DXのメリットとデメリットを調べると、「業務効率化」「コスト削減」「新規事業の創出」と、「導入費用」「人材不足」「社内の反発」が対になって並びます。どれも当てはまる項目です。ただ、自社が取り組んだときに、どれがどの程度の大きさで起きるのかまでは、一覧からは読み取れません。
取り組んだ企業が何を得て、何に困っているかは、公的機関の調査で数えられています。中小企業基盤整備機構が中小企業の経営者・経営幹部に尋ねた2025年の調査を読むと、メリットは業務の自動化とデータの使い方に出ていました。デメリットのほうは、取り組みの段階によって中身が入れ替わります。
経営と人事が先に手を打てるのは、人材と情報セキュリティにかかわるデメリットです。
DXのメリットは業務の自動化とデータに基づく判断に出ている
DXに既に取り組んでいる中小企業のうち、成果が出ている(「成果が出ている」「ある程度成果が出ている」)と答えた企業は78.3%でした。成果の中身は「業務の自動化、効率化」が52.0%で最も多く、「コストの削減、生産性の向上」43.9%、「データの一元化、データに基づく意思決定」41.9%が続きます。
出所は独立行政法人中小企業基盤整備機構『中小企業のDX推進に関する調査(2025年)』(令和8年2月公表)です。全国の中小企業の経営者・経営幹部1,000社にWebアンケートで尋ねたもので、調査期間は2025年12月5日〜18日でした。
成果の有無は、DXに既に取り組んでいる189社に尋ねています。成果の中身は、そのうち成果が出ていると答えた148社の複数回答です。下の表は、同じ調査でDXに期待する成果・効果を全1,000社に尋ねた結果(図表5)と、実際に出た成果(図表14)を並べたものです。
項目 | DXに期待する成果・効果(n=1,000) | 実際に出た成果(n=148) |
|---|
業務の自動化、効率化 | 36.8% | 52.0% |
コストの削減、生産性の向上 | 39.6% | 43.9% |
データの一元化、データに基づく意思決定 | 24.5% | 41.9% |
働き方改革、多様な働き方の実現 | 22.3% | 31.8% |
ビジネスモデルの変革、営業・マーケティングの効率化 | 17.2% | 27.0% |
企業文化や組織マインドの変革、組織力の向上 | 11.9% | 23.0% |
顧客接点の強化 | 15.0% | 22.3% |
新規顧客の開拓 | 18.6% | 19.6% |
新たな商品・サービスの開発・提供 | 14.6% | 18.9% |
災害、感染症等からのリスク回避 | 9.3% | 18.2% |
既存製品・サービスの向上 | 13.3% | 16.9% |
出所:中小企業基盤整備機構『中小企業のDX推進に関する調査(2025年)』図表5・図表14(令和8年2月・複数回答)。
成果の出方は、従業員規模であまり変わりません。報告書の記述は、いずれの従業員規模でも成果が出ている企業の割合が8割程度で、規模による大きな差は見られないというものです(図表13)。
報告書には、成果を具体的に書いた自由回答も載っています。販売管理と会計を連携させて月次決算にかかる時間が2週間程度短くなった、顧客を一元管理して担当の引継ぎ時間がほぼ半分になった、といった回答です。どちらも、別々に動いていた業務やデータをつなぎ直した結果として時間が減っています。
期待と成果の差が最も大きいメリットは、データの一元化
期待と実際の成果を比べると、期待との差が最も大きかったのは「データの一元化、データに基づく意思決定」です。データの一元化は期待では24.5%でしたが、成果が出ている企業では41.9%が成果に挙げました。期待の割合が低かった「企業文化や組織マインドの変革、組織力の向上」も、期待11.9%に対して成果23.0%でした。
期待はDXに取り組んでいない企業も含めた1,000社の回答で、成果は成果が出ている148社の回答です。母集団が違うため、差を厳密な比較としては読めません。それでも、順位の入れ替わりから傾向はつかめます。期待の首位は「コストの削減、生産性の向上」でしたが、成果では「業務の自動化、効率化」が首位に来ました。
売上につながる項目は、伸びが小さめです。「新規顧客の開拓」は期待18.6%に対して成果19.6%、「新たな商品・サービスの開発・提供」は期待14.6%に対して成果18.9%でした。
DXのメリットとして新規事業や売上拡大を掲げる説明は多いものの、中小企業の回答では、まず社内の業務とデータの扱いに成果が出ています。売上の伸びを稟議の主な根拠に置くと、取り組んだ後の振り返りで実績とずれやすくなる、というのが回答から読める注意点です。費用をどの水準で見込み、何で回収するかの考え方は、DX費用の相場は?効果が上回るのは14.6%で扱っています。
DXのデメリットは、取り組みの段階によって中身が入れ替わる
DXの課題は、既に取り組んでいる企業では人材不足と情報セキュリティの割合が高く、取り組む予定のない企業では「何から始めてよいかわからない」と「具体的な効果や成果が見えない」が上位に来ます。既に取り組んでいる企業(n=189)では「ITに関わる人材が足りない」が43.4%、「DX推進に関わる人材が足りない」が36.5%でした。
同じ調査で、DXに取り組むうえでの課題を全1,000社に尋ね、取組状況の4区分に分けた結果(図表18)から、主な項目を抜き出しました。
課題 | 既に取組んでいる(189社) | 取組みを検討している(202社) | 必要だと思うが取組めていない(294社) | 取組む予定はない(315社) |
|---|
ITに関わる人材が足りない | 43.4% | 30.2% | 33.7% | 13.0% |
DX推進に関わる人材が足りない | 36.5% | 27.2% | 32.0% | 12.1% |
予算の確保が難しい | 25.4% | 29.2% | 30.6% | 20.0% |
情報セキュリティの確保が難しい | 22.8% | 19.3% | 12.6% | 2.5% |
具体的な効果や成果が見えない | 18.5% | 18.8% | 20.4% | 25.7% |
既存システムがブラックボックス化している | 17.5% | 10.4% | 7.8% | 1.6% |
何から始めてよいかわからない | 2.6% | 1.5% | 10.9% | 31.4% |
出所:中小企業基盤整備機構『中小企業のDX推進に関する調査(2025年)』図表18から7項目を抜粋(令和8年2月・複数回答)。
表を右から左へ読むと、デメリットの順番が変わっていきます。取り組む前は「何から始めるか」と「効果が見えるか」が壁になり、取り組みを考え始めると予算と人材が前に出ます。取り組んだ後に残る課題は、人材に加えて情報セキュリティと既存システムの扱いです。
DXのデメリットを一覧で比べるときは、自社がどの段階にいるかで、どの項目を重く見るかが変わります。既存システムのブラックボックス化は、取り組む予定のない企業では1.6%ですが、既に取り組んでいる企業では17.5%でした。手を付けてから見えてくる課題もあると読めます。
既に取り組んでいる企業でも、「具体的な効果や成果が見えない」は18.5%あり、報告書もこの点を取り上げました。成果を何で測るかの置き方は、DXとIT化・デジタル化の違い|取組率75.7%の実態で、IT化との線引きと合わせて整理しています。
DXに取り組む予定がない315社に理由を尋ねた設問でも、「具体的な効果や成果が見えない」が25.7%で最も多く、「予算が不足している」20.6%、「自社の企業規模、業務内容を鑑み、DXが必要と思われない」18.1%が続きました(図表19)。
人材のデメリットは、採用と育成の計画として人事に回ってくる
DXのデメリットのうち人事が受け持つことになるのは、ITに関わる人材とDX推進に関わる人材の不足です。既に取り組んでいる企業では「ITに関わる人材が足りない」が43.4%と課題の中で最も多く、取り組む予定のない企業の13.0%を大きく上回りました。
DXの推進に向けて期待する支援策では、「補助金・助成金」が43.9%で最も多く、「研修制度」は16.0%と前回調査の14.1%から増えています(図表20・n=1,000)。社内で育てるのか、外から迎えるのかは、DXの計画と並べて人事が判断する論点です。
ITに関わる人材とDX推進に関わる人材では、求める経験が違います。選択肢の名前どおりに読むと、前者はシステムを作り運用する人材、後者は業務の変え方を描いて社内を動かす人材です。DX人材の類型と、採用と育成の分け方は、DX人材とは?6類型の職種・必要スキルと採用・育成の進め方で整理しています。
推進を担うエンジニアを中途採用で迎える場合、候補者が最初に目にするのは求人票と自社サイトで公開している情報です。エンジニア採用力チェックは、企業のURLから公開情報を5つの指標・24項目で採点し、原則1営業日以内にレポートを届けます。
取り組んだ企業ほど、情報セキュリティの懸念が推進に響く
情報漏洩やサイバー攻撃などの情報セキュリティへの懸念が、DX推進に「影響している」「ある程度影響している」と答えた企業は、全1,000社では24.6%でした。DXに既に取り組んでいる189社では「影響している」が21.2%、「ある程度影響している」が37.0%で、合わせて6割近くに上ります(図表23・図表24)。
取り組んでいる・検討している企業(n=391)が挙げたDXの具体的な取組内容でも、「セキュリティ対策強化」は29.4%で、前回調査より増えました(図表11)。取組状況別の課題の表でも、「情報セキュリティの確保が難しい」は既に取り組んでいる企業で22.8%と、取り組む予定のない企業の2.5%を大きく上回っています。
セキュリティ対策を誰が受け持つかは、DXの計画を立てる時点で決めておく項目です。
従業員20人以下では、予算と効果の見えにくさが先に立つ
従業員20人以下の企業(n=522)が挙げたDXの課題は、「予算の確保が難しい」28.1%が最も多く、「具体的な効果や成果が見えない」22.5%、「ITに関わる人材が足りない」21.1%、「何から始めてよいかわからない」20.9%が続きます。21人以上の企業(n=470)では「ITに関わる人材が足りない」36.4%と「DX推進に関わる人材が足りない」34.7%が上位でした。
課題 | 従業員20人以下(n=522) | 従業員21人以上(n=470) |
|---|
予算の確保が難しい | 28.1% | 23.6% |
具体的な効果や成果が見えない | 22.5% | 20.2% |
ITに関わる人材が足りない | 21.1% | 36.4% |
何から始めてよいかわからない | 20.9% | 6.0% |
DX推進に関わる人材が足りない | 17.5% | 34.7% |
情報セキュリティの確保が難しい | 7.5% | 18.5% |
既存システムがブラックボックス化している | 3.6% | 13.4% |
出所:中小企業基盤整備機構『中小企業のDX推進に関する調査(2025年)』図表16・図表17(令和8年2月・複数回答)。
規模によって大きく違うのは、取り組んでいる企業の割合です。DXに「既に取組んでいる」「取組みを検討している」企業は、従業員101人以上で68.0%、20人以下で21.3%でした(図表7)。一方で、取り組んだ企業のうち成果が出ている割合は、規模でほとんど変わりません。
小さな会社にとってのデメリットは、始めるまでの予算と見通しの立てにくさに集まっています。規模が大きくなると、先に立つのは推進を担う人材の確保です。
メリットとデメリットを社内で比べる前に決めておくこと
DXのメリットとデメリットを自社の判断に使うには、成果を何に置くか、推進の人材をどう確保するか、情報セキュリティを誰が受け持つかを、取り組む前に決めておくことが要ります。いずれも、調査で取り組んだ企業が挙げた成果と課題に対応しています。
成果を何に置くかについては、取り組んだ企業で多く出たのは業務の自動化とデータの一元化でした。どの業務の時間を減らし、どのデータを1か所に集めるのかを書き出しておくと、取り組んだ後に効果を確かめる物差しになります。
推進の人材は、既に取り組んでいる企業で「DX推進に関わる人材が足りない」が36.5%と、「ITに関わる人材が足りない」43.4%に次いで多く挙がった項目です。担当を兼務で置くなら割く工数を、外から迎えるなら募集の時期を、DXの計画と同じ時点で決めます。
情報セキュリティは、取り組んだ企業の6割近くが推進に影響していると答えた項目です。データを集める範囲を決めるときに、守る範囲と担当も合わせて決めておきます。
ほかの企業が何から手を付けたかは、DX事例|DX銘柄30社と中小11者の選定と再現条件で、選ばれた理由と再現の条件に分けて紹介しています。