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組織

人的資本の事例、改正後の有報で10社が書いた給与と戦略

人的資本の事例、改正後の有報で10社が書いた給与と戦略
鈴木 裕斗監修者

株式会社overflow / 代表取締役 CEO

鈴木 裕斗

株式会社サイバーエージェントに新卒入社。広告営業を経て、Amebaプラットフォームの管轄責任者に就任。その後、スタートアップ企業に入社、代表取締役就任を経て2ヶ月後に株式会社ディー・エヌ・エーにM&A、子会社化。子会社代表取締役とDeNA広告部長を兼任。2017年6月、株式会社overflowを創業。2018年から2020年9月末までエキサイト株式会社の社外取締役を兼任。

人的資本の事例を探すと、出てくるのは各社の統合報告書や企業サイトの取り組みを集めた紹介記事が中心です。ところが2026年の6月、3月決算の上場企業が出した有価証券報告書には、それまで無かった欄が加わりました。人材戦略、給与の決め方、そして平均給与が前の年からどれだけ動いたかです。

同じ欄に、会社ごとにまったく違う書き方が並びました。数字だけを置いた会社もあれば、数字が下がった理由を自分から書いた会社もあります。数字だけの報告書では、動いた理由を読み手が自分で推し量るしかありません。

金融庁が前年の開示を好事例に選んだ上場10社の、改正初年度の有価証券報告書を実物で読み比べました。持ち帰る判断基準は1つ、増減率の数字の横に、動いた理由を自社の言葉で書けるかです。制度の全体像は人的資本の解説記事にまとめています。

人的資本の事例を読む材料は2026年3月期の有価証券報告書

人的資本の開示事例を改正後の様式でまとまって読める最初の材料は、2026年3月期の有価証券報告書です。金融庁が2026年2月20日に公布した改正開示府令により、2026年3月31日以後に終わる事業年度の報告書から、人材戦略・給与等の決定方針・平均給与の対前年比増減率の3つの記載が義務になりました。

具体的な適用時期は改正府令の附則で定められ、人的資本開示と同じ時期から適用される総会前開示の改正について、金融庁は施行日(2026年2月20日)以後に提出する有価証券報告書での早期適用が可能である旨を附則に規定していると回答しています(金融庁のパブリックコメント回答 p.59 No.199)。それより前の決算期の報告書でも、新しい様式は早く使えたことになります。ただし義務として全社がそろうのは2026年3月期からで、3月決算の企業は2026年6月にこの様式の報告書を出しました。2023年3月期から始まった人的資本の開示義務は、多くの解説記事で紹介されてきています。今回の改正はそこに人材戦略・給与等の決定方針・平均給与の増減率の3つを足し、従業員の状況の記載場所も移したもので、各社の書き方はまだ1年分しかありません。

改正で有価証券報告書に加わった3つの記載

改正で求められるようになった記載は次の3つで、いずれも「第4【提出会社の状況】」の「5【従業員の状況等】」に置かれます。従来の「従業員の状況」は、第1【企業の概況】からこの位置へ移りました。

記載

求められる内容

人材戦略

連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略

従業員給与等の決定方針

人材戦略を踏まえた給与等の決め方(提出会社の方針に限ってよい。持株会社は最大人員会社の方針も書く)

平均給与の対前年比増減率

提出会社の従業員の平均給与が前年からどれだけ動いたか

持株会社のように主に子会社の経営管理を行う会社は、提出会社に加えて最大人員会社についても、給与等の決定方針と、平均給与・増減率などの数字を書きます。最大人員会社は従業員数が最も多い国内の連結子会社で、その会社の人数が連結全体の過半数に届かなければ、次に多い会社も含めます。

本記事で読む10社

対象は、金融庁『記述情報の開示の好事例集2025』の「人的資本、従業員の状況」で好事例に選ばれた12社のうち、2026年3月期の有価証券報告書を金融庁の電子開示システム(EDINET)で確認できた10社です。好事例集は2025年3月期(イズミは2025年2月期)の開示を選んだもので、本記事はその翌年の報告書を読んでいます。

会社

好事例集での区分

2026年3月期の提出日

双日

従業員の状況

2026年6月9日

デンソー

従業員の状況

2026年6月11日

横浜フィナンシャルグループ

人的資本

2026年6月11日

カプコン

人的資本

2026年6月16日

丸井グループ

人的資本

2026年6月19日

日清食品ホールディングス

従業員の状況

2026年6月22日

日立製作所

人的資本

2026年6月22日

ニッスイ

従業員の状況

2026年6月23日

うるる

人的資本(中堅・中小)

2026年6月24日

熊谷組

従業員の状況

2026年6月25日

12社のうちイズミは2月決算で、2026年5月に出した2026年2月期の報告書は、新しい様式を早く使うことはせず改正前の様式でした。増減率の欄もありません。NTTデータグループは、株式併合により2025年9月26日に東京証券取引所プライム市場で上場廃止となっており、上場企業を読む本記事の対象から外しました。

平均年間給与の増減率は10社で△4.3%から8.1%に開いた

10社が書いた提出会社の平均年間給与の対前事業年度増減率は、最も高い熊谷組の8.1%から、最も低い日清食品ホールディングスの△4.3%まで開きました。10社のうち3社はマイナスで、数字は各社の2026年3月期の報告書の「従業員の状況」から転記しています。

会社

従業員数(提出会社)

平均年間給与

対前事業年度増減率

熊谷組

2,740人

9,179,351円

8.1%

カプコン

3,593名

9,852千円

7.3%

うるる

255人

6,690,466円

7.1%

デンソー

43,889名

9,152,532円

6.1%

日立製作所

25,934人

9,949,714円

+3.5%

ニッスイ

1,489人

8,506,166円

1.8%

丸井グループ

275名

6,888,700円

1.0%

横浜フィナンシャルグループ

701人

9,952千円

△1.0%

双日

2,519名

12,571,801円

△1.3%

日清食品ホールディングス

980名

8,425,365円

△4.3%

出所: 各社『有価証券報告書』2026年3月期(提出会社の状況・2026年3月31日現在)、単位と符号は各社の表記のまま転記。

表の数字は各社の賃上げの大きさを並べたものではありません。増減率は平均値の変化なので、誰が入り、誰が辞め、賞与がどう動いたかで上下します。マイナスの3社のうち2社は持株会社で、提出会社の人数は数百人規模です。

増減率は賃上げ率と同じ数字にならない

ニッスイの有価証券報告書は、賃上げの率と平均年間給与の増減率が一致しないことを、自分から数字で示しました。定期昇給とベースアップの平均改定率は約5.5%でしたが、平均年間給与の増減率は1.8%にとどまりました。数字はいずれも同社の2026年3月期の報告書の人材戦略の欄にあります。

差の理由として、同社は従業員構成の変動と業績連動賞与の支給水準の変化を挙げました。そのうえで、個人単位で見た年間給与の増減率の中央値は約6%だったと参考値を添えています。平均と中央値を並べたことで、多くの従業員の給与は上がっていると読めるようになりました。

デンソーも表の直後に注記を置きました。増減率は賃上げに加えて、年齢構成や採用・退職の動向、賞与水準、時間外労働の増減の影響を受け、賃上げ水準だけを示すものではないという内容です。2026年の賃上げでは、労働組合の要求「昇給額 23,500円/月・人、賞与6.4か月」に満額回答したことも、同じ注記の続きにあります。

横浜フィナンシャルグループの△1.0%は、採用ではなくグループ体制の見直しにともなう動きです。同社は当事業年度から、主に横浜銀行・東日本銀行の業務に従事する兼務出向者も提出会社の従業員に含めて記載し、比較のために前事業年度も同じ基準で数え直した数字(430人・10,059千円)を載せました。そのうえで、グループ体制の見直しにともない従業員数が前事業年度より271人増えたことに加え、人員構成の変化により平均年間給与が前年度比△1.0%になったと注記しています。

採用で人が増えると平均年間給与は下がることがある

日清食品ホールディングスは2026年3月期の報告書で、子会社の湖池屋の平均年間給与が前事業年度より0.7%減った理由を、採用の拡大による人員構成の若返りと注記しました。同じ注記によると、湖池屋の平均年齢は0.6歳、平均勤続年数は0.3年下がりました。

同じ注記には、新規採用者を除いた継続雇用者の実態ベースでは前事業年度比3.9%の上昇だったとも書かれています。採用を増やした年は、平均年間給与の増減率が低く出ることがあります。人を増やす計画を持つ会社なら、同じ形の注記を前もって用意しておくのも一案です。

採用で人を増やす計画があるなら、増減率への影響と並べて、採用がどこで詰まりやすいかも先に見ておきたいところです。Offersのエンジニア採用力チェックは、企業のURLから公開情報をもとに採用力を5指標24項目で採点し、レポートで返します。公開情報だけで採点するため、選考の通過率や辞退率など社内のデータは含みません。社内の採用データとは別に、外から見える姿を確かめる用途です。

持株会社は子会社の平均年間給与も並べた

持株会社の3社は、提出会社に加えて最大人員会社の平均年間給与と増減率を並べました。提出会社の数字が小さな本社部門のものでも、子会社の欄を見れば、グループの多くの従業員の給与がどう動いたかが分かります。

持株会社

提出会社

最大人員会社

次に従業員が多い会社

横浜フィナンシャルグループ

△1.0%(701人)

横浜銀行 6.2%(4,053人)

なし

丸井グループ

1.0%(275名)

エポスカード 3.6%(1,437名)

丸井 3.0%(940名)

日清食品ホールディングス

△4.3%(980名)

日清食品 2.3%(1,565名)

湖池屋 △0.7%(784名)

出所: 各社『有価証券報告書』2026年3月期、Offers 編集部が転記。

日清食品ホールディングスと丸井グループが2社目まで書いているのは、最大人員会社の人数が連結全体の過半数に届かない場合に、次に多い会社も含めるという決まりによるものと読めます。

当期の増減の理由を書いたのは10社中3社

10社のうち、当期の増減率がなぜその数字になったかを注記や本文で書いたのは、ニッスイ・横浜フィナンシャルグループ・日清食品ホールディングス(湖池屋の欄)の3社でした。デンソーは増減率が賃上げ以外の要因でも動くことを一般的に説明する注記を置きましたが、当期の6.1%の原因は書いていません。残る6社には、増減率の理由に触れた注記はありませんでした。

数字だけでも法令上の記載は満たします。ただ、△4.3%のように大きく動いた数字ほど、読み手は理由を探します。日清食品ホールディングスは湖池屋の欄には理由を書きましたが、提出会社の△4.3%には理由を書いていません。読み手が自分で推し量るしかない形です。

人材戦略の欄は3つの書き方に分かれた

新しく設けられた「人材戦略に関する基本方針等」の欄は、10社の書き方が3つに分かれました。別の欄を参照させるだけの会社、要旨を書いて詳細を別の欄に置く会社、この欄に人材戦略の本文を置く会社の3つで、分類は各社の第4の5を読んで行いました。

書き方

会社

参照だけ

うるる・熊谷組・双日

要旨(詳細は別の欄)

デンソー・日立製作所・丸井グループ・横浜フィナンシャルグループ・カプコン・日清食品ホールディングス

この欄に本文

ニッスイ

出所: 各社『有価証券報告書』2026年3月期、Offers 編集部が分類。

参照だけで済ませた3社

うるる・熊谷組・双日の3社は、この欄に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の該当箇所を示す1文を置き、中身はそちらで書いています。人的資本の取り組みを2023年3月期からサステナビリティの欄に書いてきた会社にとって、記述を重複させない現実的な選択です。

参照だけの欄は、報告書のこの位置だけを読む人には何も伝えません。ただし熊谷組は人材戦略を参照で済ませた一方、給与の決定方針は欄の中に書いています。給与の欄だけは新しく書き下ろす、という分け方もあります。

要旨を書いて詳細を別の欄に置いた6社

カプコンは要旨型の中でも、企業戦略との結びつきをはっきり示しました。中期経営目標の「毎期10%営業利益増益」を最初に置き、その達成に要る取り組みから、人材の確保と育成、職場環境の再整備という2つの重点項目を、2026年3月期の報告書で導いています。

改正が求めるのは「企業戦略と関連付けた人材戦略」です。カプコンの書き方は、事業の目標、人材の重点、詳細の参照先という順に並ぶので、数行で関連付けが読み取れます。日立製作所は1文の要旨、デンソーは創業以来の考え方を1段落で書き、どちらも詳細を別の欄へ送りました。丸井グループがこの欄に置いたのは経営理念とビジョンの段落で、人材戦略の基本方針そのものはサステナビリティの欄を参照させています。参照の1文だけの3社との違いは、この段落の有無です。

日清食品ホールディングスは、持続的成長に向けて企業戦略との連動性を高めるため、中期人財戦略を新たに策定したと書きました。成長戦略を支える経営体制、グローバル経営を支える人財マネジメント、国内事業の組織と人財基盤という3つの軸を、この欄では約250字の要旨で示しています。サクセッションの枠組みなど中期人財戦略の中身はサステナビリティの欄にあり、この欄に参照の一文は置いていません。

この欄に人材戦略の本文を置いたのはニッスイ1社

ニッスイは、ガバナンスから経営戦略と人財戦略の連動、5つの観点、指標と目標までを、すべてこの欄に置きました。事業等のリスクの欄の側から、この欄を参照させています。ほかの欄からこの欄へ参照させた会社には横浜フィナンシャルグループもありますが、参照先は人材戦略ではなく給与の決定方針です。人材戦略の本文をこの欄に置き、その本文へほかの欄から参照させた形は、10社でニッスイだけでした。

給与の決定方針は何と連動させるかで4つに分かれた

10社の従業員給与等の決定方針は、給与を何と連動させるかで、業績・市場水準・役割と評価・求める人材像の4つに分かれました。多くの会社は役割や評価の反映と、業績・市場の参照を組み合わせて書いているため、下の表は各社の2026年3月期の報告書の方針のうち、仕組みとして具体的に書かれた部分で分けています。

連動させる先

会社

書かれている内容

業績

カプコン

連結営業利益と従業員の金銭報酬総額を連動させる賞与

市場水準

日清食品ホールディングス

同規模・同業界のベンチマーク対象企業群の統計水準を参考に検証

市場水準

日立製作所

グローバル報酬フィロソフィーの三原則の1つ目が市場競争力の確保(ほかにペイ・フォー・パフォーマンスと透明性)

役割と評価

デンソー

各階層の役割を定義し、役割に期待される行動と成果の評価を給与・賞与に反映(水準は労働市場への競争力を求める社員の視点・社会・経営の3つの視点で決める)

役割と評価

熊谷組

一般社員は職能給、管理職以上は功績資格給と、役割給または所長能力給の組み合わせ

役割と評価

丸井グループ

パフォーマンスとバリューの二軸評価

役割と評価

双日

役割等級制度をもとに成果と行動の両面で評価・処遇

役割と評価

横浜フィナンシャルグループ

年功的・属人的要素に偏らない実力主義で、役割・責任・業績への貢献度・能力の評価を処遇に反映(横浜銀行は業績連動型の賞与資金量も導入)

求める人材像

ニッスイ

役割・成果・能力に加え、求める人財像に基づく行動特性の発揮

求める人材像

うるる

求める人物像と報酬の連動、評価と業績賞与の二階建て

出所: 各社『有価証券報告書』2026年3月期、Offers 編集部が分類(双日とうるるはサステナビリティの欄の記述)。

カプコンは平均年間給与を5期分と年代別で出した

カプコンは2026年3月期の報告書で、平均年間給与(単体)を2022年3月期から5期分並べ、7,127千円から9,852千円まで、2022年3月期比で138.2%に上がった推移を示しました。同じ報告書の給与の決定方針には、連結営業利益と従業員の金銭報酬総額を連動させる賞与制度を導入したと書かれています。

同じ表には、年収帯ごとの分布と、年代別の平均給与(当期は20代6,502千円、50代12,987千円)も5期分並びました。平均の1つの数字だけでなく年収帯と年代の内訳が5期分あるため、読み手はどの層の給与がどう動いたかを表から追えます。

採用担当が自社の開示で押さえる3つの点

採用を担う部署が自社の開示で押さえる点は3つあります。採用で人数が増えた年の増減率を説明すること、中途採用の提示年収の決め方を給与の決定方針と食い違わせないこと、採用の人数を人材戦略の指標に入れることです。1つ目と3つ目は10社の報告書に実例があり、2つ目は10社の報告書には書かれていない、Offers 編集部からの提案です。

有価証券報告書はEDINETで誰でも読める書類で、今回の改正で平均年間給与の横に前の年からの増減率が並ぶようになりました。採用の数字と給与の数字が同じ報告書に載るため、片方の動きをもう片方で説明できるように準備しておけば、注記の1行が書きやすい状態です。

採用で増えた人数と平均年間給与の増減を同じ注記で書く

採用を増やす年は、平均年間給与の増減率が下がる前提で、注記の1行を先に用意しておきます。日清食品ホールディングスが湖池屋の欄に付けた注記のように、人員構成の変化(平均年齢・勤続年数)と、継続して在籍する従業員の伸びを並べれば、数字が下がった理由を読み手に示せます。

注記の材料は、人事部門が持つ採用人数と在籍者の給与データです。決算の直前に集めるのではなく、採用計画を立てる段階で、何人増えれば平均がどれだけ動くかを試算しておくと、報告書の作成が楽になります。

中途採用の提示年収の決め方を給与の決定方針と食い違わせない

中途採用の提示年収をどう決めるかは、10社の報告書の給与の決定方針には書かれていません。そのうえで Offers 編集部は、自社が報告書に書いた給与の決定方針と、中途採用の提示年収の決め方を同じ基準で説明できるようにしておくことを勧めます。日清食品ホールディングスや日立製作所のように市場水準を参照すると書く方針なら、提示年収の根拠にも同じ市場水準を使えるかを確かめておく、という形です。

熊谷組や双日のように役割と評価に連動させる方針なら、中途で入る人の等級や役割をどう決めるかが論点になります。給与の決定方針を書く会議に、採用の担当者も加わっておくと、方針と採用の現場の決め方のずれを早く見つけられます。

採用の人数を人材戦略の指標に入れる

ニッスイは事業等のリスクの欄の対応策で、求める人財像と求職者が選ぶ動機が一致するよう採用ブランディングを強化すると書き、人材戦略の欄の指標には外部採用比率(2025年度の実績41.4%、2027年度と2030年度の目標50%)を置きました。カプコンは開発職の人数を5期分並べ、増やした人数を目標と比べています。どちらも2026年3月期の報告書の記述で、採用は人材戦略の実行手段として数字で載る項目です。

採用の人数を指標にすると、届かなかった年の理由も用意しておきたくなります。応募が足りなかったのか、選考の途中で辞退が増えたのか。理由を書ける状態にするには、まず自社の採用の現在地を外から見える形で確かめておくことです。前述のエンジニア採用力チェックは、その下見に使えます。

指標と目標の置き方そのものは、2025年3月期の開示を読んだ人事KPIの事例で、目標を動かした年の書き方として扱いました。

自社の人的資本の開示事例を作る4つの手順

自社の開示を事例として読まれる形にするには、10社の書き方を次の4つの手順に置き換えて準備します。順番は、数字の注記、給与の方針、人材戦略の欄の書き方、採用の数字の順です。

  1. 平均年間給与の増減率を試算し、理由の1行を決める。賃上げの率、採用と退職による構成の変化、賞与の変動に分けて、それぞれが平均をどれだけ動かしたかを数字で持つ(要因の挙げ方はデンソーの注記、数字の並べ方はニッスイの記載と同じ形)
  2. 給与の決定方針で、何と連動させるかを1つ決める。業績・市場水準・役割と評価・求める人材像のどれを中心に置くかを決め、中途採用の提示年収の説明と揃える
  3. 人材戦略の欄を参照だけにするか、要旨を書くかを決める。参照だけにするなら、給与の方針だけはこの欄で書き下ろす(熊谷組型)。要旨を書くなら、事業の目標から人材の重点を導く順に並べる(カプコン型)
  4. 採用と育成の人数を、事業の必要数と並べる。エンゲージメントや研修の指標を足すなら、エンゲージメントの事例や研修の事例で、上場企業の単位と目標の置き方を確かめる

持株会社なら、最大人員会社の数字を誰が集めるかも先に決めておきます。子会社の人事部門から平均年間給与と増減率を受け取り、理由の注記まで同じ書式で揃えておくと、提出会社と子会社の数字を並べたときに読み手が迷いません。

人的資本の事例は来年から2年分の比較になる

2026年3月期の有価証券報告書は、新しい欄が義務になった1年目です。来年の報告書では、各社の増減率が2年分並び、書いた理由が翌年の数字で確かめられるようになります。今年の注記の1行は、来年の読み手にとって答え合わせの材料です。

理由を自分から書いた会社と、数字だけを置いた会社の違いは、2年分の数字が並んだときに読み手から見えやすくなります。自社の開示を他社の事例として読まれる側に回すなら、数字が動いた理由を自社の言葉で書く準備を、採用計画を立てる段階から始めてください。

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