票に書いた年収の幅の中で金額を決めて内定を出す、複数あった勤務地を1つに決めるといった場面も、この4つのうち「当初の範囲内で特定する場合」に当たります。内定の時点で初めて条件の違いを知った候補者が辞退を考え始めるのは、自然な流れです。紹介会社への求人の申込みから入社までの工程ごとの期限は人材紹介のフロー9工程で一覧にしています。
紹介会社ごとの辞退は段階と理由を1件ずつ記録して数える
紹介経由の内定辞退が減っているかどうかは、紹介会社ごとに、内定を出した人数と入社した人数、辞退が起きた段階と理由を1件ずつ記録して数えないと分かりません。マイナビの調査が示す15.0%は全体の平均値から計算した値で、自社の紹介経由の辞退率と見比べるには、同じ考え方で自社の数字を出す必要があります。
記録する項目 | 記録の例 | 使い道 |
|---|
紹介会社名 | A社・B社 | 紹介会社ごとの辞退の偏りを見る |
内定日・回答期限・辞退日 | 内定から辞退まで○日 | 回答期限の長さと辞退の関係を見る |
辞退の段階 | 内定通知後の承諾前/承諾後の入社前 | 手数料の扱いが変わる境目で分ける |
辞退の理由(紹介会社経由で聞いた内容) | 年収・現職からの引き止め・他社の内定 | 条件と情報の届け方のどちらを直すかを決める |
把握していた他社の選考状況 | 最終面接が1社など | 回答期限の決め方を見直す |
辞退率の式は「入社前に辞退した人数÷内定を出した人数」で、承諾前の辞退と承諾後の辞退は分けて数えるのが前提です。承諾後の辞退が多い紹介会社とは、手数料の発生条件と候補者への情報の渡し方を、次の契約更新の前に話し合う材料になります。承諾率の分母の置き方は承諾率とは?分母の置き方で変わる3つの指標で扱っています。
人材紹介経由の内定辞退で押さえる要点
人材紹介経由の内定辞退で企業が押さえる要点は、手数料は契約の発生条件で決まること、返戻金制度は入社後の短期離職を主な対象とする仕組みであること、辞退を減らす役割の中身は企業が決めることの3つです。
- 承諾後の辞退に手数料がかかるかは、契約が手数料の発生を何に結びつけているかで決まる。法令と業務運営要領が定めるのは徴収を始められる時点まで(上限制は賃金の支払日以降で、清算の措置を約する場合は求人の受理以降も可。届出制は業務運営要領で求人の受理以降)
- 返戻金制度は「短期間で離職した場合」を主な対象とする仕組みで、入社前の辞退がその対象に入るかは契約の書き方を読む
- 辞退の連絡は紹介会社から受け、当日中に社内共有と記録に残る返信を済ませる。候補者に違約金は課せない
- 空いた枠は再推薦と自社からの接触を並行させる
- 求人票と違う条件で内定を出すなら、雇用契約の締結までに変更として明示する
- 紹介会社ごとの辞退は、段階と理由を分けて数える
紹介経由に限らない内定辞退の全体像と、選考の入口から辞退を減らす手順は内定辞退防止とは?辞退率の平均とオファー承諾率の上げ方にまとめています。