人材紹介のフローは、紹介会社選びから入社後の離職確認までの9工程で進みます。法令で企業側に期限が立つ場面は、そのうち2つ(求人申込み時の条件の伝達と、雇用契約の締結までの変更の明示)だけです。
人材サービスを使った企業の83.8%は、紹介会社の早期離職者数と返金制度を確かめられる国のサイトを知りません(厚生労働省委託調査・2021年実施・n=561)。このサイトでは、紹介会社ごとに「紹介で入社した人のうち6か月以内に辞めた人数」と返金(返戻金)制度の中身が誰でも見られます。
紹介会社に任せれば進むと思われがちですが、条件の伝え漏れや請求時期の食い違いは、たいてい企業側の手元で起きます。この記事では、厚生労働省が求人者向けに示す業務の流れを企業側の9工程に並べ直し、各工程の法令上のタイミングを早見表にしました。紹介会社の選び方や手数料の相場そのものは別の記事で扱い、ここでは「いつ・誰が・何をするか」に絞ります。
人材紹介のフローは9工程、法令上の期限がある場面は2つ
人材紹介を企業側から使う流れは、次の9工程です。企業側の期限と、同じ工程で紹介会社が負う義務を分けて載せました。
工程 | 企業がすること | 企業側の期限 | 紹介会社側の義務(参考) |
|---|
1 紹介会社を選ぶ | 許可の有無、就職者数と6か月以内の離職者数、返戻金制度を公的サイトで確かめる | 契約の前 | 実績と返戻金制度をサイトに掲載する |
2 契約と求人の申込み | 業務内容や賃金などの労働条件を紹介会社へ伝える | 求人の申込み時 | 受理後すみやかに手数料と返戻金制度を書面等で明示する |
3 要件のすり合わせ | 人材要件、選考基準、面接の日程枠を決める | 法令上の期限なし | ― |
4 推薦を受ける | 候補者情報が本人の同意を得たものかを確かめる | 法令上の期限なし | 原則、求職者と最初に接触する時点までに労働条件を明示する |
5 書類選考と面接 | 合否と理由を返し、選考後の個人情報を削除などで管理する | 法令上の期限なし | ― |
6 内定と条件提示 | 当初と違う条件は変更として明示する | 雇用契約の締結まで | ― |
7 入社 | 雇用契約を結び、算定基礎になる年収と入社日を紹介会社と突き合わせる | 法令上の期限なし | ― |
8 請求と支払い | 請求の時期と算定基礎を契約と照らす | 法令上の期限なし | 上限制は賃金の支払日以降、届出制は求人の受理以降に徴収できる |
9 入社後の確認 | 6か月以内に辞めたかの調査に協力し、辞めたら返戻金の規定を確かめる | 法令上の期限なし(紹介会社から調査の依頼があれば協力する) | 無期雇用で入社した人に2年間は転職を勧めない |
出所:厚生労働省・都道府県労働局「求人者の皆さまへ 職業紹介事業者を利用する際の主なポイント」「職業紹介事業の許可条件が追加されます」をもとにOffers再構成。
厚生労働省の求人者向けリーフレットが企業側の期限として示すのは、工程2の求人申込み時の条件の伝達と、工程6の雇用契約の締結までの変更の明示の2つです。工程1の「契約の前」は法令の期限ではありませんが、後からやり直せない確認なので表に入れました。工程8の請求の照合と工程9の離職調査への協力は、期限こそ無いものの企業側が手を動かす場面です。残りの工程では、企業は紹介会社の義務が果たされているかを確かめる立場になります。
厚生労働省のフロー図は13工程、企業が手を動かすのは一部
厚生労働省の求人者向けリーフレットには、職業紹介業務の流れが13の工程で描かれています。事業者の選択、求人の受理、管理簿の記入、マッチング、労働条件の明示、応募、条件の変更明示、選考、雇用関係の成立、手数料の請求と支払い、手数料管理簿の記入、就職後の早期離職確認です。
このうち管理簿の記入やマッチングは紹介会社の内部作業で、企業からは見えません。本記事の9工程は、企業が判断や確認をする場面だけを残して並べ直したものです。
人材サービス利用企業の8割が知らなかった決まり(2021年)
フローの各工程には企業を守る決まりが置かれていますが、2021年6月の時点では使う側の企業にほとんど知られていませんでした。厚生労働省の委託調査で、紹介会社か求人サイトなどの人材サービスを過去3年間に使った企業561社に尋ねた結果のうち、8割前後が知らなかった2つの決まりが次の表です。
決まり | 知らなかった企業の割合 |
|---|
紹介会社の実績や返戻金制度を載せた「人材サービス総合サイト」がある | 83.8% |
紹介会社は、紹介で入社した人に2年間は転職を勧めてはならない | 80.0% |
出所:厚生労働省「令和3年度厚生労働省委託調査 採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査 報告書」(2022年3月・n=561)。
同じ調査で、人材サービス総合サイトで紹介会社を検索したことがある企業は1.6%でした。一方で、紹介会社を使った困りごとに「紹介された人材がすぐやめてしまう」を挙げた企業は13.9%ありました。早期離職に困った経験があっても、それを契約前に確かめる手段はほとんど使われていない、という構図が見えます。
工程1 紹介会社選びは公的サイトの実績から始める
紹介会社を選ぶ段階で見ておきたいのが、厚生労働省が運営する人材サービス総合サイトです。許可を受けた事業者を検索でき、各社の実績と手数料、返戻金制度をここで確認できます。
職業紹介事業者は、2018年1月1日施行の改正職業安定法により、このサイトで実績を公開することが義務になりました。掲載される主な項目は次のとおりです。
掲載項目 | 企業側での読み方 |
|---|
年度ごとの就職者数 | その会社がどの程度の規模で紹介しているか |
うち無期雇用で就職した人の数 | 正社員中心の紹介かどうかの目安 |
そのうち6か月以内に解雇以外の理由で離職した人の数 | 早期離職の多さ。職種や業界で事情が違うため参考情報として読む |
手数料表 | 方式(上限制か届出制か)と料率 |
返戻金制度の有無と内容 | 早期に辞めた場合に何が戻るか |
出所:厚生労働省・都道府県労働局「職業紹介事業者の皆様へ 事業運営のルールが変わります」(2018年1月1日施行)。
6か月以内の離職者数は、厚生労働省自身が「参考情報の一つとして確認しましょう」と添えている数字です。単独で優劣を決めず、同じ職種を扱う2〜3社を並べ、無期雇用で就職した人の数に対する割合で見比べると、会社の規模の差に引きずられずに済みます。
会社の種類ごとの選び方は人材紹介とは?企業側の手数料・契約と会社の選び方で整理しました。
工程2 契約時に手数料と返戻金を書面で受け取る
紹介会社と契約し、求人を申し込むと、紹介会社には手数料と返戻金制度を明示する義務が生じます。職業紹介事業の業務運営要領の定めは、求人の申込みを受理した後すみやかに、書面や電子メール等で明示するというものです。
手数料表だけでは個々の紹介の金額や発生条件が分からない場合もあります。そのときは遅くとも個々の紹介の実施までに、金額と発生条件を誤解のない形で示す必要があります。書面が届かないまま推薦が始まったら、その時点で確認を求めてかまいません。
企業側にも、申込みの時点で果たす義務がある
求人の申込みでは、企業側にも2つの務めがあります。1つは、法令違反の有無などについて紹介会社から自己申告を求められたら、正当な理由がない限り応じることです。
もう1つは、求職者が従事する業務の内容などの労働条件を、紹介会社へ明示することです。紹介会社は原則として求職者と最初に接触する時点までに条件を示さなければならないため、企業から伝わっていないと推薦の段階で止まります。
明示が求められる事項は、業務の内容、契約期間、試用期間、就業場所、労働時間と休日、賃金、社会保険の適用、雇用主の名称、派遣として雇う場合はその旨、受動喫煙の防止措置です。2024年4月1日施行の改正職業安定法施行規則で、従事すべき業務の変更の範囲、就業場所の変更の範囲、有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)が加わりました(厚生労働省「職業紹介事業者の皆さま 2024年4月1日施行 改正職業安定法施行規則」)。変更の範囲とは、雇入れ直後にとどまらず、将来の配置転換の見込みも含めた、契約期間中に変わりうる範囲のことです。求人票の書き方は求人票とは?記載事項と食い違いを防ぐ書き方で詳しく扱っています。
工程3と4 要件のすり合わせと推薦は基準を決めて回す
要件のすり合わせには法令上の期限がなく、進め方は企業と紹介会社の合意で決まります。ここで決めておくと後が速いのは、人材要件、選考基準、面接の日程枠の3点です。
人材要件は「必須」と「歓迎」を分けて伝えます。全部を必須にすると推薦が止まり、全部を歓迎にすると書類選考で落とす件数が増えるためです。選考基準は、面接官の間で合否の線をそろえるために、推薦が始まる前に文章にしておきます。
推薦を受けるときに企業が確かめるのは、候補者の個人情報が本人の同意を得て渡されたものかどうかです。厚生労働省のリーフレットは、職業紹介事業者を通じて個人情報を得る場合に本人の同意を確認するよう求人者に求めています。選考が終わった後の情報は、削除などで適正に管理します。
推薦を待つだけにしない選択肢
人材紹介の推薦は、紹介会社に登録している求職者の中から届くのが基本です。登録者の中に求める人がいなければ、フローは工程4で止まったままになります。この段階で企業側が法令上できることは無く、推薦が届くかどうかは紹介会社の登録者層しだいです。
特にエンジニアやAI人材のように転職市場に出てくる人が少ない職種では、人材紹介は紹介会社の登録者から選ぶ仕組みなので、登録していない人には推薦が届きません。この制約を前提に、推薦を待つ経路と、自社から候補者に会いに行く経路を並行させる考え方があります。推薦が届かないまま時間が過ぎている求人は、紹介とは別の手段を検討する目安です。OffersのAI RPOは、CTO・テックリード・AIエンジニアをAIが見つけ、時期を合わせて継続的に声をかける採用代行です。紹介と組み合わせる前提で相談できます。
工程5と6 条件の変更は雇用契約の締結までに明示する
書類選考と面接の結果は、合否だけでなく理由も紹介会社へ返します。理由が返らないと、次の推薦の精度が上がらないためです。紹介会社を通じて面接日程を調整する場合は、面接官の空き枠を社内で先に押さえておくと、推薦から面接までの日数を縮められます。
内定の段階で注意したいのが、条件の変更です。紹介会社を通じて最初に示した条件と違う内容で内定を出す場合、企業は雇用契約の締結までに、変わった点を求職者へ明示しなければなりません。厚生労働省のリーフレットは、明示が必要な変更を次の4つに分けています。
類型 | 例 |
|---|
当初と異なる条件を示す | 求人では年収600万円と示したが、内定では550万円で提示する |
当初の範囲内で特定する | 「勤務地は東京または大阪」を「東京」に確定する |
当初示した条件を削除する | 求人に書いた手当を内定の条件から外す |
当初示していなかった条件を加える | 求人に無かった転勤の可能性を内定時に加える |
出所:厚生労働省・都道府県労働局「求人者の皆さまへ 職業紹介事業者を利用する際の主なポイント」。例は Offers 編集部が作成。
左の4類型は厚生労働省の資料にあるもので、右の例は資料には無く、Offers 編集部が説明のために作りました。
内定通知書に変更点が埋もれていると、入社後に「聞いていない」という食い違いが起きやすくなります。変わった箇所を一覧にして渡す形が確実です。
工程7と8 手数料が発生するタイミングは方式で違う
入社によって雇用関係が成立すると、手数料の請求が近づきます。いつから請求できるかは、紹介会社が採用している手数料の方式で決まります。
方式 | 徴収できる時期 | 上限 |
|---|
上限制手数料 | 徴収の基礎となる賃金が支払われた日以降(後で精算すると約束して前払いで受け取る場合は、求人の受理以降) | 原則として支払われた賃金額の11.0%(免税事業者は10.3%) |
届出制手数料 | 求人の申込みを受理した時以降 | 厚生労働大臣に届け出た手数料表の額 |
出所:厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」第6 手数料。
届出制は、法令上は求人を受理した時点から徴収できる方式です。実際にいつ請求するかは、各社の契約で決まります。請求書が届いたら、起点の日付と、算定の基礎にした年収に賞与や手当を含めているかを契約書と照らしてください。
料率の相場や職種ごとの1件あたりの金額は人材紹介の費用で扱っているので、ここでは時期の確認にとどめます。
工程9 入社後6か月の離職確認と返金の条件
入社で手続きが終わるわけではありません。紹介会社は、紹介で就職した人が6か月以内に辞めたかどうかを調べ、人材サービス総合サイトに件数を載せる義務を負っています。調査の依頼が来たら、企業も協力する必要があります。
早期に辞めた場合に手数料の一部が戻るかどうかは、返戻金制度の有無と内容しだいです。返戻金制度の中身は各社が定めるもので、厚生労働省の指針は制度を設けることが望ましいとしたうえで、その有無と内容を明示し、公的サイトに載せることを紹介会社に求めています。何か月以内の離職で何割が戻るのかは、工程2で受け取った書面で確かめます。前出の委託調査では、返戻金制度を設けることが望ましいとされていること自体を知らなかった企業が57.6%でした。返戻金を受け取ったことがある企業は9.6%、紹介会社が応じず受け取れなかった企業は2.7%でした。見る場所は、手数料表とあわせて明示される返戻金制度の説明で、契約書では「返金規定」「返戻金」といった条項がそれにあたる、と考えてください。少なくとも、対象になる在籍期間、戻る割合、返金を求める手続きの3点を読んでおきます。
紹介会社は2年間、紹介した人に転職を勧めてはならない
もう1つ、企業を守る決まりがあります。紹介会社は、紹介で入社した人(期間の定めのない雇用に限る)に対し、就職した日から2年間は転職を勧めてはなりません。
この決まりは職業安定法の指針にあり、2025年1月1日からは職業紹介事業の許可条件にも加わりました。同日以降の許可や更新から条件として付き、それより前に指針に違反した事業者にも、是正指導とあわせてこの条件が付されます。
人材紹介のフローを止めないために企業側で決めておくこと
9工程のうち、企業の対応が遅れると全体が止まるのは工程3から工程6です。候補者は複数の企業の選考を並行して受けていることがあり、返事が遅れるほど他社で先に決まる可能性が高まります。
止めないために決めておきたいのは、次の3つです。
決めておくこと | 理由 |
|---|
紹介会社との窓口を1人にする | 質問と回答の行き違いを防ぐ |
書類選考の返答期限を社内で決める | 候補者が他社の選考に進む前に面接を組める |
不合格の理由を1行でも返す | 次の推薦が要件に近づく |
採用フロー全体の設計、つまり人材要件の定義から選考基準の作り方までは採用フローとは?6工程の設計手順と法令要件で扱いました。
契約前の確認だけは後からやり直せない
9工程のうち、紹介会社を選び直せるのは工程1だけです。契約して推薦が始まってから返金の条件や早期離職の実績を知っても、その紹介会社との取引はもう動いています。
人材サービス総合サイトに実績が載っていない紹介会社もあります。先の委託調査では、サイトに6か月以内の離職者数を掲載していると答えた紹介会社は42.0%でした(n=621)。載っていなければ、契約の前に紹介会社へ直接、就職者数と6か月以内の離職者数、返戻金制度の中身を尋ねてください。答えられるかどうかも、その会社の運用姿勢を見る材料になります。