従業員サービスAIエージェントの定義と対象手続き
従業員サービスAIエージェントは、従業員の要望を理解してサポートの内容を導き出す AI で、IT・人事・総務の社内向けの依頼を、回答から手続きの完了まで進める役割です。Zendesk は、AI エージェントに手続きを実行するスキルを与える「高度なアクションフロー(Advanced Action Flows)」と組み合わせて提供しています。高度なアクションフローは、組織の目標や方針に沿ったタスクを遂行するための、管理者が構築したワークフローです。
両者を組み合わせると、入社手続きから退社手続きまで、複数の工程にわたる従業員向けのサービスを自動化できます。Zendesk が例に挙げたのは、アクセス承認、社用パソコンの運用・資産管理、在職証明書の発行、入退館バッジの管理です(出典:合同会社Zendeskのプレスリリース(2026年11月4日))。
Zendesk は、従業員向けのサポートを次の3つの段階に分けて説明しています。
- ワークフロー作成の簡素化:IT管理者が必要事項を自然言語で記述するだけで複雑な自動化フローを作成・テスト・改善でき、従来のドラッグ&ドロップ型で必要だった複雑な手動の設定は不要になる、とされています。
- システムをまたぐ複数段階の業務の自動化:デバイスやアプリケーションの申請からワークプレイスの安全まで、複数のシステムにまたがる処理について、連携の選定と設定から支援する、という内容です。
- 日常のツールでの問い合わせ解決:従業員は Slack や Microsoft Teams から依頼でき、バックエンドの各システム間の作業は AI エージェントが調整します。
エンドツーエンドとは、依頼の受付から完了までを一続きで進めることです。Zendesk は、個々の質問への回答にとどまらず、依頼の発生から解決までのプロセス全体を自動化する点を、特徴として挙げています。
一般提供の時期、対象プラン、料金
Zendesk の公式ヘルプによると、従業員サービスAIエージェントは2026年11月3日から12月1日までのロールアウト期間に一般提供され、対象は Employee Service Suite の Growth プラン以上と、社内向けに Zendesk を使う Customer Service Suite のアカウントです。日本法人は11月4日に、従業員サービスAIエージェントの一般提供の開始と、高度なアクションフローを近日中に一般提供する予定であることを発表しました。
時期 | 出来事 |
|---|
2026年7月10日 | 早期アクセス(EAP)を告知。ロールアウトは8月3日に開始 |
2026年10月2日 | 一般提供を告知。ロールアウトは11月3日から12月1日 |
2026年11月4日 | 日本法人が発表。従業員サービスAIエージェントは一般提供を開始、高度なアクションフローは近日中に一般提供の予定 |
(出典:Zendesk 公式ヘルプ「Announcing the Employee Service AI Agents (EAP)」(2026年7月10日告知)、同「Coming soon: The general availability of employee service AI agents」(2026年10月2日告知)、合同会社Zendeskの2026年11月4日の発表)
英語版のヘルプによると、2026年11月3日から、対象アカウントには従業員サービスAIエージェント1つにつき、月あたり一定数の自動解決が含まれます。Growth と Professional のプランは10件、Enterprise と Enterprise Plus のプランは15件です。含まれる件数を使い切ると、翌月に上限が戻るまで AI エージェントは停止し、追加の自動解決は1件0.99ドルで購入できます。
早期アクセスの期間は、無料で使えると案内されていました。一般提供の後は、接続した外部ソースを使った解決が、自動解決の件数に数えられることがあるとも案内されています。
契約前に Zendesk へ確認する点は3つです。
- 高度なアクションフローの提供時期:日本では「近日中に一般提供開始予定」と発表されました。手続きの実行を担う部分なので、使える日を確かめます。
- 日本語対応の範囲:日本法人は「一部を除き完了」と発表しています。除かれる部分が自社の使い方に影響しないかが、確認点です。
- 日本での料金:上の料金は英語版ヘルプの記載です。日本での契約条件は、別に確かめます。
推定50万時間の削減は、実行回数に5分を掛けた推計
Zendesk が示した推定50万時間の削減は、早期アクセスの開始後5週間で300社が実行した600万回のワークフローに、1回あたり5分の削減を掛けた推計であり、実際に計測した作業時間ではありません。
計算は、600万回 × 5分 = 3,000万分 = 50万時間です。Zendesk の発表は「ワークフロー1回の実行あたり5分の削減という業界ベンチマークに基づく推計」と注記しています。
自社の効果を見積もるときは、同じ式の「5分」を自社の数字に置き換えるのが基本です。月あたりの削減時間は、手続きの月間件数 × 自動で完結する割合 × 1件あたりの手作業の分数 ÷ 60 で出せます。
手続きの月間件数は入社・退社・在職証明書の発行のように手続きごとに数え、1件あたりの手作業の分数は担当者の実測が基本です。ワークフローの実行回数は、従業員から届いた依頼の件数とは別の数え方です。試験運用の期間に、依頼1件で何回実行されたかも記録しておくと、Zendesk の数字と自社の数字を同じ物差しで比べられます。
手続きごとの担当部門と任せる前に決めること
Zendesk が自動化の例に挙げた手続きのうち、人事・総務が関わるのは入社・退社の手続き、在職証明書の発行、入退館バッジの管理で、アクセス承認と社用パソコンの管理は情シス(情報システム部門)と分担する領域です。担当部門は会社ごとに異なるため、次の表の担当部門は、編集部が手続きの内容から整理した例です。
手続き | 担当部門の例 | AIエージェントに任せる前に決めること |
|---|
入社手続き | 人事・総務・情シス | 入社日の何日前に何を依頼するか、各依頼の承認者 |
退社手続き | 人事・総務・情シス | アカウントを止める時点、備品の回収方法、書類の発行期限 |
在職証明書の発行 | 人事・総務 | 発行できる条件、本人確認の方法、記載する項目 |
入退館バッジの管理 | 総務 | 発行と停止の承認者、紛失したときの扱い |
アクセス承認 | 情シス(承認は上長・人事) | 承認者の順序、承認の期限 |
社用パソコンの運用・資産管理 | 情シス・総務 | 貸与と回収の記録の置き場所 |
Zendesk の発表は、入社を例に課題を次のように説明しています。新規採用者の入社では、複数のチームや承認をまたいで、デバイスのセットアップ、システムアクセス、各種書類手続きを調整する必要があります。手作業の引き継ぎで依頼が滞ると、入社初日が終わる前から生産性が下がるという説明です。
入社に伴う費用の見積もりは、オンボーディングのコストの4費目と1人あたりの試算式で整理しています。
導入前に人事・総務が決める3点
導入前に人事・総務が決めるのは、手続きの流れと承認者、AIエージェントが読む規程と見せてよい範囲、人が引き取る例外の3点です。
手続きの流れと承認者を文章にする
手続きの流れと承認者は、IT管理者が高度なアクションフローを作る前に、人事・総務が文章にして渡します。高度なアクションフローは管理者が構築するワークフローで、IT管理者が必要事項を自然言語で記述して作るため、人事・総務の手順を知らない作り手には書けないからです。
入社の手続きなら、「内定承諾の何日後に、何を、誰へ依頼するか」「各依頼を誰が承認するか」「期限までに終わらないときは誰に知らせるか」を順番に書き出した文章が、その資料です。
AIエージェントが読む規程と、見せてよい範囲を決める
AIエージェントが読む規程は、置き場所の閲覧権限を先に点検します。Zendesk の公式ヘルプによると、従業員サービスAIエージェントは Google Drive、SharePoint、Confluence、Notion、Slack、Teams、Box など20以上のナレッジのコネクタで社内の文書に接続でき、接続した文書の権限は元のシステムのものが使われます。
従業員が見られるのは、元の置き場所で閲覧を許された内容だけ、という設計です(出典:Zendesk 公式ヘルプ「Coming soon: The general availability of employee service AI agents」(2026年10月2日告知))。
就業規則や手続きの案内は、全従業員が見られる場所に置くのが基本です。給与や評価に関わる文書は、元の置き場所の閲覧権限が正しいかを、導入前に確かめます。
人が引き取る例外を決める
最初に決めたいのは、AIエージェントに任せず人が引き取る例外です。Zendesk の公式ヘルプには、必要なときに人の担当者へ自動でエスカレーションする機能として、チケットの作成が記載されています。
育児・介護・休職のように個別の事情が関わる質問や、ハラスメントのように配慮が要る相談は、最初から人が受ける窓口に回すのが一つの決め方です。人に回った件数と理由を月ごとに見ると、手順の抜けや、規程の古い部分が見つかります。
手続きの棚卸しから AI エージェントの実装、社内での運用の引き継ぎまでを進める人手が足りないときは、Offers AXが支援します。Offers AX は、人事部門の AI 活用を、コンサルティング・AIエージェント開発・内製化支援の3本柱で実装まで支援するサービスです。
人事・総務の仕事は、受付から手順の設計と例外の対応へ移る
Zendesk の仕組みを前提にすると、人事・総務の仕事は、同じ質問への回答や定型手続きの受付から、手順と規程の設計、例外の対応、運用結果の確認へ重心が移ります。減る作業、残る作業、増える作業に分けると次のとおりです。
区分 | 作業 | そう考える根拠 |
|---|
減る | 同じ質問への回答、定型手続きの受付と転記 | Zendesk は、IT・人事・総務の事務負担の軽減を、この製品の目的に挙げています |
残る | 手順と承認ルールの決定、個別の事情が絡む相談への対応 | 自動化のフローは管理者が組織の方針に沿って作り、必要なときは人の担当者へエスカレーションされます |
増える | 規程の更新、運用結果の確認 | AIエージェントは接続した社内の文書をもとに答えるため、規程が古いと回答も古くなります |
AI の導入で企業が得たメリットと、導入後に出たデメリットの調査結果は、AI導入で得られたメリットと、導入後に出たデメリットにまとめています。
求人票に書かれた、AIエージェントが調整する手続き
Offers に掲載された正社員の求人票には、入退社に伴うアカウントの発行と削除、パソコン(PC)のキッティング、社内からの問い合わせ対応を、担当業務や案件として書いたものがあります。キッティングは、パソコンなどの端末を利用者に渡せる状態に設定する作業です。Zendesk が自動化の例に挙げた手続きと同じ種類の業務が、求人票では人の担当業務として具体的に書かれていることがあります(Offers(株式会社overflow)調べ・正社員求人 n=2,493・2022年3月〜2026年11月公開)。
求人票の記述の例は4つです。
- コーポレートITの求人(2026年3月公開)は、主な業務領域の中に、「社内からの問い合わせ対応(Slack / 対面 / Web会議)」「入退社に伴うアカウント発行・削除(Google Workspace / M365 / Slack 等)」「PC(Mac/Windows)のキッティング、貸与・回収管理」を挙げています。
- コーポレートエンジニアの求人(2024年10月公開)は、業務内容に「入社時オンボーディングをはじめとした、入退社、異動に伴う準備対応とその改善」と「各種作業の自動化検討とその推進」を書いています。
- 社内SRE(サイトリライアビリティエンジニア)の求人(2023年12月公開)は、具体的な業務内容に「入退社フローに対応したクラウドサービスの自動処理機能開発」と「キッティングにおけるゼロタッチ化自動処理作成」を挙げています。
- クラウドエンジニアの求人(2025年4月公開)は、担当しうる案件の1つが「社内向けAIチャットボット構築」で、その中身は「よくある社内問い合わせの自動化」です。
手続きを運用する仕事と並んで、手続きを自動化する仕事を担当業務に書く求人もあります。情シス・コーポレートITを採用するときは、求人票の要件を「手続きを運用した経験」と「手続きの自動化を設計した経験」に分けて書くと、候補者が自分の経験と照らし合わせやすくなります。情シス・コーポレートITの担当業務ごとの年収と採用の進め方は、情シス採用の進め方にまとめました。
社内の AI 基盤の整備にIT部門がどこまで取り組んでいるかは、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の調査で分かります。社内に専用の生成AI活用のための基盤整備(AIエージェント等を含む)に、IT部門が主体的に取り組んでいる企業は、成果が出ている9.6%と成果は検証中の25.3%を合わせて34.9%でした。
社内専用の生成AI活用の基盤整備(AIエージェント等を含む) | 割合 |
|---|
IT部門が主体的に取り組んでおり、成果が出ている | 9.6% |
IT部門が主体的に取り組んでいるが、成果は検証中 | 25.3% |
IT部門が主体的に取り組みを検討中 | 25.2% |
IT部門以外が対応 | 10.1% |
取り組んでいない、または個人に任されている | 29.9% |
(出典:JUAS「企業IT動向調査報告書2026」図表6-5-1(2026年4月公開・2025年度・n=954))
情シスがすでに社内の AI 基盤に取り組んでいる会社なら、その基盤の上で従業員向けの AI エージェントを考えられます。これから整える会社は、基盤の整備が先になります。最初の一歩は、情シスの取り組み状況の確認です。情シスの役割と足りない人材の埋め方は、情シスのDXと、IT部門に足りない役割の埋め方にまとめました。
AIエージェントを組み込んだ仕組みを設計できるAIエンジニアの採用は、Offers の AI RPO でも相談できます。AI RPO は、CTO・テックリード・AIエンジニアを AI が発見し、タイミングを合わせて継続アプローチする採用代行で、最短2週間で開始できます。
発表を受けて、人事・総務が最初にやること
最初にやることは、次の3つです。どれも導入を決める前に、手元で進められます。
- 入社、退社、在職証明書の発行、入退館バッジの管理について、月の件数と1件あたりの手作業の分数を、担当者の実測で数えること
- 就業規則や手続きの案内を置いている場所の閲覧権限を点検し、給与や評価に関わる文書が全従業員に見えていないかを確かめること
- Zendesk に、高度なアクションフローの提供時期、日本語対応の範囲、日本での料金を確認すること